看護師の退職金の相場は? 勤続年数や職場による違いは? もらえない場合もある?

転職先を選ぶ際や、将来必要なお金を試算する際など、退職金について知りたいと思うことは多いものです。そこで今回は、看護師として働いていたらどのくらいの退職金を期待することができるのか? 支給されない場合もあるのか? 勤続年数や職場によって金額に違いがあるのか? などの退職金にまつわる疑問を解決していきます。

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目次
  1. 看護師は退職金を必ずもらえる?
  2. 看護師の退職金の3つの種類とは?
    1. 退職一時金制度
    2. 企業年金制度(企業型DC)
    3. 前払い制度
  3. 勤続年数による退職金の違いは?
    1. 勤続約3年で退職した場合
    2. 勤続5年~9年で退職した場合
    3. 勤続10年以上で退職した場合
    4. 勤続20年以上で退職した場合
    5. 勤続30年以上で退職した場合
  4. 病院・クリニック勤務の看護師の退職金の相場は?
    1. 国立病院勤務の場合
    2. 公立病院勤務の場合
    3. 私立病院勤務の場合
    4. 民間病院・クリニック・訪問看護ステーション勤務の場合
  5. 「退職一時金制度」によって退職金が支給される場合の計算方法のパターンは?
    1. 基本給ベース
    2. 固定金ベース
    3. 勤続年数ベース
    4. 功績倍率ベース
  6. 看護師が退職金を増やす方法は?
    1. 退職金が高い病院などに転職する
    2. 役職に就く
    3. 資格を取得する
    4. iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する
  7. 退職金ではなく、収入や貯蓄を増やすという手もある

看護師は退職金を必ずもらえる?

看護師は、必ず退職金をもらえるわけではありません。なぜかというと、クリニックや病院に限らず、全職種において、退職金制度の導入は法律によって定められていないからです。

では、医療・福祉業界においてはどのくらいの割合の医療機関が退職金制度を設けているかというと、厚生労働省が公表している「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、全体の75.5%です。ちなみに、全職種において退職金制度が導入されている割合は74.9%なので、他業界とほぼ差はないといえます。

また、同じ調査において、職業計での企業の規模別の退職金制度導入割合を見ると、1,000人以上の企業は90.1%、300人~999人の企業は88.8%、100~299人の企業は84.7%、30~99人の企業は70.1%という結果です。これを医療機関に当てはめて考えると、大学病院などの規模が大きい病院では退職金が出る場合が多く、小規模なクリニックなどでは退職金が用意されていない可能性が高めということになります。

参照:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」3. 退職給付(一時金・年金)制度

看護師の退職金の3つの種類とは?

続いては、看護師の退職金制度の種類をみていきます。看護師の退職金制度は、大きく以下の3種類にわけられます。

①退職一時金制度
②企業年金制度(企業型DC)
③前払い制度

それぞれの退職金制度がどのようなものなのかを詳しくみていきましょう。

退職一時金制度

退職一時金とは、退職時に一括で支給される退職金です。厚生労働省が公表している「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、退職金制度を導入している医療・福祉業界の企業のうち、86.9%が退職一時金制度のみを導入しています。また、企業年金制度(企業型DC)についてはこの後に解説しますが、退職一時金制度と企業年金制度(企業型DC)の両方を導入している企業も11.4%存在します。

この制度によって支払われる退職金の金額は、多くの場合、勤続年数や離職理由などをもとに算出されます。詳しい支給ルールは企業によって異なりますが、職場での功績や退職時の役職・階級などでも金額が変わる場合があります。具体的にどのような計算式が採用されているかは、就業規則などで確認できますが、多くの場合、自己都合で退職した場合より、定年退職や職場都合で退職した場合のほうが高い金額が支給されます。

参照:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」3. 退職給付(一時金・年金)制度

企業年金制度(企業型DC)

企業年金制度(企業型DC)とは、企業が掛け金を毎月積み立て(=拠出)して、従業員(加入者)自らが、投資する株式や投資信託、債券などの金融商品を選んで運用する制度です。運用次第で、受け取れる金額が変わってきます。

「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、退職金制度を導入している医療・福祉業界の企業のうち、企業年金制度(企業型DC)を導入している企業は1.7%、退職一時金制度と企業型年金制度(企業型DC)を併用している企業は11.4%です。

参照:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」3. 退職給付(一時金・年金)制度

前払い制度

前払い制度とは、“退職金分”として定められた金額が、現役で働いている期間に給与および賞与に上乗せして支払われる制度です。

前払い制度であることをきちんと理解していないと、給料の月額が高いだけに思えるので、老後資金として貯蓄できない人もいるかもしれません。もちろん、老後資金として貯蓄しなければいけないというわけではありませんが、制度についてよく理解したうえで、計画的に運用することはとても大切です。

ちなみに、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」で前払い制度を導入している医療機関の割合が調査されていないのはなぜかというと、もともと前払い制度は存在しなかったためです。働き方が多様化して、終身雇用が一般的ではなくなったことなどが理由で、こうした制度が確立されたと考えられます。

勤続年数による退職金の違いは?

続いては、勤務年数による退職金の違いをみていきます。退職金は、基本的には長く勤めれば勤めるほど高くなります。

勤続年数 退職金の金額
約3年 30万円程度
5年~9年程度 50万円~100万円程度
10年以上 250万円~300万円程度
20年以上 450万円~600万円程度
30年以上 800万円~900万円程度

勤続約3年で退職した場合

まず、退職金が発生するのは勤続3年以上からであることが多いです。新卒や2年目で転職した場合、退職金を受け取れないことが多いでしょう。丸3年以上働くと、退職金を受け取れるケースが多いとはいえ、相場としては30万円程度であるため、老後の資金の足しにはならないと考えられます。

勤続5年~9年で退職した場合

勤続5年以上になると退職金の金額がややアップするのは、ほとんどの業務を、上司や先輩の指示を受けなくともこなすことができるからです。また、組織のなかでリーダー的な役割を任されることも多く、プリセプター制度を導入している医療機関なら、プリセプターとして後輩の育成に関わることも多いでしょう。

勤続10年以上で退職した場合

勤続10年ともなると、看護主任などの役職に就いているケースも多く、責任ある業務を担当することもしばしばです。そのため、ある程度まとまった金額が支給されるケースが多いですが、たとえば20歳前後で就職したとすると、10年目は年齢としては30歳前後ということになり、子育てにもお金がかかるため、計画的に退職金を使うことが必要です。

勤続20年以上で退職した場合

勤続20年以上の場合、退職金の額も相当になるケースが多いです。ただし、20年間の途中に出産や子育てなどで休職している期間がある場合、休職期間がない人と比べて退職金が少ない傾向にあります。また、先に述べた通り、自己都合での退職の場合も退職金が少なくなります。しかし、転職を希望している場合、年齢を重ねると募集も少なくなるため、金額の減額を恐れず思い切って退職したほうがいい場合もあります。

勤続30年以上で退職した場合

勤続30年を超えると、退職金は1,000万円近くなるため、老後の生活にゆとりを見出しやすいでしょう。また、なかには、1,000万円以上の退職金を用意してくれる企業もあります。ただし、この金額はあくまでも相場であって、役職や勤続年数が退職金に反映されない医療機関もあるため、30年勤めたあとに、「これだけしか退職金もらえないの?」ということにならないよう、早い段階で就業規則の退職金にまつわる記載を確認しておきましょう。

病院・クリニック勤務の看護師の退職金の相場は?

続いては、病院・クリニックなどの形態による退職金の相場の違いについて説明します。

医療施設の種類 退職金相場
国立病院 1,800万円程度
公立病院 ・都道府県立=1,400万円程度
・政令指定都市=1,900万円程度
・政令指定都市以外の市町村立=1,800万円程度
私立病院 800万円~2,000万円程度
民間病院・クリニック・訪問看護ステーション 0円~2,000万円程度

国立病院勤務の場合

2015年4月以前は、国立病院勤務の看護師は準公務員とみなされていたため、「国家公務員退職手当法」に基づいて退職金が支給されていました。しかし、2015年4月に、国立病院機構は独立行政法人となったため、「国家公務員退職手当法」適用外となりました。ところが、適用外となった後も退職金の水準は大きく変わることがなかったため、国立病院勤務の看護師の退職金の相場は高い水準がキープされています。

また、同程度の水準の退職金が支給される、国家公務員に該当する看護師の勤務先はというと、厚生労働省、医療刑務所、国立ハンセン病療養所、自衛隊病院、宮内庁病院となります。

公立病院勤務の場合

公立病院勤務の看護師は、立場的には地方公務員となるため、退職金は「地方公務員法」に基づいて支給されます。計算式は、「基本額+調整額=退職手当額」となります。基本額とは、退職日給料月額×退職理由別・勤続年数別支給率のことで、調整額とは、調整月額のうち、その額が多いものから60月分の額を合計した数となります。

参照:総務省「地方公務員の退職手当制度の概要」

公立病院は、都道府県立の場合もあれば市町村立の場合もありますが、そのなかで政令指定都市の公立病院の退職金の水準が高いのは、政令指定都市がもっとも財源にゆとりがあるからです。

また、自治体の保健所、自治体の保健センター、公立の看護学校や公立の幼稚園・保育園、地域包括支援センター、地域の障害者施設などに勤務する看護師も地方公務員となるため、地方公務員法に基づいた退職金が支給されます。

私立病院勤務の場合

私立病院に勤務する看護師の退職金は、病院の運営状況や施設規模などによってばらつきがあります。ただし、施設の規模が大きければそのぶん退職金が高くなるということはなく、大学病院級の大病院でも、赤字経営であれば退職金は少なくなり、規模が小さくでも黒字経営であれば高額な退職金が支給される可能性があります。

民間病院・クリニック・訪問看護ステーション勤務の場合

規模が小さいクリニックや訪問看護ステーションは、退職金制度が導入されていない場合もあります。その場合、退職金が0円ということになるので、長く働き続けた後にガッカリするのを避けるためにも、早い段階で退職金の有無や想定金額について確認しておきたいところです。

「退職一時金制度」によって退職金が支給される場合の計算方法のパターンは?

前半で述べた通り、退職一時金制度を導入している医療機関の退職金算出方法は、企業によって異なりますが、大きくわけると以下の4つの考え方が適用されています。
※ただし、前述の通り、公務員の退職金は、「国家公務員退職手当法」または「地方公務員法」に基づいて算出されています。

①基本給ベース
②固定金ベース
③勤続年数ベース
④功績倍率ベース

それぞれ具体的にどのような考え方なのかみていきましょう。

基本給ベース

もっとも多くの医療機関や施設が採用しているのがこの考え方です。計算式は「基本給×勤続年数」で、退職時の基本給がベースになっています。たとえば、基本給が30万円で勤続年数が20年の場合、退職金は600万円ということになります。

固定金ベース

固定金ベースの場合の計算式は、「固定金額×勤続年数」となります。「固定金額」とは、医療機関や施設ごとに設定された金額で、役職に関わらず一定の金額となります。たとえば、固定金額が20万円で勤続年数が10年の場合、退職金は200万円です。固定金額が高ければ退職金の金額も大きくなりますが、低く設定されている場合は、長く勤めても退職金が少なめということになります。

勤続年数ベース

勤続年数によって一律の退職金を支給している医療機関や施設もあります。たとえば、「勤続年数3年:30万円、勤続年数5年:100万円、勤続年数10年:250万円」といった具合ですが、10年目に入った時点で250万円となるのか、丸10年勤務していたら250万円となるのかなどの詳細については、就業規則でよく確認しておくことをおすすめします。

功績倍率ベース

功績倍率ベースの場合の計算式は、「基本給×勤続年数×功績倍率」となります。職場にどれだけ貢献できたかについて、1.0を基準として、貢献度が低ければ1.0より下げて、貢献度が高ければ1.0より上げるという考え方です。つまり、基本給20万円、勤続年数5年という2人のスタッフがいたとして、一方は功績倍率が0.8、もう一方は功績倍率が1.2とすると、前者の退職金は80万円、後者の退職金は120万円と大きく差が開きます。

看護師が退職金を増やす方法は?

続いては、看護師が退職金を増やす方法をみていきましょう。看護師が退職金を増やす方法としては、以下の3パターンが考えられます。

①退職金が高い病院などに転職する
②役職に就く
③資格を取得する
④iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する

それぞれ具体的に何をすればいいのかをみていきましょう。

退職金が高い病院などに転職する

ここまでで述べてきた通り、退職金の金額は勤務先の形態などで大きく異なります。そのため、まず考えられる方法としては、退職金の水準が高い国立病院などに転職することです。ただし、高い退職金を受け取りたい気持ちはみんなに共通するものなので、必然的に倍率も高くなります。そのため、転職に成功すれば退職金は確実に高くなるものの、転職がうまくいく確率は100%とはいえません。

役職に就く

役職に就くと、基本給が高くなる傾向にあります。基本給が高くなると、先に説明した基本給ベースの場合や功績倍率ベースの場合、退職金の金額が大きくなります。ただし、長く勤めると誰でも役職に就けるというわけではありません。看護指数が多い病院などの場合、役職に就ける看護師はほんの一握り。出産や育児による休職期間があれば、そのぶん役職に就ける可能性は低くなりますし、休職期間がない場合でも、必ず役職に就けるわけではありません。また、小規模なクリニックなどでは、そもそも役職手当が用意されていない場合もあります。

資格を取得する

専門的な資格を有している看護師は、職場への貢献度が高くなるので、功績倍率ベースで退職金を算出している場合などは、退職金の金額が上がると考えられます。前述の通り、民間病院やクリニック、訪問看護ステーションなどは退職金の金額にばらつきがありますが、たとえば、認知症ケア専門認定士の資格があると、訪問看護ステーションで優遇される場合などがあるため、退職金の増額も期待できるかもしれません。ただし、すべての職場で資格保有者を優遇しているというわけではないので、転職の際は条件などをしっかり確認しましょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用する

企業が用意してくれる退職金とは性質が異なりますが、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用すれば、自分で退職後の資金を積み立てることができます。ただし、前半で解説した企業型DC同様、マイナス運用となる可能性もゼロではありません。

退職金ではなく、収入や貯蓄を増やすという手もある

将来のことを思うと、少しでも多くの退職金を用意しておきたいと考えて当然ですが、退職金の金額を増やすことのみに執着すると、理想の働き方を見失いがちです。毎日、活き活きと働くためには、やりがいやワークライフバランスを考えることもとても大切です。「でも、そうすると人生を十分に楽しめるだけの資金が得られない」と思うかもしれませんが、副業や複業といった選択肢を視野に入れると、できることは意外に多いもの。たとえば、医療系ライターとして記事を書くこともその1つですが、文章を書くのが苦手なら、InstagramやTikTokで看護師としての経験を発信しながら収益化につなげていくことなども考えられます。既存のやり方にとらわれず、自分らしく楽しく収益を得ていくにはどうすればいいだろう? と考えると、思いがけない糸口が見つかることもあるかもしれませんよ。また、何かを形にしたり発信したりするのが苦手なら、NISAなどの投資で資産を増やす選択肢もあるので、ぜひ検討してみてくださいね。

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