電子カルテが普及しない理由とは?

厚生労働省が公表している「医療施設調査」によると、2020(令和2)年の一般病院における電子カルテシステム普及率は57.2%です。

病床規模が400床以上の病院に限っては91.2%とかなりの普及率ですが、全体として約半分であることを考えるとまだまだ普及率が低い印象です。一方、一般診療所における普及率は、2020(令和2)年では49.9%とこちらも約半数。

同調査によると、2008(平成20)年の14.2%から、2011(平成23)年は21.9%、2014(平成26)年は34.2%と年々普及率が上がっていますが、まだまだ割合的には半分以下。

また、一般診療所での電子カルテシステム普及率も、2008年=14.7%、2011年=21.2%、2014年=35.0%、2017年=41.6%とほぼ同程度となっています。

一般病院400床以上200~399床200床未満一般診療所
平成20年14.2%38.8%22.7%8.9%14.7%
平成23年21.9%57.3%33.4%14.4%21.2%
平成26年34.2%77.5%50.9%24.4%35.0%
平成29年46.7%85.4%64.9%37.0%41.6%
令和2年57.2%91.2%74.8%48.8%49.9%

大病院の電子カルテ普及率が9割を超えているのに比べて、規模の小さい病院や一般診療所における電子カルテ普及率は少々伸び悩んでいる印象を受けます。では、一般診療所で電子カルテがなかなか普及しない理由はどこにあるのでしょうか?

医療用情報システムの開発や販売などをおこなう立場から、電子カルテ導入を検討されている先生方と関わる機会も多い、株式会社三栄シスポ・取締役の中井貴士さんにお話を伺いました。

(以下は、取材時の中井氏の発言です)

目次
  1. 電子カルテの普及率が低い2つの理由
    1.  理由1:紙カルテの使用歴が長い医療機関が多いから
    2. 理由2:紙カルテでしか伝わらない、書けないことがあるから
  2. 新規開業のクリニックでも電子カルテの普及率は7割にとどまる
  3. 電子カルテへの移行を促進する外的要因
  4. 中小医療機関における電子カルテの普及に必要なこと

電子カルテの普及率が低い2つの理由

三栄シスポが販売している診療点数計算レセプトソフト「ORCA」は、紙カルテ、そして電子カルテを導入されている医療機関どちらにもご利用いただいています。

電子カルテの普及率は医療施設全体で見ると4割以上と言われていますが、私が携わっているORCAユーザー内での普及率はさらに低く、全体の3割程度となっています。

 理由1:紙カルテの使用歴が長い医療機関が多いから

普及率が低い理由のひとつは、開業してからの年数が長く、すでに紙カルテでの診療が板についている医療機関が多いからです。長年紙カルテを使ってきた医療機関にとって、電子カルテは操作上のハードルが高いです。これは、今まで手紙で連絡を取り合っていた世代のかたに、「LINEで連絡をとりたいから明日からスマホに変えてほしい」と伝えるようなものです。

理由2:紙カルテでしか伝わらない、書けないことがあるから

もうひとつは、紙カルテから電子カルテに切り替えることで“できなくなること”が出てくるためです。たとえばある先生は、「重要な内容を書くときは自然と筆圧が強くなるから、その文字と筆圧を見た瞬間に、診察時の記憶をつぶさに思い出せる」とおっしゃっていました。また、行間にまで微妙なニュアンスが落とし込まれるとも聞きました。

さらに、病名の表記についても、紙カルテだからこそできることがあります。

この背景には、2001(平成13)年に厚生労働省が公表した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」のなかにある、「医療用語・コードの標準化」の推進が挙げられます。

「医療用語・コードの標準化」について

レセプト電算処理システム、電子カルテシステム、オーダリングシステムそれぞれのマスターは、各システムが独自に構築してきた。例えば、同一疾病・同一診療行為を表すマスターレコードであっても、マスター毎にコード体系が異なり、また、傷病名等の表記も一致していないことが多かった。その際、保険請求のためのレセプト作成にあたっては、電子カルテコードからレセプト電算処理システム等の保険請求用コードへの変換が必要。このために、レセコンメーカーや医療機関が独自にコード変換テーブルを開発したり、請求事務担当者がコード表等を参照しながら入力し直したりといった実情が、医療情報のIT化を推進する上での課題だった。
これを解決するには、統一マスターを構築し、その使用を義務付ける必要があるが、既に長年運用されているマスターを直ちに統一することは困難。そこで「医療用語・コードの標準化」の方法として、レセプト電算処理システムマスターと、電子カルテシステムマスターとの用語の統一とコードの対応付けを行うこととした。しかし、この「医療用語・コードの標準化」は、紙カルテではまだまだ進んでおらず、従来通り、傷病名等の表記が統一されていない状態でもOKとされている側面がある。(参考:厚生労働省保険局 診療報酬情報提供サービス「医療用語・コードの標準化について」)

紙カルテは、たとえば風邪の症状によって、「風邪」「扁桃腺炎」「上気道炎」とさまざまな病名での表記が認められていました。
しかし、厚生労働省は標準病名マスター(病名表現の些細な違いをなくし、「1つの病気(疾患)に1病名表現、1病名コード」を実現するために作成された病名一覧表)を告示し、上記のプロジェクトを2010年から進行。電子カルテを使う医療機関は、この標準病名マスターを使ってレセプトを提出することが通例となったことから、風邪が喉に起因している場合でも頭に起因している場合でも、標準病名「上気道炎」との記載が求められるようになりました。

しかし、紙カルテを使っている先生のなかには「この風邪は『上気道炎』ではなく『風邪』と表記すべきだ」と考えている方もいます。このように、診療に役立つ情報が記載できなくなり、表現の不自由が発生することから、電子カルテへの移行に激しく反発する医師も多いです。

ただ、標準化を進めることで、疾患の統計や、地域ごとの感染症の流行りといった統計も取りやすくなるため、良い側面も多分にあります。

新規開業のクリニックでも電子カルテの普及率は7割にとどまる

ここ数年でお付き合いさせていただくようになった新規開業の医療機関だけを見ると、電子カルテの普及率は約7割にまで上がります。医療機関の開業年数比率で見ると、電子カルテの導入率の伸びは顕著です。

しかし、新規開業の医療機関でも電子カルテの導入率が10割にはなりません。7割程度にとどまっているのには、主に2つの理由が考えられます。

ひとつは、先生の開業年齢です。
肌感ですが、55歳前後を境に、電子カルテ導入への姿勢も違うように思えます。55歳以上の年齢の先生方は勤務医時代に自分で電子カルテを使ってきた経験が少ないため、今からIT機器へのリテラシーを高めるとなると大変です。規模が大きい病院は電子カルテの導入が進んでいますが、診療の際も先生が自分で操作することは少なく、クラークさん(医療オペレーター)がついていることがほとんど。
いざ自院に電子カルテを導入しようと思うと、一から操作を学ばなくてはならなくなるため、その分ハードルが高くなり、紙カルテに踏み切ると考えられます。

ただ、上記のようなことから、「クラークを採用することで普及率も上がる」と思われるかもしれません。しかしほとんどの医療機関は、開業時の資金がそれほど多くないため、雇用のコストも削減する必要があります。

私はこの業界に入って20年以上ですが、20年前を振り返ると、どこの銀行さんも開業医に対しては列を作って『うちからお金を借りてください』とお願いするほどでした。
ところが今は違います。社会保険の割合は2割から3割に上がっており、在宅医療の促進によってこれまで大多数を占めていた外来メインのクリニックは収益が減少しました。

このような状況から、金融機関にとって医療機関は優良な融資先ではないとされるケースが増えました。新規開業する医療機関は、承継でない限り、土地代・建物代・医療機器代すべてひっくるめて億を超える予算になる上に、融資も厳しい。となるとクラークさんを雇うことはおおよそ不可能といえるでしょう。

電子カルテへの移行を促進する外的要因

これまで、電子カルテが普及しない点についてたくさん話してきましたが、長年紙カルテを使ってきた医療機関でも、外的要因によってやむなく電子カルテに切り替える場合は増えています。

たとえば、レントゲンのデータや検体検査の結果を連携先の医療機関から飛ばしてもらうために、受け取る側の医療機関も電子カルテが必要になり、導入に踏み切ります。また、若い世代の医師に承継するタイミングで切り替えることもよくあります。

開業医へ取材/紙カルテからクラウド型電子カルテに移行してよかったこと

さらに、これから増えていくと考えられるのは、在宅医療の促進に伴う電子カルテ化、マイナンバーカードの保険証利用への対応です。日本が国策として医療の中にデジタルを持ち込んでいくことで、電子カルテを使わざるを得なくなる医療機関は増えると思います。

中小医療機関における電子カルテの普及に必要なこと

今後、中小の医療機関における電子カルテの普及率を上げるためには、まずは電子カルテメーカーが、導入時の負担を減らしてあげることが必要だと思います。
特に高齢の開業医であれば、10年後も開業医として続けていられる可能性が100%ではないことを考えて、初期費用の削減を重視したいはずです。

また、従量課金制をとることも有効だと思います。


医療機関ごとの診療のボリュームによってコストを変化させれば、使ってもらいやすくなるはずです。簡単に言えばスマホの料金プランのようなものです。過去に美容形成の医療機関が、「保険診療がない月もあるから、使った分だけ(ORCAの使用料を)お支払いできるプランがあればいいのに」と仰っていたこともありました。


たとえ“使った月だけ”が難しいとしても、基本料金を極めて少なくするなどの提案を、ORCAをはじめとするレセプトソフトや電子カルテメーカーができるようになるといいのではないでしょうか。

我々が医療機関に電子カルテの導入を提案する際には、まずその医療機関がどのようなことに困っていて、電子カルテを導入することによってそれがどのように解決できるかを考えるようにしています。たとえば、雇用のコストを削減したいと考えている先生には、電子カルテを導入することで人員を削減できる使い方をお伝えします。


他には、紙の保管場所に困っている先生もいるので、保管スペースが減り、クリニック内の導線がスムーズになることをより詳しく説明する場合もあります。

おそらく、目に見える変化が大事なのだと思います。電子カルテ導入による分かりやすい変化が、先生にとっても大きな成功体験になり、「導入してよかった」と思ってもらえる可能性につながります。

ITリテラシーが高くない世代であれば、導入によるストレスも大きいはずなので、それを上回るメリットを感じていただく必要があるでしょう。

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電子カルテの導入に悩んでいる先生方の悩みを取り除けるよう、我々もより尽力できればと考えています。

また、電子カルテの導入に悩まれている先生方は、カルテメーカー等に問い合わせをする際、カルテを使うことで実現したいこと、解決したい課題などをぜひ伝えていただければと思います。

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無床クリニック向け 在宅向け

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提供形態

サービス クラウド SaaS 分離型

診療科目

全て

中井 貴士

取材協力 株式会社三栄シスポ 取締役 | 中井 貴士

医療業界に20年以上携わり、株式会社三栄シスポにて医療機関におけるORCA(日医標準レセプトソフト)の導入サポート等を実施。「医療機関のかかりつけ企業になる」べく、クリニックの先生方とのコミュニケーションを重視した対応により、三栄シスポとして日レセクラウドORCAの導入件数No.1(ORCAカンファレンス2021より)を獲得。


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執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


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