クリニックが支給するボーナスの相場は?あらかじめ注意すべきポイントを解説

「できれば多くのボーナスを支給して、日頃のスタッフの貢献に感謝の意を表したい」ー-そう考える院長は多いでしょう。

しかし実際のところ、クリニックの業績と個人の評価は、うまく連動できるものなのでしょうか? 

せっかくボーナスを支給したにも関わらず、受け取る側に「もらって当たり前」の意識があれば、支給額への不満が上がることもあります。また、評価に応じた額を支給した結果、「不公平だ」の声が上がるようでは本末転倒です。

そこで今回、自院の賞与の制度について見直しをすべきなのか、また、見直しをする場合や新たに制度を作る場合は、どのように設計および運用すれば効果的かを解説します。

参考資料:「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)|厚生労働省」

クリニックの平均賞与はどのくらい?

厚生労働省が2021年に行った統計「第23回 医療経済実態調査」によれば、クリニックの常勤職員の平均給与・賞与は次の通りです。

職種給与賞与合計
看護職員339.5万円59.5万円399.0万円
医療技術員304.6万円66.3万円370.9万円
事務職員281.6万円52.3万円333.9万円

全国一斉に行った調査結果のため、都市、地方部などの条件によって差はあると思います。

全国平均はあくまでも目安として、地元の人材紹介会社や派遣会社などにヒアリングすることで、開業エリア周辺の相場を知ることが望ましいでしょう。

ちなみに、院長は給与2949万円に対して賞与16.4万円、医師は1159万円に対して賞与37.5万円という統計結果でした。医師は年俸制での契約が主流で、賞与が設定されていないケースが多くあるため、その他の職員に比べて賞与は低めです。

上記の統計から算出できる賞与の平均支給月数は、看護職員=2.1カ月、医療技術員=2.6カ月、事務職員2.2カ月です。

クリニックによってピンキリですが、基本給の2~3カ月が一般的な賞与の基準と言えるでしょう。一般企業と同様に、夏・冬と年に2回のボーナス支給を設定している場合は約1カ月分を2回に分けて支給されます。

支給額や計算方法のルール化が理想

原則として、賞与の有無や金額はクリニック側に委ねられます。

支給額の計算式は「基本給×月数(=何か月分の給与額と同等か)×評価係数」となりますが、「月数」についてはクリニックの業績に応じて変動させ、「評価係数」に関しては、スタッフごとのクリニックへの貢献度を鑑みて決定します。

前述した通り、賞与の有無や金額はクリニック側で決めるのが原則であり、スタッフはそれに対して文句を言える立場ではありませんが、クリニックが出した評価とスタッフの自己評価が著しく乖離している場合には労使トラブルに発展する可能性があります。

そのため、各スタッフにあらかじめ定量的、定性的な目標を定めさせて、その達成度も評価係数に反映しているクリニックもあります。

ちなみに、「労使トラブル」のうち、クリニックにとってもっともダメージが大きいものとしては、労働基準監督署に駆け込んだスタッフから裁判を起こされ、相当の額を支払うよう命じられることです。

そうした事態を避けるためにも、雇用契約書または就業規則に、「クリニックの業績やスタッツの勤務状況および貢献度合いによって支払われない場合がある」と付与しておくとよいでしょう。

業績悪化時や、スタッフのパフォーマンスが思わしくなかったときの備えとして有効ですし、実際に業績がよくなくてボーナスを出せない場合でもスタッフに事情を話しておくと、一致団結して業績向上を目指せるのではないでしょうか。

先輩ドクターたちのリアルな声は?

支給額やその算出方法をあらかじめ決めておくことは理想的ですが、開業したてなどはどのくらいの患者数を見込めるのかもわからないため、金額を出すのは難しい場合も多いでしょう。

実際、最初のうちは「業績によりけり」と付記して、損益的にギリギリのうちは出していないか、出しても1か月分というところが多いようです。

ただし、「そのぶん、患者が増えてきた暁には奮発する」という声も多数上がっています。

給与や賞与額を算出する考え方

全国の税理士が作成した確定申告書をもとにした「TKC医業経営指標(M-BAST)」によれば、診療収入に対する人件費の割合は18~19%程度です。

整形外科のようにスタッフ数が多い診療科では20%を超える場合もありますが、健全な経営の目安としては、多くても「診療収入に対する比率20%以下」が適正だと言えるでしょう。たとえば診療収入が7000万円の場合、1400万円が人件費の上限の目安となります。さらに、給与+賞与2カ月分とすると14カ月になるので、月間100万円が人件費の目安だと計算できます。

また、院長の家族が働いている場合、家族分の給与は、経費として計上可能な「専従者給与」に分類されるため、上記の人件費には含みません。

ちなみに、専従者給与は、家族が医師や看護師などの資格を有している場合と、事務のみなどを行っている場合では適性額が異なります。金額と職務の内容が妥当であるか、チェックされる場合があるため、一般的な従業員への給与とは分けて考えられているのです。

昇給額と賞与のバランス

年1回の昇給については、同水準で10年以上昇給を継続できるか、スタッフのモチベーション向上につながるかをベースに考えるとよいでしょう。

一般的には年間の昇給額は3,000円~4,000円程度が妥当です。加えて基本給の2~3カ月の賞与を加えると、スタッフ1名につき年間5万円程度の人件費が増加していくイメージです。仮に勤続10年とすると、約50万円アップする計算です。

「採用時の賃金を高めに設定しているスタッフは昇給額を低めにする」「若手スタッフは最初の昇給ペースをはやくして、他スタッフとの差を縮めていく」などの方法を取り入れるクリニックもあります。

不公平感が生まれないような工夫

昇給額や賞与は、同僚も含めて他人に開示するのはマナー違反であるとされます。しかし、院長や家族が給与を管理していない場合はなおさら、スタッフ同士がお互いの給与額を把握することも少なくありません。

勤続年数や職能に大きな差がない場合には、給与額に差をつけ過ぎない配慮も必要です。

賞与支給を安易に確約するのは注意

採用にあたって、賞与の支給を安易に確約するのは要注意です。

本来、賞与は必ず支給しなくてはならないものではありません。とはいえ、新規開業時のオープニングスタッフ募集では、「賞与3か月」などの好条件を提示して応募数を増やそうとするクリニックも多いでしょう。

そうした条件は求職者にとっては魅力ですし、競合の提示している賞与額と見比べた結果、選んでもらいやすくなるものでもあります。しかし、開業初年度で診療収入が安定していないうちに賞与支給を確約すると、後々の経営状況によっては経済面圧迫の原因にもなりかねません。

昇給についても同じで、基本給と賞与額が連動しているケースでは、基本給が上がると必然的に賞与額も大きくなるため、経営を圧迫する可能性があります。

また、支給要件も明確にしておくとよいでしょう。勤続1年以上、支給日の3カ月前から就業しているなどのルールを、就業規則に記載しておくのがおすすめです。

基本給の昇給を低くおさえるという選択肢もある

賞与の支給を確約する場合、基本給の増額に比例して賞与総額が増え続けるのを回避するために、基本給の昇給を据え置くのも一手です。

実際、「賞与額は基本給の4カ月分、5カ月分支給」などとして求人を出しているクリニックの基本給は、同規模、同レベルのクリニックよりおさえられているケースも多いです。

こうしたケースを含め、求人広告や就業規則などで明示している金額から変更がなければ制度上の問題はありません。

ちなみに、「基本給をおさえて、業績がよければ賞与に反映する」という方法は、成長フェーズにある一般の中小企業でも採用されることが多いです。業績が芳しくなかった場合のリスクヘッジになるからです。

スタッフのなかには、賞与が保証されないことを嫌がる人もいるでしょうが、一方で、クリニックが成長すれば収入も上がることがモチベーションにもなり得ます。また、クリニック側は、それを活かして全員の結束力を高めていきやすいでしょう。

パートスタッフへの対応

パート契約のスタッフにも賞与を支給しているクリニックは少数でした。ただし、2020年4月からパートタイム労働法が施行され、同一労働同一賃金の原則が適用されます。

すなわち、パートだからという理由だけで、常勤職員には認められている賞与や通勤手当が支給されないのは不合理な待遇差として違法とされるようになるということです。

ただし、能力や経験、業績や成果、勤続年数に応じて、基本給に差をつけることは問題ありません。

パートスタッフに対しては、院長が日頃から感謝している、評価している点を他のスタッフにも知ってもらうために、全員の前で表彰するなどの試みもおすすめです。

パートスタッフ、常勤職員双方のモチベーションアップにつながるような工夫を行うとよいでしょう。

個人経営でも就業規則と雇用契約書は不可欠

クリニックの経営を軌道に乗せるためには、スタッフたちの貢献が欠かせません。

診療収入が伸びてきたら、適切な計算や制度設計に基づいて従業員にも賞与や一時金という形で反映したいものです。

しかし、支給することでかえってトラブルを招かないよう、常勤スタッフやパートスタッフとの個別の雇用契約書を取り交わしておくことが大切。また、クリニック独自の就業規則に、給与や賞与の支給規定も定めておき、理解の齟齬がない状態にしておくことも重要です。

不明な点がある場合は、社会保険労務士への相談をおすすめします。

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執筆 執筆者 藤原友亮

医療ライター。病院長や医師のインタビュー記事を多く手がけるほか、クリニックのブログ執筆やSNS運用なども担当。また、法人営業経験が長く医療機器メーカーや電子カルテベンダーの他、医師会、病院団体などの取材にも精通している。


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