医療業界全体で人材の確保が課題になっています。募集してもなかなか人が集まらないと嘆く院長先生も少なくありません。では、近年大きな成長を遂げている「美容医療業界」も人材難に見舞われているのでしょうか? 美容医療業界における「人材確保」の現状や課題を、美容クリニック特化型人材紹介事業を展開する『スペーム株式会社』の松村康平代表取締役社長に伺いました。
美容医療業界は人材が不足している?
——医療業界は人材確保が課題となっていますが、これは美容医療においても同様なのでしょうか?
松村代表 美容クリニックにおいても、病院や診療所などほかの分野と同様に採用で苦戦しているところが多く見られます。その理由は大きく2つあります。1つ目は「雇用側(クリニック)と働き手とのミスマッチが起こりやすい環境になっていること」です。
実は美容クリニックで働きたいという人材は年々増えています。一方で、クリニック側は高いスキルを持つ即戦力を必要としているため、クリニックで働きたい人材は多いものの、経験値が足りていないために採用まで至らないケースが多いのです。
——人そのものが不足しているのではなく、クリニックが求める人材が足りないという状況なのですね。
松村代表 何十院も開院している規模の大きな美容クリニックは、育成ノウハウが確立されているところもあり、そこでは美容クリニックでの勤務経験が少ない人を採用するケースも少なくありません。なぜなら、戦力になるまで育成できる余裕があることに加え、クリニックの考えに沿った人材に育てることができるからです。
しかし、小規模のクリニックや、これから開業する新規立ち上げクリニックでは基本的に即戦力を求めます。特に新規開業時には、美容領域において経験豊富なスタッフや、一方で美容クリニックでの勤務経験は無いものの企業の創業期に関わった人材は重宝される傾向にあります。
とはいえ、経験豊富な人材は限られているので、そう簡単に確保はできません。結果的に「人材難」になってしまっています。
特に美容皮膚科で離職率が高い
——人材確保に苦戦している美容クリニックが多い、もう一つの理由を教えてください。
松村代表 2つ目として美容クリニックは採用難に加えて「離職率が高い」ことが挙げられます。特に美容皮膚科では医師や看護師、スタッフの定着率が低くなっています。
——なぜ美容外科よりも美容皮膚科のほうが離職率が高いのでしょうか?
松村代表 美容クリニックは、美容外科と美容皮膚科に分けることができます。医師や看護師の場合、美容外科で働かれている方の勤務歴が長い傾向にあります。理由としては、美容外科では、さまざまな手技が習得できることに加え、手技の習得までに時間を要するからです。そのため、長い期間クリニックに在籍する傾向にあります。
一方、美容皮膚科は美容外科と比べて手技の難易度はそこまで高くなく、習得までの期間も短いケースが多いです。そのため、仕事に物足りなさを感じ短期間で退職し、自身でクリニックを開業したり、新しい経験を求めて違うクリニックに転職したりするケースが多いのです。
——ほかに離職率が高い原因はありますか?
松村代表 働く環境がしっかりと整備されていない美容クリニックが多いことも原因だと考えられます。美容クリニックの新規開業は増えているものの、まだまだ新しい業界なので、十分な教育が受けられない、働く側の考えをくみ取った人員配置ができないなど、ネガティブ要素が多いクリニックや、スタッフの受け入れ体制が満足に整っていないクリニックもあります。そのため、高い志を持ってクリニックに入職したものの、思うような働き方ができない、環境が合わない、業務が過酷といった理由で辞めてしまうのです。
事務スタッフにおいても、満足に教育を受けないままで業務を任されてストレスを感じたり、あまりの忙しさに疲弊したりするケースもあります。立ち上げ時の忙しい環境を経験しているならまだしも、未経験の場合は簡単には対応できず、適応出来ない事が多いです。
——未経験ながら、美容業界で働きたい人が増えているのも、ミスマッチが起こりやすくなっている要因ですか?
松村代表 そうですね。「美容業界」と聞いて、キラキラと華やかな業界だと思っている人が多いのですが、実際はそうではありません。病院や診療所等と同様に多忙であり、日々の努力やスキルアップが常に求められる業界です。研修制度が整っていないという理由だけでなく、入職前に描いていたイメージと実際の環境とのギャップに戸惑って辞めるスタッフも少なくありません。
人材確保のアドバイスは?
——良い人材を確保するにはどうすればよいのでしょうか?
松村代表 SNSを駆使する、求人広告を利用する、人材紹介会社を利用するなど人材を集める手段はさまざまあり、一般的には採用手法を重要視しがちですが、私は「面接」が最も大事だと考えています。そもそも、医療業界はほかの業界と比べて、採用時の面接を軽視している傾向にあると感じています。
——面接に重きを置いている院長先生が少ないのですか?
松村代表 全ての院長先生や人材を採用しているクリニックの採用担当者の方が、面接を軽視しているわけではありませんが、求職者との採用面接が、ただの雑談で終わっているケースや、単にどのような業務を行うのかという説明だけで終了しているクリニックが多い印象です。そのため、相手がどのように仕事をしたいのか、志望理由等の質問も重要ですが、求職者の大切にしている考え方や、思考・行動の特性、将来在りたい姿やどのような将来像を目指しているのか等々の相手の根源となる部分まで見抜けていないのです。私自身、別の業界から医療業界に入った身ですが、採用面接へのアプローチの違いには驚きました。
特に、一緒に働く医師や看護師を採用する場合は、過去の経歴や志望動機だけでなく、「これから先どんなビジョンを描いているのか」を知り、クリニックが目指す姿と一致しているか確認することが重要です。キャリア相談ではありませんが、どれだけ相手に向き合い、深掘りできるのかが大事です。
——忙しいからとおろそかにしてはいけないのですね。
松村代表 日々の業務が忙しいという理由で、求職者の経歴やコミュニケーション力を確認するだけで面接を終わってしまうと、「なぜ?」の深掘りができず、結果的に入職後の双方のギャップを生んでしまいます。また、良い人材が確保できず、人材難にも繋がってしまうのです。
新規開業クリニックにおいて、開院日が迫っている状況下では、多くの院長先生や採用担当者の方がとりあえずで採用を済ませてしまいます。しかし、単に人材を確保しただけの状況では、開院後に何かあったときにスタッフ体制が一気に崩れかねません。優秀な人材を採用し、長く一緒に働いてもらうためにも、しっかりと面接で相手を知りましょう。
また、面接時に真摯(しんし)な対応をすれば、こちら(院長先生や採用担当者の方)への印象も大きく変わります。「この人に付いていきたい」「ここで働きたい」「このクリニックを一緒に盛り上げていきたい」と思ってもらえるような面接にすることも可能です。面接も、人材の働く意識をブラッシュアップできるポイントでしょう。
——例えば、どんなことを聞くとよいでしょうか?
松村代表 面接時には、過去・現在・未来の3つの軸で質問すると良いかと考えております。過去はこれまでどんなことをしてきたのか、以前の職場ではどのような働き方をしていたのかを質問する中で、思考や行動の特性を確認し、求職者の意思決定の元となる判断軸を確認します。
現在では、なぜ転職しようと思ったのか、なぜこのクリニックで働きたいと思ったのかを質問する中で求職者の考え方のベクトルがクリニックが目指すゴール(理念等)と乖離が無いかを確認します。
未来では、クリニックで一緒に働いて頂くにあたって、将来どう在りたいのか、将来の目指す姿を質問する中で、将来像を確認します。その上で、過去・現在・未来の3つの軸がしっかりと繋がっているのかを確認して下さい。しっかりと自分なりの意識や考えを持って、意欲的・自発的に行動し、活躍する人材は、3つの軸が線となって繋がっているはずです。
長く働いてもらうには?
——スタッフに長く働いてもらうにはどうすればよいのでしょうか?
松村代表 研修や教育ノウハウの確立や働く環境の整備は言うまでもありませんが、ほかにもクリニックのミッション・ビジョン・バリューを確立させることも重要です。ミッション・ビジョン・バリューが明確化していない、策定されていない状況では、日々の業務が「なんとなく」で留まる事が多く、スタッフ自身何を目標に仕事を手段として頑張れば良いのかわからなくなり、モチベーションは維持できません。明確なミッション・ビジョン・バリューを掲げることで医師、スタッフが一丸となって働けるようになり、結果的には最短での拡大を実現する事が可能となります。
また、スタッフとのコミュニケーションをおろそかにしないことも重要です。忙しさのあまり、院長先生がコミュニケーションを放置してしまうケースも少なくありませんが、コミュニケーション不足は現場の問題を見過ごす原因になります。ミーティングや個別面談を実施するなど、コミュニケーションを密に取れる体制を作りましょう。
——面接以前の段階、例えば採用をかける際に心掛けることはありますか?
松村代表 人材紹介会社を活用する際は、どのようなビジョンを描いているクリニックなのか、どんな人材が欲しいのかを明確に伝えることです。とりあえず人材難で人が集まれば良いという程度の情報では、紹介される人材が求める人物像と乖離する可能性が高くなります。クリニックのビジョンや、求める人物像の解像度を高く伝える事で人材紹介会社側もクリニックが求める人物像を理解でき、適切な人材を紹介できるようになります。
当社でも、美容領域の医師専門人材紹介サービス『スペームドクター』と、美容看護師に特化した人材紹介サービス『スペーム看護師』を展開しておりますが、クリニックが求める人物像をより深く理解し、求職者への説明、面談も行っています。ミスマッチを起こさない為、当社のアドバイザーは美容クリニックでの人事責任者や採用担当者経験があるアドバイザーのみで構成されている為、これから採用を考えている院長先生や採用担当者の方にはぜひ利用して頂きたいです。
——最後に、これから開業する医師へメッセージをお願いします。
松村代表 美容医療は時代の流れが非常に速い業界です。その中で優秀な人材や自身のクリニックに適した人材を採用するには、面接での入念なアプローチに加え、意思決定の速さと柔軟性が重要になります。特に面接はコミュニケーションが不足している院長先生が多いので、採用時には過去、現在、未来の3軸で話を深掘りし、どのような考えを持っているのか見極めて下さい。
——ありがとうございました。
美容医療業界は、働きたいと考えている人は多いものの、ミスマッチによって人材難に陥っているとのことでした。これから美容クリニックの開業を考えている医師にとっては、非常に耳の痛い話ではないでしょうか。優秀な人材を確保し、良いスタートダッシュを決めるためには、採用サービスやエージェントを活用するだけでなく、面接でどれだけ深掘りできるのかも重要。面接を行うフェーズでは、ぜひ松村代表のアドバイスを参考にしてみてください。
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この記事は、2022年12月時点の情報を元に作成しています。