クリニックの経営を担うのは、院長だけではなく、看護師や医療事務など、スタッフの存在が大きいです。しかし、スタッフが定着しないこと、さらには理想とする人材が採用できずに悩む院長は少なくなりません。
今回は東京都内で在宅医療(訪問診療)クリニックを営む、訪問利確ドクターが自院に合ったスタッフを採用するために実施している“SNS採用”のメリットやポイントについて、お話を伺いました。
利用料無料のハローワークを活用しない手はない
――クリニックを開業する際はどのようにスタッフを集めましたか?
昔から知っている優秀な看護師、医療事務に働いてもらえることになったので、開業時は一般募集することなく、それぞれ1人ずつ直接採用することができました。
その後、患者が増えるのに合わせて、看護師と医療事務をそれぞれ1名ずつ増やした経緯があります。
参考:「在宅医療(訪問診療)クリニックのスタッフ構成は何名が最適?」
――開業後にスタッフを増員した際は、どのように募集をかけましたか?
稼働後は、Twitter経由で1名、他のルートで1名を採用しました。
ほかにも、ハローワークでも募集は常に出しています。ハローワークは掲載無料ですし、採用時に仲介側へ支払う成功報酬もありません。ですから、ハローワーク求人は出しておいて損はないと思います。また、ハローワークは基本的に転職積極層がメインで見る媒体のため、条件が合えば話が進みやすい印象です。
一方、Twitterでの募集を見てDMをくれる人は、“半年後に働き始められたらいいな”といった感じで「絶対に転職!」とは考えていない人が多いです。
求人を出す媒体によって、応募者の本気度には若干の違いがあると思います。
Twitter採用のメリットは、ツイート内容から応募者の人格が分かるところ
――いろいろな採用方法を試してみて、一番自分に合っている採用方法はどれだと感じていますか?
Twitterですね。Twitterに限らず、SNS採用は他にはないメリットがあります。
どんなメリットかというと、応募者は自分の投稿を見て、診療方針や人柄をある程度知ってくれているので、クリニックや医師と親和性の高い人が集まりやすいということです。私の周りの医師も「Twitter採用は失敗がない」と口をそろえて言います。おそらく「失敗がない」というよりは、応募者側も、その医師とソリが合うかどうかを応募の段階から判断してくれているのだと思います。
クリニックの経営者間で“Twitter採用をしている”と話すと驚かれることも多いのですが、個人的には、一般採用のほうがよほど怖いです。一般採用であれば、10分程度の面接で相手のことを見抜かなければいけない場合が多々あります。Twitterであればお互いのつぶやきを遡って確認できるため、その人の素の姿がよく分かります。
――訪問利確ドクターのアカウントは、本名もクリニック名も明かしていないですが、それでも応募はあるのですね。
そうなんですよ。そもそも条件云々の前に、地理的に通えるかが問題になると思います。クリニックの具体的な場所をネット上で公表していませんが、プロフィール欄に“東京都心”と入れて東京23区内であることは明言しているので、少なくとも通勤圏である人が応募してくれているのだと思います。
ゼロフォロワーのアカウントやぶっきらぼうなDM・応募には要注意
――Twitter経由でやりとりをした応募者と実際に会い、印象が違ったことはないのでしょうか?
ツイートの内容と本人の印象にはギャップがないことがほとんどです。
たとえばTwitterのオフ会で集まっても、普段からやりとりをしている人とは初めて会った気がしないですよね。日ごろからやりとりしている人ではなくても、問い合わせのDM(ダイレクトメッセージ)を見たらどんな人かわかります。中にはあいさつもそこそこに「給料教えてください」と唐突に聞いてくるような方もいて、そういう人も文章を見ればだいたいは分かると思います。
――応募者を見極める際に、他に気をつけていることはありますか?
応募のために即席で作ったような、ゼロフォロワーのアカウントは気をつけています。そのようなアカウントは経験上、自己紹介もあまりなく、ぞんざいな連絡が多い印象です。自分のアカウントや発言に責任を持っていないのかもしれません。よほどのことがない限り、そのようなアカウントには返信をしないようにしています。
――逆に、DMでのみ猫を被ってしっかりとした社会人に見せているパターンはありませんか?
猫を被れるなら良いです。プライベートできちんとしていなくても、仕事中にきちんとできていれば良いわけですから。人間誰しも大なり小なり猫を被って社会生活をしているので、TPOに合わせた対応ができるのなら勤務に問題ないと判断しています。
知識や技術は変化させられるが、性格は変わりにくい
――採用で重視しているポイントは?
私が重視しているのは、経験やスキルよりも性格、人柄です。技術や知識はいくらでも教えられますが、あいさつができるか、間違いがあった時にその非を認められるかといった、根本的な性格などは直りにくいと考えています。そのため、魅力的な経歴を持っていても、悪口が目立つなど、周囲に悪影響を与える人は採用しません。採用を行っていてよく遭遇する場面ですが、元の職場を悪く言う人も雇うのは避けています。
同僚と仲良くできないスタッフは、患者や協力先とうまくやりとりできるか?
――採用後、スタッフに大事にしてほしいことは?
“喧嘩せずみんな仲良くしてほしい”ということに尽きます。ちょっと感覚的に聞こえるかもしれませんが、離職の主な理由は人間関係から生じますし、現場ではとても大事なことです。
自院の仲間とうまくやれない人が患者さんと円滑なコミュニケーションをとれないですし、地域の訪問看護師さんやケアマネージャー、ヘルパーさんともうまくやれるとは考えにくいです。
また、特に在宅医療(訪問診療)クリニックの場合、病院や訪問看護ステーションなどから患者さんを紹介してもらうケースが多いため、スタッフ同士の仲が悪く、険悪なムードが漂っていると、“あそこのクリニックは不愛想だから利用しないほうがいい”という噂が立ちかねません。実際、電話をかけて“いつもお世話になっています”と対応してくれる訪問看護ステーションと、ぶっきらぼうに“いま担当者がいないからまたかけて”と返してくることが多い訪問看護ステーションのどちらと付き合うかと言われたら、間違いなく前者を選びます。
在宅クリニックの利用者から見ても、嫌な気持ちになるクリニックを利用したいと思わないのは当然のことです。
SNSを活用してファンを増やすことは、今後ますます重要に
――TwitterなどのSNSでのスタッフ募集は今後増えると思いますか?
増えると思います。SNSをうまく活用すると、本人やそのクリニックのファンを増やすことができますし、ファンが増え信用を得られることで、コストをかけずに採用ができる。そのメリットが大きいことは、今回お話しした内容からも分かっていただけたかと思います。
また、SNSではありません、MM先生が主宰されている開業医限定のオンラインサロンでリクルート機能を使えるようになったので、そこからリクルートしてもいいと思います。入会すれば、完全無料で利用できます。
医師限定オンラインサロンのマッチングサービス(リクルート機能)についてはこちらから
▶︎ https://doctorschart.co.jp/blog/other-blog/post-948/
意図的に応募者に勘違いさせるような募集要項はNG
――最後に、採用に関して大切にしていることを教えてください。
“嘘をつかない”ことです。職場を変えることにはエネルギーが必要ですので、自分に興味を持ってくれている応募者に対して失礼があってはいけません。採用前に言っていたことと採用後に言っていることが違っていたら大問題ですので、当然ですが採用時には条件をしっかり紙に書いて渡しています。
【編注:「労働基準法15条1項」にて労働契約締結時の条件の明示が定められているほか、「労働基準法施行規則5条2項、3項」では一部労働条件について書面交付による明示が義務付けられています】
たとえば、“月給30万円 ボーナス2か月”と書くと、30万円×14か月分が年収になると思う人が多いますが、蓋を開けてみたら基本給10万にいろいろな手当てがついて月給30万円だったりすることもあります。
当院に応募してくれた方に前の職場を辞めた理由を聞くと、“採用前に言っていたことと違った”という話を聞くことも多いですが、そのようなクリニックの院長は一緒に働く相手に対して誠意がないと思います。
相手に意図的に勘違いさせるようなことはせず、“入職してみたら違った”と思われる状況を可能な限り排除して採用に臨んでいます。
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特徴
対応業務
診療科目
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この記事は、2021年11月時点の情報を元に作成しています。
取材協力 東京都内 在宅クリニック院長 | 訪問利確ドクター
東京都内にて在宅クリニックを経営する在宅医療専門医。クリニック開業時からの経験を、Twitterをメインに積極的に綴っており、フォロワーは約5,000人にまで成長。メディアプラットフォーム・noteでは「結局 在宅医療って儲かるの?」などを筆頭に、在宅医療(訪問診療)に関連する赤裸々な記事が好評を博している。
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