外科医の年収は、診療科のなかでも高い部類に入ります。一方で、労働時間の長さや当直・オンコールの負担を考えると「時間あたりで見たときに割に合っているのか」という問いは常についてまわります。
そして開業を検討する段になると、話はさらに複雑になります。「開業すれば収入が上がる」という一般論は、少なくとも直近の統計を見る限り、そのまま受け取れるものではありません。
本記事では、外科医の年収を統計データで押さえたうえで、勤務医を続ける場合と開業した場合で収入構造がどう変わるのかを整理します。
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外科医の平均年収
医師全体の平均は約1,512万円
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、医師(勤務医)の平均年収は1,512万2,500円です。全産業平均と比べれば突出して高い水準ですが、これは診療科をまたいだ全体の数値です。
外科医は約1,374万円
診療科別に見ると、外科医の平均年収は約1,374万円とされています(労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」)。調査主体と年次が賃金構造基本統計調査とは異なるため単純比較はできませんが、診療科別のランキングでは上位に位置するというのが各種調査に共通する傾向です。
外科医の半数以上が年収1,500万円を超えているという集計もあり、平均値以上の分布に厚みがあることがうかがえます。
なぜ外科は高いのか
理由は主に3つです。
- 勤務時間の長さ——手術・術後管理・緊急対応が積み重なり、時間外労働が多くなりやすい
- 当直・オンコールの頻度——手当が収入に直接乗る
- 人材の不足——外科志望者の減少が続いており、地方を中心に条件面での引き上げ圧力が働いている
つまり外科医の年収の高さは、業務負荷の対価としての性格が強いと言えます。時間あたりに換算したとき、他科との差は額面ほど大きくないケースもあります。
年代別・勤務先別の傾向
年代別
医師の年収は年代とともに上がり、50代前後でピークを迎える傾向があります。外科の場合、執刀数が増え、指導的立場に就く40〜50代で年収が伸びやすくなります。
一方で60代以降は、体力面の事情から手術件数を減らす、当直から外れるといった変化が起こり、年収も緩やかに下がる例が多くなります。「一生上がり続ける」構造ではない点は、キャリア設計上の前提として押さえておく必要があります。
勤務先別
| 勤務先 | 傾向 |
|---|---|
| 大学病院 | 基本給は低め。研究・教育の比重が大きく、外勤(非常勤)で補うのが一般的 |
| 公立・公的病院 | 給与規程に基づく安定型。突出はしないが下振れもしにくい |
| 民間病院 | 施設ごとの差が大きい。症例数や役職により高水準になる場合がある |
| 地方の医師少数区域 | 好条件の求人が出やすい。ただし業務量・オンコール頻度もセットで見る必要がある |
「地方の高額求人」は、外科医不足の反映です。金額だけでなく、当直回数、オンコール体制、常勤の外科医が何人いるかまで確認しないと、実質的な労働条件を見誤ります。
勤務医と開業医で収入構造はどう変わるか
開業医(診療所院長)の平均は約2,763万円
開業医(診療所院長)の平均年収は約2,763万円とされ、勤務医の1.4〜1.9倍程度の水準です。この数字だけを見ると、開業は収入面で明確に有利に見えます。
ただし「平均」の裏側を見る必要がある
第25回医療経済実態調査(令和7年度実施)が示す2024年度の実態は、平均値だけでは見えないものを含んでいます。
- 一般診療所の損益率(平均値)は、医療法人 4.8%/個人 28.8%
- 個人立診療所の最頻損益階級はおよそ750万円
- 個人立診療所の5.6%が赤字
- 損益差額が勤務医の給与水準以下にとどまる個人立診療所が4割弱
つまり、開業医の平均年収を押し上げているのは一部の高収益層であり、中央値・最頻値で見ると勤務医と大差ない、あるいは下回るケースが相当数あるということです。
さらに近年は、人件費・光熱費・医療材料費の上昇が診療所経営を圧迫しています。日本医師会の調査でも、一般診療所(個人)の7割超が経営悪化を報告しています。
外科医が開業する場合の固有の論点
外科の場合、勤務医時代の主戦場である「手術」を開業後にそのまま続けられるとは限りません。
- 無床診療所では実施できる手術が限られる——日帰り手術の範囲での設計になる
- 有床にすると設備投資と人員配置の負担が跳ね上がる——看護配置、当直体制、建築要件
- 外来中心への転換が現実的な選択肢——消化器内科的な外来+内視鏡、あるいは肛門科・ヘルニアなど日帰り手術特化
「これまでやってきた医療」と「開業後にできる医療」のギャップが、他科よりも大きくなりやすいのが外科の特徴です。収入の話をする前に、何を提供する診療所にするのかを固めることが実質的な出発点になります。
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外科医が年収を上げる選択肢
1. 当直・非常勤を組み合わせる
もっとも即効性があります。ただし本業の負荷とのバランスを崩すと、長続きしません。
2. 役職に就く
部長・診療科長といったポジションは、給与規程上の等級が上がります。executive としての業務が増える分、手術から距離ができる面はあります。
3. 医師少数区域の求人を検討する
条件面の上振れは期待できますが、前述のとおり労働環境とセットでの判断が必要です。
4. 開業する
上限は最も高い一方、下振れリスクも自分で負うことになります。収益は立地・診療圏・提供する医療内容・集患の設計でほぼ決まります。「外科医だから開業すれば稼げる」という前提は成り立ちません。
5. 自由診療領域を組み合わせる
保険診療に自由診療を組み合わせる設計も選択肢のひとつです。ただし集患の難易度と初期投資は保険診療中心の開業とは別物であり、専門の検討が要ります。
開業を検討するときに最初にやること
収入面から開業を考えるなら、順序は次のようになります。
- 現在の年収の内訳を分解する——基本給、当直手当、外勤収入をそれぞれ把握する。開業後にどれが消えるかが見える
- 診療圏の患者数を推計する——想定する診療内容で1日何人来るか。ここが売上のすべての前提になる
- 固定費を積み上げる——賃料、人件費、リース、システム。損益分岐点となる1日患者数を出す
- 手元に残る額を試算する——売上から固定費・変動費・返済・税を引く。ここで初めて勤務医時代との比較ができる
この4ステップを踏まずに「開業医の平均年収は2,763万円」という数字だけで判断すると、前述の「4割弱」の側に入るリスクを見誤ります。
よくある質問
Q. 外科医の年収は他の診療科と比べて高いですか?
診療科別のランキングでは上位に位置します。ただし勤務時間・当直回数を含めた時間あたりの収入で見ると、差は縮まります。
Q. 開業すれば必ず年収は上がりますか?
上がりません。開業医(診療所院長)の平均は約2,763万円ですが、個人立診療所の4割弱は損益差額が勤務医の給与水準以下、5.6%は赤字です(第25回医療経済実態調査)。平均値と自院の見込みは分けて考える必要があります。
Q. 外科医が無床クリニックを開業して手術はできますか?
日帰り手術の範囲であれば可能です。ただし実施できる術式は限られ、設備・スタッフ体制・術後フォローの設計が前提になります。有床化すると要件と負担が大きく変わります。
Q. 年収の統計はどこを見ればよいですか?
勤務医全体は厚生労働省の賃金構造基本統計調査、診療所の経営実態は厚生労働省(中医協)の医療経済実態調査が基本の一次資料です。診療科別の年収は民間調査に依拠する部分が大きく、調査主体と年次を確認したうえで参照してください。
Q. 開業のタイミングはいつがよいですか?
一般に、症例経験と地域での認知が積み上がった40代での開業が多い傾向にあります。ただし借入返済の期間、家族の状況、体力面を含めた総合判断になります。
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まとめ
外科医の平均年収は約1,374万円。医師全体の平均(約1,512万円)と比べても診療科別では上位ですが、その水準は長い勤務時間と当直・オンコールの負担に支えられているという側面があります。
開業医(診療所院長)の平均は約2,763万円と高い一方、個人立診療所の4割弱は損益差額が勤務医の給与水準以下、5.6%は赤字という現実もあります。開業は収入の上限を引き上げる選択肢であると同時に、下振れも自分で負う選択です。
外科の場合はさらに、開業後に提供できる医療が勤務医時代と変わるという固有の論点があります。収入の試算に入る前に、「どんな診療所をつくるのか」を先に固めることが、結果的に最も確実な進め方になります。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
