
子育てや介護、もしくはそのほかの個人的理由があって、扶養内で働いている看護師は一定数います。「子どもが小学校に入るまで」など期間を区切っている場合もあれば、「家族を支えることが最優先だからこのまま扶養内で働き続けたい」など働き方は人それぞれですが、いずれの場合も、扶養内で働くメリットやデメリットをよく理解したうえでキャリアを築いていくことが大切です。そこで今回は、看護師が扶養内で働く場合に知っておくべきことを解説していきます。
「扶養内で働く」とは?
「扶養」とは、身内から経済的援助を受けることを意味します。妻が夫の扶養に入る場合もあれば、夫が妻の扶養に入る場合もあります 。また、働いていない子どもは基本的に親の扶養に入っているということになりますし、親が子どもの扶養に入っている場合もあります。
扶養を受けている人を「被扶養者」といいますが、被扶養者の収入が一定金額を超えると、「経済的援助によって生活している」とみなされなくなると同時に、被扶養者ともみなされないことになり、本人が稼いだぶんに対して税金を支払う必要が出てきます。
では、「扶養内で働く」ためには年収をいくら以内におさめればいいかというと、2種類の“境界線”が存在します。
税金の扶養の境界線となる「103万円の壁」
1つめは、税金の扶養の境界線となる103万円です。年収が103万円以内なら、被扶養者のパート代には所得税がかかりません。
年収が103万円を超えた場合は、超えたぶんに対して課税されることになり、たとえば年収が103万円を20万円オーバーして123万円なら、「123万円-103万円=20万円」に対して課税されます。所得税の税率は所得によって変わってきますが、課税される所得金額が1,000円から194万9,000円までは5%とされているため、年収が123万円の場合の所得税は、20万円×5%=1万ということになります。
社会保険の扶養の境界線となる「130万円の壁」
2つめは、社会保険の扶養の境界線となる130万円です。年収が130万円に達すると、社会保険料の扶養から外れるため、社会保険料を自分で支払うことが必要になります。社会保険とは、狭義では、健康保険、厚生年金保険、介護保険のことですが、このうち介護保険への加入は40歳から義務付けられているため、39歳以下の場合は健康保険と厚生年金保険のみということになります。
ちなみに、広義の社会保険は、前述の3つに労災保険と雇用保険を加えた5種類になりますが、労災保険は全額事業者負担となります 。
健康保険料は加入している健康保険によって異なります。介護保険料は、40歳を超えたら健康保険料のなかに含まれています。
厚生年金保険料は所得によって異なります。たとえば月収が15万円の場合、月額2万7,450円で、そのうち半額の1万3,725円を本人が負担する必要があります。差額は雇用主が支払います。
参照:日本年金機構「令和2年9月分(19月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和6年度版)」
年収の壁は103万、130万だけじゃない!
前述の「103万円の壁」「130万円の壁」は扶養から外れる境界線ですが、それ以外にも年収の壁は2種類存在します。それが、「106万円の壁」「150万円の壁」「201万円の壁」です。
社会保険への加入義務が発生する可能性が高くなる「106万円の壁」
「106万円の壁」とは、パート先の社会保険への加入義務が発生する“可能性がある”境界線です。「106万円の壁」と「130万円の壁」の違いは何かというと、年収130万円を超えた人は基本的に扶養から外れて自分で社会保険に加入する必要がありますが、年収が106万円を超えた時点では、年収以外の条件を満たしていなければ、社会保険に加入する義務が発生しません。
具体的にどのような条件かというと以下の通りです。
① 週の所定労働時間が20時間以上
② 賃金が月額8.8万円以上
③ 雇用期間の見込みが2ヶ月以上
④ 学生ではない
⑤ 事業所の従業員数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)
配偶者特別控除が減額となる「150万円の壁」
【配偶者特別控除】
控除を受ける納税者本人の合計所得全額 | ||||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
||
配偶者の合計所得金額 | 48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
【給与所得控除】
給与等の収入全額
(給与所得の源泉徴収票の支払全額) 給与所得控除
1,625,000円まで 55万円
1,625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%-10万円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+8万円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+44万円
6,600,001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+110万円
8,500,001円以上 195万円(上限)
「150万円の壁」を超えた時点からは、配偶者特別控除が減り始めます。配偶者特別控除とは、配偶者の所得金額に応じて受けられる所得控除です。
上表の【配偶者特別控除】を見ると満額が38万円であるため、「どうして150万円なの?」と思うかもしれません。なぜ150万円かというと、「配偶者特別控除の満額38万円で控除できる配偶者の所得上限額95万円」+「給与所得控除55万円」=150万円だからです。
配偶者特別控除がゼロになる「201万円の壁」
「201万円」を超えると、配偶者特別控除が受けられなくなります。
こちらも、2つの表を見比べなければわかりにくいですが、「配偶者特別控除が適用となる配偶者の所得上限額133万円」+「給与収入201万円時点の給与控除額」の計算式で算出された数字です。
具体的には、133+(201万円×30%+8万円)=201万3,000円となります 。
「扶養内におさまっているか」だけで考えるのは危険!?
ここまでを総合して考えると、単純に「扶養内で働くには」と考えると、「103万円の壁」「130万円の壁」の両方もしくはいずれかを超えないようにすればいいということになりますが、「106万円の壁」は「103万円の壁」と「130万円壁」の間に存在しますし、「世帯での税金を1円でも多く減らしたい」と考えるならば、「105万円の壁」「201万円の壁」についても考えることが必要でしょう。
ただし、よく考えたらわかる通り、「税金を減らすと収入が多くなる」というわけではありません。しかし一方で、「中途半端に稼ぐと損をする」のは、ある意味、真実であるといえます。なぜなら日本では、所得税に関しては超過累進税率が採用されているためです。超過累進税率においては、基本的に稼いだ額が多いほど税率が上がるため、税率がちょうど切り替わるあたりの所得の人は損をする可能性があるのです。
扶養内で働くメリット、デメリットは?
続いては、扶養内で働くメリット、デメリットをみていきます。
なお、「扶養内」は前述の通り2種類あるうえ、扶養に関する境界線以外の境界線も存在するため、「扶養内で働く=収入を一定以下に抑える」の解釈で説明していきます。
扶養内で働くメリット
まずはメリットから。
税金を支払う必要がない、もしくは税金が安い
ここまでに説明してきた通り、税金が0円、もしくは極めて少ない額しか払わなくていいことは一番のメリットです。
家庭を優先できる
働く時間が短いぶん、プライベートに時間を割くことができます。子育てや介護をおこなっている人にとっては大きなメリットといえます。
扶養内で働くデメリット
続いてはデメリットです。
所得が低くなる
当たり前ですが、働いていないぶん、もらえるお金は少なくなります。
キャリア構築が難しい
年収の壁を越えずに働くということは、必然的に雇用形態がパートということになります。そのため、出世はまず見込めません。また、やりがいのある仕事を任せてもらえることもあまりないかもしれません。
将来もらえる年金の額が減る
厚生年金保険料を納めていない期間が長ければ長いほど、将来の年金受給額が減ります。
「自分にとって理想の働き方」を改めて考えてみよう
扶養内で働くことが自分や家族にとってプラスであるのかマイナスとなるのかは、世帯収入によっても異なりますし、家族構成や家族の状況などによっても異なってきます。たとえば、子育てに時間をかけられるよう扶養内で働きたいという思いがあっても、子どもに将かかる学費を考えると、共働きで少しでも多く稼いでいきたいという場合もあるでしょう。そのため、損得のみで考えようとせず、まずは、自分や家族にとっての理想の生活、理想の働き方を改めて考えることで、稼ぎたい金額の目安を定めることをおすすめしますよ!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年8月時点の情報を元に作成しています。