
看護師の資格があれば、できることはたくさんあります。医療機関や保健所、助産所に勤務することはもちろん、保育園に勤務したり、産業看護師として一般企業に勤務したりといった選択肢もありますし、なかには、資格を武器に起業する人もいます。では、看護師の資格があればどんな形で独立することが可能なのでしょうか? 詳しく解説していきます。
看護師の資格があれば独立開業できる施設の種類は?
まずは、看護師の資格があれば開業できる施設の種類を説明します。看護師の資格があれば開業できる施設の代表格は、訪問看護ステーションとデイサービス(通所介護)です。具体的にどのような施設であるのかを解説します。
訪問看護ステーション
超高齢化社会に突入したことによって、ニーズが高まっているもののひとつが「訪問看護ステーション」ですが、訪問看護ステーションの管理者になるためには、「保健師」「助産師」「看護師」のいずれかの資格を有している必要があります。
参照:厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」第三条
管理者と経営者が同じである必要はありませんが、経営者が管理者を兼務することも可能なため、看護師の資格があれば、訪問看護ステーションの管理者として働きながら経営をおこなうこともできます。
訪問看護ステーションの収支益平均は年216万円
厚生労働省老健局老人保健課が公表している「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」によると、令和3年度決算分の訪問看護事業者の平均収入は3,007万円である一方、支出も2,791万円にもおよびます。差引はたったの216万円! では、何にそれほどお金がかかるかというと人件費です。支出2,791万円のうち2,221万円が給与費という調査結果で、しかもこれは平均なので、これよりも多くかかる場合があるということです。そうなると、赤字かそれに近いものがありますが、では赤字を防ぐために給与費を減らせばいいかというとそう単純なことではありません。給与を減らすと働き手がいなくなることも考えられるため、なんらかの対策を考えていくことが不可欠です。
参照:厚生労働省老健局老人保健課「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」
デイサービス(通所介護)
「デイサービス(通所介護)」とは、要介護状態となった利用者が、自身の居宅において、自身の持っている能力に応じて、可能な限り自立した日常生活を営むことができるよう。日常生活における世話や機能訓練を提供するサービスのことです。
デイサービス施設の職員体制は、「管理者:1名(兼務可)」「生活相談員:サービス提供時間に応じて専従で1名以上」「看護職員(看護師・准看護師):単位ごとに専従で1名以上」「介護職員:単位ごとにサービス提供時間に応じて専従で、利用者数が15人までの場合は1名以上、利用者数が15人を超える場合は、利用者数が1人増えるごとに0.2人を加えた数以上を配置。または、単位ごとに常時1名配置」「機能訓練指導員(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、看護職員、柔道整復師、あんまマッサージ指圧師):専従で1名以上」と定められています。
また、看護師の資格がある経営者自らが、看護職員として従事することも可能です。
参照:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」通所介護(デイサービス)とは
デイサービス(通所介護)の収支益平均は年39万円
『厚生労働省老健局老人保健課』が公表している「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」によると、令和3年度決算分のデイサービス(通所介護)の平均収入は5,472万円である一方、支出は5,433万円にもおよびます。差引はなんと39万円! 同じ調査の令和2年度決算分では180万円、令和元年度決算分では178万円なので、令和3年度分は特別低いとはいえ、続けていくにはかなり厳しい数字であるといえるでしょう。ただしもちろん、これは平均なので、儲かっているデイサービスもあると考えられますが、赤字倒産となっている施設も同様に多いとみられるため、デイサービスでの独立を考えるなら、しっかりと対策を講じていくことが不可欠です。
参照:厚生労働省老健局老人保健課「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」
【+αの資格が必要】助産院
看護師の資格に加えて助産師の資格も有しており、かつ、5年以上の助産師経験、200件以上の分娩介助経験があれば、助産院の開業も視野に入れることができます。ただし、これらの条件を満たすだけでもハードルが高いうえにリスクも高いので、実際のところ、起業の選択肢として助産院をチョイスする人はほぼおらず、助産院を開業することを目的に助産師として経験を積むパターンがほとんどであると考えられます。
助産院の収支益平均は年100万円未満
『公益社団法人日本助産師会』が公表している「産後ケアに関する調査実施報告」によると、年間利益(経費を差し引いた金額)を「100万円未満」と回答した助産院は、145軒中96軒にものぼります。また、分娩での収入額が100万円未満の助産院は58軒、産後ケアでの収入額が100万円未満の助産院は97軒であることもわかっています。
参照:公益社団法人日本助産師会「産後ケアに関する調査実施報告」
看護師経験 を活かして起業できる業種は?
続いては、看護師資格が必須ではないものの、看護師として働いた経験を活かす起業アイディアをピックアップしていきます。
託児所(認可外保育園)
冒頭で触れた通り、看護師の資格があれば保育園に勤務することも可能です。なぜかというと、乳児4名以上を入所させている保育園では、1施設1名に限ってですが、看護師を「保育士」にカウントすることができるためです 。では、看護師が自分で保育園を経営することができるかというと、認可保育園に関しては、「児童福祉事業に2年以上従事した経験がある」「保育士の資格を持ち、実務経験が1年以上ある」「社会福祉士もしくは社会福祉主事の資格を有しているか、または社会福祉事業に2年以上従事した経験がある」「社会福祉士もしくは社会福祉主事の資格を有していて、かつ都道府県知事が適当であると認定している」のいずれかの条件 を満たしていなければ経営できませんが、「認可外保育園」であれば経営することが可能です。
「認可外保育園」は、一般に「託児所」といわれることが多い施設で、事業内の託児所やベビーホテルなど、さまざまな形で開業することができます。
ただし、一時的ではあっても小さな子どもを預かるのですから、子どもに万が一のことがあった際に迅速に対応できる看護師経験者は適任であるといえます。
保育園は「認可外」だと設けるのが難しい
少々古いデータになりますが、『厚生労働省』が公表している「幼稚園・保育所等の経営実態調査結果(収支状況等)」によると、平成25年における私立の保育所の収入は113,627千円、支出は108,479千円で、差引は5,149千円です。この数字だけ見ると、「保育所は儲かるんだな!」と思うかもしれませんが、実はこれにはカラクリがあります。どういうカラクリかというと、113,627円の収入のうち、補助金収入は18,582千円、国家補助金等特別積立金取崩額は1,934千円にものぼるのです。つまり、補助金がなければ基本的に赤字であるといえます。
しかもなんと、認可外保育園は補助金を受けることができないため、余計に経営が苦しくなる可能性が高いです。それなのに、保育園で保育士1人が見ることのできる子どもの人数は法的に決められているため、人件費を減らすことも難しいのです。なお、保育士1人が見ることのできる子どもの人数は以下のように決められています。
ただし、前述の通り、看護師自身が保育士として働くことが可能なので、自ら保育士として子どもたちを見守る働き方を選択するなら、うまくやっていける可能性も低くはないかもしれません。しかも、看護師としてのスキルや知識が高いなら、口コミで利用者が徐々に増えていく可能性も高いでしょう。
参照:厚生労働省「幼稚園・保育所等の経営実態調査結果(収支状況等)」
放課後等デイサービス
託児所より対象となる子どもの年齢層が高い「放課後等デイサービス」も、看護師経験者ならうまく運営できる可能性が高いといえます。なぜなら、放課後デイサービスの対象となる子どもは、重度心身障害があり支援が必要で、医療的ケアが必要な場合が多いためです。
参照:厚生労働省「放課後等デイサービスの現状と課題について」
放課後等デイサービスの平均収支差率は5.8%
『厚生労働省社会・擁護局障害保健福祉部』が公表している「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」によると、令和4年度決算分の放課後等デイサービスの平均収支差率は5.8%とされています。金額にすると年間で1,823千円なので、儲かる可能性が高いといえるでしょう。
ちなみに、放課後等デイサービスの主たる収益は、障害福祉サービスの報酬ですが、障害福祉サービスの報酬は厚生労働省が定めており、施設ごとに自由に決められるわけではありません。利用定員やサービスの提供時間、サービスの内容、人員配置などによって、算定できる金額が変わってきます 。
参照:厚生労働省社会・擁護局障害保健福祉部「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」
居宅介護支援事業所
訪問看護などに従事した経験があり、介護を必要とする人の役に立ちたいという気持ちが強いなら、介護保険による要介護委認定者の介護に関する調整や相談をおこなう「居宅介護支援事業所」を開設するのも一手です。ただし、居宅介護支援事業所を開設するためには、法人を設立する必要があります。また、スタッフを雇うことなく、少なくとも事業が軌道に乗るまではひとりで運営したいなら、ケアマネジャーとして5年以上の実績を積み、主任ケアマネジャーの資格を得る必要があります。
参照:厚生労働省老健局老人保健課「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」
居宅介護支援事業の収支益は年900万円台
『厚生労働省』が公表している「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果の概要」によると、令和4年度決算分の居宅介護事業の平均収入は13,523千円、平均支出は12,585千円で、収支益は938千円です。また、平均職員数は3人との結果なので、経営者自らも稼働して給与費を抑えることで、収支益を上げることを検討してもいいかもしれません。
参照:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果の概要」
なお、訪問看護、居宅介護の違いについては以下記事をご参照ください。
美容サロン
美容外科や美容皮膚科で働いた経験があり、美容への関心が高い看護師に向いているのが、美容サロンのオーナーとしての開業です。美容皮膚科などで脱毛などの処置を任されていた場合などは、スタッフを雇うことなく、個人事業主としてお客をとっていくことも難しくないといえるでしょう。
美容サロンの収支益はピンキリ
美容サロンの収支益に関する公のデータは存在しません。しかし、個人経営の場合、収益率の目安は15%程度と定義している記事などは存在します 。この数字が真実に近いなら、収支益は悪くはないといえるでしょう。しかし、施術で高額な機器を使う場合などは特に、初期費用がドカンと大きく必要になるため、開業から数年は返済に追われて、なかなか利益を出すことができないケースもあり得ます。
医療系ライター
医療系ライターとは、医療に関する情報を専門に執筆するライターのことです。副業が認められている医療機関に勤めている看護師であれば、看護師として働きながら執筆活動をおこなうこともできます。副業・複業という形での起業なら、勤務先での経験などの執筆記事に説得力を持たせることができます。
また、医療系ライターを目指したいものの自分に向いているかどうかがわからないという場合は、まずはSNSで発信しながら読者を増やしていくことからはじめてみてもいいかもしれません。
医療系ライターの収支益もピンキリ
フリーライターの単価は、媒体や執筆内容によって大きく異なることもあり、収益に関する公のデータは存在しません。ただし、メディカルライターとして正社員で採用された場合は、専門性が高いこともあって、年収400万円を大きく超える場合が多いようです。
個人事業主として独立してフリーライターで稼いでいきたいと考えるなら、看護師として働きながら副業で執筆活動をスタートして、いくつかの仕事先を確保できてからの独立のほうが安心できるのではないでしょうか。実際、ある程度は実績があったほうが売り込みに有利ですし、まるで実績がなければ、雇ってくれる企業も少ないかもしれません。
フリーランス看護師
看護師経験者の独立する方法のなかでもっとも自由度が高いのが、フリーランスの看護師になることだといえます。フリーランスの看護師になると、休みを取りたい常勤看護師の代わりに出勤したり、訪問看護ステーションにヘルプとして入ったり、ツアーナースやイベントナースの仕事を請け負ったりして働くのが一般的です 。
なお、ツアーナースやイベントナースなどの単発仕事は、副業がOKの医療機関勤務であれば、週末などにアルバイトとして経験することもできるので、まずはアルバイト経験を重ねながら、自分に向いているかどうかを判断しながら、フリーランスという働き方を検討してみるのもいいかもしれません。
ツアーナース、イベントナースの仕事について詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
参照:イベントナース、ツアーナースって? それぞれの仕事内容や違いを解説
フリーランス看護師として儲けることは難しくない
フリーランス看護師の年収相場は300~500万円程度とされていますが 、仕事の内容がさまざまなため、実際にはもっと幅が広いと考えられます。しかし、前述の通り、フリーランス看護師に関しては単発仕事の募集が多いため、たくさん稼ぎたいなら、そのぶんスポット仕事に入るなどすればいいので、ある程度稼ぐことはさほど難しくないといえるでしょう。
看護師が個人事業主と 独立して開業するメリットは?
続いては、看護師が起業するメリットをみていきましょう。看護師が起業するメリットとしては以下が考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
理想の働き方を追求できる
働く時間や働く場所、どんな人をターゲットにするか、どんな人を雇うかなどをすべて自分で決めることができます。もちろん、理想を現実のものとできるかどうかは自分次第ですが、少なくとも自分で舵を取ることが可能です。
ストレスが減る
医療機関などに勤務していれば、ウマが合わない人と働かなければならなかったり、やりたくない仕事を任されたりしてストレスが溜まることも多いでしょう。一方、自分で選んだ道であれば、ネガティブなことが起きたとしても、「自分で決めたことなのだからやり遂げよう」と自らを鼓舞できるものです。
収入が増える場合がある
自分に向いている働き方を選択して、楽しく仕事と向き合えた結果、収入が増える可能性があります。
看護師が独立して開業するデメリットは?
看護師の起業には以下のデメリットが伴うことも考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
事業がなかなか軌道に乗らない場合もある
事業が軌道に乗るまでは、収入面に対しての不安が大きいかもしれません。
やりたいことによっては初期費用が必要
医療系ライターやフリーランスの看護師などに関しては、必要な初期費用はたかが知れていますが、託児所や美容サロンなどのスペースが必要な事業を選択した場合、初期費用もランニングコストも大きな額が必要です。
確定申告がややこしくなる
医療機関に雇用されていて、副業をしていないなら、自分で確定申告をおこなう必要はないので、独立後の初めての確定申告は苦労を要するかもしれません。
集客スキルや自分を売り込むスキルにも磨きをかけていく必要がある
個人事業主や経営者として仕事するためには、集客スキルや自分を売り込むスキルが不可欠です。集客スキルには、ホームページを作成することやSNSで発信することなどが含まれる場合もあります。というより、口コミでの集客が期待できる場合をのぞき、今の時代はホームページやSNSで自ら発信することなしには注目してもらいづらいかもしれません。
看護師が独立開業する手順とは?
看護師が独立開業する際には、以下のステップを踏むとうまくいきやすいでしょう。
1. 可能なら、副業や複業で経験を積む
2. ビジネスプランを練って、事業計画書を作成する
3. 独立するために必要な資金を用意する
4. 開業に必要な場所や物資を用意する
5. 開業手続きをおこなう
具体的にみていきます。
可能なら、副業や複業で経験を積む
先に説明してきた通り、医療系ライターやフリーランスの看護師を目指す場合、医療機関に勤務している間にアルバイトとして経験を積むことがおすすめです。たとえば医療系ライターになりたいとして、一度も執筆したことがなく、勤め先を辞めてから、記事を書かせてくれる媒体を探したとしても、実績が無いとなると採用される可能性は低いでしょう。
ビジネスプランを練って、事業計画書を作成する
独立後、どんなふうに働いていきたいかの青写真が描けていなければ、「次は何をしたらいいんだっけ?」と何度も躓くことになるでしょう。
ビジネスプランを立てるにあたって意識すべきポイントは、できるだけ細かいことまで詰めることです。「X月までにX人の顧客をとる」など具体的な時期や人数、必要な金額などを細かく落とし込んだ事業計画書を作成すれば、その通りに物事が進む可能性が高まります。事業計画書の作り方がわからないなら、まずは参考となる記事を探すところからはじめてみましょう。より精度の高い事業計画書を完成させたい場合は、税理士などの専門家に相談することを視野に入れてもいいかもしれません。
独立するために必要な資金を用意する
事業計画書が完成したら、独立するために必要な資金も自ずと明確になります。そのお金を自己資金だけで賄えそうにない場合、金融機関からの融資を利用しましょう。
事業内容によっては、補助金を利用できることもあるので、自分がやりたい事業×開業予定エリア名などで検索をかけて、利用できる補助金や助成金があるかどうかをチェックしてみましょう。また、日本政策金融公庫からの融資や、厚生労働省の助成金制度を利用する手もあります。
参照:厚生労働省「令和6年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)」
売り込みが得意であれば、クラウドファンディングの活用を検討してみるのも一手です。
開業に必要な場所や物資を用意する
開業に必要な物件、パソコンなど、必要なものをそろえていくと同時に、必要であれば、雇用するスタッフの選定などもおこないます。
開業手続きをおこなう
個人事業主として開業する場合、税務署に開業届出書を提出することが必要です。青色申告で確定申告したい場合、青色申告承認申請所の提出なども必要です。
法人を設立する場合は、定款の作成・認証および法務局への設立登記なども必要となります。
看護師の有資格者が起業にチャレンジするメリットは?
看護師が開業独立するメリットは先に説明しましたが、看護師の有資格者が企業にチャレンジすることにも大きなメリットがあります。どういうメリットかというと、万が一うまくいかなかった場合も、すぐに次の働き先が見つかりやすいということです。チャレンジする前から、失敗した場合のことを考えるのは気持ちいいものではありませんが、うまくいかなかったときのことをまったく考えずに動いてしまうこともよくありません。その点、看護師資格は大きな保険ととらえることができるので、キャリアを広げるためのチャレンジがしやすいはずですよ!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年12月時点の情報を元に作成しています。