クリニックスタッフの退職金は支給が必須?用意するメリットとは

これから開業しようと考えているドクターや開業したてのドクターは、スタッフが退職するときのことまで考えることはないかもしれません。

しかし、退職時には退職金が必要な場合もあるので、知識だけでも早めに有しておいたほうが準備不足で焦ることがありません。そこで今回は、クリニックスタッフの退職金について詳しく解説していきます。

目次
  1. クリニックスタッフが辞める際に退職金の支給は必須?
  2. 実際のところ、何割のクリニックが退職金を用意している?
  3. 三種類の退職金制度とは?
    1. 退職一時金制度
    2. 「企業型確定給付年金」または「企業型確定拠出年金」を活用
    3. 前払い制度
  4. 退職金の積み立て、どうするのが効率的?
  5. 退職金制度の代わりに生命保険を活用する手もある
  6. 退職金は勤務何年目から発生する?
  7. 退職金制度は人材募集時のアピールにもなる!
  8. 退職金制度を用意しないメリットもある

クリニックスタッフが辞める際に退職金の支給は必須?

クリニックスタッフが退職する際、必ず退職金を支給しなければならないわけではありません

退職金を支給するクリニックでは、長年一緒に働いてくれたスタッフに対して感謝の気持ちを伝えるために退職金制度を用意しているのです。

また、給与が低い分を補てんするために、「スタッフが在職中に積み立てた分を後払いする」という考え方や、「スタッフの退職後の生活を保障するために支払う」という考え方のクリニックもあります。

実際のところ、何割のクリニックが退職金を用意している?

では、実際のところどのくらいの割合のクリニックが退職金制度を用意しているのか? についてですが、厚生労働省が公表している平成30年就労条件総合調査の結果によると、医療・福祉業界全体の87.3%です。

ただしこの数字はあくまでも医療・福祉業界全体のもの。規模が大きい病院は退職金制度を設けていることが多い一方、個人経営のクリニックでは用意していない場合もあり、それ自体は決して珍しいことではありません。

平成30年就労条件総合調査でも、従業員1,000人以上の企業(医療・福祉業界以外の業界含む)の92.3%が退職金制度を採用している一方、従業員30~99人の企業では退職金制度採用率が77.6%にとどまっていることがわかっています。

参照:平成30年就労条件総合調査 結果の概況

三種類の退職金制度とは?

前述した「退職金制度を用意する理由」とも関連していますが、退職金制度は大きく三種類に分けられます。

退職一時金制度

もっとも多いのがこのタイプ。退職時にまとめて受け取れる制度です。

勤続年数、職場での功績、退職時点での役職や階級などによって金額が決定します。金額に関して具体的な決まりはありませんが、「基本給の1/2×勤続年数」を支給するクリニックも多いようです。

つまり、基本給が40万円で6年勤めていたとしたら、20万×6=120万円ということになります。

ただし、クリニックへの貢献度や、自己都合での退職かどうか、数か月前に予め申し出てくれたかなどによって、基準となる金額から増減させるのが一般的です。

「企業型確定給付年金」または「企業型確定拠出年金」を活用

退職金の代わりに、企業年金を導入するという方法もあります。企業年金には、「企業型確定給付年金(DB:Defined Benefit Plan)」と「企業型確定拠出年金(DC:Defined Contribution Plan)」の2種類があります。

前者は、退職金額の算定方法があらかじめ決まっているため、退職時に受け取ることができる給付金も確定しています。年金資金はクリニックがまとめて運用して、給付金額を保障します。

後者は、退職金の原資となる掛け金の額を、クリニックからスタッフに対して拠出します。

スタッフは、DCでラインナップされているなかから各自が選んだ金融商品を、拠出された掛金を使って運用します。クリニックは毎月決まった額の掛け金を拠出しますが、給付金額は、どの金融商品を選んだかによって異なります。

企業年金を活用すれば、スタッフは、退職後、一定期間もしくは生涯にわたって定期的に給付を受け取れます。

ただし、支給スタートは、通常の年金やiDeCoと同じく、既定の年齢に達してからとなります。このことをネックに感じて企業年金以外の退職金制度を好むスタッフは一定数います。その場合は、勤続勤務手当として月額1万円などを支給する方法を検討してもいいでしょう。

ただし、勤続勤務手当として支給する場合、給与と同じ扱いになってしまいますが、企業年金を導入した場合、掛金が「公的年金等控除」に適用されるというメリットがあります。つまり、そのぶん税金が安くなるのです。

また、DBとDCは併用することも可能ですが、DBを実施していない場合の拠出限度額は月5.5万円、実施している場合は月2.75万円と定められているので注意が必要です。

さらに、DCやDBに加入している人は、iDeCoの拠出限度額が低くなるので、従業員に対してその旨を伝えて、条件に合うかどうか(=既にiDeCoで上限を掛けていないか)を確認することなども必要です。

前払い制度

退職時または退職後ではなく、事前に決められた金額を給与・賞与に分散して支払うのがこのタイプ。

後々まとめて支払う必要がない代わりに、基本給を高く支払うことになります。

退職金の積み立て、どうするのが効率的?

退職金の積み立て、つまり前述の3つの制度のうち1番目の「退職一時金制度」を採択する場合の積立方法としておすすめなのは、国が用意している退職金制度「中小企業退職金共済(=中退共)制度」を利用することです。

この制度を利用すると国からの助成金を受けられるのが大きなメリットです。

制度加入後、4カ月が経過すると掛金の1/2を1年間助成してもらえるだけでなく、掛金増額時には掛金の1/3を1年間助成してもらえます。

掛金は月額2,000円~3万円でスタッフごとに選択可能。個人事業主の場合、掛金は全額経費となり、法人の場合、掛金は全額損金となります。

ただし、スタッフが1年未満で退職した場合、スタッフに不支給となるだけでなくクリニックにも掛金は戻ってきません。

また、スタッフの退職理由が懲戒解雇処分であっても、該当スタッフに対して中退共から直接退職金が支払われることになる点も留意しておきましょう。

参照:独立行政法人 勤労者退職金共済機構「中小企業退職金共済事業本部」

退職金制度の代わりに生命保険を活用する手もある

国が用意している退職金制度の代わりに、生命保険を活用するのも一手です。契約形態によって、保険料の一部または全額を損金にできるのが大きなメリット

ただし、商品によって保険料の経理処理が異なるので、契約前には保険会社に確認することをおすすめします。

デメリットとしては、返戻率が高いと掛金が高額になる傾向にあります。

退職金は勤務何年目から発生する?

退職金制度の有無同様、発生する年数についても決まりはありません。

なかには、3年目であっても退職金を支給しているクリニックもありますが、その場合、金額的には高くありません。一般的にイメージする大金ではなく、おおむね給与1か月程度とされています。

3年以上5年未満程度の勤務になると50万円程度の退職金を支給する医療機関もあります。

さらに、6年、7年と勤続年数が長ければ長いほど退職金の額は大きくなるのが一般的です。

退職金制度は人材募集時のアピールにもなる!

前述の通り、退職金を用意することは必須ではありませんが、人材募集時に退職金制度を用意していることを明記しておけば大きなアピールになります。

退職一時金制度、企業年金制度、前払い制度ともに魅力を感じてもらえることに変わりはないので、用意するならどの制度がいいか、一度じっくり時間をかけて考えてみてはいかがでしょうか?

退職金制度を用意しないメリットもある

反対に、退職金制度を用意しないメリットもあります。

退職金は、スタッフの貢献度に関わらず、退職を迎えたスタッフに一律で支払うことになります。

クリニックに貢献してくれているスタッフに感謝を示したいと考えているなら、昇給制度を利用したほうがお互い満足度が高いでしょう。

また、中途退職者が出た場合も支払うことになりますし、予想していなかった退職だからと制度の内容を変更することはできません。中途退職者への支払いが生じたことで、決算や資金繰りが悪くなることも考えられます。

退職金制度のメリットとデメリット両方を考えたうえで、自院にとってベストな選択ができるといいですね。

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