
医療現場では看護師が常に不足しているといわれています。そう聞くと、「看護師の仕事が大変だからみんなすぐに辞めてしまうのでは?」と心配になってしまう人もいるかもしれませんが、実際はどんな理由で看護師が不足しているのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
看護師は実際のところどのくらい不足している?
まずは、実際のところ看護師がどのくらい不足している状況なのかを確認します。
特定の職業に就いている人の過不足状況は、有効求職者数(働きたい人の数)に対する有効求人数(企業がハローワークにエントリーする仕事の数)の割合である「有効求人倍率」をみればわかります。計算式としては、「有効求人数÷有効求職者数」となり、算出された数字が1よりも大きいと、需要が供給を上回っている「人手不足」、1よりも小さいと、需要が供給を下回っている「人出過剰」の状況だということになります。
ハローワークは厚生労働省が運営しているため、主な職業ごとの有効求人倍率および職業計の有効求人倍率は、厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」で確認することができます。
統計によると、「看護師・助産師・保健師」の有効求人倍率および職業系の有効求人倍率のここ数年の推移は以下の通り。看護師単独の有効求人倍率は公表されていないため、看護師免許が必要な助産師および保健師をひっくるめた有効求人倍率ではありますが、職業計の数字を見ると、コロナ期間の2020年、2021年以外はかなり人手不足であることがわかります。
看護師・助産師・保健師 | 職業計 | |
2017年10月 | 2.33 | 1.41 |
2018年10月 | 2.28 | 1.49 |
2019年10月 | 2.23 | 1.45 |
2020年10月 | 1.91 | 0.97 |
2021年10月 | 2.11 | 1.06 |
2022年10月 | 2.2 | 1.23 |
看護師が不足している原因は?
続いては本題で、看護師が不足している原因を解説していきます。
日本が超高齢化社会である
超高齢化社会においては、日常的に医療を必要とする人の割合がとても高いです。それに対して、支える側の割合はとても低いので、必然的に人手が不足します。
看護師の離職率が高い
公益社団法人日本看護協会が公表している「2022年病院看護実態調査」の結果によると、2021年度の看護職員(看護師・助産師・保健師・准看護師)の離職率は、正規雇用=11.6%、既卒=16.8%、新卒=10.3%となっています。
参照:公益社団法人日本看護協会「2022年病院看護実態調査」結果
これに対して、令和4年上半期における産業別離職率は以下の通りです。
鉱業、採石業、砂利採取業 | 3.8 |
建設業 | 4.5 |
製造業 | 5.5 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 7.5 |
情報通信業 | 6.4 |
運輸業、郵便業 | 6.4 |
卸売業、小売業 | 8 |
金融業、保険業 | 4.7 |
不動産業、物品賃貸業 | 8.3 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 6.6 |
宿泊業、飲食サービス業 | 15 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 10 |
教育、学習支援業 | 12.2 |
医療、福祉 | 9.9 |
複合サービス事業 | 7.4 |
サービス業(他に分類されないもの) | 11.1 |
2つの調査結果から、看護師が含まれる「医療、福祉」業界の離職率が他産業と比べてかなり高いことと、「医療、福祉」業界計より、看護職員の離職率のほうが高いことがわかります。
看護師の離職率が高い理由は?
では、なぜ看護師の離職率は高いかというと、以下のような理由が考えられます。
①売り手市場が続いている
前述の通り、看護師の需要はかなり高いです。そのため、退職してもすぐにまた働き先が見付かることから、退職することを躊躇しない働き手が多いのが実情です。
②働く条件が悪い
夜勤やオンコール対応が多い、ほとんど休みがない、ハードワークなのに給与の額は低くて納得できないなど、働く条件が悪くて離職する看護師は多いです。
③職場の人間関係がよくない
人間関係の悪さも、離職の原因となり得ます。他業界と違って、医療はチームワークなので、人間関係が悪いと仕事しづらくなるのがネック。また、職場内の人間関係がよくないと、患者からも「あそこのクリニックはスタッフ同士の仲が悪くて雰囲気が悪い」と思われるので、さらに居心地が悪くなることも。
④出産や育児、介護など、仕事を辞めなければならない理由がある
看護師は男性でも女性でも就ける職業ですが、現状、圧倒的に女性が多いため、出産や育児、もしくは介護などで家を空けられなくなることから、一時的であっても仕事を辞める看護師も多いです。
⑤スキルアップ、キャリアアップを希望している
「認定看護師の資格を取得したい」「訪問看護師として社会に貢献したい」などの理由で、スキルアップやキャリアアップのために転職したり、新たな働き方を探したりする看護師は多いです。
⑥重責が辛い
看護師の仕事は患者の命に関わる仕事です。仕事をするなかで、患者の容態の急変や死を目の当たりにすることもありますが、その経験が想像していたより辛く、離職してしまうケースもあります。
地域格差がある
厚生労働省が公表している「医療従事者の需要に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ」によると、看護職員の需給推計結果は、都道府県によって大きな差があることがわかっています。なぜかというと、都道府県ごとに人口や医療機関数に差があるためです。
2025年度に看護職員が不足することが予想される都道府県は以下の通り。
・埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪
2025年の地域医療構想実現時、看護師の需要が供給を下回ることが予想される都道府県は以下の通りです。
・島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島
参照:厚生労働省「医療従事者の需要に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ(概要)」
医療技術が進化している
医療技術の高度化に対応できる看護師の需要が高まっている一方、対応できる看護師数は足りていません。特に、少子高齢化が進んだことで、急性期医療や訪問看護、介護医療の分野では、スキルの高い看護師のニーズが高いのに人員が少ないため、一人ひとりの負担が大きい状態です。
看護師不足が続くとどうなる?
続いては、看護師不足が続くとどのような問題が発生することが考えられるのかをみていきます。
質の高い医療を提供しにくくなる
人手が足りないことで看護師ひとりあたりの業務量が増加すると、患者とのコミュニケーションにしっかり時間を割くことができません。時間内にすべての患者の処置を終わらせなければと焦った結果、ミスしてしまう可能性だってあります。そうした状況が毎日続くとなると、よりよい医療を提供したいという気持ちも失せてしまいがち。また、看護師自身の心身が弱ってしまうことも考えられます。
転職しにくくなる
看護師の目線で考えると、一番の問題はなんといってもこれ。医療機関側から、「いま辞められたら困る」「次の人が見付かるまで待ってほしい」と引き止められて、円満退社できなくなる可能性があります。
職場の雰囲気、人間関係が悪くなる
「毎日仕事に追われて精神的にいっぱいいっぱい」「辞めたいのに辞められない」といった状況が続くと、スタッフ同士、相手を気遣う気持ちも薄れやすく、院内がギスギスした雰囲気になることも。そうなると、職場の人間関係が悪くなって、辞めたい気持ちがさらに強くなる可能性も高いといえます。
看護師不足の状況でも自分らしく働くためにはどうすればいい?
続いては、看護師が不足している状況でも、クリニックの要求などに振り回されることなく、自分らしく働くためにはどうすればいいかを考えていきます。
どんな働き方が自分にとって理想なのかを常に考える
自分はどんな医療機関で、どんな人たちとどんなふうに働き、どんなふうにスキルアップしていきたいのかを常に考えることが大切です。そこが確立されていなければ、周囲の声に惑わされて、自分の軸が定まらないまま働き続けることになる可能性が高いといえます。
定期的に自分のライフプランを見つめ直す
1年後、5年後、10年後などにどんな人生を送っていたいかをイメージすると、今のままの働き方を続けていいのか、続けるべきではないなら、いま何をするべきなのかが自ずとみえてきます。
専門家に相談する
自分にはどんな職場があっているのか、転職したほうがいいのかなどがわからず悩んだときは、転職エージェントなどのプロに相談すると役に立つアドバイスをもらえます。転職エージェントは基本、無料で相談を受け付けてくれるので、料金などを気にせず納得いくまで相談するのがおすすめです。
理想の働き方を実現するためには、マクロの視点を持つことが大切
看護師という職業に限らず、働いていると不安や不満が出てくることは誰しもあるもの。そんなときは、状況が悪ければ悪いほど、「他のところに就職すべきだった」「こんな仕事するんじゃなかった」と視野が狭くなりがちですが、広い視野で状況を確認してみると、実は原因はもっと他のところにあったり、業界全体がのっぴきならない状態であることがわかったりするものです。さらに、物事を見る角度を変えてみると、職場を変えなくても状況を改善できることに気付くこともあり得るので、自分らしく働き続けるためにも、いろんな人に意見を聞きながら、マクロの視点で物事を見ることを心がけてみるといいかもしれませんね!
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この記事は、2024年6月時点の情報を元に作成しています。