クリニックの承継時には、雇用に関するトラブルが起きがちです。辞めてほしくないのに辞められるケースもあれば、その逆も然り。なぜそうしたトラブルが起きがちで、どうしたら防ぐことができるのかを考えていきましょう。
承継時にスタッフが辞めるケースは?
まずは、承継時にスタッフが辞める主な理由をみていきましょう。
新院長と方針が合わない
前院長と新院長の、医療や経営に対しての考え方や方針に共感できないことから、スタッフが辞職を申し出るのがこのケースです。
承継によって診療科が変わる
地域住民のニーズを考えると、同じ診療科に承継してもらうのが安心ではありますが、なかには、異なる診療科のドクターが承継するケースもあります。新たな診療科として開業した場合、スタッフによっては辞めざるを得なかったり、辞めたいと考えたりするものです。
承継によって労働条件が変わる
承継によって、勤務時間や給与などに対する希望が叶わなくなるとあれば、スタッフは退職を申し出ることもあるでしょう。長年勤務し続けたスタッフの給与は相場より高い場合が多いので、経営交代によって、平均的な給与に戻ってしまうとなると、スタッフからは反発されやすいでしょう。
承継によって仕事内容が変わる
勤務時間や給与などの条件は大きく変わらずとも、仕事内容が大きく変わるとなると、抵抗を覚えるスタッフもいます。代表的なパターンが、承継によってIT化が進むことです。長年、紙カルテで仕事していた看護師にとっては、電子カルテの使い方を覚えること自体が大きな負担となることがあります。
そもそも節目のタイミングでの退職を考えていた
前院長が高齢の場合、その院長と長きにわたって共にクリニックを支えてきたスタッフも比較的年齢層が高くなるケースも珍しくありません。そうでなくとも、「もう十分に働いたから、節目のタイミングでリタイアしたい」と考えているスタッフもいるでしょう。
承継時にスタッフが辞めないケースは?
続いては、承継時にスタッフが辞めない理由です。
承継の条件に「スタッフの継続雇用」が盛り込まれている
クリニックを支えてくれたスタッフたちのために、自分がリタイアした後も働ける環境を用意したいとの考えから、「スタッフの継続雇用」を承継の条件に盛り込むクリニックは一定数存在します。
患者離れを防ぐために、新院長がスタッフの継続雇用を希望した
地域密着型のクリニックであれば、看護師や受付事務と顔なじみの患者は、スタッフが総入れ替えとなるとクリニックを離れてしまう可能性があります。それを予防するために継続雇用したいと考えるドクターも多いです。
スタッフの採用に時間を割く必要がないためスムーズに開業できる
元々働いていたスタッフが全員辞めるとなると、スタッフを一から募集して採用活動を行わなければなりません。それには時間もお金もかかるため、時短・節約のためにスタッフを引き継ぎたいと考えるドクターもいます。
承継時にスタッフを継続雇用するメリットは?
続いては、承継時にスタッフを継続雇用するメリットをみていきましょう。承継時にスタッフを継続雇用する主なメリットは以下の通りです。
採用活動が不要となり開業がスムーズである
スタッフを継続雇用することなく一から人材を探すとなると、手間も時間もかかります。採用活動の方法としては、
- 求人サイトに求人情報を載せる
- 人材紹介会社に、条件に合う人を紹介してもらう
- SNSで募集をかける
- ハローワークに求人を出す
などいくつかありますが、いずれの場合も、理想の人材がすぐに見つかるとは限りませんし、人材紹介会社を利用した場合などは、紹介料としてかなりの額を支払う必要性が出てきます。
患者の離反を防げる
看護師や受付事務と懇意にしていた患者は、「スタッフが入れ替わるならもうこのクリニックに通う意味がない」と考える場合があります。年配の患者が多い地域密着型クリニックなどは特にその傾向が強いでしょう。
地域や患者、取引先、連携先について熟知したスタッフから教えてもらえることも多い
クリニックが立地しているエリアや患者について、クリニックと取引している会社や連携先についてよく知っているスタッフがいると、たとえば「この人物はクセがあるから気を付けたほうがいいよ」「この取引先は支払いに遅れが生じやすいですよ」などの情報も共有してもらえるため、余計なストレスを抱えることなく各所に対応することができます。
承継時にスタッフを継続雇用するデメリットは?
続いてはデメリットです。承継時にスタッフを継続雇用しない主なデメリットは以下の通りです。
「この人と一緒に働きたい」というスタッフを選べない
開業に際して、一緒に働くスタッフに対して理想像がある場合、その理想に近い人材を自ら探せないことはネックに感じるかもしれません。
スタッフから、前院長と比べられる場合がある
たとえ無意識だとしても、スタッフは前院長と新院長を比べることがあります。仕事の仕方や医療に対する考え方などを比較して、「前のほうがよかったな」と思われることもあるかもしれません。
スタッフ入れ替え時に起きがちなトラブルとその対処法は?
続いては、クリニック側が「働いてほしい」と思っているのに離職を希望されるケース、クリニック側が「辞めてほしい」と思っているのに継続雇用を希望されるケースと、それぞれのケースの対処法を考えていきます。
勤務条件が合わなくて退職を申し出られて入れ替えになるケース
先に述べたパターンのうち、勤務条件が合わないことから、新院長が「働き続けてほしい」と思っているのにスタッフは辞職の意向を示すケースに関しては、まずは交渉を試みることが大切です。
ただし、交渉の結果、クリニックがスタッフの希望を100%飲んだとなると、それによって経営が苦しくなることも考えられます。また、その後、新たなスタッフを採用した場合、新人側から「なぜ自分と先輩とでこれだけの差があるのか?」とクレームが入ってトラブルが起きる可能性もあるので、交渉がうまくいきそうにない場合は、継続雇用を諦めたほうが結果的に経営もうまくいきやすいでしょう。
クリニックのIoTについていけず退職を申し出られるケース
電子カルテやオンライン診療などを積極的に導入したい考えの新院長に賛同できず、スタッフから退職を申し出られて総入れ替えとなってしまうケースも考えられます。この場合、まずは一定期間、IT機器の使い方を勉強する期間を設けることが大切です。
それでも拒否反応を示された場合、紙カルテに戻したほうがいいかというと、どの業界でもIT化が進んでいる状況を考えるとそれは得策ではありません。とはいえ、それが理由で辞めてもらうのは気がひけるなら、電子カルテを使いこなせるスタッフも採用しながら、元々いたスタッフには少しずつ使い方を覚えてもらうなどの対策を検討しましょう。
ウマが合わないのにそのまま働き続けられるケース
先に述べた通り、「新院長の考えや方針と合わない」という理由で辞めるスタッフもいれば、院長のほうは「このスタッフとは仕事の仕方も考え方も合わない」と感じているのに、継続勤務を希望されることがあります。
もちろん、前院長から提示された承継の条件に「スタッフの継続雇用」が入っており、その条件を飲んだ場合は、少なくともすぐには辞めてもらうことができません。しかし、新院長の方針にまるで従ってくれない場合や、他のスタッフと足並みをそろえることができない場合などは、対処法を考えなければトラブルに発展する可能性があります。
なかなかに骨が折れることですが、まずは、今後の方針などをしっかり説明できる話し合いの機会を持ち、お互いに歩み寄る努力を重ねることが不可欠です。
承継後の齟齬を防ぐためにも、「どんなスタッフと働きたいか」も考えて承継先を選ぼう
承継希望のクリニック自体には不満がなくとも、スタッフの継続雇用が承継条件となっていて、スタッフとうまくやっていけそうにないと感じるなら、その候補先とは契約しないことが賢明です。
とはいえ、スタッフと自分との相性まで短期間で見極めることは至難の業。承継先を探し始める前に、スタッフに求める最低限の条件についてもよく考えておいて、必要であれば、その条件にマッチするかどうかを、前院長に確認できたらいいですね。
この記事は、2024年3月時点の情報を元に作成しています。