「看護師は、フルタイムで働けて残業もできる正社員のみを雇いたい」
そんなふうに考えるクリニックも多いかもしれません。しかし、パートの看護師を採用することには、「働いてくれたぶんだけ時給を支払えばよい」「社会保険料の支払いが不要な場合もある」「忙しい時間帯だけ勤務してもらうこともできる」など多くのメリットがあります。
しかも、働く側にとってもメリットが大きい条件を設定すれば、パート看護師とクリニックでwin-winの関係を構築することができるので、長く働き続けてもらえる可能性が高いといえます。
そこで今回は、パートの看護師を雇うにあたって考えるべきことを解説していきます。
パート看護師の平均時給は?
まずは、パート看護師の平均時給をみていきましょう。厚生労働省が公表している「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、パート看護師(調査では「短時間労働者」と表記)の平均時給は1,685円、男性看護師は3,893円、女性看護師は1,523円とされています。
なぜ男女間にこれほどまでの差があるのかというと、救急科や手術室など、特に仕事内容がハードで体力も必要な勤務先では男性看護師のニーズが高いのに、男性看護師の数が少ないことが考えられます。
参照:厚生労働省「賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 短時間労働者 都道府県別」
パート看護師の都道府県別平均時給は?
続いては、同じ調査の結果をもとに、都道府県別のパート看護師の平均時給をみていきます。
全国 | 1,685円 |
北海道 | 1,689円 |
青森 | 1,086円 |
岩手 | 1,337円 |
宮城 | 1,068円 |
秋田 | 1,157円 |
山形 | 1,680円 |
福島 | 1,233円 |
茨城 | 1,187円 |
栃木 | 1,723円 |
群馬 | 1,572円 |
埼玉 | 1,376円 |
千葉 | 1,441円 |
東京 | 2,033円 |
神奈川 | 1,724円 |
新潟 | 1,315円 |
富山 | 1,510円 |
石川 | 1,456円 |
福井 | 1,000円 |
山梨 | 1,413円 |
長野 | 1,492円 |
岐阜 | 1,288円 |
静岡 | 1,560円 |
愛知 | 1,335円 |
三重 | 1,190円 |
滋賀 | 1,697円 |
京都 | 1,237円 |
大阪 | 2,436円 |
兵庫 | 1,160円 |
奈良 | 1,470円 |
和歌山 | 1,311円 |
鳥取 | 1,434円 |
島根 | 1,110円 |
岡山 | 1,260円 |
広島 | 1,807円 |
山口 | 1,216円 |
徳島 | 1,502円 |
香川 | 1,336円 |
愛媛 | 1,195円 |
高知 | 1,311円 |
福岡 | 1,624円 |
佐賀 | 1,200円 |
長崎 | 2,862円 |
熊本 | 1,309円 |
大分 | 989円 |
宮崎 | 1,134円 |
鹿児島 | 1,286円 |
沖縄 | 1,625円 |
2,000円を超えているのは、2,862円の長崎、2,436円の大阪、2,033円の東京の3府県のみ。
また、最下位の大分県は989円と1,000円を下回っていることがわかりました。
パート看護師の時給を決めるときに考慮すべきことは?
続いては、自院でパート看護師を雇う場合に、時給について考えるべきことを解説します。
エリアの平均時給
まず考えるべきは、クリニックがあるエリアの平均時給です。なぜなら、平均より低いと、求職者から選ばれない可能性が高いからです。都道府県別のデータは上記を参照しましょう。
また、市区町村などさらに狭いエリア内で平均時給を知ることは難しいですが、エリア内の競合がいくらの時給を提示しているのかは、競合のホームページや求人票などで確認できる場合があるので、一度チェックしてみることをおすすめします。
年収の壁
パートなどの短時間労働者として働いて稼いだ年収が一定の金額を超えると、税金や社会保険料の負担が生じて、手取り額が減少する可能性がありますが、このボーダーラインのことを「年収の壁」といいます。
年収の壁は、生じるものの違いによっていくつかありますが、何個目の壁を越えたくないと思っているのかはパート従業員によって異なるため、年収の壁を超えたくないという働き手に対しては、事前に年収限度額を確認しておくことが賢明です。
年収の壁にはどんな種類がある?
続いては、年収の壁についてさらに詳しく解説していきます。
93万円~100万円(地域によって異なる):自身の住民税が課税対象となる
均等割りと所得割を合算した「住民税」は前年の所得に対してかかるものですが、一定の金額までは非課税です。ボーダーラインは地域によって異なります。
均等割の金額は自治体によって異なりますが、約5,000円程度の定額で、年収93万円~100万円を超えると課税対象となります。所得割に関しては、住んでいる地域に関わらず年収100万円を超えると課税対象となります。所得割の金額は、年収から98万円を引いた金額に10%の税額をかけて算出します。
103万円:自身の所得税が課税対象となる
パート代が年間103万円以下であれば、働き手本人には所得税が課せられないため、「103万円の壁」を超えない範囲で働いている人が一定数います。
106万円または130万円(60歳以上の場合は180万円):社会保険加入の対象となる
家族の勤務先の社会保険の扶養に入っていた場合も、年収106万円もしくは130万円を超えると、勤務先の社会保険への加入義務が発生するため、自分で保険料を支払わなくてはならなくなります。106万円の場合、130万円の場合の加入条件は次の表の通りです。
106万円を超えたら 社会保険に加入しなければ ならない場合 | ・週の所定労働時間が20時間以上 ・賃金月額が88,000円以上(※1) ・雇用期間が2ヵ月を超えることが見込まれる ・101人以上(厚生年金の被保険者数)の従業員のいる事業所 (ただし、2024年10月からは従業員51人以上の事業所も対象となります) ・学業を主とする学生(昼間学校に通う学生)でないこと (※1)以下は1ヶ月の賃金から除きます ・臨時に支払われる賃金や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金 (例:結婚手当、賞与など) ・時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金 (例:割増賃金など) ・最低賃金法で算入しないことを定める賃金 (例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当など) |
130万円を超えたら 社会保険に加入しなければ ならない場合 (60歳以上の場合は 180万円~) | 上記に当てはまらない場合 ※ただし、扶養に入るためには、「扶養者の収入の半分未満」 という条件も満たさなければならないため、 扶養者である家族の年収が260万円未満の場合、 130万円未満でも扶養から外れることがあります |
なお、パートタイマーが「年収106万円の壁」「年収130万円の壁」を意識することなく働ける環境作りを後押しすべく、厚生労働省では「年収の壁・支援強化パッケージ」を展開中です。
「年収106万円の壁」に対しては、パートタイマーの厚生年金や健康保険加入に併せて、手取り収入を減らさない取り組みを実施する企業に対して、労働者1人あたり最大50万円の支援をしてくれます。
「年収130万円の壁」に対しては、パートタイマーが繁忙期などに労働時間を延ばしたことなどから一時的に収入が上がっても、事業主がそれを証明することによって、引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みが作られています。
これらの助成金などを活用すれば、パート看護師はたくさん稼ぐことができて、クリニックは社会保険料を安く抑えることができるため、お互いにとって好都合となります。
133万円:配偶者控除・配偶者特別控除の対象から外れる
納税者本人やその配偶者が一定の条件を満たしている場合、配偶者控除もしくは配偶者特別控除を受けることができますが、133万円を超えると対象から外れます。
配偶者特別控除および配偶者特別控除の金額は以下の通りです。
納税者本人のパート収入 | 控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | |||
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | ||
配偶者特別控除 | 48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 | |
配偶者控除 | 48万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
年収の壁を気にせず稼ぎたいパート看護師への対応は?
年収を一定金額以下に抑えたいと考えているパート看護師がいる一方、「正社員としてフルタイムで働くのは難しいけど、できるだけ稼ぎたい」と考えているパート看護師もいます。
後者の看護師からは、場合によっては、「時給を上げてほしい」と打診されることもあるかもしれません。そのため、より多く稼ぎたい看護師から時給UPの要望があった場合などに備えて、時給を上げる方法についても考えておきたいところです。
では、時給を上げる方法としてはどのような方法が考えられるかというと、導入しやすい方法としては以下が挙げられます。
クリニックへの貢献度を時給に反映する
クリニックへの貢献度が高いと判断されるパート看護師は、時給をUPすることでさらに高いモチベーションで業務に向き合ってくれる可能性が高いといえるでしょう。
ただし、貢献度の高さを客観的に判断できる指標を作っておかなければ、後々、「あの人は時給が上がったのに自分は何で上げてもらえないの?」などの不満が出ることもあり得るので注意が必要です。
資格手当を用意する
認定看護師や専門看護師などの有資格者に対して資格手当を支給することにすれば、資格がない場合、要望があっても断りやすいといえます。
また、時給UPのために資格を取得してくれた場合は、資格を活かして働いてもらうことができるため、クリニックにとってもメリットが大きいといえるでしょう。
夜勤シフトに入ってもらう
夜勤シフトに入ってもらえば、夜勤手当や深夜手当の支給対象となるため、必然的に日勤よりも高い給料を支払うことになります。
(訪問看護ステーションなどの場合)営業の成果報酬を用意する
訪問看護ステーションで働く看護師には営業ノルマが課せられるのが一般的です。
新規で契約先をとってきた看護師に対しての成果報酬を高めに設定することや、定期的に契約をとってくる看護師に対しては時給を上げることを検討してもいいかもしれません。
クリニック、パート看護師の双方が納得できる方法を考えることが大切
パート看護師の給料を上げる方法はいくつか考えられますが、クリニック、パート看護師の双方が納得いく方法でなければ、後々問題が生じる可能性もあります。
そのため、どんな方法が自院には適しているのかなどをじっくり考えて時給に反映していくことがおすすめですよ!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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