オンライン診療を導入しているクリニック、これからオンライン診療を導入しようと考えているクリニックは、オンライン診療のガイドラインについて詳しく知っておくことが大切です。そこで今回は、オンライン診療のガイドラインとはどのようなものであるのかを解説していきます。
オンライン診療のガイドラインとは?
オンライン診療のガイドラインとは、厚生労働省によって公表されている「オンライン診療の適切な実施に関する指針」のこと。制定されたのは平成30年ですが、現在、厚生労働省の「オンライン診療に関するホームページ」に掲載されている最新の指針は、令和5年に一部改訂されたものです。
参照: 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
オンライン診療のガイドラインの対象は?
続いては、オンライン診療のガイドラインが適用となる対象について説明します。「オンライン診療」は「遠隔医療」の一種ですが、「遠隔診療」は大きくわけると、「オンライン診療」「オンライン受診推奨」「遠隔健康医療相談」の3種類となります。
このうち、オンライン診療のガイドラインの適用となるのは、「オンライン診療」および「オンライン受診推奨」です。ただし、オンライン受診推奨のうち一部は適用外となります。また、「遠隔健康医療相談」に関しては、医師が行う場合と、医師以外が行う場合があります。
参照: 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」p.8より一部抜粋
遠隔診療の定義とは?
前述の「遠隔診療」および内訳となる3つについて、厚生労働省は以下のように定義しています。
遠隔医療
情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為
オンライン診療
遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムに実施すること
オンライン受診勧奨
遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して患者の診察を行い、医療機関への受診勧奨をリアルタイムに行うことであり、患者からの症状の訴えや問診を通した心身の状態の情報収集に基づき、疑われる疾患等を判断して疾患名を列挙して、受診すべき適切な診療科を選択するなど、患者個人の心身の状態に応じた必要な最低限の医学的判断を伴う受診勧奨
※一般用医薬品を用いた自宅療養を含む経過観察や非受診の勧奨も可能である。ただし、罹患していると考えられる疾患名を挙げて、医学的判断に基づき疾患の治療方針を伝達すること、一般用医薬品の具体的な使用を指示すること、処方等を行うことなどは「オンライン診療」に分類されるため、これらの行為はオンライン受診勧奨により行ってはならない
なお、社会通念上、明らかに医療機関を受診するほどではない症状の者に対して経過観察や非受診の指示を行うような場合や、患者の個別的な状態に応じた医学的な判断を伴わない一般的な受診勧奨については「遠隔健康医療相談」として実施することができる
遠隔健康医療相談(医師)
遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行うこと。相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は伴わないもの
遠隔健康医療相談(医師以外)
遠隔医療のうち、医師または医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断などの医学的判断を伴わない行為
参照: 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」p.5~より一部抜粋
オンライン診療ガイドラインのポイントを要約で解説
続いては、オンライン診療ガイドラインで抑えておくべきポイントについて、要約してまとめたものをご紹介します。
オンライン診療の提供に関して最低限遵守すべき事項
・オンライン診療を実施する旨について、医師と患者との間で合意があること
・患者の合意を得るに当たって、医師は、患者がオンライン診療を希望する旨を明示的に確認すること。なお、オンライン受診勧奨については、患者からの連絡に応じて実施する場合には、患者側の意思が明白であるため、当該確認は必要ではない
・オンライン診療を実施する都度、医師が医学的な観点から実施の可否を判断して、オンライン診療を行うことが適切でないと判断した場合はオンライン診療を中止して、速やかに対面診療につなげること
・医師は、オンライン診療を行うことに対して患者の合意を得るに先立ち、患者に対して以下3点について
説明を行うこと。なお、緊急時にやむを得ずオンライン診療を実施する場合であって、ただちに説明等を行うことができないときは、説明可能となった時点で速やかに説明を行うこと
- オンライン診療で得られる情報は限られていることから、(場合によっては)対面診療を組み合わせる必要があること
- オンライン診療を実施する都度、医師がオンライン診療の実施の可否を判断すること
- オンライン診療で行う具体的な診療内容や急病急変時の対応方針などの「診療計画」についての概要
要約すると、「医師はオンライン診療でどんなことを行うのか・行えるのかを説明し、患者の合意を得ることが必須。また、オンライン診療を行うことが適切ではないと判断される場合、対面診療に切り替える」ことを遵守すべき、となっています。
オンライン診療の適用対象に関して最低限遵守すべき事項
・対面診察に代替し得る程度の患者の心身の状態に関する有用な情報を、オンライン診療により得ること
・オンライン診療が安全に行える状況ではないと判断される場合には対面診療を実施すること
・初診からのオンライン診療は、原則としてかかりつけ医が行うこと。ただし、既往歴、服薬歴、アレルギー歴等の他、症状から勘案して問診および視診を補完するのに必要な医学的情報を過去の診療録、診療情報提供書、健康診断の結果、地域医療情報ネットワーク、お薬手帳などから把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合にも実施できる。また、患者にかかりつけ医がいない場合や、かかりつけ医がオンライン診療を行っていない場合なども、かかりつけ医以外によるオンライン診療が認められる
・診療前相談により対面受診が必要と判断した場合であって、対面診療を行うのが他院である場合は、診療前相談で得た情報について必要に応じて適切に情報提供を行うこと。
・急病急変患者については、原則として対面診療を行うこと。なお、急病急変患者であっても、対面診療を行った後、患者の容態が安定した段階に至った際は、オンライン診療の適用を検討してもよい
・複数医師が関与する在宅医療を行っている場合、そのなかの医師が交代でオンライン診療を行って問題ない。ただし、交代でオンライン診療を行う場合は、「診療計画」に医師名を記載すること。また、オンライン診療を行う予定であった医師の病欠、勤務の変更などにより、「診療計画」において予定されていない代診医がオンライン診療を行わなければならない場合は、患者の同意を得たうえで、診療録記載を含む十分な引継ぎを行っていれば実施して差し支えない
・禁煙外来でのオンライン診療に関しては、対面診療を組み合わせないオンライン診療が許容され得る
・緊急避妊に係る診療については、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口等に所属または連携している医師が女性の心理的な状態に鑑みて対面診療が困難だと判断した場合においては、産婦人科医または厚生労働省が指定する研修を受講した医師が初診からオンライン診療を行うことが許容され得る。ただし、初診からオンライン診療を行う医師は一錠のみの院外処方を行うこととし、受診した女性は薬局において研修を受けた薬剤師による調剤を受け、薬剤師の面前で内服することとする
要約すると、「オンライン診療は原則としてかかりつけ医が行うこと。ただし、患者にかかりつけ医がいない場合などは例外」「複数の医療機関で在宅医療を行っている場合、医師が交代でオンライン診療を行ってもよい」となります。
また、禁煙外来でのオンライン診療は対面診療を組み合わせないことが認可されやすく、緊急避妊薬役を必要としている女性に対しても、かかりつけ医以外がオンライン診療を行えることが明示されています。
診療計画に関して最低限遵守すべき事項
・医師は、オンライン診療を行う前に、対面診療を通して患者の心身の状態について十分な医学的評価(診断等)を行い、その評価に基づいて、次の事項を含む「診療計画」を定めて2年間は保存すること
- オンライン診療で行う具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)
- オンライン診療と対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)
- 診療時間に関する事項(予約制等)
- オンライン診療の方法(使用する情報通信機器等)
- オンライン診療を行わないと判断する条件と、条件に該当した場合に対面診療に切り替える旨
- 触診ができないこと等により得られる情報が限られることを踏まえ、患者が診察に対し積極的に協力する必要がある旨
- 急病急変時の対応方針(医師自らが対応できない疾患等の場合は、対応できる医療機関の明示)
- 複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名およびどのような場合にどの医師がオンライン診療を行うかの明示
- 情報漏洩等のリスクを踏まえて、セキュリティリスクに関する責任の範囲(責任分界点)およびその途切れがないこと等の明示
・初診からオンライン診療を行う場合については、診察後に次回の診察日時や、現状、対面診療の必要性があるかなどを患者に説明する
・オンライン診療において、映像や音声等を医師側または患者側端末に保存する場合には、それらの情報が診療以外の目的に使用され、患者または医師が不利益を被ることを防ぐ観点から、事前に医師-患者間で、映像や音声等の保存の要否や保存端末等の取り決めを明確にし、双方で合意しておくこと
・オンライン診療を行う疾病について急変が想定され、かつ急変時には他の医療機関に入院が必要になるなど、オンライン診療を実施する医師自らが対応できないことが想定される場合、そのような急変に対応できる医療機関に対して当該患者の診療録等必要な医療情報が事前に伝達されるよう、患者の心身の状態に関する情報提供を定期的に行うなど、適切な体制を整えておかなければならない
要約すると、オンライン診療を行う前に、急病急変時の対応を含めた「診療計画」をきちんと決めることが大切とされています。また、オンライン診療の映像や音声の保存方法に関して、患者の合意を得ることが大切だとも明示されています。
本人確認に関して最低限遵守すべき事項
・緊急時などを除き、原則として、医師と患者双方が身分確認書類を用いてお互いに本人であることの確認を行うこと。ただし、かかりつけ医がオンライン診療を行う場合等、社会通念上、当然に医師、患者本人であると認識できる状況であった場合には、診療の都度本人確認を行う必要はない
・初診でオンライン診療を実施する場合、当該患者の本人確認は、原則として、顔写真付きの身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等)で行うか、顔写真付き身分証明書を有しない場合は、2種類以上の身分証明書を用いる、あるいは1種類の身分証明書しか使用できない場合には、当該身分証明書の厚みその他の特徴を十分に確認した上で、患者本人の確認のための適切な質問や全身観察等を組み合わせて本人確認を行う
・医師の本人証明の方法として、なりすまし防止のために、社会通念上、当然に医師本人であると認識できる場合を除き、原則として、顔写真付きの身分証明書を用いて医師本人の氏名を示すこと
・「医籍登録年」を伝える(医師免許証を用いることが望ましい)など、医師が医師の資格を保有していることを患者が確認できる環境を整えておくこと。また、必要に応じて、厚生労働省の「医師等資格確認検索」(氏名、性別、医籍登録年)を用いて医師の資格確認が可能である旨を示すこと
要約すると、医師と患者がお互い、相手の本人確認を行える状況を整えておくことが大切だとされています。ただし、かかりつけ医などでお互いに見知った存在である場合はその必要はありません。
薬剤処方・管理に関して最低限遵守すべき事項
・患者の心身の状態の十分な評価を行うため、初診からのオンライン診療の場合および新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合は、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等の関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うこと。ただし、初診の場合には以下の処方は行わないこと
- 麻薬および向精神薬の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方。また、重篤な副作用が発現するおそれのある医薬品の処方は特に慎重に行うとともに、処方後の患者の服薬状況の把握に努めるなど、そのリスク管理に最大限努めなければならない
・医師は、患者に対して、現在服薬している医薬品を確認しなければならない
要約すると、オンライン診療時には、患者が現在服薬している医薬品を確認することが必要で、初診からオンライン診療を行う場合には麻薬や向精神薬などの特定の薬の処方が禁止されています。また、基礎疾患などが把握できていない患者に対しては、8日分以上の処方ができないことも明示されています。
診察方法に関して最低限遵守すべき事項
・オンライン診療中、患者の状態について十分に必要な情報が得られていると判断できない場合には、速やかにオンライン診療を中止して対面診療を行うこと
・オンライン診療では、可能な限り多くの診療情報を得るために、リアルタイムの視覚および聴覚の情報を含む情報通信手段を採用すること。対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には補助的な手段として、画像や文字等による情報のやりとりを活用することは妨げない。ただし、オンライン診療は、文字、写真および録画動画のみのやりとりで完結してはならない。
・オンライン診療において、医師は情報通信機器を介して、同時に複数の患者の診療を行ってはならない
・医師の他に医療従事者等が同席する場合は、その都度患者に説明を行い、患者の同意を得ること
要約すると、オンライン診療はビデオチャットでお互いを見ながら行うことが必要であること、医師のほかに同席する人物がいる場合、同席に対して患者の同意を得ることが必要であることが述べられています。
医師の所在に関して最低限遵守すべき事項
・オンライン診療を行う医師は、医療機関に所属し、その所属および当該医療機関の問い合わせ先を明らかにしていること
・患者の急病急変時に適切に対応するため、患者が速やかにアクセスできる医療機関において対面診療を行える体制を整えておくこと
・医師は、騒音により音声が聞き取れない、ネットワークが不安定であり動画が途切れる等、オンライン診療を行うに当たり適切な判断を害する場所でオンライン診療を行ってはならない
・オンライン診療を行う際は、診療録等、過去の患者の状態を把握しながら診療すること等により、医療機関に居る場合と同等程度に患者の心身の状態に関する情報を得られる体制を整えなければならない
・第三者に患者の心身の状態に関する情報の伝わることのないよう、医師は物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療を行わなければならない
・オンライン診療を実施する医療機関は、ホームページや院内掲示等において、本指針を遵守したうえでオンライン診療を実施している旨を公表するものとする
要約すると、医師がオンライン診療を行う場合は自身のクリニックや病院に限定されないものの、ネットワークなどが安定していて患者をきちんと診察できる場所でなければならない旨が述べられています。また、オンライン診療を行うにあたり、ガイドラインをきちんと守っているとホームページなどで公表する必要があるとしています。
患者の所在に関して最低限遵守すべき事項
・患者がオンライン診療を受ける場所は、対面診療が行われる場合と同程度に清潔かつ安全でなければならない
・プライバシーが保たれるよう、患者が物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療が行わなければならない
要約すると、患者には「プライバシーが保たれる安全な場所でオンライン診療を受けること」が求められています。
参照: 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」p.11~をもとに作成(一部簡略化しています)
ガイドラインを遵守しなかった場合は罰せられる?
オンライン診療ガイドラインは、法令ではなく「行政立法」に該当します。そのため、書かれている内容を遵守できなかったからといって犯罪とみなされるわけではありませんが、行政立法に基づいて指導や処分を受ける可能性があるので、十分に注意してオンライン診療を行う必要があります。
しかも、対面診療とは違って映像などの証拠が残りやすいという側面がありますし、アプリの仕様としては患者側での録画が不可であっても、別途カメラを用意するなどして録画することは可能なので、ガイドラインを遵守しているかどうか常に誰かに見られている可能性があるということになります。
もちろん、誰も見ていないとしてもガイドラインを守らなくていいというわけではありませんが、その可能性を踏まえて万全の体制で患者と向き合ってくださいね。
この記事は、2024年1月時点の情報を元に作成しています。