医師の一言が業務を変える

臨床で働いている医療従事者は、業務をおこなっていくうえで、さまざまな失敗から学び、改善や工夫を繰り返し、思考錯誤しながら、より良い職場環境を目指しています。ときには、自分の部署を良くするため、他部署と衝突することも少なくなりません。お互い協力しあって環境を良くしていけばよいのですが、中には「自分の部署が忙しくなる」と言って提案すら聞いてくれない人もいます。

そんなときに大きな決定権を持つのが医師です。医療現場では、医師の指示に従って仕事をすることがほとんどだからです。そのため、医師が言うことであれば、従う人も多いのが現実です。私自身は、あまり医師に頼って業務改善することは好まないタイプではありますが、医師に頼らないとどうしようにもならないこともあります。本記事では、医師へ相談して業務改善につながったケースについて紹介したいと思います。

目次
  1. 医師に意見が言えるようになった医療従事者
  2. 怒られる医師
  3. まだまだ医師の権力は根強い
  4. 中間的存在の看護師
  5. なぜ、他職種は看護師へ頼むのか
  6. 実際に改善したケース
    1. 1.検査科の改善
    2. 2.薬局の改善
    3. 3.事務の改善
  7. 医師の言葉で良くもなれば悪くもなる

医師に意見が言えるようになった医療従事者

近年、医療従事者たちは医師の対して強く意見が言える傾向になってきていると言えます。

以前であれば、「医師の言うことは絶対」「先生様」と言われ、「医師にはむかうなんてもってのほか」と言われた時代が少なくともありました。

ですが、最近ではパワハラやモラハラ、セクハラなどで問題視されることも多くなり、医師も迂闊に思ったことを言うことができなくなっています。現に、以前、私が一緒に働いていた医師が、パワハラが酷かったことから訴えられて、病棟で仕事ができなくなりました。

数十年前であれば医師の暴言は当たり前で、働く人たちもそうした環境下の中で育てられていたでしょう。しかし今では、「医師からパワハラを受けた。私は辞めます」「精神的に立ち直れなくなりました」とはっきりと病院側にも伝える人が増えたため、問題とされることが多くなってきたのです。今では、医師が看護師に怒られたりする時代にも変化してきているのです。

怒られる医師

毎日を忙しく働いているのは医師だけではありません。看護師、検査技師、リハビリなど多くの職種の人たちも遅くまで残って仕事しています。忘れてはいけないのは、患者さんを見ているのは医師だけではないということです。

他の職種がいるから、いちはやく患者さんの異常に気がつくことができ、命を救うことができます。また、看護師は医師が出した指示がなければ動くことができません。そうすると患者さんも困り、看護師だって業務を終えることがきません。そのため、医師も看護師から、「オーダー出さないと、私たち何もできませんよ」「私たちに残業させるのですか」「患者さんずっと待ってますよ」など言われるようになってきています。

「医師だからといって偉いと思うな」とベテラン看護師が医師に言ったのを聞いたこともあります。そのぐらい時代も変化してきているのです。

まだまだ医師の権力は根強い

時代は変化してきてはいるものの、まだまだ医師の権力は根強く、看護師や他の医療従事者も医師に対して意見が言える人は少ないです。しかし、医師の権力があるからこそ、経営や業務を改善できることも多々あります。

中間的存在の看護師

看護師の業務でもっとも大切なことは患者さんの看護。他の職種ともさまざまに関わりながら業務をおこなっていきます。そのため、医師と中間的存在にある看護師は、他職種から介入を頼まれることも多いです。

よく他職種から聞かれることが、「先生に〇〇聞いといて」「このオーダー〇〇だけどいいのかな」です。なかには、専門外なことまで聞いてもらおうとする人がいます。実際に、この手の電話だけで1日何件も来ます。これでは、いくら時間があっても看護師の本来の業務を終えることができません。

なぜ、他職種は看護師へ頼むのか

なぜ、他職種の人は看護師に何でも聞かせようとするのでしょうか。直接、医師に連絡した方が詳細を聞いたり、内容を確認したりすることができるはずです。わざわざ専門外の看護師に聞くより、専門の人から聞いた方がよりわかるはずです。また、看護師を通すことで手間もかかります。

  1. 他職種→看護師→医師→看護師→他部門へ伝達
  2. 他職種→医師

このふたつを比べたら、②の方が速いのは明らかです。それでもわざわざ看護師を介してこようとします。

それには下記の理由があります。

  • 怒られたくないから
  • 医師とできるだけ関わりたくないから
  • どこにいるかわからないから

その中でも一番の理由が、「怒られたくないから」です。自分たちが怒られたくないために、看護師に頼もうとするのです。「看護師であれば怒られてもいいのか」と思い、さすがにこれを実際に聞いた私は我慢ができませんでした。

実際に改善したケース

こうした経験を経て、実際に改善したことを紹介します。

1.検査科の改善

看護師は、日常的に患者さんの採血をおこないますが、夜勤明けの早い時間からおこなうことが多いです。そのため、採血の結果が出るのも早く、医師はまだ出勤していないこともあります。ですが、採血の結果の中には、一刻も早く医師に伝えた方がよいこともあります。

そこで、検査科から「採血の〇〇がかなり高いから先生に連絡して」と看護師に連絡がきて、最初はそれを受けていました。異常だから早く医師へ伝えた方がよいと看護師も考えるからです。そして、出勤前の医師へ看護師から報告して、医師は検査の追加指示を出した内容を看護師から検査室へ連絡していました。

しかし、看護師の夜勤明けは忙しく、時間との勝負です。排泄処理、手術患者の準備、採血、バイタル測定、食事介助、配薬など、やるべきことがたくさんあります。その忙しい最中、医師とのやりとりで10分近く時間をロスします。朝の看護業務はとても忙しいため、10分のロスはとても大きいです。

そのため、看護師からも検査科へ、直接医師へ連絡できないか聞いたことがありましたが、検査科は「まだ医師が出勤してないから」「怒鳴られそうだから」という理由で直接電話しません。これではただ単に看護師に負担がかかるだけです。そこで看護師は医師に相談しました。医師も「直接話した方が指示は出しやすい」と言われたのでそのことを伝えました。しかし、それでも検査科から何度も連絡がくるため、医師へ直接言ってもらうよう依頼しまいした。

その結果、検査科から一切連絡がこなくなり、検査に関する報告はすべて検査科からになりました。常識的に考えれば当たり前なことでしょう。しかし、それまでおこなおうとしなかったことがとても残念でした。

2.薬局の改善

私も含め、当時一緒に働いていた看護師は薬局とのやり取りに一番苦労していました。当時、薬局の人数が少なかったため大変だったことはありますが、年々少しずつ人数も増えていっていました。しかし、業務内容が一切変わることがなかったのです。

薬局がおこなう業務は、医師が処方した内服薬と翌日の点滴を病棟にただ運ぶだけです。一見普通のように感じますが、その薬を配薬し、薬がなくなる日を確認し、なくなった日に医師へ再度処方してもらい、薬局は薬を病棟に上げ、看護師は配薬しというのをずっと繰り返しおこなっていたのです。

患者さんの中には大量に薬を服用している人もいます。その内服薬をすべて看護師が配薬していたため、それだけでも時間がかかり、看護師としての業務が全くできませんでした。

これでは負担が大きいとスタッフからも意見があり、いろいろな方法を考え、薬局には何度も相談しましたが、受け入れてもらうことができませんでした。

その配薬を看護師がすることで残務が多くなっているのに、「なぜ、看護師はこんなに残業が多いのか」と院長から指摘がありました。そこで一斉に口をそろえて言ったことが、「薬に関する業務が多い」です。看護師が薬に関してどんなことをやっているか細かく院長に伝えました。

すると院長は、「それは看護師の仕事ではない」。この一言で業務が大きく動きました。さすがの薬局も、院長に言われたら改善しなくてはなりません。私たちが考えた提案を受け入れてくれたのです。しかし、薬局も人数が少ないことは看護師もわかっていたため、お互いに協力し合うことにしました。それでも、今までの業務量半分以下になったため、大きな改善と言えます。

3.事務の改善

事務は経営管理のため、コストなどでの動きに多く関わります。しかし、細かいお金の動きというのは事務、もしくは上層部の人しかわからないことが多いです。そのため、どの部署でどれだけ利益をだしたか、どんなことで利益を得られるかなど、事務しかわからないことも多々あります。

私がいた病院は、まだ経営がうまくいっていない状態でした。ですが、患者さんも入って病床も満床、医師も手術を頑張りそれなりに件数をこなしていました。なのに、思った以上に収益が伸びない。病院の収益がなければ、職員に給料が払えなくなります。現に、職員の賞与も減額されています。医師も看護師間もみんな不思議に思っていました。

「何かおかしい……」。今の事務に経営を任せてられないと感じた医師は、以前一緒に働いていた事務員をヘッドハンティングしました。その事務員は、病院経営を立て直した経歴があります。そして、その事務員が調べたところ、取れるコストが全く取られていなかったのです。言わば「やり損」になっていました。そのコストに対しては医師が大きく関わります。そのコストさえ取れていれば、年間数百万~一千万円程度収益が見込めました。そして驚いたことに、その仕事は事務次長の仕事であり、それを認識していたのです。

コスト的な詳しい話はわかりませんが、そのコストを得るために、医師とまめにコンタクトをとっていかなくてはならなかったそうです。ですが、いつも仕事をしない事務次長で、医師もそれを認識していました。そのため、医師から怒られることも多かったです。それが嫌で、「医師に話をしなかった」という話でした。それを知った医師や上層部はもちろん大激怒。あっという間に病院全体へ広まりました。

最初は解雇の話も出ていたそうですが、長年働いていた経緯や年齢も考え、解雇は見送ったそうです。もちろん。その事務次長は降格となり、コストに関わる事務的なことからは外され、雑用的な仕事をするようになりました。

医師の言葉で良くもなれば悪くもなる

この事務次長がおこなったことは許される問題ではありません。しかし、声をかけるたび怒る医師にも問題があります。毎回怒られていては誰だって嫌になります。医師の言葉で経営や業務が改善することもたくさんありますが、悪くさせることもあることは、みなさんも知っておく必要があるでしょう。

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執筆 男性看護師ライター | ベル

看護師歴14年目。救急、ICU、外科、内科を経験トラブルも多い看護の世界でいろいろいあってもこの仕事が好きな男性看護師。 現在、管理職として働きながらブログなどでも経験を活かしたノウハウを執筆しています。


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