
一般的に、クリニックや病院では、必要に応じて患者に運動指導や食事指導をおこないます。もちろん、運動療法士や栄養指導士が在籍していない医療機関もあるので、どこまで専門的に指導できるかは医療機関によりますが、基本的な指導方法や最先端の考え方は把握しておくとよいでしょう。そこで今回は、運動に関する患者の悩みのなかでも相談件数が多い「走ると膝が痛い」にスポットを当てて、どのように運動指導をおこなっていくことが望ましいのかを考えていきます。
患者が「走ると膝が痛い」と訴える理由は、「走りたくない」である場合もある
患者から、「走ると膝が痛い」という訴えがあった場合の第一に着目すべきポイントは、「なんらかの疾患が原因であるのかどうか」です。
もちろん、医療機関で医師に対してそのように訴えているのですから、「痛みがひどくて走るのが辛い」と解釈するのは基本です。ただし、患者のなかには、医師から運動をすすめられたものの重たい腰を動かすことができず、「歩くと膝が痛い」「走ると膝が痛い」と訴える人もいます。
これらのうち、目の前の患者がどちらのケースに該当するのかは、診察および患者との話の流れを通してある程度わかるでしょう。
「本当に痛みが強い」患者は専門医へ紹介しよう
なんらかの疾患が原因で激しい痛みが生じている場合などは、専門の医師に任せることが最善の選択となると考えられるので、整形外科領域の疾患を患っていると考えらえる患者が受診した際に、どこに紹介するか決めておくことが大切です。
「走りたくない」患者に対しては、楽しみながら身体を動かすコツ方法を提案しよう
太りすぎが原因で生活習慣病を患い、通院している患者に運動を進めたところ、「走ると膝が痛いから走れない」などと拒否された場合は、患者は身体を動かすことが嫌いで運動を避けたいと考えていることが推測されています。この場合、「どうすれば身体を動かす習慣をつけてもらうのか?」を考えることが大切です。
もちろん、患者からそのような提案を求められていなければ、患者に無理なく運動してもらうためにはどうすればいいのかを考えなければいけないということはありません。しかし、人生100年時代において「かかりつけ医」としての責務を全うするためには、患者の健康寿命を延ばすことにも寄与していくことが望ましいといえるでしょう。
走りたくない患者の「走ると膝が痛い」にどう対応する?
続いては本題。運動を拒否したい患者の「走ると膝が痛い」に、かかりつけ医としてできるアドバイスを紹介していきます。
「走ると膝が痛い」と訴える患者に対しては、以下のような提案が有効だと考えられます。
【走ることのメリットを提示する】
【楽しいことと組み合わせる方法をアドバイスする】
【走ることで身体が変わることを本人に確認してもらう】
【走る(歩く)の代替となることをすすめる】
それぞれ詳しく解説していきます。
【走ることのメリットを提示する】
歩く(走る)とポイントが貯まるポイ活アプリをすすめる
走ったり歩いたりする際にスマホを携帯しておけば、歩数分だけポイントが貯まるアプリは増えています。代表的なものを紹介します。
TVやSNSで「一番貯まる」といわれているのがこのポイ活アプリです。貯まったポイントは、Amazonギフト券、dポイント、PayPayポイント、楽天ポイントなどの選択肢から好きな方法で受け取ることができます。
ウォーキングやランニングなどの移動はもちろん、クイズやアンケートに答えることでもマイル(ポイント)が貯まります。貯まったポイントは、ギフトカードへの交換や抽選参加などに使えます。
「健康とマイルが手に入る」のコピーで紹介されている「JAL Wellness & Travel」は、JALの航空券を利用して出かけた旅先での観光時はもちろん、日常生活で歩いたり走ったりしながらJALのマイルを貯められることから、旅行好きの人には特に人気です。
「運動や健康診断などの取組みをポイント化して評価する」という仕組みを通じて、病気になるリスクそのものを減らす健康プログラム「Vitality」は、健康増進プログラムをクリアすれば生命保険料が安くなることから一躍話題となりました。また、累計ポイントで決まるステータスによって、提携企業の特典も受けられます。
毎日の歩数がdポイントになります。ただし、最初の31日間は無料で使えますが、その後は月額税込330円かかるため、少なくとも330円分以上は移動し続けなければ損をするので、かえってモチベーションが上がるとも考えられます。
歩く(走る)とレベルが上がるゲームアプリをすすめる
社会現象にもなった「Pokemon GO」は、幅広い年齢の人が利用しているアプリです。アプリを使うことで周囲と共通の話題を楽しめるようになる可能性も高く、楽しく続けやすいでしょう。
ピクミンと一緒に歩きながら、マップ上に花を植えることを楽しむゲームアプリです。植えた花は数日間先続け、他のプレイヤーからも見えるため、いつもの景色がこれまでとは違うものに見えてきます。また、さまざまな種類の花を植えることができるのも楽しみのひとつです。
歩く(走る)と抽選に参加できるアプリをすすめる
スマホを携帯して歩くだけでプレゼントが当たるかもしれないウォーキングアプリです。ウォーキング中にアプリ内に表示されるミッションをクリアしてポイントを貯めると、日本各地の名産品などが当たる抽選に参加できます。
歩く(走る)と楽しいルートを紹介する
近所の公園や河川敷、神社仏閣など、「歩くと楽しいルート」を紹介してあげるのもいい方法です。医師またはスタッフが見つけた散策ルートで撮った写真をSNSで発信するなどして、観てくれた人の興味をそそるのもいいでしょう。
【楽しいことと組み合わせる方法をアドバイスする】
ウォーキングサークルやウォーキングイベントをすすめる
「ひとりで歩くのが億劫な人」もしくは「ひとりだと運動を続けられない人」はかなり多いと考えられます。しかし、これは歩くことや走ることに限らずなんにでもいえることですが、「一緒にやる人」がいると、俄然続けられる確率が高くなります。
その点、ウォーキングサークルやウォーキングイベントをすすめることは有効だと考えられます。エリアの自治体がウォーキングイベントなどを積極的に開催しているなら、開催時には自院の院内掲示用にもチラシを用意してもらうなどして、連携をとっていくことも考えてみてはいかがでしょうか?
「目的地」を設定することをすすめる
カフェやレストランなど、程よい距離に立地するお店などを「目的地」として設定して、「ウォーキング×ランチ」などの形で身体を動かしてもらうのも一手です。片道がんばって歩いたものの帰りは歩きたくないなら、帰路はLUUPを利用するなどでも問題なし。逆に、往路は車で帰路は歩きでももちろんいいですし、無理のない範囲で自力移動する習慣をつけてもらいましょう。
「ご褒美」の活用をすすめる
「1日の目的距離を達成した日はスイーツOK」などのご褒美システムも、意外と運動のモチベーションになりやすいものです。ただし、糖尿病患者などの場合は、スイーツをご褒美とするのはご法度。血糖値に問題がある患者から、「ご褒美がないと走れない」などの訴えがあった場合は、血糖値が上がりにくい低GI食品を原料とするスイーツをすすめるなどの工夫も必要です。
音楽鑑賞や学びの時間の有効活用をすすめる
Apple MusicやiTunesなどで音楽を楽しみながら走ったり、語学学習しながら歩いたりすると、身体を動かすことのしんどさを感じづらいだけでなく、音楽や学びに集中できるというメリットも得られます。
ただし、イヤホンを耳に挿した状態での街中でのランニングやウォーキングには危険が伴うため、音楽鑑賞や語学学習と運動を組み合わせる場合は、ジムや市区町村の体育館などで運動するよう指導します。
【走ることで身体が変わることを本人に確認してもらう】
健康データの可視化をすすめる
走ったり歩いたりして身体が変わっていくことを実感できなければ、「こんなことしても意味がない」と運動を断念しがちです。そのため、ランニングやウォーキングでどのくらい身体が変わっているのかを数字で確認してもらうことはとても大切です。体重の変化の記録やスマートウォッチの活用がこれに該当します。
【走る(歩く)の代替となることをすすめる】
太り過ぎなどが原因であっても、実際に膝に多少なり痛みを感じている患者には、膝への負荷を軽減しながらも適度に身体を動かすことができる運動をすすめるといいでしょう。なかでもおすすめは、水泳やウォーキングなどの有酸素運動です。また、浮力が働いている水中を歩く「水中ウォーキング」であれば、さらに膝にかかる負担が軽くなります。しかも、これらの運動には脂肪燃焼効果もあるため、肥満が原因で「走ると膝が痛い」症状が出ている患者には特におすすめであるといえます。
自宅でできるストレッチやエクササイズをすすめる
膝に余計な負担をかけないためには、膝を支えている大腿四頭筋を鍛えることも有効です。大腿四頭筋を鍛えるストレッチやエクササイズはいくつかありますが、インターネットで検索すると画像や写真付きで解説されている記事がたくさん出てくるので、そうした記事を参考にしながら、患者に配布するチラシを作成するのも一手です。
また、PDFでダウンロードすることが可能な、「公益社団法人日本理学療法士協会」作成の変形性膝関節症の患者のためのハンドブックでは、膝関節を支える筋肉を鍛えるストレッチなどが紹介されていますが、こうした資料をうまく活用して患者の健康に寄与するのもいいでしょう。
参照:公益社団法人日本理学療法士協会「国民の皆さま向けサイト」理学療法ハンドブック
患者の健康寿命を延ばすことは医師の大切な仕事
患者から、「走ると膝が痛い」と相談された際、はなから「うちは整形外科医じゃないから専門医に診てもらってください」と問診を断るクリニックもあるかもしれません。しかし、医療機関に対しても「かかりつけ医機能」を持たせるための制度整備が進められている昨今、食事や運動面を含む患者の生活改善に努めることは、すべての医師に求められています。そのために必要な知識や資料が足りていないなら、今のうちにアップデートしておくことをおすすめしますよ。
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診療科目
この記事は、2024年12月時点の情報を元に作成しています。