2020年は、『鬼滅の刃』ヒットにともない、採血や注射前の「全集中の呼吸だよ」の声かけによって、泣かずにがんばる子どもが増えたことが話題になりました 。「全集中の呼吸」とは、「落ち着いて深呼吸する」という意味の、同作ではおなじみのフレーズ。作品に登場するキャラクターへの憧れもあり、子どもたちがすぐに真似することができるのです。
子どもたちが怖がらずに通院できるよう、病院側もさまざまな施策を導入
子どもの心を掴むために役立つのはアニメだけではありません。昨今は、さまざまな工夫を凝らすことで子どもたちから笑顔を引き出しているクリニックが、全国に存在するのです。しかし一昔前までは、小さい子どもたちにとって病院や歯科クリニックは恐怖の対象であったし、「我慢できたら帰りに好きなおやつを買ってあげる」となだめるのは親の役割でした。その役割を病院側が担ってくれるとなれば、親の負担もぐっと軽減。そんな親にとっても子どもにとってもうれしい病院およびクリニックは、一体どんな施策をとっているのでしょうか? 乳幼児~小学校低学年の子どもを持つ母親数人に訊いてみました。
子どもが天井の絵に夢中になっている間に注射するなど、恐怖感を最大限取り除く工夫がうれしい
最初に名前が挙がったのは、東京・葛飾区の『葛飾バンビこどもクリニック 』。小児科専門の院長が診察をおこなうクリニックとして、地域の子どもたちの健康を守っているクリニックです。こちらのクリニックが子どものかかりつけだという女性によると、「web予約の際に診療希望内容も簡単に入力できるようになっているから、受付で病状を訊かれて、どこまで伝わるかわからないけど話さなければいけない不快感からも解放されます」と付き添いの親への配慮もばっちり。また、「診察が終わったら子どもはコインをもらえて出入り口でガチャができるから、その瞬間がハイライト。うれしそうに目を輝かせています」「診察室の天井には動物の足跡がデザインされていて、『数えてみて~』って上を向かせている間に注射するなど、子どもの不安を最大限取り除いてくれているところもすごいなと思います」とも明かしてくれました。
北欧風のあたたかみあるインテリア×最新のプロジェクションマッピング
院内は、受付から待合室、診察室、処置室、検査室まですべてアイボリー調のやさしい色味で統一 されたほっと落ち着く空間。待ち時間も子どもたちが楽しく過ごせるよう、待合室にはプロジェクションマッピングを設置するなど、最先端のデジタルも活用しています。
根底にあるのは、子どもたち一人ひとりと向き合う真摯な姿勢
「『子どもの病気を診る』のではなく、『病気の子どもを診る』という意識をベースに、子どもたち一人ひとりの健康をサポートしていきたい」という院長のメッセージ も、母親たちにとっては心強いものであるに違いありません。「病気でお世話になる機会がなくなったとしても、今後も、予防接種などではずっとこちらにお世話になりたいですね」と答えてくれました。
参考:堀切菖蒲園駅・お花茶屋駅の小児科|葛飾バンビこどもクリニック
電子マネー利用や週末営業など親にとってうれしいポイントも
続いて名前が挙がったのは、東京・三鷹市の『三鷹公園通り歯科・小児歯科 』。「井の頭公園エリアに根付いたかかりつけの歯医者に」を掲げている同歯科医は、「土曜日は19時まで診察受付」「女性スタッフが多く相談しやすい」「保険診療の支払いでもPayPayやiD、Suicaなどの電子マネーを利用できる」など付き添いの親にとってもうれしいポイントがたくさんそろっています。
親と一緒に治療に通えることも、子どもたちにとっては安心材料となる
また、病院名からわかるとおり、患者のターゲットは子どもだけではありません。一般歯科のほか、予防歯科、審美・セラミック治療、歯周病治療、ホワイトニング、入れ歯、顎関節長・噛み合わせといった充実の診療内容のため、家族みんなが通えるのもうれしいところ。「おかあさんも治療がんばるからね」と母親が一緒に治療にのぞんでいることで安心できるという子どももいるかもしれません。
ボールプールにすべり台にガチャまで楽しめる「夢のような空間」
同クリニックを挙げてくれた女性によると、「院内にボールプールとかすべり台があるだけじゃなく、遊び場が充実しているし、がんばったらずらっと並んでいるガチャを回せるコインがもらえるからうれしいみたい。それプラス、お子様ランチについてくるようなおもちゃも一個持ち帰っていいという夢のような空間! おかげで全然治療を怖がらないから毎回スムーズで助かっています」とのこと。
ガチャガチャ®マシーンは9台から好みのものを選んで回せる
「ボールプール 」とは、カラフルなボールがたくさん入ったプール状の遊び場のこと。カメさんの甲羅部分がくりぬかれてプール状になっているため、見た目にも楽しい空間です。「すべり台 」の高さは大人の腰くらいの高さ。下にはマットも敷かれているので、横で見守る大人も安心です。ガチャガチャ®マシーンの台数はなんと9台。その中から好きなものを選んで回せるうえ、さらに好きなおもちゃをもらえるとなると、「次の診察はいつ?」と次回の予約が待ち遠しくなる子どももいるに違いありません。
子ども専用診療室では、アニメの上映も楽しめる
また、個室のキッズルームには楽しいおもちゃや絵本を用意。子どものスペースがしっかりと区切られているので、ほかの患者に気を遣わずに済むのもうれしいポイント。さらに、子ども専用診療室は、テーマパークのようにイラストいっぱいの壁紙があしらわれているうえ、室内ではアニメなどの映像が流されています。これなら、治療の恐怖が紛らわされるどころか、イラストやアニメに見入っているうちに治療が終わっていることもあるかもしれないですよね。
入り口を楽しく飾り付けることは、潜在顧客の開拓にもつながる
さらに、クリニックの入り口には、ハロウィンやひな祭り、クリスマスなどの季節のイベントに合わせたディスプレイも施されていることから、まだ来院したことはないものの、一度は中に入ってみたいと思っている潜在顧客も多いことが考えられます。潜在顧客を取り込むための施策としては、webサイトや口コミの活用などを思いつく人は多いかもしれないが、地域住民に利用してもらうためには、こうしたアナログな施策も大事であるに違いありません。
病児保育室完備なら、看護師が子どもたちにとってなじみのおねえさんになることも
またある女性は、東京・世田谷区の『いなみ小児科 』を挙げてくれた。「先生はやさしいし、待合室には子どもが遊べるスペースもあるから親は楽です」と教えてくれましたが、この小児科にはさらにユニークな特徴もあります。それは、病児保育室を有していること。その名も「ハグルーム」。子育て支援の一環として、病気の子どもを家族がみられない間、一時的に預かる施設です。看護師は保育室に常駐で、医師による回診もあるというので家族は安心。親が共働きなどの理由でハグルームに預けられることが多い子どもにとっては、この病院はまさに「行きつけ」。病気になったときも、「大好きな看護師のおねえさんに会えてうれしい」という心理も働きそうです。
子どもがおもちゃに気を取られている間に親に話を聴き、必要な処置を施してくれる
また、東京・足立区の『小児科・小児神経 梅津クリニック 』も人気。専門は小児神経科、てんかん。運動発達や知能発達、不登校をはじめとする小児の心の問題にも寄り添っているクリニックで、webサイトでも『梅津クリニックは「こわくない」病院です』と謳っています。同クリニックを挙げてくれた女性によると、「梅津クリニックは、先生が机の上に小さなキャラクターおもちゃをどっさり置いていて、『ひとつ選んでいいよー』と言って子どもが選んでいる間に親から話を聴いてくれるんです。その後、選んだものを渡された子どもがそれをいじっている間に、聴診器をあてたり処置を施したりしてくれるから全然怖がらない」とのこと。
参考:梅津クリニック
お医者さんの象徴である白衣を着ないことで、子どもにとってより身近な存在に
もちろん、待合室にも知育玩具や絵本などが用意されていますし、もうひとつの大きな特徴は、医師が白衣を着用していないことでしょう。その理由は、「冷たい印象を受ける白衣をまとっていると子どもたちが怖がるから」。白衣が感染予防に役立つ医学的根拠などはないことも説明したうえで、子どもの恐怖心を和らげることを優先しているとwebサイトでも説明。また、具合の悪い子どもたちが待たされて辛い思いをすることがないよう、完全予約制を採用している点に好感を持つ親も多いはず。待ち時間がないことは親にとっても大きなメリットですが、体調が悪い子どもを心配に思う気持ちもかなりのものであることは間違いないでしょう。
ハード面、ソフト面それぞれに工夫を凝らすと同時に、患者とその家族に安心してもらえるよう、医療技術やコミュニケーションスキルを磨くことも大切
こうして親の声を聴いただけでも、子どもが医療施設を怖がらないための工夫は実にさまざまだとわかります。ハードとしては、内装や飾りつけにこだわって楽しさや安心感を演出。ソフト面では、「診察をがんばったらガチャを回せる」「診察中はアニメを楽しめる」などのワクワクするコンテンツを用意するということが流行といえるかもしれません。ただしもちろん、病院・クリニックである以上、「子どもが楽しめる」だけでは不十分。診察や治療技術の確かさは、親がもっとも求めていることです。加えて、子どもにとっても付き添いの親にとっても大切なのが、医師や看護師の人柄や応対のよさであることは間違いありません。子どもにも親にも「困ったときはまたお願いね」と言ってもらえるような病院・クリニックとなるべく、ソフト面、ハード面を充実させるとともに、患者一人ひとりに安心感を持ってもらえるような医療を目指すことを大切にしたいですね。
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この記事は、2021年4月時点の情報を元に作成しています。