訪問看護のニーズは年々高まっていますが、一括りに「訪問看護」といっても対象はさまざま。そのなかから今回は、精神科訪問看護に焦点を当てて、精神科訪問看護基本療養費の算定要件などを解説していきます。
精神科訪問看護とは ?
精神科訪問看護とは、精神疾患を抱えた在宅の患者の支援を目的とした訪問看護です。具体的な業務内容としては、訪問看護ステーションなどに所属した看護師や准看護師などが、医師の指示のもと患者宅を定期的に訪問して、バイタルの測定や服薬管理などをおこないます。一回の訪問時間は約30分~1時間程度です。また、患者が日常生活を問題なく過ごせるよう、地域の保健師や相談員、ケアマネジャーなどと連携して、患者の自立を促します。その際、患者の不安や悩みを聞き出し、相談に乗ったり、家族の支援も一緒におこなったりすることもあります。さらに、必要に応じて合同カンファレンスを開催することもあります。
精神科訪問看護に必要な資格は?
看護師として精神科訪問看護をおこなうためには、看護師または准看護師 の資格が必要です。そのほか、保健師や作業療法士、精神保健福祉士も精神科訪問看護をおこなうことがあります が、いずれの場合もそれぞれの職種の資格が必要となります。
また、「精神科における1年以上の経験」が採用条件とされているケースも多いですが、一般社団法人全国訪問看護事業協会などの専門機関が実施する20時間以上の研修を終了していれば、精神科未経験でも入職が認められる場合があります。
精神科訪問看護基本療養費とは?
精神科訪問看護基本療養費とは、精神疾患のある利用者やその家族に対して訪問看護をおこなった場合に給付される費用です。精神科訪問看護基本療養費には、(I)(III)(IV)の3つがあります。かつては、精神科訪問看護基本療養費(II)も存在していましたが、2018年4月の診療報酬改定によって廃止となりました。
精神科訪問看護基本療養費(I)
同一建物居住者以外に対して精神科訪問看護をおこなった場合に算定する療養費です。准看護師による場合とそれ以外の職種で区別されています。
精神科訪問看護基本療養費(III)
同一建物居住者に対して精神科訪問看護をおこなった場合に算定する療養費です。精神科訪問看護基本療養費(I)同様、准看護師による場合とそれ以外の職種で区別されています。また、同一日に「2人まで」か「3人以上」かによって費用が異なります。
精神科訪問看護基本療養費(IV)
入院中に、退院後訪問看護を受けようとする方が、在宅療養に備えて一時的に外泊(1泊2日以上)をする場合に、入院中1回に限り算定できる療養費です。ただし、末期の悪性腫瘍や多発性硬化症などの難病などの利用者については、入院中2回まで算定できます。なお、精神科訪問看護基本療養費(IV)を算定する場合は、同一日に訪問看護管理療養費は算定できません。
精神科訪問看護基本療養費の算定要件は?
精神科訪問看護基本療養費の算定要件は以下の通りです。
① 精神科訪問看護は、精神科を標榜する保険医療機関において精神科を担当する医師から交付を受けた精神科訪問看護指示書に基づき実施(開始)する
② 精神科訪問看護基本療養費(I)、(III)(IV)ともに、基準に適合しているとして地方厚生(支)局長に届け出た指定訪問看護ステーションのみが算定できる
③ 精神疾患を有する者への看護について相当の経験を有する保健師、看護師、准看護師、または作業療法士が指定訪問看護をする必要がある
④ 訪問看護指示書の有効期間内(6か月が限度)においておこなった訪問看護である必要がある
⑤ 精神科訪問看護基本療養費(I)、(III)ともに、算定する場合は、訪問看護記録書、訪問看護報告書および訪問看護療養明細書に、月の初日の訪問看護時におけるGAF尺度により判定した値を記載する
地方厚生(支)局長への届出の提出方法は?
上記②の条件を満たすためには、訪問看護ステーションの所在地を管轄する地方厚生(支)局長に対して、「精神科訪問看護基本療養に係る届出」を提出する必要があります。ただし、届出をおこなった職員以外が訪問しても算定できないため、注意が必要です(複数名での訪問における同行者に関してはその限りではない)また、人員が追加になった場合には、追加後の担当者を含めた全員の氏名および精神科での勤務経験などを記載して、再度届出を提出する必要があります。
届出の様式は、各地方厚生局のホームページからダウンロードできます。
精神科訪問看護基本療養費の点数は?
精神科訪問看護基本療養費の点数は、看護および指導を誰がおこなうか、どのくらいの時間をおこなうかによって変わってきます。
また、精神科訪問看護をおこなうにあたっては、「精神科訪問看護基本療養費」およびその加算のほかに、「訪問看護管理療養費」およびその加算、「訪問看護情報提供療養費」「訪問看護ターミナルケア療養費」が加算となります。
それぞれの点数は以下の通りです。
精神科訪問看護基本療養費およびその加算
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)
イ 保健師または看護師または作業療法士による場合
(1) 週3日目まで 30分以上の場合555点
(2) 週3日目まで 30分未満の場合425点
(3) 週4日目以降 30分以上の場合655点
(4) 週4日目以降 30分未満の場合510点
ロ 准看護師による場合
(1) 週3日目まで 30分以上の場合505点
(2) 週3日目まで 30分未満の場合387点
(3) 週4日目以降 30分以上の場合605点
(4) 週4日目以降 30分未満の場合472点
精神科訪問看護基本療養費(III)
イ 保健師または看護師または作業療法士による場合
(1) 同一日に2人
① 週3日目まで 30分以上の場合555点
② 週3日目まで 30分未満の場合425点
③ 週4日目以降 30分以上の場合655点
④ 週4日目以降 30分未満の場合510点
(2) 同一日に3人以上
① 週3日目まで 30分以上の場合278点
② 週3日目まで 30分未満の場合213点
③ 週4日目以降 30分以上の場合328点
④ 週4日目以降 30分未満の場合255点
ロ 准看護師による場合
(1) 同一日に2人
① 週3日目まで 30分以上の場合505点
② 週3日目まで 30分未満の場合387点
③ 週4日目以降 30分以上の場合605点
④ 週4日目以降 30分未満の場合472点
(2) 同一日に3人以上
① 週3日目まで 30分以上の場合253点
② 週3日目まで 30分未満の場合194点
③ 週4日目以降 30分以上の場合303点
④ 週4日目以降 30分未満の場合236点
精神科訪問看護基本療養費(IV)
外泊中の訪問看護1回
(特別管理加算や厚生労働大臣が定める疾病などの場合は2回) 850点
特別地域訪問看護加算
基本療養費の50/100
精神科緊急訪問加算(診療所、在宅療養支援病院の指示)
265点
精神科複数回訪問加算
イ1日に2回の場合
(1)同一建物内1人または2人の場合450点
(2)同一建物内3人以上400点
ロ1日に3回以上の場合
(1)同一建物内1人または2人の場合800点
(2)同一建物内3人以上の場合720点
長時間精神科訪問看護加算
(90分を超える看護:週1日、厚生労働大臣が定める場合:週3回)520点
複数名精神科訪問看護加算(30分未満を除く)
イ他の看護師など(准看護師を除く)と同時に実施した場合
(1)1日に1回の場合
①同一建物内1人または2人の場合450点
②同一建物内3人以上の場合400点
(2)1日に2回の場合
①同一建物内1人または2人の場合900点
②同一建物内3人以上の場合810点
(3)1日に3回以上の場合
①同一建物内1人または2人の場合 1,450点
②同一建物内3人以上の場合1,300点
ロ他の准看護師と同時に実施した場合
(1)1日に1回の場合
①同一建物内1人または2人の場合380点
②同一建物内3人以上の場合340点
(2)1日に2回の場合
①同一建物内1人または2人の場合760点
②同一建物内3人以上の場合680点
(3)1日に3回以上の場合
①同一建物内1人または2人の場合1,240点
②同一建物内3人以上の場合1,120点
ハ他の看護補助者または精神保健福祉士と同時に実施した場合
(1)同一建物内1人または2人の場合300点
(2)同一建物内3人以上の場合270点
夜間・早朝訪問看護加算
210点
深夜訪問看護加算
420点
訪問看護管理療養費およびその加算
1. 月の初日の訪問
イ 機能強化型訪問看護管理療養費1 1,283点
ロ 機能強化型訪問看護管理療養費2 980点
ハ 機能強化型訪問看護管理療養費3 847点
ニ イからハまで以外の場合 744点
2. 2日目以降 300点
24時間対応体制加算
(1月につき)640点
退院時共同指導加算
800点
特別管理指導加算
200点
退院支援指導加算(退院日)
600点
長時間の訪問を要する者に関しては840点
在宅患者連携指導管理
(月に1回)300点
在宅患者緊急時等カンファレンス加算
(月2回)200点
特別管理加算
(1月につき)
専門管理加算(イ)
250点
専門管理加算(ロ)
250点
精神科重症患者支援管理連携加算
イ精神科在宅患者支援管理料2のイ 840点
ロ精神科在宅患者支援管理料2のロ 580点
看護・介護職員連携強化加算
250点
訪問看護情報提供療養費
1訪問看護情報提供療養費1(市区町村など)150点/月
2訪問看護情報提供療養費2(学校など)150点/年度
3訪問看護情報提供療養費3(保険医療機関など)150点/月
訪問看護ターミナルケア療養費
1訪問看護ターミナル療養1 2,500点
2訪問看護ターミナル療養2 1,000点
※他の訪問看護ステーションにおいて算定している場合には算定不可
精神科訪問看護基本療養費の加算は?
点数一覧に列挙した通り、精神科訪問看護基本療養費には以下の7つの加算項目があります。
① 特別地域訪問看護加算
② 精神科緊急訪問看護加算
③ 長時間精神科訪問看護加算
④ 複数名精神科訪問看護加算
⑤ 夜間・早朝訪問看護加算
⑥ 深夜訪問看護加算
⑦ 精神科複数回訪問加算
これらのうち④以外は、精神科以外の訪問看護基本療養費の加算要件とほぼ同じです。ただし、精神科訪問看護基本療養費には、乳幼児加算という加算項目はありません。
④の複数名精神科訪問看護加算に関しては、精神科以外の訪問看護基本療養費の加算要件とは異なり、「同行職種」「同一建物居住者の訪問人数」「1日あたりの訪問回数」の3つの要件によって加算額が決まります。また、複数名精神科訪問看護加算は、30分未満の訪問には適用されません。
訪問看護管理療養費の加算は?
点数一覧に列挙した通り、訪問看護管理療養費には以下の9つの加算項目があります。
① 24時間対応体制加算
② 特別管理加算
③ 専門管理加算
④ 退院時共同指導加算
⑤ 退院支援指導加算
⑥ 在宅患者連携指導加算
⑦ 在宅患者緊急時等カンファレンス加算
⑧ 精神科重症患者支援管理連携加算
⑨ 看護・介護職員連携強化加算
訪問看護管理療養費の加算に関しては、⑧精神科重症患者支援管理連携加算 以外は精神科以外の訪問看護管理療養費の加算項目と同じです。
では、⑧精神科重症患者支援管理連携加算とはどんな加算かというと、重度の精神疾患患者が在宅で安定して過ごせるよう、訪問看護ステーションの保健師、看護師、准看護師、作業療法士が保険医療機関と連携しながら訪問看護をおこなうことを評価するための加算です。
点数一覧に記載した通り、「精神科在宅患者支援管理料2のイ」と「精神科在宅患者支援管理料2のロ」がありますが、この2つの違いはというと、以下の1、2の両方に該当する場合は前者、いずれかに該当する場合は後者となります。
1. 1年以上の入院歴を有する者、措置入院または緊急措置入院を経て退院した患者であり、都道府県等が精神障害者の退院後支援に関する指針を踏まえて作成する退院後支援計画に関する計画に基づく支援機関にある患者または入退院を繰り返す者
2. 統合失調で、統合失調症型障害もしくは妄想性障害、気分(勘定)障害または重度認知症の状態で、退院時または算定時におけるGAF尺度による判定が40以下の者
【算定要件】
⇒保険医療機関と連携して設置する多職種チームに、保健師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士のいずれか1名以上が参加する
⇒利用者またはその家族の同意を得ている
⇒利用者の病状、治療計画、直近の診療内容等緊急対応に必要な診療情報について随時提供を受ける
⇒多職種チームによるカンファレンスを週1回開催、うち月1回以上は多職種チームと保健または精神保健福祉センター棟と共同してカンファレンスを開催する
⇒訪問回数は週2回以上
⇒多職種チームと保健所または精神保健福祉センター等が共同してカンファレンスを月1回以上開催する
精神科訪問看護をおこなっていないクリニックも、精神科訪問看護基本療養費の概要については把握しておきたい
精神科訪問看護基本療養費は、精神疾患のある利用者やその家族に対して訪問看護をおこなった場合に給付される費用であるため、精神科訪問看護をおこなっていないクリニックにとっては関係ないことのように思われるかもしれません。しかし、地域包括ケアシステムの確立がますます重要になってくるこれからの時代においては、多くのクリニックが、訪問看護ステーションなどと連携を取り合うことが必要になってくるので、どんなときに算定される費用であるかについて、ある程度把握しておくことは大切ですよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年4月時点の情報を元に作成しています。