
一つひとつの医療行為には算定できる診療報酬点数が決められていますが、さらに決められた要件を満たしていれば、ベースとなる点数に「加点」することができます。加点にはさまざまなものがありますが、そのうちのひとつが「機能強化加算」です。具体的にどのような加算であるのかを解説していきます。
機能強化加算とは?
機能強化加算とは、外来医療における適切な役割分担を図り、地域における「かかりつけ医機能」を担っているクリニックを評価するための加算です。「かかりつけ医機能」には、患者に処方されている薬剤の管理・服薬指導・診療録への記録に加えて、患者の状態などによって、専門医または専門医療機関へ紹介することなども含まれます。さらに、健康管理に関する相談や、保険・福祉サービスに関わる相談に応じることや、必要に応じて、時間外診療や緊急時の対応をおこなうことも、「かかりつけ医機能」に含まれます。
機能強化加算が新設されたのは2018(平成30)年のこと。国を挙げて、地域包括ケアシステムの構築および医療機能の分化・強化が進められていくなか、「かかりつけ医機能を推進させよう」という観点から、新たにこの加算が設立されるに至ったのです。
参照:厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要(背景と主な改定事項のまとめ)
なお、令和4年度の診療報酬改定によって、機能強化加算の届出の要件が見直されているため、追って説明する、機能強化加算の算定要件は、2022(令和4)年の診療報酬改定後のものとなります 。
機能強化加算の点数は?
機能強化加算は、初診料を算定する患者に対して80点加算することができます。ただし、加算するためには、算定要件をクリアしたうえで、厚生局に届出する必要があります。
機能強化加算の算定要件は?
機能強化加算を算定するためには大きくわけて4つの要件を満たしている必要があります。
規模に関する要件
まず、規模に関してですが、機能強化加算を算定できる医療機関は、ここまで述べてきた通り、「かかりつけ医機能を持っている医療機関」ということになります。具体的には、「診療所または許可病床数が200小未満の病院であること」と定義されています。
診療体制に関する要件
診療体制に関しては、先ほどの説明と被る部分がありますが、わかりやすくまとめると、以下の条件をクリアしていることが求められています。
患者が通う全医療機関・処方薬の把握、服薬管理の実施
患者が受診している他の医療機関および処方されている医薬品を把握して、必要な服薬管理をおこなうとともに、診療録に記載すること。また、必要に応じて、担当医の指示を受けた看護職員などが情報の把握をおこなうことができるようにしておくこと
他院への紹介体制を整える
必要に応じて、専門医または専門医療機関への紹介をおこなうこと
患者の健康管理をサポートする
健康診断の結果などの健康管理に係る相談に応じること
保険・福祉サービスに関する相談の実施
保健・福祉サービスに係る相談に応じること
緊急時の対応方法の明示
診療時間外を含む、緊急時の対応方法などに係る情報提供をおこなうこと
かかりつけ医機能を持っていることを院内掲示物やホームページで明示
これらの対応をおこなうことができる医療機関であることを、院内および医療機関ホームページにおいて患者に対して説明していること。また、院内やホームページに掲示している内容を記した文書を用意して、院内の見やすい場所に置き、患者が持ち帰ることができるようにしておくこと
届出・実績に関する要件
届出・実績に関する要件としては、次のいずれかを満たしていることが求められています。
①地域包括診療加算1に係る届出をおこなっていること
②地域包括診療加算2に係る届出をおこなっており、直近1年間において次のいずれかの実績を満たしていること
ⅰ)地域包括診療加算2を算定した患者が3人以上である
ⅱ)在宅患者訪問診療料(I)の「1」、在宅患者訪問診療料(II)または往診料を算定した患者の数の合計が3人以上である
③地域包括診療料1に係る届出をおこなっていること
④地域包括診療料2に係る届出をおこなっており、直近1年間において次のいずれかの実績を満たしていること
ⅰ)地域包括診療料2を算定した患者が3人以上である
ⅱ)在宅患者訪問診療料(I)の「1」、在宅患者訪問診療料(II)または往診料を算定した患者の数の合計が3人以上である
⑤小児かかりつけ診療料1または小児かかりつけ診療料2に係る届出をおこなっていること
⑥在宅時医学総合管理料または施設入居時等医学総合管理料に係る届出をおこなっている医療機関であって、在宅療養支援診療所(1)または在宅療養支援診療所(2)に該当する医療機関であること
⑦在宅時医学総合管理料または施設入居時等医学総合管理料に係る届出をおこなっている医療機関であって、在宅療養支援診療所(3)または在宅療養支援病院(3)該当する医療機関であり、下記のいずれかを満たしていること
ⅰ)過去1年間の緊急の往診の実績または在宅療養支援診療所等からの要請によって患者の緊急受け入れをおこなった実績が3件以上である
ⅱ)過去1年間の在宅における看取りの実績が1件以上または過去1年間の15歳未満の超重症児および準超重症児に対する在宅医療の実績が1件以上である
人員に関する要件
人員に関する要件としては、地域における保健・福祉・行政サービスなどに係る対応が求められることから、次のいずれかをおこなっている常勤の医師の配置が求められています。
①介護保険制度の利用などに関する相談への対応および要介護認定に係る主治医意見書の作成をおこなっていること
②警察医として協力していること
③乳幼児の健康診査 (市町村を実施主体とする1歳6か月、3歳児などの乳幼児の健康診査)を実施していること
④予防接種(定期予防接種)を実施していること
⑤幼稚園の園医、保育所の嘱託医又は小学校、中学校若もしくは高等学校の学校医に就任していること
⑥「地域包括支援センターの設置運営について」(平成18年10月18日付老計発1018001号・老振発1018001号・老老発1018001号厚生労働省老健局計画課長・振興課長・老人保 健課長通知)に規定する地域ケア会議に出席していること
⑦通いの場や講演会などの市町村がおこなう一般介護予防事業に協力していること
「算定要件を満たしていること」と「届出を提出していること」の両方が必須
機能強化加算の算定要件は、満たすべき項目が多いため、要件を確認することも届出を提出することも面倒に思われてくるかもしれません。しかし、前半で述べた通り、機能強化加算はかかりつけ医機能の推進のために設定されたものなので、かかりつけ医としてのなすべきことをきちんと理解して実践している医療機関であれば、自院の体制などを変えなくても、既に要件を満たしている可能性が高いといえます。そのため、届出を提出しさえすれば加算がとれるので、そのひと手間を惜しんで加算をとらないままでいるのは大変もったいないことです。
必要な届出は、先に説明した通り、次のいずれかとなります。
※ただし、詳しくはこのあと解説しますが、上の届出のうち最低1種類の届出を提出したうえで、「機能強化加算の施設基準に係る届出」も提出する必要があります。
機能強化加算を算定するための届出手続きおよび必要書類は?
続いては、機能強化加算を算定するために必要な届出および必要書類について解説します。
まず、機能強化加算を算定するためには、前述の通り、前もって以下の届出のうち最低1種類の届出を提出しておく必要があります。
そのうえで、「機能強化加算の施設基準に係る届出」「機能強化加算に係る届出書添付書類」の2つの書類を、自院の管轄となる厚生局に郵送で提出する必要があります。なお、同じ書類の写しを自院で適切に保管することも必要です。
関東信越厚生局のホームページ上には、「機能強化加算の施設基準に係る届出」「機能強化加算に係る届出書添付書類」の2つの書類の届出様式がアップロードされているので、該当地区が管轄である場合は下記よりダウンロード可能です。
参照:厚生労働省関東信越厚生局 基本診療料の届出一覧(令和6年度診療報酬改定)
参照先URLを見ればわかる通り、「基本診療料の施設基準等に係る届出書」に関しては、基本的に、条件をクリアしているかどうかのチェックを入れて署名するのみとなっています。「機能強化加算に係る届出書添付書類」の記入に関しても特段難しいことはなく、該当する項目にチェックを入れるだけですし、万が一、要件を満たしていない部分があることがわかった場合は、書類提出前に条件をクリアしましょう。たとえば、「かかりつけ医機能を有していることを保健医療機関の見やすい場所に掲示している」「ホームページ等に掲示している」などの条件に関しては、その日のうちに条件を整えることも可能なはずです。
機能強化加算に関してよくある質問
続いては、機能強化加算に関してよくある質問とその答えを解説していきます。
Q:機能強化加算の届出を提出し忘れるとどうなる?
A:機能強化加算は事前に届出を提出していなければ算定することができません。
Q:機能強化加算を算定できるのは初診だけ? 再診は?
A:前半に解説した通り、機能強化加算は初診料を算定する患者に対してのみ、80点加算することができます。
Q:算定要件を満たすための「3人以上の実績」はどうやって証明すればいい?
A:該当する届出を提出して算定しており、かつ「機能強化加算に係る届出書添付書類」を提出することによって証明可能です。
Q:機能強化加算と他の加算との併用は可能?
A:機能強化加算の算定要件が、地域包括診療加算1または2、地域包括診療料1または2、小児かかりつけ診療科1または2、在宅時医学総合管理料(在宅療養支援診療所または在宅療養支援病院に限る)、施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所または在宅療養支援病院に限る)のいずれか最低1種類の届出を提出していることなので、必然的に併用可能ということになります。
Q:届出を出すタイミングはいつがベスト?
A:要件をクリアした時点でできるだけ早く届出を提出すれば、そのぶん加算できるということになります。
機能強化加算の算定要件は今後見直される可能性が高い
先に説明した通り、機能強化加算の現在の算定要件は、2022(令和4)年の診療報酬改定によって見直された後のものです。その次に当たる2024(令和6)年の診療報酬改定では、算定要件が見直されることはありませんでしたが、現状、見直しを求める声が多方面から上がっています。
『健康保険組合連合会』は、「算定要件を満たしているすべての初診患者から加算できることは問題である。対象を慢性疾患の患者のみにすべきだ」との意見を主張していますし、『中央社会保険医療協議会』では、支払側委員会より、「患者に対してかかりつけ医機能の説明が十分になされていない」との指摘が上がっていると同時に、算定対象限定が訴えられています。
これらの声がどこまで反映されるかはわかりませんが、次回、2026(令和8)年の診療報酬改定によって算定要件が変わる可能性は低くはないと考えられるため、既に加算している医療機関も、これから届出を提出する医療機関も、今後の動向はしっかりと見守るようにしてくださいね。
算定可能な加算はしっかりとっていくことで、患者や地域に還元していけると理想的
前半で述べた通り、機能強化加算は初診料を算定する患者全員に加算することができるので、ひと月あたりどのくらいの患者に対して初診料を算定しているかを考えれば、売り上げがどの程度変わるかわかるはずです。加算をきちんととることによって、かかりつけ医として患者や地域のためにできることも増えることに意識を向ければ、「手続きが面倒だ」という考えはなくなるかもしれませんね。なお、診療報酬点数は2年おきに見直されるので、概算を算出する際には最新の点数をチェックするようにしてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年3月時点の情報を元に作成しています。