
医療の現場ではさまざまな専門用語が使われていますが、そのひとつとして「プロトコル」という言葉が挙げられます。「プロトコル」とはどういう意味で、どのようなときに使われる言葉であるのかを、詳しく解説していきます。
プロトコルとは ?
「プロトコル」とは一般的に、特定の目的を達成するための手順や約束事を意味します。たとえば通信の分野においては、“コンピュータやネットワーク機器で通信するための規則や手順”ということになりますが、医療の分野においては、“患者に対して安全で一貫性のある医療を提供するために機能するガイドライン”という意味で使われています。
また、学会や医療機関で作成された、各疾患に対する診断手順や治療手順を記した「実施計画書」や「手順書」、がん薬物療法における薬剤の用法・用量、治療期間を明記した「レジメン」、各病院単位で作成されているクリニカルパスなども、「プロトコル」と呼ばれることがあります 。
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プロトコルの役割とは ?
前述の通り、医療現場においてはさまざまなカタチのプロトコルが存在します。なぜかというと、プロトコルは次のような重要な役割を担っているため、医療現場においてはなくてはならないものなのです。
医療の質向上
プロトコルに従って診断や治療、その後のフォローアップまでを進めていくことによって、医療の質が向上します。
医療の効率化と標準化
医療従事者同士でひとつのプロトコルを共有していれば、プロトコルの通りに進められているのか、問題が起きていないかを一人ひとりが把握しやすいといえます。そのため、業務を効率よく進められますし、医療サービスの質が均一化されます。
安全性の確保
プロトコルに従って治療やケアを進めていくことは、医療ミスのリスクを減らすことにもつながります。
エビデンスに基づく医療の推進
医療は、科学的根拠に基づいておこなわれるべきですが、プロトコルはその根拠をもとに策定されており、エビデンスに基づく医療の推進に役立っています。プロトコルは、最新の研究結果や臨床データを定期的に反映することで、患者により効果的かつ安全な治療を提供するための指針となります。
プロトコル作成の流れ
続いては、プロトコル作成の流れを解説していきます。プロトコルを作成する際は、次のステップを踏むのが一般的です。
1.目的の明確化
2.参考文献・参考資料などの参照
3.ステークホルダーと協議
4.実施および評価
それぞれ詳しくみていきましょう。
目的の明確化
何を達成したいのか、どのような状況でおこなうのかなどを最初に定めます。具体的には、「〇〇疾患の入院期間短縮」や「△△処置における合併症発生率の低減」などの明確な目標設定が重要です。
参考文献・参考資料などの参照
既存の研究結果やガイドラインを参照してプロトコルを作成することで、プロトコルの内容の科学的な裏付けがとれます。国内外の最新のガイドライン、学会発表、関連論文などを網羅的に確認して、根拠のレベルが高い情報を優先的に採用することが求められます。
ステークホルダーと協議
患者や医療従事者などのステークホルダーの意見を取り入れることによって、実際の運用に即した内容に仕上がりやすくなります。特に、実際にプロトコルを使用する医師、看護師、薬剤師などの現場で働く医療従事者の意見は、実現可能性や実用性を高めるうえで不可欠です。患者からのフィードバックも、患者中心の医療を提供するうえで重要です。
実施および評価
作成したプロトコルを用いて、達成したいことをおこなってみて、期待通りの効果が得られるかを確認します。その結果、修正が必要だと判明した場合は、テコ入れしていくことが必要です。評価指標(KPI)を事前に設定して、データに基づいた客観的な評価をおこなうことが重要です。評価の結果、課題が見つかれば、内容の修正だけでなく、運用体制や教育体制の見直しも検討します。
主なプロトコルの種類
先に解説した通り、医療の現場にはさまざまなプロトコルが存在します。代表的なものは次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
診療プロトコル
特定の疾患や症状に対して、標準的な診断・治療の流れを示すものです。たとえば、次のようなものが診療プロトコルに該当します。
看護プロトコル
看護師がおこなう処置やケアに関する標準的な手順を示すものです。たとえば、次のようなものが看護プロトコルに該当します。
感染対策プロトコル
感染症の拡大を防ぐために設けられた手順や対応指針のことです。たとえば、次のようなものが感染対策プロトコルに該当します。
緊急対応プロトコル
患者の急変時や災害時などの緊急事態に備えるための行動手順です。たとえば、次のようなものが救急対応プロトコルに該当します。
手術・処置前後プロトコル
安全な手術・処置のために必要なチェックや準備の手順のことです。たとえば、次のようなものが手術・処置前後のプロトコルに該当します。
投薬・薬剤管理プロトコル
薬の投薬や管理に関する標準的な指針のことです。たとえば、次のようなものが投薬・薬剤管理プロトコルに該当します。
チーム医療・多職種連携プロトコル
多職種間での円滑な連携を実現するためのルールや、情報共有の流れのことです。たとえば、次のようなものがチーム医療・多職種連携プロトコルに該当します。
検査プロトコル
患者に対して実施する各種検査の降順か・効率化・安全確保を実現するための手順書・運用ルールです。たとえば次のような検査プロトコルがあります。
└採血前の確認事項(患者確認、絶食の有無など)
└採血チューブの種類と順番(例:凝固 → 生化 → 血算)
└検体の保存・搬送手順(冷蔵保管の要否など)
└緊急検査(STAT)の取り扱い方法
└検査目的ごとの撮影条件(例:腹部CTの造影タイミング)
└造影剤使用時の禁忌・副作用対策
└体位や呼吸指示の標準化
└小児・妊婦への対応(被ばく低減プロトコル)
└12誘導心電図の電極装着位置の統一
└心エコー検査のプローブ走査手順と記録断面
└長時間脳波検査の装着・記録・刺激試験の順序
└検体の固定方法(ホルマリン固定など)
└検体ラベリングと病理依頼書の記載内容
└手術中迅速診断の連携手順(術者・病理医)
└血液培養の採取部位・採取タイミング(発熱時など)
└咽頭ぬぐい液や鼻腔スワブ採取方法(インフルエンザ、COVID-19)
└検体搬送方法(常温・冷蔵など)
倫理プロトコル
医療行為や研究活動をおこなうにあたって、人権・尊厳・安全を守り、倫理的に適切な判断と行動を確保するための手順やルールを定めたものです。たとえば、次のようなものが倫理プロトコルに該当します。
└終末期医療(延命処置の中止やDNAR)
└意思決定能力がない患者への対応(家族や代理人との協議)
└小児・高齢者・認知症患者などの配慮
└インフォームド・コンセントの取り扱い
└医療における差別の排除(性別・障害・国籍・信条など)
└研究実施前の倫理審査委員会(IRB)承認の義務
└研究対象者への説明と自由意志に基づく同意(インフォームド・コンセント)
└個人情報の保護と匿名化
└副作用・不利益がある可能性の明記
└未成年や意思表示が困難な人の研究参加に関する配慮
└本人の意思確認と家族の同意
└臓器提供前後のケア体制
└輸血拒否(例:宗教上の理由による)への対応方針
└医療スタッフの葛藤への対応支援(倫理コンサルテーション)
└個人情報保護法・医療情報ガイドラインに基づく対応
└カルテ閲覧・記録開示・第三者提供の可否
└ハラスメント防止指針(職員・患者間含む)
└LGBTQなど性的マイノリティ患者への配慮
研究プロトコル
臨床研究・治験・観察研究などをおこなうにあたって、研究の目的・方法・対象・倫理・データ管理方法などを体系的に記載した公式文書です。研究プロトコルに関しては、ほかのプロトコルとは異なり、研究の信頼性・倫理性・安全性を担保するために、必ず事前に作成して、倫理審査委員会で承認を得ることが必要です。
研究プロトコルは、たとえば、次のような要素で構成されています。
プロトコル運用における注意点
プロトコルは作成して終わりではありません。効果的な医療を提供するためには、適切に運用して、常に改善していく視点が不可欠です。
周知と教育の徹底
作成されたプロトコルは、関係するすべての医療従事者に周知され、内容が正確に理解されるように教育を徹底する必要があります。定期的な研修や勉強会の実施、資料の配布、e-ラーニングの活用などが有効です。
遵守状況のモニタリング
プロトコルが実際に現場でどの程度遵守されているかを定期的にモニタリングすることが重要です。チェックリストの活用、定期的な監査、インシデント・アクシデントレポートの分析などを通じて遵守状況を把握して、課題があれば改善策を講じます。
現場からのフィードバック収集
プロトコルの運用中に生じる疑問点、改善点、非効率な点などを現場の医療従事者から積極的に収集する仕組みを設けることが大切です。これによって、机上の空論ではない、より実践的で効果的なプロトコルへと進化させることができます。
緊急時の対応と柔軟性
プロトコルは標準的な指針ですが、患者の状態が急変した場合や予期せぬ状況においては、医療従事者の専門的な判断が優先されるべきです。プロトコルはあくまでガイドラインであり、個々の患者の状態に応じた柔軟な対応の余地を残しておくことが重要です。ただし、逸脱する場合には、その理由と判断プロセスを適切に記録しておく必要があります。
プロトコル遵守の重要性と遵守のために必要な教育とは?
プロトコルは作成するだけでなく、医療従事者全員がその内容を理解して、適切に遵守することで、初めて本来の効果を発揮します。
医療安全の確保
プロトコルは、医療ミスやインシデントの発生リスクを低減して、患者の安全を確保するための重要なツールです。
医療の質の均一化
プロトコルが用意されていることによって、どの医療従事者が担当しても一定水準以上の医療を提供できるようになり、医療サービスの質が標準化されます。
チーム医療の円滑化
共通の認識と手順があることによって、多職種間の連携がスムーズになり、効率的な医療提供につながります。
法的リスクの低減
プロトコルに沿った医療行為は、万が一のトラブルの際に医療機関や医療従事者を保護する根拠となることがあります。
遵守を促すための教育
初期研修
新規採用者や異動者に対しては、配属部署の主要なプロトコルについて徹底した初期研修を実施します。
定期的な学習機会
プロトコルの改訂時や、特定のインシデント発生時には、全体または関連部署を対象とした勉強会や研修を開催することが大切です。
症例検討を通じた理解促進
実際の症例とプロトコルを照らし合わせることによって、プロトコルの意味や適用範囲への理解を深めます。実
実践的なシミュレーション:
緊急対応プロトコルをはじめ、特に実践が求められるものについては、シミュレーション訓練を定期的に実施して、習熟度を高めることが大切です。
遵守状況のフィードバック:
定期的なモニタリング結果を医療従事者にフィードバックして、改善点を共有することで、主体的な遵守意識を育みます。
プロトコルに関してよくある質問
続いてはプロトコルに関するFAQです。
Q. プロトコルは誰が作成するの?
プロトコルは医療の専門家や研究者が作成するのが一般的です。最新の研究がガイドラインをもとに、患者のニーズや医療環境を考えながら、医師や看護師、薬剤師をはじめとする医療従事者や、医療機関の管理者、研究チームのメンバーなどが作成します。
Q. プロトコルは完成後に見直す必要がある?
プロトコルは、一度完成した後も定期的に見直すことが大切です。新しい研究結果の発表やガイドラインの変更だけでなく、医療技術の進歩、患者層の変化、あるいはプロトコル運用中に明らかになった課題などを踏まえ、継続的な改善が必要だからです。少なくとも年に1~2回の定期的レビューに加え、重要な科学的知見やガイドラインの変更があった際には、速やかに見直しの検討をおこなうことが望ましいです。改訂されたプロトコルは、関係者への周知と教育を徹底することが不可欠です。
Q. プロトコルに従わない場合にどんなリスクが生じ得る?
プロトコルに従わなかった場合、患者の安全性が損なわれたり、治療効果が半減したりする場合もあれば、多職種連携がうまくいかず、現場が混乱してしまう可能性があります。その結果、患者から医療従事者への信頼性が低下したり、場合によっては訴えられたりするリスクもあります。
プロトコルと「個別化医療」の関係性は ?
続いては、プロトコルと「個別化医療」の関係性をみていきます。
従来、特定の病気を患っている患者に対して、もっとも効果的な治療法をまとめた「診療ガイドライン」をもとに治療が進められていましたが、昨今、患者一人ひとりの体質や置かれている状況に応じて最適な治療法を選択する「個別化医療」に注目が集まっています。
この記事で説明してきた通り、ガイドラインに基づいて具体的な治療手順・処置の手順を定めたものが「プロトコル」ですが、患者ごとに遺伝子情報や生活習慣、または症状の程度が異なるため、プロトコル通りの手順で進めることが必ずしも最適な選択にならないというのが、個別化医療の根本にある考え方です。
では、個別化医療においては、プロトコルは必要ないかというと、そんなことはありません。なぜかというと、個別化医療においても、プロトコルは治療選択のうえで重要な基盤となるためです。標準的な手順であるプロトコルがあるからこそ、患者の状態や希望を考慮しながら、治療方針などを決定していくことができることを理解したうえで、個別化医療を実現させていくことが大切です。
医療現場のプロトコルの今後の展望は?
医療現場におけるプロトコルは、AIを活用することによってさらに、医療の標準化・効率化・質向上に役立つものへと進化しています。
どのようなプロトコルにAIを活用できるかというと、たとえば次のような活用例が考えられます。
さらに、ガイドラインや文献の要約・分析をAIに任せることで、プロトコルの作成そのものをアップデートしていくことも考えられるほか、プロトコルの順守状況を、AIを使って自動モニタリングすることなども考えられます。
このように、AIをプロトコルに導入することによって、医療の標準化・効率化・質向上の精度が上がる可能性があるだけでなく、実施状況のデータ化や可視化も可能となるため、業務遂行上の課題も見つけやすくなります。
AIの活用に関する注意点
AIを活用することはプロトコルのアップデートにつながる可能性がある反面、AIの判断は100%正解というわけではないので、誤りがあった場合の責任の所在に関して決めておくなどの課題もあります。また、学習データが偏る場合などもあるため、AIを活用する場合も、必ず最終的な判断は人がおこなうことが不可欠です。
プロトコルについての理解を深めることは重要
ここまで解説してきた通り、医療現場で働くうえでは、どんな業務をおこなう場合も、プロトコルを理解したうえで進めていくことが大切です。また、プロトコルをきちんと理解して業務を遂行しても問題が生じた場合は、問題が起きた理由や改善方法を考えることも非常に大切です。医療従事者の働きやすさを追求するためにも、患者にとってより安全で効果的な医療を提供し続けるためにも、定期的にプロトコルを見直すことも意識してみてくださいね。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。