
“医師の働き先”というと、まず思い浮かぶのが病院やクリニックですが、それ以外にはどんな働き方が考えられるのでしょうか? 医師免許を活かせるかどうかにこだわらなければ、働き先の選択肢は無限ですが、せっかく医師免許を取得したなら、「医師として働きたい」と考えて当然。そこで今回は、病院やクリニックなどの医療機関以外で、医師が、医師免許を活かして働ける先について解説していきます。
医師が企業に転職したいと思う理由は?
医師免許の取得は簡単なことではありません。医科大学や大学医学部などの医学を履修する過程で最低でも6年間学び、その後、医師国家試験に合格する必要があります。そのため、病院やクリニックで働いている医師が、「企業に転職したい」というと、「せっかく医師免許をとったのにもったいない!」と思われるかもしれませんが、次のような理由で、「今の仕事を辞めたい」と思う医師は一定数います。
【勤務医・開業医共通】
【勤務医】
【開業医】
それぞれ詳しくみていきましょう。
理想と現実の乖離
医師に限らずどんな仕事でもそうですが、「絶対この仕事は自分に向いている」「やってみたい」と思って働き始めた結果、理想と現実のギャップに悩まされることはあり得ます。たとえば、医療行為自体は好きで天職だと感じていたとしても、患者とのコミュニケーションがうまくいかないことから、「こんなに辛いならもう辞めたい」と感じることもあるでしょう。
忙しすぎてワークライフバランスがとれない
勤務時間を自分で調整できない勤務医時代などは特に、ワークライフバランスがとれないことに悩む医師も多いのではないでしょうか。当直やオンコールに対応していればなおさらのこと。呼び出される可能性をわかってはいても、急な呼び出しがあった際に、家族との時間を邪魔されたような気分になることもあるかもしれません。
体力が持たない
「1日の稼働時間が長い」「当直が多い」などの理由で、体力に限界を感じる医師は多いでしょう。職場への交渉によって調整してもらえる場合はいいですが、それが叶わないとなると、「もう辞めたい……」と弱音を吐きたくなるでしょう。
精神力が持たない
仕事へのプレッシャーなどが原因で、精神力が持たないというケースも考えられます。睡眠時間はたっぷりとっていて体力には問題がない場合も、鬱症状などを発症して休職を意義なくされることがあり得ます。そこから休養を経て仕事に復帰できるならいいですが、復帰を考えると憂鬱になる場合、離職という選択肢しかとれないこともあるでしょう。
人間関係が辛い
「精神力が持たない」理由のひとつでもありますが、人間関係の悩みは、退職を考える大きなきっかけとなりえます。毎日のように顔を合わせる人間が、自分とはソリが合わないタイプであれば、出勤することそのものが苦痛となるでしょう。特に大学病院のような大きな組織であれば、派閥の問題に悩まされることも考えられますし、小規模なら小規模で、「逃げ場がない」という問題も。さらには、入院している患者やその家族からのハラスメントなどに悩まされるケースも考えられます。
訴訟リスクが怖い
患者から訴訟を起こされると、精神的にも金銭的にも大きな打撃を受けることとなります。結果的に勝訴したとしても、勝訴するまでには多くの時間とお金を失うことになります。また、訴訟を起こされた時点で、世間からの目が冷たくなり、そのプレッシャーに耐えられなくなるということも考えらえます。訴訟を起こされるようなことをしたことがない医師でも、「もし訴訟を起こされたらどうしよう……」と考えてしまうことはあるでしょう。
勤務先の待遇に納得できない
待遇面に納得できないと、「ここではもう働き続けられない」と思って当然です。たとえ給与額が競合と比べて高かったとしても、拘束時間が長く、家族との時間をほぼ捻出できない状態であれば、そのまま働き続けることで心身を壊してしまう可能性も高いと考えられます。
参考までに、厚生労働省が公表している「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」によると、調査実施前年の勤務医の平均年収(平均給与年額+賞与)は、国立病院においては約1,324万円、公立病院においては約1,473万円とされています 。
参照:第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)職種別常勤職員1人平均給料年度額等
あくまでもひとつの指標ですが、これを基準としてどのくらいの差があるのかをまず確認してみるといいでしょう。
医局人事を受け入れられない
医局人事とは、大学医局に所属する医師の人事制度・人事異動を意味します。具体的には、医局の決定に基づいて、関連病院や大学病院への異動が命じられることになります。しかも、1度だけではなく、何度も異動を繰り返さなければならないこともあります。医局員であれば医局人事を避けることはできず、異動によってライフプランが狂ってしまう可能性も考えられます。大学医局に所属している以上、その可能性があるとわかってはいても、いざ自分に異動が命じられたり、何度も異動させられたりした場合、嫌気が差してしまうかもしれません。
経営が難しい
開業医になると、医師として患者に医療を提供することと並行して、経営者として自院を切り盛りしていくことが必要です。しかし、なかには経営の手腕が十分ではない医師もいるため、「こんなことなら独立するんじゃなかった……」と嘆いてしまうことも考えられます。
仕事を辞めたくなった医師におすすめの転職先・職種・働き方は?
続いては本題です。医師が、病院やクリニックで働くのがイヤになった場合、休業やアーリーリタイヤなどの選択肢も考えられますが、働く意欲には満ち溢れていてまだまだ社会の役に立ちたいなら、今の仕事からは離れつつも、医師免許を活かして働く方法を考えることが賢明であるといえるのではないでしょうか。では、どのような転職先や働き方が考えられるかというと、具体的には以下が挙げられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
産業医
産業医とは、企業の労働者の健康管理や安全衛生を担う医師です。健康診断や指導をおこなうという点においては、一般的なクリニックでの業務内容と相違ありませんが、クリニックの場合は対象者が患者であるのに対して、産業医の場合は企業労働者を相手にすることになります。
また、企業が産業医を雇う大きな目的は労働者の健康を管理することなので、心身に不調がある労働者がいた場合、その原因を探って対策を考えることが求められます。たとえば、「長時間労働」「人間関係」などが原因であることがわかった場合、それを改善するためにはどうすればいいかを提示する必要もあるということになります。
産業医には、「委託」と「嘱託」の2つの働き方があり、専属の場合、契約した期間はその企業の専属産業医として働くことになります。一方、嘱託で働く場合は、条件を満たしていれば複数の企業と契約をすることが可能ですが、1つの企業で働く期間は最長3年になるため、仕事量を減らしたくない場合、契約が切れる前に次の契約先を見つける必要があります。
参照:厚生労働省「産業医について~その役割を知ってもらうために~」
産業医の平均年収は約1,110万円~1,300万円
産業医の平均年収に関する正式なデータはありませんが、各種求人情報サイトなどを参考にすると、およそ1,100万円~1,300万円となっています 。ただし、これは前述の「専属産業医」の場合で、「嘱託産業医」の場合は非常勤となり、契約先ごとに時給制もしくは単価制で契約することになります。
公衆衛生医師
公衆衛生位置とは、保健所などの地域保健分野で働く医師のことです。別名「保健所等医師」ともいいます。地域住民全体の健康レベルのキープおよび向上のための仕組みやルール作りを通じて、地域に貢献することができる職種です。携わる業務内容としては、生活習慣病や感染症、ガンの予防、母子保健、食品や環境などの生活衛生をはじめ多岐にわたります。
参照:厚生労働省「公衆衛生医師(保健所等医師)確保について」
公衆衛生医師の平均年収は、医師免許取得10年目で約770万円~1,300万円
公衆衛生医師の平均年収は、上記サイトによると、医師免許取得後5年目で660万円~1,200万円、医師免許取得後10年目で770万円~1,300万円程度とされています。なお、この金額には各種手当ては含まれていません。
介護老人保健施設の施設長・勤務医
介護老人保健施設の利用者は、在宅復帰を目標としているため、リハビリ専門職が多く配置されています。そのなかで医師が果たす役割は、利用者の健康キープおよび向上への寄与ですが、併せて施設長を務めるケースが多いとされています。なお、介護老人保健施設においては、介護保険法によって、入所者100名に対して常勤医師を配置することが求められています。
介護老人保健施設の施設長・勤務医の平均年収は約1,200万円~1,400万円
介護老人保健施設で働く医師の年収は、約1,200万円~1,400万円程度とされています 。
製薬会社のメディカルドクター
製薬会社などに勤務するメディカルドクター(MD)は、新薬の開発や薬の安全性評価に当たります。また、市販開始後の調査に当たることもあります。雇用形態としては製薬会社の社員になるため、労働時間や休日は一般のビジネスパーソンと同じです。
製薬会社のメディカルドクターの平均年収は約1,500万円~1,800万円
製薬会社のメディカルドクターの平均年収に関する正式なデータはありませんが、医師の転職情報サイトなどによると、概ね1,500万円~1,800万円程度と考えられるようです。ただし、製薬会社が国内企業ではなく外資系の場合、この金額より高い金額が相場のようです。
医系技官
医系技官とは、国の保健医療にかかわる行政官です。医療に関連する、政策立案から実施までのすべてのプロセスに携わります。医師としての専門性と行政スキルの両方が求められる仕事であるといえます。
医系技官の平均年収は医師免許取得後3年目だと約540万円
「令和5年度厚生労働省医系技官について」によると、医系技官の給与は、総合職国家公務員採用試験に合格して厚生労働省に採用された行政官と同等の処遇となると記されています。具体的には、医師免許取得後3年目であれば約540万円、医師免許取得後7年目で約620万円、医師免許取得後11年目で約750万円、医師免許取得後15年目で約810万円となります。ただし、月45時間の超過勤務がある場合、それぞれ、約660万円、約750万円、約910万円、約980万円に増額となります。なお、これらの金額以外に、個人の状況などに応じて、通勤手当や住居手当、扶養手当などの諸手当が別途支給されます。
強制医官
強制医官とは、刑務所や少年院の診療所に勤務する医師のことです。施設内の保健・衛生管理を担い、感染症の蔓延などを防止することも重要な任務です。また、一般の刑務所では収容できない、専門的な医療行為を必要とする受刑者を収容して治療をおこなう刑務所である「医療刑務所」などでは、患者の治療にも従事します。受刑者を診療すると聞くとネガティブなイメージを抱く人もいるかもしれませんが、希望によって宿舎に無料で入居できるうえ、兼業が認められていたり、フレックスタイム制が採用されていたりと魅力も多い仕事です。
強制医官の平均年収は約1,400万円
上記サイトによると、強制医官の平均年収は約1,400万円とされています。この金額は各種手当を含む金額で、令和5年の全強制医官の平均支給額となっています。
生命保険会社の診査医
生命保険会社の診査医は、生命保険会社の職員である「社医」と、生命保険会社から委託を受けて診査をおこなう「嘱託委」の2パターンにわけられます。いずれの場合も、仕事内容としては、保険加入希望者の健康状態を診査して、保険の加入や支払いの可否を判断します。
生命保険会社の診査医の平均年収は約1,000万円~1,500万円
生命保険会社の診査医の平均年収に関する正式なデータはありませんが、各種転職情報サイトなどによると、概ね1,000万円~1,500万円と考えていいようです。
医療系サービス企業社員
医療機器や医療用具の販売・レンタル・保守、医療系アプリの開発、コンサルティングなど、さまざまな角度から医療を支える企業が存在しますが、医師の資格があれば、そうした企業からは歓迎されやすいといえるでしょう。
医療系サービス企業社員の平均年収はピンキリ
医療系サービス企業社員の年収は、どんな商品・サービスを扱うかによって大きく異なるため、一概には言えません。参考までに、「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、職業計の正社員の平均年収は523万円とされています。
医師が臨床を離れて就職する難易度は?
前述の通り、医師免許があれば、病院やクリニック以外でも活躍できる場所は多く、しかも残業がほとんどないなど勤務条件がよい職場も多いため、転職を機に心機一転を叶えられる可能性は高いといえます。ただし、すぐに希望の職に就けるかどうかというと、希望通りにいかないことも多いと考えられます。なぜかというと、職種によっては、タイミングよく募集がかけられていないことが考えられるためです。そのため、今すぐに仕事を辞めたいという気持ちがあっても、機が熟すのを待ったほうが賢明な場合があるので、臨床から離れる選択肢が頭をよぎった時点で、転職先のリサーチなどを開始しておくことをおすすめしますよ。
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この記事は、2025年2月時点の情報を元に作成しています。