
医療文書で使われる用語には、日常生活では使う機会のない用語がいくつかあるため、意味や使い方を正しく理解していないと恥ずかしい思いをすることがあるかもしれません。そこで今回は、医療文書で使われる用語のなかでも、特に重要度が高い用語を中心に意味や使い方を解説していきます。
なぜ医療文書では用語の使い分けが重要なのか?
まずは、医療文書作成時にきちんと用語を使い分けることがなぜ重要であるのかを解説していきます。
医療機関では、患者の診察や治療をおこなうだけでなく、紹介状やその返事を書くなどの文書作成業務も発生します。文書作成にあたって、書類を送る相手やシーンに相応しい用語をセレクトすることは、医療機関としての品位を保つために大変重要です。また、医療機関同士の円滑なコミュニケーションを促進して、相互の信頼関係を構築するうえで不可欠です。
また、文書作成のマナーやルールが守れていないと、受け取った相手から「この病院は医療機関として大丈夫だろうか?」と不安に思われることもあり得ます。
文書作成には携わらないスタッフも言葉の意味を理解しておく必要がある
医療文書の作成に携わるのは、基本的には医師と医療事務となります。しかし、それ以外のスタッフも、医療機関で使われる言葉の意味について最低限理解しておくことが大切です。
なぜかというと、たとえば転職時に必要な履歴書には、志望先で働きたい理由を記入する欄がありますが、その文章のなかで、先方の医療機関にどのような敬称をつけることが望ましいのかなどをわかっていないと、履歴書選考ではじかれる可能性があるためです。
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「御侍史」とは?
それでは早速、医療文書で使われる特有の用語について説明していきます。
まずは「御侍史」から。「御侍史」とは、医師宛の手紙や紹介状で使われる言葉で、手紙を差し出す側が相手に対する敬意を示すために使う「脇付(わきづけ)」のひとつです。脇付は、手紙の宛名に添えて使います。「おんじし」または「ごじし」と読みます。
手紙の宛名に「御侍史」を添える理由は?
では、宛名に「御侍史」が添えられていたらどういう意味になるかというと、「先生に直接ではなく、敢えて傍で働いている方にこの手紙を渡します」という意味になります。なんのためにそんな意味を込めるかというと、「先生に直接手紙を渡すだなどとは畏れ多い」「手紙を開けるために、多忙な先生を煩わせるわけにはいかない」といった気持ちを表現するためです。
なお、「御侍史」は「侍史(じし)」という言葉に敬意を表す「御」をつけた言葉ですが、「侍史」そのものには、「位の高い人に使える書記」や「おつきの人」といった意味があります。医療文書で用いられる「侍史」は、医療事務スタッフや秘書など、医師の傍で仕事する人を指すということになります。
「御侍史」は医療機関でしか使われることがない
御侍史には、前述の通り「先生に直接手紙を出すだなとは畏れ多い」といった意味が込められていますが、この場合の「先生」は基本的に医師です。そのため、医師の名前に脇付として添えられるのが一般的な使い方ということになります。
「御侍史」の使い方
「御侍史」は医師宛の紹介状に使われることが多い言葉です。病院長をはじめとする責任ある立場の医師は秘書をつけているケースも多いため、「傍にいる人に開けてもらってください」という意味が成立します。
紹介状以外に、医療機関や医師と取引のある業者が医師宛てに手紙を書く際にも、「御侍史」の脇付を添えるのが一般的です。
「御侍史」の使い方例
「御侍史」を宛名に添える場合、次のように記します。
「XX病院 XX科
A先生 御侍史」
病院名の後に改行して、下の欄に「A先生 御侍史」と記します。なお、手紙を出す相手の名前が特定されていない場合は、「担当医先生御侍史」「主治医先生御侍史」などと表記します。
「御侍史」は二重敬語にならない
「担当医先生御侍史」や「主治医先生御侍史」といった表現は、「先生」のあとに「御侍史」をつけているので二重敬語になるのでは? と疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、「先生御侍史」という表現は医療業界特有の習慣となっているため、この使い方で問題ないのです。
「御机下」とは?
「御侍史」と似た意味の言葉としてもうひとつ覚えておいてほしいのが、「御机下」です。読み方は、「おんきか」または「ごきか」で、「御侍史」同様、「先生に直接手紙を渡すだなどとは畏れ多い」「手紙を開けるために、多忙な先生を煩わせるわけにはいかない」といった気持ちを表現するために宛名に添える「脇付」です。
「御机下」の意味は?
「御机下」の「机下(きか)」は、漢字を見ればわかる通り、「机の下」という意味です。なぜ机の下を意味する言葉が使われているかというと、「私の手紙を先生の机の上に置かせていただくなどとは恐れ多いことですので、敢えて机の下に置かせていただきます」という意味が込められているためです。
「御机下」と「御侍史」との使い分け
「御机下」は、「御侍史」同様、医師宛の手紙に添えられる脇付です。
秘書がいない若い医師宛の手紙に使うなら「御机下」
「御侍史」とどのように使い分けられるかというと、まず、「御侍史」が、病院長などの責任ある立場の医師に使われることが多いのに対して、「御机下」は、秘書などがいない若い医師に宛てた手紙にも使われます。また、「御侍史」ともども 、女性の医師に対しても使われることがあります。
文書を封筒で郵送する場合、特定の相手宛なら「御机下」、担当医であることしかわからないなら「御侍史」
また、封筒の宛名に脇付を添える際は、「個人を特定して送る手紙であるかどうか」によってどちらを使うか決めるのが一般てきです。
具体的には、「御机下」が特定の医師宛の手紙に添えられるものである一方、「御侍史」は相手の名前がわからない場合に「担当医先生御侍史」として添えます。また、「御侍史」の使い方で説明した通り、「御侍史」は、相手の名前がわかっている場合にも使うことができます。
医師宛にメールを送信する場合、「御机下」
封筒で送る文書ではなく、医師宛のメールとして送信する場合、一般的には「御机下」を使います。なぜかというと、メールの場合、秘書や医療事務を介さず、医師が直接開封することが多いためです。
なお、「メールで送ったのに机の下に置かせていただきますって変じゃない?」と思うかもしれませんが 、医療業界特有の言い回しとして浸透している言葉であるため、相手から「間違った使い方では?」と思われることはないでしょう。
「御侍史」「御机下」の誤った使用方法は?
続いては、「御侍史」「御机下」の使い方に関するよくある間違いや注意点を解説していきます。「御侍史」「御机下」に関してよくある間違いや注意点は次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
医師宛以外の手紙やメールには使わない
ここまで解説してきた通り、「御侍史」「御机下」は医師宛の手紙やメールに脇付として添えるものです。事務長や事務室長など、医師と同じように尊敬の対象である相手に宛てた手紙やメールには使用したくなるかもしれませんが、医師以外の職種の人に当てた手紙やメールには使うことができません。
なお、医療機関全体に宛てた手紙は、基本的に「御中」を使用します。
秘書や医療事務の名前を書かない
手紙を送る医師の傍で仕事している秘書や医療事務の名前を把握している場合、「御侍史」「御机下」の前に秘書や医療事務の名前を書きたくなるかもしれません。しかし、たとえば「(秘書の名前)御侍史」と記すと、「秘書の近くで働いている秘書」という意味になってしまい、日本語として正しいといえません。
また、そもそも医師に宛てた手紙であることを忘れてはいけません。秘書や医療事務と懇意にしていて誠意を示したいなどの理由があったとしても、医師宛の手紙は医師宛の手紙です。お世話になっている秘書や医療事務には、直接病院で会う機会などに「いつもありがとうございます」の感謝の意を示しましょう。
綴り間違いに注意する
「御侍史」「御机下」は日常生活で使うことのない言葉であるため、パソコンで正しい読みを打ち込んでも一発で変換されない場合があります。そのため、「御」「侍」「史」「御」「机」「下」と一文字ずつ打った結果、「侍」を「待」と打ってしまったり、「机」を「枕」と打ってしまったりすることがあるかもしれません。こうした間違いは医療機関の品位を落とすことにつながるため、重々気を付けることが大切です。
「御侍史」か「御机下」かで迷った場合の考え方
「御侍史」と「御机下」のどちらを使うべきか迷った際は、相手の立場や関係性、文書の性質(公式な紹介状か、比較的カジュアルなお礼状かなど)を考慮します。一般的には、より丁寧とされる『御侍史』を選んでおけば大きな間違いはありませんが、相手によっては堅苦しいと感じられる可能性も念頭に置きましょう。可能であれば、過去のやり取りや周囲の慣習を参考にするとよいでしょう。
「御侍史」「御机下」の脇付は、医師宛の手紙には必ず必要?
医師宛の手紙には、「御侍史」「御机下」の脇付を必ず添えなければいけないかというと、そうとはいえません。特に、若手ドクターは脇付を添えることに抵抗があるケースが多く、いずれの言葉も使わない場合が多いようです。
脇付を添えることで畏まった雰囲気が醸し出されるため、使うことによって、相手との間に距離感が生じると考える人もいるのかもしれません。実際、年賀状などでは沸付を添えずに宛名を記す人が多いようです。
「貴院」とは?
続いては、「貴院」の意味や使い方に迫っていきましょう。
「貴院」とは、相手の病院を丁寧な表現で呼びたいときに使う言葉です。読み方は「きいん」となります。
病院・歯科医院以外の医療機関は「貴院」とは呼べない
「貴院」は、病院・歯科医院の「院」に、尊敬や村長に値するという意味の「貴」を付した言葉です。つまり、病院以外には使えません。
では、クリニックや診療所の場合はなんと呼べばいいかというと、基本的には「貴施設」となります。「貴クリニック」「貴診療所」も間違いではありませんが、あまり浸透していない表現であるため、伝わりにくい場合があります。
また、医療法人や社会法人の場合は「貴法人」、訪問介護ステーションの場合は「貴ステーション」「貴事業所」、老人介護施設の場合は「貴施設」、検査センターの場合は「貴センター」などと呼び分けると、先方からも、「私たちがどういう種類の団体であるのかを把握してくれているな」と思われやすいでしょう。
また、どう呼んでいいのか正解がわかりにくいのは「薬局」ですが、大手のチェーンなど、どこかの会社が経営している場合は「貴社」がしっくりくるでしょう。ただし、個人経営の小規模な薬局の場合は、「貴薬局」と表現しましょう。
「貴院様」は間違った表現
「貴院」「貴クリニック」など、接頭語に「貴」を付ける場合、それに続けて「様」を付けると二重敬語のような失礼な表現になってしまいます。また、そもそも施設である病院やクリニックに、個人の敬称である「様」を付けること自体間違っています。
「貴院」「御院」の違いは?
続いては、「貴院」と似た言葉の「御院(おんいん)」との使い分けについてみていきましょう。
「貴院」「御院」の基本的な違いは、「書き言葉であるか、話し言葉であるか」という点にあります。「貴院」は書き言葉であるため、メールや手紙、履歴書などにしたためる内容で相手の病院のことを指したい場合に用いるのが一般的です。たとえば、「貴院におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます」「これまでの経験を活かして看護師として貴院に勤務したく、転職を希望しています」などとして文章に盛り込む形となります。
一方、「御院」は口頭で相手の病院を指す際に使う敬称で、読み方は「おんいん」となります。使用シーンとしては、面接時に入職を希望する病院に対して「御院を志望させていただく動機は~」と説明したり、外部の医療機関のスタッフに対して、相手方の病院のいいところを褒めたりといった場合が多いでしょう。
履歴書と面接で「貴院」「御院」を使い分けることも必須
求人先への履歴書に、「貴院の理念に共感して求人への応募を決めました」と記した場合、面接では前半部分を「御院の理念に共感して」と言い換える必要があります。
なお、病院以外の施設に関しても同じルールが適用となります。「貴クリニック」は「御クリニック」、「貴施設」は「御施設」、「貴事業所」は「御事業所」となります。
こんなときどうする? 医療文書の敬称・用語FAQ
続いては、医療文書特有の敬称や用語が必要な場合の、書き方に関して抱きがちな疑問とその答えを解説していきます。
紹介状を封筒で郵送する場合の表面・裏面の書き方は?
まず、先に解説した通り、紹介状をはじめとする医療文書を封筒で郵送する場合、封筒の宛名に脇付を添えるなら、特定の医師宛の手紙なら「御机下」、相手の名前がわからない場合は「担当医先生御侍史」などと添えます。相手の名前がわかっていても、「御侍史」を使っても問題ありません。
また、表面には次の項目を記載します。
裏面には、次の項目を記載します。
ただし、病院(クリニック)名、住所、電話番号に関しては、自院の情報が印刷されている専用の封筒を使う場合、重複して記載する必要はありません。
親しい医師宛でも脇付が必要?
親しい医師宛の文章・メールでも脇付を添えても構いませんが、先方から「不要なので添えなくていい」と言われた場合、「そうはいってもルールだから……」などとそれ以降も添え続けるのは失礼に当たるので、添えることを控えるようにしましょう。
役職名と「先生」はどちらを先に書く?
役職名と「先生」の両方を記載する場合、先に役職名を書くのが一般的です。たとえば、「XX病院 院長 XX先生御机下」「XX大学医学部 教授 XX先生御机下」というふうになります。
患者もしくはその家族宛ての文書の敬称は?
患者もしくはその家族宛てに、検査結果や請求書などを送付する場合、敬称は「(氏名)様」が正解です。
業務に必要な言葉を正しく使いこなせるようになると、外部との連携もスムーズにいく
業務上、日常生活で使う機会のない言葉を使わなければならないとなると、最初のうちは、「web記事では使うことが推奨されているけど、実際のところ同業者はみんな本当に使っているのだろうか?」「自分だけ正しい使い方ができていなかったらどうしよう?」などと不安になるかもしれません。しかし、慣れないながらも、正しいマナーやルールを身に着けようと努力を続けていると、周囲との連携も今以上に円滑におこなえるようになってくることは間違いありません。また、周囲から、「あの医療機関は医師もスタッフも礼儀がなっている」と評価される可能性が高いので、自分たちの仕事にさらに大きな誇りを持てるはずですよ。
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この記事は、2025年6月時点の情報を元に作成しています。