患者がクレームを入れてきた場合、相手になるべくイヤな思いをさせないように対応することはとても大切。これは、患者の言い分が正しい場合にも間違っている場合にも共通して言えることです。相手にイヤな思いをさせないためには何が必要かというと、「具体的な対応」「言葉遣い」「態度」となりますが、相手に納得してもらえる対応ができるかどうかは、クレームの内容にもよるため、100%対応可能というわけにはいきません。しかし、言葉遣いや態度に関しては、心がけ次第でいつでも最善を尽くすことができます。そこで今回は、クレーム対応における言葉遣いのよい事例、悪い事例を紹介していきます
クレーム対応の基本ステップ
まずはクレーム対応の基本ステップを確認します。
傾聴・謝罪
患者がクレームを入れてきたとき、まずは、相手の話を遮ることなく最後まできちんと聴くことが大切です。クレームの内容が100%真実とも限りませんし、相手の主張が正しいとも限らないので、途中で口を挟みたくなることもあるかもしれませんが、ぐっと堪えて最後まで傾聴の姿勢を見せることができるかどうかで、相手の態度も変わってきます。
さらに、話を聴き終わったら、「不快な思いをさせて申し訳ございませんでした」と謝罪を述べることがポイントです。
事実および要望確認
相手の話をいったん聴き終えて謝罪を述べたら、クレーム内容を正しく理解するための「事実確認」、相手がどんな対応を望んでいるかの「要望確認」とおこないます。いつ、どこで、誰が、何をしてきて、どのように感じていて、どのような対応をとってほしいと思っているのかを漏れなく聴き取り、すべてメモに取ります。また、相手の話を一つひとつ復唱して、内容に間違いがないかを確認しながら聴き取りを進めていくことも大切です。
解決策の提案
事実および要望を確認したら、解決策を提案します。ただし、スタッフの判断で解決策を提案できないクレームの場合は、ここでは解決策は提示せず、確認して折り返す旨を伝えます。「スタッフの判断で解決策を提案できる場合」とはどのような場合かというと、たとえば会計時にお釣りの金額を間違えて渡していた場合などです。確かにスタッフが間違えていたことが確認できた場合は、院長などに相談する必要はありません。ただし、患者とそういうやりとりがあったことを「報告」することは必要です。
感謝
クレームの内容が真実であった場合もそうでない場合も、意見を伝えてくれたことに対して感謝の気持ちを伝えることは必須です。このステップがあるかないかによって、患者のクリニックに対する評価が変わりますし、感謝の気持ちを伝えることなく、相手にイヤな気持ちを残させてしまうと、悪い口コミを書き込まれることもあり得ます。
報告・共有、次回対応策検討
クレーム対応後は、クレームがあったことやその内容をスタッフ全員で共有します。また、今後、同様のクレームが入った場合の対応策を考えて、決めることも大切です。
「傾聴・謝罪」のステップにおける悪い事例、よい事例
続いては、それぞれのステップにおける悪い事例、よい事例をみていきます。まずは「傾聴・謝罪」のステップから。
【悪い事例】
⇒「でも」「だって」「ですから」などの反論を示す言葉はすべてNGワードです。これらの言葉を使うと、相手がさらに不機嫌になる可能性が高いといえます。同様に、「申し訳ありませんが」「仰ることはごもっともですが」など、否定的な言葉の前に挟むクッション言葉もNGです。
⇒相手の話を聴いただけの段階では、本当に相手の言う通りなのかはわかりません。事実確認を済ませる前に全面的に謝罪してしまうと、その後、先方にも非があることがわかった場合など、その点を追求したら逆ギレされる可能性などもあります。
⇒患者が話している途中で気づいたことや言いたいことがあったとしても、いったん患者が話し終わるまでは黙って相手の話に耳を傾けることが鉄則です。途中で話を遮ってしまうと、「なんでちゃんと話を聴いてくれないんだ!」とクレームを入れている相手の怒りがさらに大きくなります。
【よい事例】
⇒ひとまず相手の話を聴いた時点では、クレームの内容そのものに対する謝罪はおこなわず、相手に不快な思いをさせた点について謝罪します。
「事実および要望確認」のステップにおける悪い事例、よい事例
続いては、「事実および要望確認」のステップです。
【悪い事例】
⇒予約時間に来院したのになかなか診察してもらえない、早くしてほしいとのクレームはありがちです。しかし、クレームを入れてきた患者の要望に対応すると、他の患者からも同じクレームが入る可能性があります。
⇒患者の話が事実かどうかを確認することなしに話を進めることはトラブルの元となりかねません。たとえば、クレームを受けたスタッフとは別のスタッフの言動に対するクレームだったとして、本当にそのような言動があったかどうか確認することなく、要望確認へと話を進めると、濡れ衣を着せられたスタッフの怒りを買うことだってあり得ます。そうした事態を防ぐためにも、まずは5W1Hをしっかりと確認します。
⇒「誰が」「いつ」「何をした」「患者はどうしてほしい」などの大切なポイントを繰り返したりメモを取ったりしなかった結果、聴き取り内容に間違いがあった場合、患者の怒りがさらに増します。
【よい事例】
⇒事実を確認して、相手の「こうしてほしい」を聞いたうえで、共感できる部分があればそれを言葉に示すことで、相手に「話してよかった」と思ってもらいやすくなります。
⇒まずは待たせていることへの謝罪を述べたうえで、比較的すいている時間帯などがあるようなら、代替案を提示するといいでしょう。
「解決策の提案」のステップにおける悪い事例、よい事例
続いては、「解決策の提案」のステップです。
【悪い事例】
⇒提案内容に関わらず、勝手に決めてしまうことは問題があります。解決内容に問題がなかったとしても、勝手に決めることをOKとしてしまうと、次回以降もスタッフが勝手に解決策を提案する可能性がありますし、次回以降の解決策が適切とは限りません。
⇒不確かな約束は絶対にNG! その通りにできなかった場合、患者の怒りを倍増させてしまいます。
⇒「後ほど連絡いたします」として、そのこと自体を忘れてしまうのは言語道断です。
【よい事例】
⇒対応策について責任者に確認したうえで、こちらから必ず連絡することを伝えます。相手から、いつまでに連絡してもらえるのかと聞き返された場合、期限についてスタッフが決められないことも伝えます。
「感謝」のステップにおける悪い事例、よい事例
続いては、「感謝」のステップです。
【悪い事例】
このステップに関しては、「伝えない」ことそのものがNGです。
【よい事例】
⇒感謝の気持ちを伝えると、相手に「伝えてよかった」と思ってもらいやすくなります。
悪質なクレームに対してはきっぱりとした態度をとることも大切
患者のなかには、悪質なクレームを入れてくる人も少なからずいます。たとえば、「今すぐ賠償金を支払え」など高圧な態度で脅してくることも考えられます。そのような場合には、「恐れ入りますが、そうしたご要望にはお応えできかねます」とはっきりと伝えて、場合によっては警察や弁護士に相談することも必要です。毅然とした態度をとることができず、相手の要望を受け入れてしまうと、次回からも同じ対応を求められることになりますし、「クレームを入れたらこちらの意のままに対応してもらえた」などとネットに書き込まれでもしたら、全員から同じ対応をもとめられます。
また、受付で大きな声でクレームを入れてこられた場合などは、他の患者に迷惑がかかることも大いにあり得るので、「クリニックでは対応しきれない」と思われるときには、迅速に然るべき対応をとるようにしてくださいね。
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診療科目
この記事は、2023年8月時点の情報を元に作成しています。