コロナ禍にも対応するクリニック経営術:医師2名が語る“経営の多角化”と、“マネジメントの課題・対策”

2021年10月13日~15日、幕張メッセで開催された「第4回 医療と介護の総合展」。イベントでは連日講演会が開催されましたが、今回はそのうちのひとつ「コロナ禍にも対応するクリニック経営術」から、登壇者である開業医2名に、クリニック経営における実例や、経営多角化の詳細等を伺ったトークセッションの内容をご紹介します。

<登壇者>
・医療法人 梅華会 理事長・梅岡比俊氏
・医療法人社団 季邦会 理事長、AIJEX MEDICAL 役員、東京医科大学救急災害医学兼任助教・鎌形博展氏

<ファシリテーター>
・株式会社DONUTS 社長室室長、CLIUS医療事業部部長・林志紋氏

目次
  1. マネジメントの課題と「インセンティブ」という対策案
  2. 細かな干渉を辞め、結果を出すための「過程」はスタッフに任せる
  3. (1)本、(2)人に会う、(3)セミナーや授業。学ぶ方法はこの3つ
  4. これからの開業はどうなる?医師2名の意見

マネジメントの課題と「インセンティブ」という対策案

林 
おふたりはコロナ禍においても新しい収益の柱を作っていらっしゃいますが、これまで、どのような点で苦労されましたか?
梅岡
私は13年前にひとつめのクリニックを開業してからずっと、一番難しいことは“ドクターのマネジメント”だと思っています。例えば、経営がうまくいくと独立をする可能性がありますし、その際に、事前の約束と異なる事態が発生したことも何度かあります。
写真:(左から)鎌形博展氏、梅岡比俊氏、林志紋氏
梅岡
逆に、ドクター以外の人材のマネジメントではトラブルが少ないように感じます。私は2018年に託児所3園をオープン、2021年には発達支援事業を開始しましたが、これらの事業においては、事業を運営できる人材が揃ったあとはとてもスムーズでした
困難なところもありますが、多角化経営においては想像以上に苦労が少なく、円滑に運営できるんです。
鎌形
私は多角化経営に関しては“今後やっていきたい”と思っている段階ですが、これまでに3軒のクリニックを継承および開業してきたなかでは、梅岡先生とまったく同じことを感じています。ドクターのマネジメントの最適化が最大の課題であり、ずっと取り組んでいることです。ドクターの性質やスキルによって、日々体制を整える必要があると感じています。
林 
運営が軌道に乗ってくると、自分で開業してしまうドクターもいると思いますが、クリニックで働き続けてもらうために実施していることなどあるのでしょうか?
梅岡
まずは、短期的なインセンティブと長期的なインセンティブに切り分けて考える必要があると思っています。たとえば、S・A・B・C・D・Eの6段階の評価でSの評価を付けて、+30%のインセンティブにしたとしても、本人は「その10倍くらい評価されたい」と思っていることが多いです。

これは医師に限った話ではありませんが、300%の評価がほしいと思っている人に30%しか与えられないとなると、限界がある。だから、長期的なインセンティブについても考えることが必要なんです。たとえば、退職金をどのように積み立てていくか。私自身いろんな方法を試してみて、保険のように、5年ほど経つと受け取る金額が大きく増える構造を参考にしました。ただ、それでも2、3年で辞める人もいます。

だから、長期的に見たときに、将来の自分が受け取る金額を理解しやすい仕組みを作ることも必要かもしれません。
鎌形
私も長期的なインセンティブに関しては取り組み中なので、どんな方法がベストかは試行錯誤している段階ですが、自分がやっていることは、継承前提で話を通すということです。つまり、「何年後かに先生のものになるので一緒に伸ばしていきましょう」ということですね。梅岡先生がおっしゃったとおり、2、3年で辞める人を止めることはなかなか難しいのが現状です。
林 
クリニックとしての目標や視座の共有に関してはどんなことを心がけていますか?
梅岡
本質的には、物事の方向性にきちんと目を向けられる人は僕らのポジションにいると思います。そういう意味では、起業の段階でアライアンスはアリでしょう。それぞれが日本全国どこにいてもできるので、柔軟性も高いです。一方で、FC(フランチャイズ)は売り上げがどうであれ、揉めるケースが多いようです。
林 
コロナ禍前後ではスタッフのモチベーションにも変化があったり、なかには辞めたりする方もいらっしゃったかと思うのですが、それに対してはどんな対策を講じてこられましたか?
鎌形
私が経営しているクリニックは「地域の家庭医」を目指しており、最初の一年はスタッフの共感も強く、とてもスムーズでした。しかし、コロナによって状況が変わり忙しさのレベルが尋常ではなくなったことで、ドロップアウトする人が出てきているのが現状です。
鎌形
退職理由としては、「精神的にもへとへと」「家族が心配している」などいろいろありますが、説得してみても意志が変わらない場合は、仕方がないと思っています。
梅岡
職場の離職理由の最たる原因って人間関係ですよね。ですので、まずはスタッフ全員が連帯意識を持てるような組織作りを大事にしています。もちろん、スタッフに長く続けてもらうためには、心の安定だけではだめで、モノについても考えなければいけません。

じゃあモノに関してはどうしているかというと、地域平均の1.2倍の給与の実現です。ビジネスモデルを変えずに1.5倍や2.0倍ということは不可能ですので、その代わり、託児所も発達障害事業も9時〜17時の勤務時間に設定し、働きやすい環境を意識しています。

細かな干渉を辞め、結果を出すための「過程」はスタッフに任せる

林 
開業という大きなチャレンジを続けることに不安はありませんか?
鎌形
チャレンジは2つでも3つでも4つでも変わらないと思います。ただ、2つ目のチャレンジが成功したから今があると思っています。私は1つ目と3つ目は反省点が多いので、2つ目の成功は大きなポイントでした。7つも8つもチャレンジを重ねてきた梅岡先生はどうやってマネジメントしているのか気になります。
梅岡
私のなかでも勝ちパターンは見えていないですが、ひとつ言えることとしては、ドクターたちは経営したいわけではなくて診療がしたいので、診療に集中できる環境を整えることですね。たとえば、カルテやレセプトのことはできる限りサポートするのもひとつの方法です。
林 
忙しくなるにつれてマイクロマネジメントもできなくなってくると思うのですが、時間の使い方に関して工夫していることはありますか?
梅岡
私は元来めちゃくちゃ細かく干渉するタイプで、たとえばスタッフに作業のプロセス報告をさせて気に入らなかったら口を出すのもしょっちゅうだったんです。でも、コーチングを受けてからその傾向が変わりました。
参考:一般社団法人日本コーチ連盟(https://www.coachfederation.jp/
梅岡
自分の人生で本当にやりたいことに目を向けたとき、たった1度の人生の貴重な時間をマイクロマネジメントに割きたくないと気づいたんです。そこからはあえて、クリニックの真上にあった事務所を5km先に移転させて、「勝手にやってくれ」という立ち位置を物理的にもとるようになりました。「あがりは決めているからプロセス自体は勝手にどうぞ」というスタイルに変えたことで、めちゃくちゃ楽になりました。ただし、結果は出してもらいますよ。

(1)本、(2)人に会う、(3)セミナーや授業。学ぶ方法はこの3つ

林 
コーチング以外に取り入れていることはありますか?
梅岡
意識してやっていることというより幼少時から沁みついていることがふたつあって、ひとつは、親が「お前はなんだってできる」と根拠のない自尊心を高めてくれたことです。もうひとつも親に感謝すべきことですが、幼少期から制限なしに本を買ってくれたことで、今でも本好きだということです。物事を学ぶ方法って、本、人に会う、セミナーや授業と大きく3つに分けられると思うんですけど、私にとっては本が一番。

イーロン・マスクは1日4時間読書するから違いを生み出せると言われています。私は、そこまでの時間を取るのは無理ですが、1日に30分から1時間は本を読んでいます。最近読んだものでよかったのは、尾原和啓著『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(幻冬社 2021年)です。過程から共有してストーリーを作って差別化していくことは、クリニック経営においても大いに役立ちます。
鎌形
私は忙しさにかまけてほとんど本を読まないので、それが自分を遅らせていると感じていますが、ドクターズチャートというコミュニティで知り合った開業医仲間や、ベンチャー時代からつきあいのある経営者仲間とのディスカッションはほぼ毎日やっています。

「ドクターズチャート」開業医/開業準備医師オンラインサロン
公式サイトはこちらから ▶︎︎ https://doctorschart.co.jp/

鎌形
ただし、僕の場合はMBA時代に経営関連の座学を集中的におこなっている背景はあるので、それがないドクターのみなさんが経営を考えるなら、やはりまずは本やセミナー等でひと通り勉強したほうがいいかもしれません。
林 
コミュニティといえば梅岡先生は開業医コミュニティ「M.A.F」を発足されていますが、これはどんなコミュニティなんですか?
梅岡
私自身がたくさん失敗したことから、新たに開業や経営をする人たちが大きな壁にぶち当たることを事前に防ぐための知識を共有したいと考えたんです。そうすれば、誰もが私より早く成長できますから。

過去の失敗をひとつ挙げると、13年前に自院のwebサイトを作ったときに「初期費用なし・毎月5万円で情報等の変更し放題」という言葉にのせられて、その業者と契約してしまいました。しかし、よくよく契約書を読むと5年縛り、さらに年額にすると60万円。5年間で300万円も払うことがいかに理不尽であるかに気づかなかったんです。
他にも、医療業界はブラックボックス的な側面があるので、他業種の10倍の値段をつけて卸されることもあります。騙されないように注意してほしいです。

「M.A.F」開業医による開業医のための 日本最大のコミュニティ
公式サイトはこちらから ▶︎ https://maf-j.com/

林 
鎌形先生は失敗のご経験はありますか?
鎌形
挙げたらキリがないです。たとえば、一軒目は木造家屋だったので、継承したはいいもののあちこち雨漏りがして床下にはシロアリ。完全に改修すると多額のお金が必要なので移転することにしました。また、経営面を他の人に任せたところオペレーションが回らなくなって大変だったこともありました。きちんと考えれば未然に防げたかもしれませんが、そればかり考えていると前に進めません。そもそも私自身の経験は浅く、やってみないとわからないこともあるので、検証に時間を捧げるよりは売り上げを伸ばすことにリソースを割こうという考えでやっています。
林 
「当たって砕けろ」だけど、「取り返しのつかないようなことは慎重にやる」という感じでしょうか?
梅岡
リスクとリターンの話ですよね。日本人の9割はリスクの解釈を間違えていると言われていて、私自身もそのひとりで、リスク=デンジャラスだと思っていましたが、実際はそうではない。正解は「不確定要素の振れ幅」なので、プラスに働くこともあればマイナスに働くこともあるんです。

振れ幅を分析して、ハイリスクであるのかローリスクであるのかを考えることは大切。たとえば、内視鏡の点数が高いことを見越して内視鏡を導入するとしたら、消化器内科の先生が辞めるリスクも考える必要がある。それぞれに対してのリスクとリターンを考えることが大切なんです。

これからの開業はどうなる?医師2名の意見

林 
最後の質問です。コロナ禍ということで開業をためらっている先生も多いですが、この点に関してお二人はどうお考えですか?
梅岡
保険診療前提で考えると、値決めの経営権は我々にはなく、行政の方針に従う必要があるので、開業したいのであれば早く始めるのがいいと思います。ただ、コロナ禍になる以前より立ち上がりが大変だという覚悟は必要でしょうね。
鎌形
医療政策のゼミにいたときに教わったのですが、医療は、政策によってこの先10年の指針が今日の時点で決まっているから、まずはそれを知ることが大切です。
10年間の流れを抑えておけばうまくいくようになっているんです。少なくともB級は目指せる。

そして、それを実施できるのが経営者です。
コロナというのは非常に大きなイレギュラー要素でしたが、それでも、今となってはだいぶこの先が見えてきているし、日本の医療がどういう方向を向いているか今の時点で改めて認識しておくことが大切だと思います。
診療科によっては、今が開業のタイミングではない可能性もありますが、私自身はチャンスだと思ったからこないだ3軒目を立ち上げたばかりです。コロナの影響で発熱診療は患者が絶えず、周りにクリニックがないこともあり患者数はゆっくり増えています。
きちんとリスクマネジメントしながら挑戦すれば、他業種に比べればまだまだ、そこまで厳しい世界ではないので、チャレンジでき得るタイミングだと思います。

梅岡 比俊

取材協力 医療法人 梅華会 理事長 | 梅岡 比俊

勤務医を経て2008年に兵庫県西宮市に開業したことを皮切りに、兵庫県内に耳鼻咽喉科4院、小児科2院、東京都内に消化器内科1院の計7院を経営。さらに、2016年には開業医コミュニティ「M.A.F」を発足し。2019年、企業主導型託児所3園をオープンした後、2021年には発達支援事業まで開始。


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鎌形 博展

取材協力 医療法人社団 季邦会 理事長 | 鎌形 博展

都立多摩総合医療センター・東京医科大学病院救命救急センターを経て、2017年には慶應義塾大学大学院にてMBAを取得。医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には都内に街のクリニック 日野・八王子を新規開業。


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林 志紋

取材協力 株式会社Donuts 医療事業部 部長 | 林 志紋

クラウド型電子カルテ『CLIUS』を提供する医療事業部の部長、社長室・室長を務める。そのほか、バックオフィス業務を効率化するクラウドサービス群「ジョブカン」の新規事業立ち上げなどを担当。


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執筆 CLIUS(クリアス )

クラウド型電子カルテCLIUS(クリアス)を2018年より提供。
機器連携、検体検査連携はクラウド型電子カルテでトップクラス。最小限のコスト(初期費用0円〜)で効率的なカルテ運用・診療の実現を目指している。


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