開業医のみなさんが特に悩むことの中に、スタッフ教育、院長の業務過多があります。
開業し始めたばかりの頃は、院長が多くの業務を担うケースが多いかもしれません。しかし、いずれは他のスタッフに業務を分散し、診療はもちろん、経営やマネジメント業務に注力したい。そのためには、スタッフが業務における自発性を持っている必要もあります。
兵庫県や東京都に計8クリニックを経営する、医療法人 梅華会の理事長である梅岡比俊医師による「クリニック開業・経営ベストプラクティス」第3弾は、スタッフの自発性を育てるコミュニケーション方法や、梅岡医師が実施してきた、権限委譲を実現するための具体的なステップをご紹介します。
なお、以降は梅岡医師によるアドバイスとなります。
院長はプレイヤーでありマネージャー
開業されている先生の中には、スタッフの自発性を伸ばしたいと考えられている方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ご存じの通り、院長は診療業務だけしていれば良いということではなく、自身のクリニックの経営について考える必要があります。プレイヤーかつマネージャーでなければならないですよね。
しかし、日々書類仕事などのいわゆる雑務も発生してくるので、全てを院長一人で行うには限界があります。そうなった時に、院長でなくてもできる仕事を、院長が指示することなくスタッフが自分たちで考えて動いてくれたらどれだけ助かるでしょう。
分院をきっかけに権限委譲へ。リーダー制の導入と苦悩
ではどのようにスタッフの自発性を伸ばしながら、権限委譲を行っていけば良いのか。
開業当初、私は雑務も含め、何もかも自分で行う院長でした。
しかし2011年、分院展開したことをきっかけにリーダー制を導入し、そこから少しずつ権限委譲を進めていきました。
それまでの私はというと、朝は一番に来てクリニックの鍵を開け、小口の管理を行い、スタッフのシフトも管理して、時には掃除も実施する。待合室のモニターやDVDプレーヤーが壊れたら直したり、部品を購入しに行ったり。毎日の朝礼、終礼、ミーティングも全て私が仕切っていました。
しかし私の体は一つなので、本院で仕事をしながら分院の朝礼に顔を出すことはできません。このような状況をきっかけに、少しずつ業務をスタッフに委譲することに決めたのです。
もちろん、最初から上手くいったわけではありません。
リーダーのひとりに「身だしなみのルールを守っていない人がいるから、なんとかしてくれ」と指示すると「理事長が身だしなみを直せと言っている」とそのまま伝えるだけになってしまい、結局何も改善されなかったという出来事もありました。
当時私はリーダーに、言ったことをそのまま伝えるのではなく、梅華会の理念に基づいて行動してくれることを望んでいました。
しかし、思うようにならなかった私は「直っていないけどどうなっているのか?」「伝えても直っていないなら一緒やないか」と詰める事態になり、リーダーとの関係は悪化してしまったのです。
権限委譲をする際に、院長が意識すべき4つの要素
このような経験を踏まえて私が気づいた、権限委譲を進める上で院長が理解しておくべき4つのポイントは、以下の通りです。
- スタッフは与えられた目標だけでは動けない
→スタッフは目的(ミッション)によって動機付けされる - スタッフは仕事の先に得られる未来を求めているが、見えないから他人事に感じる
→何事も未来が見えるように伝えることで自分事になる - 人生において「働くことの意味」を伝え続ける
→院長の想いを発信し続ける - スタッフ教育は、クリニック運営の最重要事項
→スタッフが成長するか否かは院長の責任であると自覚する
まずはスタッフが「院長がやりたくない仕事を丸投げされた」と感じないように、権限委譲する意味から伝えていく必要があります。
私は常々「院長は診療と経営に注力することが大切」「自分でなくてもできる仕事は他の人に任せる」と伝えています。
例えば院長の給料とスタッフの給料が10倍違うとしたら、院長はスタッフよりも10倍価値のある仕事に集中する必要があるのです。そして、そこで出した結果がクリニックに還元され、クリニック全体が潤う。組織とはそういうものだと私は考えています。
また、院長の想いを発信し続けてください。「こういうクリニックにしたい」「患者さんにこんな貢献をしたい」「スタッフにはこういうふうに成長してほしい」など、院長の本音のメッセージ、本当に実現したいことを真剣に伝え続ける。これが「理念に基づいた行動」にも繋がるのです。
説明やフォローは欠かさない。権限委譲の手順
権限委譲する時の手順については以下の通りです。
1.委譲したい業務をリストアップする
初級→中級→上級と、相手のレベルに合わせて委譲しましょう。
2.目的と、期待することを説明する
3.スタッフ自身が自分で判断できるような環境を作る
4.スタッフが自信を持てるように承認やフォローをする
5.委譲された意義をスタッフが自覚できるようサポートする
6.順次委譲する業務のレベルを上げていく
そして一番大切なことは、スタッフが失敗した時には、最終的にトップが責任をとる覚悟を持つということです。そうすることで、スタッフは安心して責任の重い仕事を遂行できます。
また、権限委譲する相手を選ぶことも大切です。委譲する内容にもよりますが、必ずしもスタッフが、その内容に長けている必要はありません。それよりも、クリニックの理念やミッションに共感していること、院長とラポール(信頼関係)が築けていることを基準に人選してみてください。
院長がクリニックで一番パフォーマンスの高い仕事に集中するためにも、仕事や権限を委譲できる仕組みを作っていきましょう。
(編集:CLIUSクリニック開業マガジン)
この記事は、2022年12月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療法人 梅華会 理事長 梅岡比俊
1973年生。
2008年、「梅岡耳鼻咽喉科クリニック」を開設。
2011年に医療法人梅華会理事長に就任し、分院開設。
以降は2021年までに分院・フランチャイズなど合わせて9つの施設を開設する。
『卓越したクリニック運営が日本に普及浸透し、関わる人々を幸せにする』をミッションに掲げた開業医コミュニティ「M.A.F ( https://maf-j.com/ ) 」も主催する。
トライアスロンやマラソンに挑戦するアスリートの一面や、野菜ソムリエ、歴史能力検定。ファスティングマイスターなどの各種資格も併せ持つ。
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