
クリニックを開業するにあたっては、診療や治療に必要な医療機器をそろえておく必要があり、購入またはリースで用意することになります。さらに、リースは「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類に分けることができます。それぞれの特徴と最適な選び方について詳しく説明していきます。
医療機器のリースと購入の違いは ?
2種類のリースの違いについて解説する前に、まずは、医療機器が利用するリースと購入の違いを改めて確認しておきましょう。
リースとは、医療機関が使ってみたい医療機器をリース会社から借りることです。医療機器以外に、物件や重機などの長期的に利用できるものも、リースの対象となります。
また、リースした場合と購入した場合の主な違いは次の表の通りです。
リース | 購入 | |
所有権 | リース会社が所有 | 購入者が所有 |
契約 | 原則、中途解約は不可 | 売却も買い替えもカスタマイズも自由 |
初期費用 | 月額払いのため抑えられる | 全額一括となるため高額 |
メンテナンス | プランによっては含まれる場合がある | 自己管理が基本 |
会計処理 | リース料として経費処理できる | 減価償却の対象 |
医療機器を購入すれば自院の「資産」として運用・管理できる
医療機器を購入する最大のメリットは「所有できること」です。つまり、自院の「資産」として計上されるため、自由に運用・管理することができますし、カスタマイズすることも可能です。
購入する場合、初期費用が高額なため借入が必要になるケースもある
ただし、医療機器によっては数百万円、場合によっては億単位の費用がかかるため、自己資金のみでの購入はハードルが高く、金融機関から借入しなくてはならないケースも多いでしょう。また、導入後すぐに新モデルが登場する可能性などもあるため、金額が高ければ高いほど購入には慎重になる必要があります。
購入した医療機器は固定資産税の課税対象になる
さらに、購入した医療機器は固定資産とみなされるため、固定資産税が発生することになりますし、メンテナンス費や修理費が必要になる場合もあります。なお、購入時にメーカーと保守契約を結んでおけば万が一故障した場合に慌てずに済みますが、保守契約の費用が発生します。
長期間のリースは購入よりかえって高くつく可能性がある
そのため、高額な医療機器の場合は特に、リースを利用するケースが多いですが、長期的に使い続ける場合は、購入するより割高になる場合があるので注意が必要です。
リース期間が満了すれば、再度同じものをリースしても、これまでと違うものをリースしてもOK
リース期間満了後には、再リース契約を結ぶか、もしくはいったん返却して改めて契約することが必要となるため、同じ医療機器を使い続けるケースにおいては手続きがややこしく感じられるかもしれません。しかし、リース期間満了のタイミングに合わせて、最新モデルのリースに切り替えることも可能なので、自院の医療機器を見直すよい機会であるとも考えられます。
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医療機器の導入方法は金融機関との融資交渉にどう影響する ?
医療機器の導入を検討するタイミングは、基本的には開業時ですが、購入する場合は、前述の通り全額一括で支払う必要があるため、自己資金で賄うことができない場合は金融機関などから借入しなくてはなりません。しかし、そもそも開業時には、医療機器を購入するかどうかに関わらず金融機関からの借入を必要とするケースが多く、「リースにすると借入額が小さくて済み、購入にすると借入額が大きくなる」傾向にあるでしょう。
たとえば、1,000万円の医療機器を自院に導入するとして、購入する場合、医療機器代金分だけで、金融機関から1,000万円の融資を受ける必要がありますが、リースの場合、たとえば月額20万円×60か月などで契約することになるため、ほとんどの場合、医療機器の導入費に関しては借入する必要さえないでしょう。
つまり、リースを活用することで借入額を減らせば、融資が通りやすくなる可能性が高まるということです。
さらに、金融機関に対して、リース契約による設備投資計画を提示すれば、事業計画が明瞭であることや、資金が適正に配分されていることが評価されて、融資判断がスムーズになることが期待できます。特に、初期投資をおさえつつ、計画的な設備投資を進めていることがよくわかる設備投資計画書であれば、金融機関から、事業計画の堅実性やキャッシュフローの健全性を評価されやすいといえます。
【診療科目別】リース向き医療機器・購入向き医療機器とは?
続いては、リース向きの医療機器・購入向きの医療機器について考えていきましょう。
借入額が大きくなる高額医療機器は基本的にはリース向き
まず、医療機関がリースできる機器には、治療や診療・検査に使う医療機器のほか、事務機器や備品もあり、前述の通り、基本的には借入額増大につながる可能性が高いものはリース向きであるといえます。
また、もうひとつの重要な判断ポイントは診療科目です。
【内科全般】長期間毎日使用するものは購入のほうが結果的にお得な場合が多い
たとえば、内科・循環器内科・消化器内科であれば、画像診断系機器や解析装置は技術の進歩が速いため、常に最新のもので診察や検査をおこなうためにもリースがおすすめです。(例:超音波診断装置、内視鏡システムなど、モデルチェンジが頻繁な機器)一方、毎日使用するベッドや診察台、電子カルテなどは、汎用性が高く、買い替え頻度が低いため、購入して長期にわたって使い続けるほうが結果的に安くあがります。
【小児科・皮膚科】安全性を最重視すべき医療機器は信頼性の高いモデルを新品購入がおすすめ
小児科や皮膚科に関しては、信頼性の高い新品機器を使って安全性を追求することが大切であるため、診察用LEDライトや無影灯、スリップライト、滅菌器などの備品も新品購入がおすすめです。一方、ダーモスコピーや処置用ユニット、赤外線治療器、吸引機などは中古リースでもまったく問題ありません。
【整形外科・リハビリテーション科】メンテナンスが重要な医療機器は保守込みプランでのリース契約が理想
整形外科やリハビリテーション科の場合、高額でメンテナンス費用も高いX線撮影装置やけん引装置、ウォーターベッドなどは、リース契約にして保守込みプランを選びたいところです。一方、使用頻度の高い超音波治療器や診察用ベッド、処置用チェアなとは購入がおすすめであるといえます。
医療機器のリースとレンタルの違いは ?
医療機器は、リース、購入以外にレンタルして使用する方法もあります。では、リースとレンタルはどう違うのかというと、リースの契約期間は一般的に5~7年程度であるのに対して、レンタルは1日もしくは数週間単位などの短期間借りる方法です。
前述した「リース向き医療機器」の例を見ればわかるとおり、リースに向いているものは、使用頻度が低いとはいえちょくちょく使うものなので、仮にレンタル品として貸し出されていたとしても、手間を考えるとレンタルという選択はナシでしょう。しかも、搬入出を依頼する必要がある機材であれば、そのぶんの費用もクリニック持ちとなるケースがあります。
では、どういう場合なら医療機器をレンタルする選択が適切であるかというと、たとえば、リース期間満了を目前に控えていて、同じ医療機器を再リースするか、最新のモデルへとシフトするか迷っているなら、いったんレンタルしてみて使用感を試してみるのもありかもしれません。
リースの種類とは ?
続いては本題です。
リースは、「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類にわけられます。それぞれのリースの特徴と会計処理について説明していきます。
メリット | デメリット | |
ファイナンスリース | ・借り手がリースしたい医療機器を選ぶことができる ・契約内容によってはリース期間終了後も医療機器を資産として使用できる |
・リース料は、固定資産税や保険料などを上乗せして設定されているため総額が高くつく ・中途解約できない ・どうしても中途解約する場合、多額の違約金を請求される |
オペレーティングリース | ・リースした医療機関の利用料のみ支払うことになるため、ファイナンスリースと比べると総額が安い ・中途解約できる ・途中で借り換えもできる |
・中途解約できるが、違約金は発生する ・リース期間終了後は借りていた医療機器を資産として使用できなくなる |
ファイナンスリースとは
ファイナンスリースとは、貸し手が借り手の代わりにリースする医療機器を購入して、借り手が「リース料」という形で代金を貸し手に分割で支払うリース契約です。
購入と違って一括で支払う必要がないため、金融機関から融資する必要がなく、事業の資金繰りに影響することもありません。また、契約内容によっては、リース期間終了後も引き続き医療機器を資産として使用できる場合があります。
ただし、リース会社を挟まずに分割した場合とは異なり、医療機器の購入代金にかかる金利、固定資産税、保険料、リース会社の利益などを上乗せした金額が、リース料として設定されていることはデメリットであるといえます。しかも、リース期間中の中途解約は基本NGで、どうしても中途解約したい場合、多額の違約金を請求されるケースが多いでしょう。
オペレーティングリースとは
オペレーティングリースとは、借り手が貸し手に金銭を支払って、貸し手の資産を借りるというリース契約です。つまり、借り手が所有している資産を借りることになるため、資産に問題があった場合は貸し手が修理します。また、ファイナンスリースのように、固定資産税や保険料などが上乗せされることはなく、リースした医療機器の利用に対する支払いのみをおこないます。
ファイナンスリースとは異なり、契約途中で借り換えも可能であるため、常に最新の設備を利用することもできます。また、ファイナンスリースと比べて短い期間でリース契約を結ぶこともできます。なぜかというと、リース期間終了後、リース会社は返却された機器を転売したりレンタル品として貸し出したりするため、リース期間終了後も医療機器に市場価値が残っていることが望ましいためです。
また、オペレーティングリースは中途解約も認められていますが、解約した場合、違約金が発生するので注意が必要です。
ファイナンスリースとオペレーティングリースの会計処理の違い
ファイナンスリースとオペレーティングリースでは、会計上の扱いが大きく異なります。
ファイナンスリースの場合: 医療機器は自院の資産として計上され、減価償却の対象となります。これは、購入した場合と同様に、数年にわたって費用を少しずつ計上していく形です。
オペレーティングリースの場合: 医療機器はリース会社の資産であるため、自院のバランスシートには計上されません。支払ったリース料は、賃借料として全額経費として処理できます。
どちらの会計処理が自院にとって有利かは、税理士や会計士と相談して決定することをおすすめします。
医療機器をリースする際の注意点は ?
医療機器をリースする際は、次のような点に注意することが大切です。
機器選定前に診療戦略を明確にする
まず大切なのは、導入する医療機器の選定前に診療戦略を明確化することです。医療機器の導入は、診療内容やターゲットとする患者層、クリニックの方針と密接に関係しているため、「どのような患者をターゲットにして、どんな治療に力を入れていきたいのか。将来的にはどんなクリニックに成長していきたいのか」が曖昧なまま医療機器を導入すると、無駄な投資となってしまう可能性が非常に高いといえます。
リース料の総額および支払期間、月々の支払額が自院にとって適正であるかをよく考える
購入した場合と比べて初期費用が抑えられることから、「リースなら金銭的負担が少なくて安心」と安易に契約してしまった結果、期待していたほどの収益を得られず、月々のリース料支払いが経営を圧迫してしまう可能性があります。とりわけ、月々の支払金額が高いファイナンスリースの場合は注意が必要です。
消耗品コストや点検・修理費用も確認する
画像出力装置などは、トナーや用紙代もかかるため、消耗品コストが継続的に発生することになります。また、リース契約の内容によっては、保守費用が含まれていない場合があるため、そうなると、点検・修理費用が発生する可能性があるので、これらを含めたうえでの総額を算出することで、本当にリース契約を結んでも経営に響かないかどうかをしっかり考えることが大切です。
保守体制やトラブル時の対応についても確認する
心電計やレントゲン装置など、使用頻度の高い医療機器が故障した場合、スピーディに普及で着なければ診療業務に支障をきたしてしまいます。そのため、保守拠点が近くにあるか、代替機の貸し出しはあるかなど、リース契約を結ぶ前にしっかり確認しておくことが大切です。
患者ニーズや市場動向の調査を怠らない
皮膚科で使われる医療レーザー機器などは、数年後には最新モデルが登場するケースが多く、リース契約を結んだばかりでありながら解約したくなる可能性が否めません。
「スモールスタート」を意識した開業がおすすめ
医療機器の導入方法は、クリニックの経営を左右する重要な決断です。購入、ファイナンスリース、オペレーティングリースそれぞれにメリットとデメリットがあり、どれが最適かは状況によって異なります。後悔のリスクを最小限に抑えるためにも、開業時には「スモールスタート」を念頭に置いた設備投資を強くおすすめします。
スモールスタートとは?
開業当初から全ての設備を完璧に揃えるのではなく、まずは必要最低限の60~70%程度の設備で開業して、クリニックの運営状況や患者のニーズ、競合の動向を見ながら、段階的に設備を拡充していく開業スタイルです。
スモールスタートのメリット
金銭的リスクの軽減
初期投資を抑えることで、開業後の資金繰りに余裕を持たせることができます。
経営の柔軟性
予測不能な事態や市場の変化に対応しやすくなります。
診療への集中
資金面での不安が軽減されるため、本来の診療業務に集中できます。
こうしたアプローチにより、無駄な投資を回避できることから、より堅実なクリニック経営を目指すことができるでしょう。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。