税務調査とは、国税庁が管轄している税務署が、納税者が正しく税務申告しているかどうかを調査することです。会社に対しておこなわれることもあれば、個人事業主やフリーランス、もしくは相続税を納税した人などが調査の対象となることもあります。ただし、納税者全員が調査されるわけではありません。特に、開業医を含む個人事業主が調査される確率は低く、およそ0.5%~1%程度といわれています。では、税務署は調査する対象をどのようにして選んでいるのでしょうか? 早速解説していきます。
税務調査とは?
日本は、納税者が自ら納税額を計算して納税する「申告課税方式」をとっています。いうなれば、嘘の申告ができるということです。そのため、納税者が適正に納税しているかどうかを国が調査する制度が設けられており、これを「納税調査」といいます。
納税調査には、「強制調査」と「任意調査」の2種類があります。前者のターゲットは悪質な脱税犯。つまり、強制調査=一種の犯罪調査と考えていいでしょう。これに対して後者は、納税している誰もがターゲットになり得ます。もちろん、後述しますが、ターゲットになる可能性が高い人と低い人はいますが、一定額以上の稼ぎがある人は、いつ任意調査を求められても動じることなく対応できるよう、適切に納税しておくことが大切です。
ちなみに、「任意」との言葉から、「応じなくてもいいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、税務職員には、納税者に対して質問や検査をおこなうことができる「質問検査権」が認められているため、任意調査を求められた側は、正当な理由なしに質問に答えることや資料を開示することを拒むことができません。そのため、任意という言葉とは裏腹に、ある程度の強制力がある調査であると考えていいでしょう。
税務調査に入られやすいクリニックの特徴は?
続いては、税務調査に入られやすいクリニックの特徴をみていきます。
開業から3年以上経過して、かつ売上が増えている
開業から3年以上が経過していて、かつ売上が増えているクリニックは、税務調査の絶好のターゲットです。なぜかというと、消費税が課税されるのは事業開始3年目からだからです。
さらに、事業開始から3年が経ったころは利益が出始めやすいこと、経理処理に関して油断が出始めやすいことなども理由です。患者からの認知度が上がり、1年目・2年目と比べて患者数が大幅に増えているクリニックなどは特に注意が必要だといえるでしょう。
また、税務調査では過去5年前の申告まで遡って調べることが可能で、税務署側は、売上が増えて手元にお金がある個人事業主から多額の追徴課税を得ることを目的としているため、売上が少ない年も正しく申告しておくことが非常に大切です。
売上が1,000万円にわずかに届いていない
確定申告でその年の売上が1,000万円にわずかに届いていないクリニックは、税務調査が入る可能性が非常に高いといえます。なぜなら、1,000万円を超えると、翌々年から課税事業者となって消費税を納めなくてはならなくなるため、1,000万円を超えないように調整しているのではと疑われるためです。
もちろん、きちんと計算しても900万円台後半になる可能性は大いにあり得ます。しかし、税務調査する側からしたら、正しく申告しているのか意図的に過少申告しているのかはわかりません。そのため、単純に金額だけで「怪しい」と思われる場合があるのです。
ただし、2023年10月1日から開始となったインボイス制度によって、登録事業者は一律消費税を支払わなくてはならなくなったため、年間の売上すべてに消費税が課されることとなる令和6年分の確定申告に関しては、インボイス制度登録事業者であれば、1,000万円弱の売上だからといって税務調査の対象となる可能性は低くなるかもしれません。
経費に不審な点がある
経費に不審な点がある場合も、税務調査の対象となりやすいといえます。たとえば、一般的には交際費が少ない業種であるのに多額の交際費が計上されていたら、「友だちとの飲み代を経費として計上しているのでは?」と疑われて当然です。また逆に、事業に必要な経費がまったくない場合も、目をつけられる可能性が高いといえます。たとえば、化粧品販売をおこなっている美容クリニックに「棚卸資産」がまったくないとなると、仕入販売をおこなっているのになぜなのか? と不審に思われる可能性が高いでしょう。
顧問税理士が付いていない
確定申告を税理士に依頼することなく、自分でおこなっているクリニックのほうが、税務調査が入りやすい傾向にあります。なぜかというと、税理士が確定申告書を作成したなら、計上できない経費を計上していることなどはまずないと考えられるためです。
もちろん、税理士が確定申告書を作成していたら故意による脱税や過少申告の可能性は絶対にないというわけではありませんが、ざっと確認してよほど怪しい点が見付からなければ、税務調査には入られない可能性が高いのではないでしょうか。
現金商売をおこなっている
飲食店や小売店、美容院などの現金商売をおこなっている個人事業主は、作成物への対価として預金通帳を通して支払いがおこなわれるクリエイターなどと比べて脱税の証拠が残りにくいため、領収書の捏造などを疑われることがあります。
クリニックの場合、保険診療であれば疑いの余地がありませんが、美容機器を使って施術をおこなうなどの自由診療の場合、同様の理由で疑われることがあるかもしれません。
経済活動が広がっているビジネスを展開している
インターネット上のプラットフォームを介しておこなうシェアリングエコノミーをはじめとする、新分野の経済活動にかかる取引や、暗号資産などの取引をおこなっている個人に対しては、積極的に税務調査の対象としていくと国税庁が公表しています。
また、シェアリングビジネスのほか、デジタルコンテンル(アプリ作成・配信、有料メルマガなど)、ネット通販等、ネット広告なども対象となっているため、開業医としてなんらかのデジタルコンテンツを運営しており、そこからの収益が多い場合などは注意したほうがいいかもしれません。
国税庁 令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況「インターネット取引を行っている個人に対する調査状況」
不動産を取得した
近年、不動産運用をおこなう人は増えています。平均所得より高い所得を得ている可能性が高い開業医であれば、物件をすすめられる機会も多いはずですが、不動産を取得するには、融資を受けるにしろ受けないにしろ、数千万円の資金が必要になることから、資金の調達方法や譲渡税発生の有無などをチェックする目的で税務調査が入るケースが多いようです。
ちなみに、不動産売却時には譲渡所得に対する所得税・住民税を支払う必要がありますが、それらをきちんと払っているかを確認するために、売却時にも税務調査が入ることが多いです。
確定申告をしていない
こちらはクリニックにはあまり関係ありませんが、確定申告をしていない人も税務調査の対象になりやすいといえます。確定申告は、基本的に、1月1日から12月31日までの収入から経費を引いた金額が年間20万円以下の人を除き全員がおこなう必要があるとされています。しかしなかには、20万円より多くの所得を得ているのに確定申告をしていない人がいます。国税庁は、そうした無申告者に対しては、適格かつ厳格に対応していく必要があるとして、実地調査のみならず、積極的に簡易な接触もおこなっていることを公表しています。
国税庁 令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況「無申告者に対する調査状況」
申告漏れが多い業種に該当する
こちらもクリニックにはほぼ関係ないことですが、申告漏れが多い業種に該当する個人事業主も税務調査のターゲットとなりやすいことで知られています。参考までに、国税庁によると、令和4年度の「事業所得を有する個人の1件あたりの申告漏れ所得金額が高額な業種」上位5業種は、経営コンサルタント、システムエンジニア、ブリーダー、商工業デザイナー、不動産代理仲介、となっています。また、10業種目に司法書士、行政書士がランクインしているので、クリニックのパートナーとなる司法書士などを選ぶ際には、クリーンな業者を選ぶよう心がけるといいかもしれません。
国税庁 令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」
税務調査に入られないためにとるべき対策は?
続いては、開業医を含む個人事業主が税務調査に入られないためにとるべき対策について説明していきます。
不正申告は絶対におこなわない
当たり前ですが、まず、過少申告などの不正をおこなわないことは必須です。前述の通り、売上が1,000万円を超えているか否かで翌々年の納税額は大きく変わりますが、だからといって、「超えないように調整しよう」ということは絶対にしてはいけません。また、クリニックの運営と関係ない飲食費などを経費として計上することも不正です。
どこまでを経費として計上できるのかしっかり把握しておく
計上できる経費をしっかりと把握しておかなければ、万が一、税務調査が入った際に追及されると答えに窮してしまうでしょう。
クリニックの運営に関係ない飲食費などはもちろん経費計上できませんが、「これは経費計上できるのでは?」と間違えてしまう項目もいくつかあるので、下記の記事などで改めて確認することをおすすめします。
参照:クリニックで必要経費に計上できる費用とは?正しく知って節税に役立てよう
また、飲食費の領収書などは、誰と一緒だったのか、なんのためにその相手と会ったのかなどを領収書に詳しく記載しておくことが大切です。たとえば、クリニックの運営について先輩医師に相談するため、地域の医療機関と地域包括ケアについて話し合うため、などが一例となります。
税務署員から疑いをかけられる前に「説明」しておく
前述した、「飲食費の領収書に、同席した相手と食事の目的を記しておく」など、理由や目的を書く欄が無い場合にも、それらを手書きで記しておくことはとても有益です。また、勘定科目の内訳を「その他」とするのではなく、個別に設定したり、毎年同じ金額の買掛金が発生している場合にはその理由を記したりするなど、“きちんとしようとする誠意”を示しておけば、万が一、税務調査に入られたときも、税務署職員もあらさがししようとはしてこないはずです。
顧問税理士に相談する
顧問税理地をつけるとなるとそれなりにお金は発生しますが、つけることで税務調査が入る可能性が低くなるのであれば、“安心を買っている”ととらえることもできます。また、万が一、税務調査が入った場合も、調査当日に立ち会ってくれるなどのサポートも期待できます。
日ごろから丁寧に記帳する
請求書を受け取ったタイミングで記帳するなど、日ごとからこまめに記帳しておけば、必然的にミスがすくなくなるため、税務調査の対象となる可能性を多少なりとも下げることができます。「引き落としがあった日に必ず記帳する」などの習慣をつけておくと、たとえばカード支払いの経費を二重に計上してしまうミスも起こりにくくなります。
診療報酬に関してミスすると、保健指導が入ることも!
経費の記帳同様、もしくはそれ以上に大事なのが、診療報酬を正しく請求することです。これ関してミスがあると、税務局ではなく、厚生局が調査に訪れます。保健指導は、開業1年目のクリニックに対しては基本的にもれなく実施されますが、それ以降も入る可能性があり、結果として不正請求などが明らかになり要監査となった場合、「注意」「戒告」「取消」などの処分が下されます。最も重い処分である「取消」となると、保険医療機関、保険医としての指定が取り消され、最大5年間保険診療ができなくなります。
税務調査は2回以上入られることも!
冒頭で触れた通り、個人事業主が税務調査に入られる確率は0.5%~1.0%とされており、ほとんどの個人事業主にとっては生涯無縁の出来事ですが、なかには2回以上入られたという人も! そのため、1度入られたことがあるからといって安心するのはご法度。当たり前ですが、1度追徴課税を納税してしまえばその後一生安泰というわけではないので、これまでに税務調査に入られた経験がある人もない人も、今後とも正しく申告することを心がけてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年3月時点の情報を元に作成しています。