医療業界が人手不足であることは昔から言われていることですが、ここ数年はさらに状況が悪化しています。その理由は何なのか、どんな解決策が考えられるのかを説明していきます。
まずは、人手が足りているか不足しているかの目安となる「有効求人倍率」を目安に、データから見ていきましょう。
医療業界の有効求人倍率は?
有効求人倍率とは、有効求職者に対する有効求人数の割合を示すもので、雇用動向を知るための重要な指標のひとつです。
有効求人倍数は、求職者1人に対して何人分の求人があったかを示しており、求職者数よりも求人数が多いとき(=人手が不足しているとき)は有効求人倍数が1を上回り、求職者数よりも求人数が少ないとき(=人手が足りているとき)には有効求人倍数は1を下回ります。
では、医療業界における有効求人倍数はどの程度かというと、厚生労働省が公表している、令和5年2月分の「一般職業紹介状況」によると以下の通りです。
【パートを含む場合/パートを含まない場合】
- 医師、薬剤師等…2,27/3.18
- 保健師、助産師等…2.33/2.58
- 医療技術者…3.28/3.19
- その他の保険医療の職業…1.91/3.19
では、すべての職業を合算したときにこの数字はどう変わるかというと、パートを含むときは1.27、含まないときは1.29なので、医師や保健師、医療技術者などはかなりの不足傾向にあることがわかります。
また、看護師に限定すると、最新のデータは2022年度のものになりますが、2022年度の看護師および准看護師の有効求人倍率は2.20倍で、職業計の有効求人倍率が1.19倍であることから、看護師も不足傾向にあることがわかります。
参照:厚生労働省「看護師等確保基本指針改定のポイント(案)」
ただし、医療事務に限っては、令和4年度の有効求人倍率は0.33倍とかなり人気が高いので、よほど求人条件が悪くない限り、働き手が見付からない可能性は低いと考えられます。そこでここからは、主に医師・看護師の人手不足の原因と対策法について考えていきましょう。
医師・看護師の人手不足の原因と解決策は?
離職率が高め
公益社団法人日本看護協会の公表によると、2022年度の正規雇用看護職員の離職率は11.6%、新卒看護師の離職率は10.3%にのぼることがわかっています。この数字は、同じ年における産業計での離職率が15.0%であることを考えると、とびきり高いというわけではありませんが、「退職・転職が少なく安定的に働く人が多い業界」とは言いにくい数字です。
参照:公益社団法人日本加護協会「2022年 病院看護実態調査」結果
参照:厚生労働省「産業別の入職と離職」(令和4年度)
この課題に対して自院においてできることとしては、「従業員にとって働きやすい環境」について考え、それを実践していくということに尽きます。
看護師の離職率が高い原因やその対策法については、以下記事をご参照ください。
残業やオンコールなど、不規則な労働時間
前述した離職率の高さとも関係が深いことですが、不規則な労働時間などが原因で心身の健康を保てないことも、医師や看護師の人手不足の大きな原因です。医師であればオンコール、看護師であれば夜勤などが原因で、「もっと健康的に働きたい」と離職を考える人もいます。
このことは、国としても大きな課題であると考えているため、2024年4月から「医師の働き方改革」が施工されることはみなさんご存知の通りです。また、これにより、看護師の時間外労働の上限も遵守しなくてはならなくなるため、医師や看護師は以前より働きやすくなることが予想されます。
ただし、だからといって各クリニックが個別に対策する必要がないというわけではありません。自院の従業員が心身の健康をキープできているかどうかは、どのクリニックも定期的に確認することが理想ですし、場合によっては、外部の会社に依頼して、従業員のストレスチェックなどを行うことも検討すべきです。
また、どうしても人手が足りなくて、多少無理しても働いてもらわなければやっていけないという場合は、そのぶん、業務にあたってくれたスタッフの手当てをUPするなどして、働き手のモチベーションキープに働きかけることが大切です。
在宅医療のニーズ増加などに伴い、命に関わるシーンが増えている
少子高齢化が進み、在宅医療のニーズが増えたことで、医療従事者の多くが、「看取り」をはじめ、命に関わる業務に携わることを余儀なくされています。
これまでは、風邪やちょっとした体調不良を診療・治療することが役割だったいわゆる“かかりつけの町医者”や、小さな町のクリニックに務めていた看護師にとって、患者の最期を看取ることは荷が重いと感じられるかもしれません。
しかも、命に関わる可能性が高ければ高いほど、小さなミスでも許されなくなるため、そのぶんストレスも大きくなるでしょう。
この問題を解決するためには、患者一人ひとりの見守りをかかりつけのクリニックだけで担うのではなく、患者が暮らす地域の医療従事者・介護従事者が一体となって「地域包括ケアシステム」を構築していくことが不可欠です。
医療技術の高度化
先に述べた通り、在宅医療を望む人が増えていることもあり、医師にも看護師にもこれまで以上に高度なスキルや知識が求められています。これに対応できかねて離職するケースを防ぐためにも、各クリニックで医師や看護師の学びをサポートすべく、研修費などは福利厚生として賄えるようにするといいでしょう。
また、新人ナースなどに対しては、研修の機会そのものを用意することも大切です。
医療分野におけるIoTの浸透
医療機関におけるIoTの浸透をストレスに感じている医師や看護師も、少なからずいます。紙カルテから電子カルテへの切替を渋っているクリニックなどはその代表例です。
若手の医師や看護師の場合、IoTに抵抗があるケースは少ないかもしれませんが、電子機器を使いこなせなくてはならないことがネックとなり、希望の医療機関の求人に応募できないということもあるかもしれません。
これを防ぐためには、先輩による指導を徹底することのほか、各医療機器・電子機器の使い方マニュアルを作成しておくことなどが有効だと考えられます。
新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症のピークの流行時は、医療需要が爆発的に増えたことによって、医療従事者不足が連日取りざたされていました。
2024年現在はだいぶ状況は落ち着いているとはいえ、未だ入院中のコロナ患者もいるので、医師や患者が感染を恐れることなく働けるよう、感染症対策を徹底することが不可欠です。
人材不足をすぐには解消できない場合は?
上記に挙げた原因一つひとつに対策を講じたとしても、すぐにいい人材を確保できるというわけではありません。
対応策を考えつつも、人手が増えるまでの間は今のスタッフでクリニックを回していく必要があるので、「どうすれば少ないスタッフでクリニックを運営していくことができるのか」を同時進行で考えることも大切です。
すぐにでもできることとしては、たとえば「IoTを積極的に導入して一人ひとりの業務量を減らす」「完全予約制にすることで急な患者対応にかかる時間を削減する」などがあります。それだけでもスタッフの負担をぐっと減らせますので、一度検討してみるといいでしょう。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年3月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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