一口に医療ツーリズムといっても、その中身は健康診断、外科手術、美容整形、がん治療、再生医療などさまざまですが、日本の医療に対するニーズも高いので外国からの顧客を受け入れるクリニックも徐々にではありますが増加しています。
今回は、実際に医療ツーリズム事業を行っている『株式会社JM International』の金泉代表取締役にお話を伺いました。
患者さんの「予防医療」に注力する医療ツーリズム
医療ツーリズムは国境を超えた医療行為ですので、顧客(診療に携わる医師を含む)の信用を得るためには国家間での承認も重要とのこと。
その上で、「株式会社JM International」は2018年に医療ツーリズムの事業を開始。現在も中国・モンゴルの顧客を日本での診療に導いています。
同社の医療ツーリズムの特徴は「予防」に力を入れていることで、PET、CTなどの検診メニューを充実させています。これは、金代表取締役自身も医師で、修業時代に「病気になって初めて体をいたわるよりも、もっと予防に力を入れた方がいいのではないか」という思いがあったためだそうです。
ちなみに金代表取締役は以下のような経歴で、現在も日本で医師兼医療関連の事業主として活躍していらっしゃいます。
- 2007年 内蒙古民族大学蒙医学院(医学学士)
- 2007年 内蒙古民族大学付属病院 消化器外科 外科医師
- 2009年 群馬大学大学院 医学系研究科 医科学専攻(医学博士)
- 2013年 群馬大学医学部 病態総合外科学 研究員
- 2016年 群馬大学医学部 がん治療臨床開発学 助教
- 2018年 「株式会社JM international」
また、金代表取締役は12年間がんの研究を行ってきたのでがんの早期発見も主眼に置いているとのこと。群馬大学で学んだことが現在行っている医療ツーリズム事業に生かされているそうです。
予防医療を主眼に置いた医療ツーリズムであるため、中国・モンゴルの顧客とは5年間の契約を結び、日本で検診を受けてもらうという内容になっています。面白いのは、せっかく日本に来るのだからと「伊香保温泉」観光を組み込んだツアーなども用意されていることです。このようなメニューがあるのは顧客もうれしいことでしょう。
金代表取締役によれば、「国際的に権威のある専門誌「Lancet」の調査によると、日本の医療水準はG7(先進7カ国)中で最上位にランクされました。HAQスコア(保健医療の質やアクセスを示す指数)は右肩上がりに伸び続け、また、日本のおもてなし精神によるサービスの質の高さから、この先も日本へのインバウンドは確実に増加していくでしょう」とのこと。
また、「株式会社JM International」では日本で診療を行う医師・クリニック院長を求めているそうです。
医療ツーリズムは日本のクリニックにとってもメリットあり!
医療ツーリズムは日本のクリニックにとってもメリットがあります。日本はすでに超高齢社会に入っており、少子化で人口は減少します。つまりクリニックにとっては顧客が減っていきます。しかし、医療ツーリズムで海外から患者さんを呼びこむことができれば、顧客は増えます。
また、医療ツーリズムは患者さん1人当たりの売上を増やすことにつながります。
日本の医療費は世界的に見ても安く抑えられています。国民皆保険制度があるため、患者さんの窓口負担は基本3割。しかし、保険者が負担する7割を足して10割全部の医療費を他国と比較してもまだ日本の医療費は安い方なのです。
以下をご覧ください。
盲腸手術にかかる医療費の国際比較
各国 | 盲腸治療費相場 |
---|---|
アメリカ合衆国 | 250万円 |
イギリス | 151万円 |
カナダ | 150万円 |
フランス | 113万円 |
香港 | 90万円 |
オーストラリア | 86万円 |
中国(上海) | 68万円 |
日本 | 40万円 |
※データ出典「AIU損害保険」(2008年)/入院日数2~3日
日本がこのように外国と比べて安価に済むのは「医療とは公的なサービスの一つである」という高い志を今も貫いており、「厚生労働省」が医療費点数制度で医療費の高騰を抑えているからです。これは日本の美点といえます。
しかし裏を返せば、医療従事者の収入が外国と比較して少ないことにつながっています。
医療ツーリズムで海外の患者さんが日本の診療を受ける場合には、診療費は日本の健康保険制度外になります。つまり法的には「自由診療」です。そのため、診療費をいくらに設定すればいいのかは、基本的にはクリニックごとに決めればいいことになります。
ただし、厚生労働省の「訪日外国人の診療価格算定マニュアル 第2.4版」(令和2年1月9日)によれば、
外国人診療価格は日本人診療価格と比較すると2.29倍となる
と例示しています(あくまでも例)。つまり、通常の診療と同様に点数計算を行って、1点10円ではなく、22.9円で計算しても妥当な範囲内ではないかというわけです。
ですから、医療ツーリズムの場合には患者さん1人当たりの診療費を上げられる可能性があるのです。これはクリニックの経営にとってはプラスです。
参照・引用元:「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」
まとめ
現在、新型コロナウイルスのパンデミックによって人の移動が制限されていますので医療ツーリズムもいったん休止状態となっています。しかし、より良い医療を受けたいという
ニーズがなくなることはありません。また、日本の高い医療技術が世界的に注目されていることも確かなのです。医師・クリニック院長は医療ツーリズムによる患者さん受け入れについて考えてみるのはいかがでしょうか。
取材協力:「株式会社JM International」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2021年7月時点の情報を元に作成しています。