看護師の仕事は、精神的にも身体的にも負荷が大きいため、自分でも気づかないうちに心の健康状態が悪くなってしまうことも珍しくありません。
そのため、うつ状態になる人も少なくないとされていますが、なかには、「看護を提供する側の自分がうつ病になってしまうなんて情けない」と自分を責めてしまう人もいます。
しかし、うつ病は誰でもかかり得る疾患ですし、一人で抱え込んでしまうと、さらに症状が悪化することもあるため、早めに対処することが必要です。
そこで今回は、「うつ」とはどんな症状なのか、発症前にとれる対策はあるのかなど詳しく解説していきます。
看護師が「うつ」になりやすい理由
まずは、看護師が「うつ」になりやすい理由を確認していきましょう。看護師がうつ病を患いやすい主な理由は、次の4つであると考えられます。
- 肉体的な疲労が蓄積されやすい
- 感情労働である
- 職場の人間関係がよくない場合がある
- 患者またはその家族の言動に問題がある場合がある
- 責任が重い
それぞれ詳しくみていきましょう。
夜勤で生活リズムが不規則になりがち
業務で患者の身体を支えたり介助したりすることが多ければ、そのぶん肉体的な疲労が溜まりやすくなります。
夜勤や残業が多い職場であれば、生活のリズムが不規則になるため、睡眠障害を発症して疲れが抜けにくくなることもあります。
感情労働である
感情労働とは、仕事の一環で自分の感情を管理して、他者に対して適切な態度をとることが求められる労働を意味します。
看護師の場合、患者やその家族に対して常に寄り添うことが大切ですし、患者の死に直面することがあっても泣き崩れるわけにはいきません。
自分の感情をなんとか抑制し続けていたとしても、ある日、心にぽっかり穴が開いてしまったり、限界を迎えてしまったりする可能性があります。
職場の人間関係がよくない場合がある
医療の仕事はチームでおこなうものですが、チームメンバー全員が自分とソリが合うとは限りません。
そのため、相性の良くない人がチーム内や職場内にいると、一緒に仕事することを考えて憂鬱になったり、言葉を交わすたびに気持ちがギスギスしたりと、働き続けることがしんどくなるかもしれません。
患者や家族からのプレッシャーによって
患者や利用者、またはその家族から、クレームや精神的・肉体的暴力を受けたことで心が疲弊して、うつ状態に陥ってしまうケースもあります。
たとえば、訪問看護師であれば、ケアをおこなう現場に他に医療従事者がいないこともあって、サービス利用者が横柄な態度をとる可能性も考えられますし、認知症患者などのケアに際しては、暴言を吐かれる可能性は高くなります。
また、そうでなくとも、看護師もしくは医療機関そのものに対して(時に正当でない)クレームや難癖をつけたり、危害を加えたりする患者に出くわす可能性はゼロではなく、人によっては、それによって大きなダメージを受けることがあるでしょう。
命の責任が重い
医療従事者は、慢性的な人手不足によって、仕事を辞めたくてもすぐには辞められないことがあります。
「いま自分が辞めると、職場の人間だけでなく、患者に迷惑をかけてしまうかもしれない」と考えて、自分の気持ちを押し殺し続けることもあるでしょう。
また、看護の仕事は時に人の命に直結することがあるため、「医療ミスを犯してしまったらどうしよう……」という重圧に圧し潰されそうになる人も多いと考えられます。
「これってうつ?」セルフチェックリスト
「うつ」の原因となり得る肉体疲労・精神的疲労・人間関係の悪さ・責任の重さは、多くの看護師が悩まされているものでもあるため、「もはや慣れっこ」と自分自身の状態を認識している人は多いかもしれません。しかし、そうした認識を持っている人に限って、実際はうつの一歩手前であることもあり得ます。
特に、次の項目に2つ以上該当するという場合、専門機関への相談が推奨されます。
□ 眠れない・寝ても疲れが取れない
□ 以前楽しかったことが楽しめない
□ 食欲が落ちた/または異常に食べてしまう
□ 仕事に行くのがつらい・涙が出る
□ 自分を否定してしまう
□ 死にたいと思ったことがある
またこのほかにも、
なんとなく体調が悪い状態がずっと続いていたり、周囲から「最近顔色が冴えないけど大丈夫?」などと声を掛けられることが増えていたりなどがある場合は、健康診断とセットでメンタルヘルスについても診てもらうことが望ましいでしょう。
専門機関に相談するにあたっての注意点などは、このあと続けて解説していきます。
「うつかも」と思ったらどうすべきか
「うつかも」と少しでも感じたら、前述の通り、専門機関に相談することが大切です。具体的には、次の3つのアクションをとることが重要です。
- 心療内科・精神科を受診する
- 上司・職場に相談する
- 場合によってはしばらく休むまたは仕事を辞める
それぞれ詳しくみていきましょう。
心療内科・精神科を受診する
「うつかも」と感じたときは、心療内科または精神科を受診します。
うつは、かつては「心の風邪」などの言葉で表現されることもありましたが、近年は、「脳内で起きている生物学的変化が原因」と捉えられるようになってきました。
具体的には、気分の安定や睡眠・食欲を調整する役目を果たす「セロトニン」、快楽や幸せな気持ちとの関連が深い「ドーパミン」、意欲をもたらす「ノルアドレナリン」などの神経伝達物質の働きが落ちて、脳のエネルギーが欠乏した状態になると、うつ症状が出やすくなるというメカニズムです。
つまり、心療内科や精神科で、これらの神経伝達物質のバランスを調整する薬を処方してもらうことによって症状が改善する可能性があるということです。
なお、生活習慣の改善や休養によって、神経伝達物質のバランスを取り戻せる場合もありますが、生活習慣の改善や休養を実現するためには働き方を変えないといけない場合があるため、その必要性を職場に訴えるためにも、まずは受診して診断書を作成してもらうことが重要になってきます。
上司・職場に相談する
うつ病の診断書を書いてもらったら、それをもとに、上司や職場に相談しましょう。具体的には、勤務時間の調整や異動に関する希望や、休職制度を利用したいことを伝えます。
なお、上司や院長に理解がある場合、診断書がなくてもきちんと相談に応じて然るべき対処をしてくれる可能性もあるので、必ずしも診断書が必要ということはありません。
反対に、誰に相談したらいいかわからない場合や、上司や院長の存在自体がストレスでうつになっていて、直接話したくないときなどは、外部の相談窓口や産業医への相談を検討するといいでしょう。
場合によってはしばらく休むまたは仕事を辞める
うつの原因が職場にあって、出勤しなければと思うと気持ちが重たくなる場合などは、しばらく休むかまたは仕事を辞めることを考えたほうがいいかもしれません。
退職や転職は「逃げ」ではなく、「うつの回復のための手段」です。
「まずは抗うつ剤を飲みながら様子をみてみたい」などと考えることもあるかもしれませんが、そうこうしているうちに限界を超えてしまう可能性も無きにしも非ずです。
「うつかも」と思った時点で休職や退職の可能性を視野に入れて、自分の内面と向き合いながら、今後どうするのが自分にとってベストであるのかを考えていくことが大切です。
を活かして患者にアドバイスできるため、より、やりがいを感じやすいといえるでしょう。
看護師が「うつ」にならないためにできること
続いては、「うつ」を予防するためにできることをみていきましょう。
うつ状態になるのを防ぐためには、日ごろから次の53つを意識しておくことが大事です。
- 自分の感情を置き去りにしない
- 相談できる相手を見つける
- 自分の“無理ライン”を決めておく
- 「逃げられる状態」を作っておく
- 職場以外の人間関係やプライベートの時間も大事にする
自分の感情を置き去りにしない
自分がどうしたいか、どんなことに心を傷めているのかに目を向けることは、時に苦しみを伴うかもしれません。しかし、自分の本当の気持ちを知っているのは自分だけです。
他の誰にも、自分の本当の気持ちを代弁してもらうことはできません。自分自身が自分の感情と向き合えなければ、やり場のない悲しみや怒りが内に溜まっていき、結果としてうつ症状を発症してし舞うかもしれません。
それを回避するためにも、自分がどんなことを考えて、どうしたいと思っているのかをメモや日記に記したり、もしくは自分で自分の感情に気づきにくくなっているなら、カウンセリングを利用したりすることを検討するのも一手です。
相談できる人を見つける
辛いこと、悲しいことがあって心を傷めているとき、話を聴いてくれる人がいれば、心の負担は少なからず軽くなります。
話を聴いてもらう相手は、家族でも友人でも仕事仲間でも構いません。もしくは、自分のことを知っている人に話を聴いてもらうのは恥ずかしくて無理という場合、知恵袋などのサービスを利用するか、本名を晒していないSNSで不特定多数の人に向けて悩みを吐露することなども検討するといいでしょう。
そのほか、オンラインカウンセリングサービス「cotree」を利用する手もありますし、悩みの具体的な解決方法を模索しているなら、chatGPTに質問することも有効でしょう。
参照: cotree
職場環境を見直すことも大切
職場内に、仕事が原因の悩みに関して「聞いてもらいたい」と思える人がいない場合、環境を見直すこと・転職することを視野に入れてもいいでしょう。
自分の“無理ライン”を決めておく
体調面、精神面それぞれに関して、「これ以上は無理」という線引きをしておくと、そのラインを超えそうになったら踏みとどまれます。
たとえば残業が辛くて悩んでいるとして、「週に何時間を超えたら断ろう」と決めておくなど、具体的な数字などを設定できると、自分で自分の状態を管理しやすくなります。
「逃げられる状態」を作っておく
業務内容や職場の人間関係に不満があっても、「逃げられる状態」になければ、「しばらく休む」「仕事を辞める」といった選択肢をとることが難しいため、結果的に追い詰められてうつ状態に陥ってしまう可能性が高くなります。
たとえば仕事を辞めて転職先を見つけるまでに半年かかるとすると、半年分の生活費をプールしておくことによって、「安心して逃げられる状態」と言えるのではないでしょうか。
また、「仕事を辞めると毎日何をしていいかわからなくなるのが怖い」ということなら、休職中に資格取得のために学校に通い、キャリアアップを実現するという目標を掲げるのもいいかもしれません。
職場以外の人間関係やプライベートの時間も大事にする
1つの場所に依存すると、その場所が居心地のいい場所でなくなったとしても離れるのが難しく、感情のコントロールが追い付かなくなり、結果的にうつを患ってしまうケースもあります。
そうした状態に陥るのを防ぐためにも、日ごろから、職場以外の人間関係やプライベートの時間を大事にするよう心掛けることが大切です。
人間関係・信頼関係を構築するのは簡単ではないかもしれませんが、たとえばSNSで好きなアニメの話をできる人を見つけたり、休日にキャリアアップにつながりそうなセミナーに足を運んだりといった時間を持つだけでも、心に余裕ができる場合があります。
うつ後の働き方・選択肢
続いては、うつからの回復後、または症状が落ち着いてきた後、看護師として仕事復帰する際の選択肢について解説していきます。
うつは、「一度治ったら再び症状が出ることがない」というものではありません。そのため、復帰に際しては、再び症状が出ることがないよう、慎重に働き方を決めることが望ましいといえます。具体的には、次のような選択肢が考えられます。
- 夜勤のない職場に転職
- 負担の少ない雇用形態にシフト
- キャリアチェンジ
夜勤のない職場に転職
夜勤のない職場に転職すると、睡眠障害が出にくくなるため、うつを発症(再発症)する確率がぐっと低くなります。
健診センターや訪問看護ステーション、外来への勤務のほか、企業看護師として働く方法などがこれに該当します。
負担の少ない雇用形態にシフト
責任ある立場で仕事することなどが辛いなら、パートや派遣で働くのも一手です。または、スポット看護師として単発バイトを請け負うという手もあります。
キャリアチェンジ
前出のパターンとは逆に、「責任のある仕事を任せてもらえない」「仕事にやりがいを感じられない」などがストレスとなり、うつ症状を発症するケースもあります。このタイプの場合は、資格を取得するなどして、やりがいのある仕事に就くことが、精神的に落ち着いて仕事できることにつながると考えられます。
また、うつ病にかかったことをきっかけに、メンタルケア心理士などの資格を取得すれば、自分の経験
まとめ|あなたの心を大切に
看護師の仕事は肉体的にも精神的にもハードなうえ、患者の命に関わることもあるため、なかなか気が休まらないと感じることもあるでしょう。
しかし、自分自身を労われず、心と身体が疲弊した状態で働き続けていては、「うつ」を発症する確率が高くなるだけでなく、あなたの大切な家族やパートナー、友人などを心配させてしまいます。
あなた自身が毎日を気持ちよく過ごせることを第一に考えてみてくださいね。
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診療科目
この記事は、2025年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 CLIUS(クリアス )
クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。
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