内科を中心に、導入するクリニックも増えてきた心電計について、医療機器メーカー勤務の筆者がお得に買うポイントを解説します。
クリニックに心電計を導入するメリット・デメリット
まずは、クリニックで心電計を導入するメリットとデメリットについてみていきましょう。
メリット1:心電図の解析機能付きで内科系以外の診療科でも安心
現在販売されている心電計のほとんどが”解析機能付き”の機種となってきており、内科系以外の診療科においても、心電計を導入するクリニックが増えてきました。
また、解析機能の精度も大幅に向上しており、機種によっては約250種類の解析結果を表示することができます。心電図に慣れていない先生方も安心して使用していただくことができます。
メリット2:健診や訪問診療に役立つ
かかりつけ医としてより多くの集患に繋げるためにも、心電計導入のメリットはあります。例えば、健診や訪問診療を掲げることでかかりつけ医としての機能を活用し、診療科以外の集患も期待できるようになります。また、学校や企業などの健診を契約することができれば安定した収益を確保することも可能です。
デメリット1:開業時の費用がかさむ
心電計を購入することで、開業時においては初期費用が膨らむデメリットがあります。しかし、心電計は10年以上の長期わたって使用されているクリニックも多いことから、大きな資金が動く開業時に併せて導入することをおススメしています。
注意点として、中古品を安く購入する場合、まれに解析機能が付いていない型落ちの機種を選定してしまう場合があります。また、中古品で解析機能がついている機種でも、最新機種と比べて解析の精度が低いことから、間違った解析結果を示すことがあります。誤診に繋がったり、システム化できないということも考えられるので注意が必要です。
心電計の価格、相場はどのくらい?
一般的な”12誘導心電図検査”機能のみ、且つ訪問用の小さな機種であれば、メーカーにもよりますが25万円程度です。
クリニックであればその程度の機種でも差し支えない診療科もあるかと思いますが、内科・循環器科であれば”運動負荷機能”、”LP検査”、”ホルター解析機能付き”などの上位機種が必要となります。その場合、200万円~250万円程度の購入金額となることもあります。
また、PACS、電子カルテ、生理検査システムなどの接続が必要な場合は、更に10万円~50万円程の接続費用が追加で上乗せされます。
クリニックごとに価格が上下する理由とは?
クリニックで行う検査内容によって、選定する心電計の機種は異なります。価格に関しては、単純に機能が少ない機種は購入金額が安く、反対に機能が多い機種は高価になります。
しかし、ほとんど同じ機能の心電計でも運用の方法や接続の仕方によって価格が違う場合があります。極端に言うと、一番価格を抑えるには心電計を”単独”で使用する運用方法です。電子カルテやPACSなどのシステムと接続せず、検査結果をペーパーベースで記録する運用であれば、純粋な心電計のみの価格ということになります。
反対に心電計を電子カルテやPACS、ビューワソフトなどのシステムとの接続や、運用負荷装置などの他機種との連携をすることで接続費用や追加ソフトが必要となり、同じ機能の心電計でも50万円以上高くなることもあります。
また、システムとの接続をする際には心電計メーカー側、システムベンダー側それぞれに接続費用が発生するようになります。例えば、”心電計1台あたり数万円”といったように接続費用が加算されていきますが、接続する規模(部屋数、広さなど)や有線・無線の違い、参照端末の数量によっても費用は異なり、それぞれに価格が設定されています。
しかし、メーカーやベンダー側にとってシステムに関する費用は”目に見えない部分”であることから、価格を上下しやすい商談となることも事実です。メーカーやベンダー側も一人の人間として気持ちよく仕事をできる環境を望んでいますので、いわゆる”業者”と友好な人付き合いをすることで価格面やサービス面において損することはないと思います。
システム接続する利点として、記録紙などの消耗品を減らすことが出来るのでランニングコストを抑えられたり、運用面で事務ミスの軽減や効率化を図れるため、人件費削減にも繋がります。
開業時においては予算面を考慮して、まずはシステム接続しない単独運用から始め、患者数が増加し、安定してきたところでシステム接続する、といったように段階を踏んで検討されるケースもあります。
その他、機器の値段が変わる理由として、商談のボリュームや消耗品などのリレーションに対する売上予測などが挙げられます。
簡単に説明すると、医療機器をまとめて購入することで商談ボリューム(売上価格や販売台数)を増やし、値引き額を多くすることができたり、消耗品の使用数量(検査量)が多いと予想されるクリニックでは、メーカー側としては”意図せず売上が伸びる”ことから、売上の底上げを図ることができます。
つまり、一日当たりの検査件数から消耗品の売上予測をたて、機器自体の価格を決める理由となります。このような視点から売上価格を決めているため、値段が上下するのです。
各メーカーごとの機能・価格を比較
心電計の代表的な製造メーカーの特徴と製品をまとめてみました。各製品情報へのリンクもありますので、気になる製品はぜひご覧ください。
フクダ・エム・イー工業株式会社
心電計やホルター心電計に強みを持ち、クリニックや動物市場にて使用されている。
【機種名】 | C340 |
【価格】 | 約50万円 |
【機能・特徴】 | シンプルな12誘導心電図のスタンダードモデル。コンパクトで往診時にも使用できる。 |
三栄メディシス株式会社
心電計、パルスオキシメーターを中心としたME機器を製造販売している。小型の心電計を取り扱いしており、訪問市場において強みを持つ。
【機種名】 | ECG Explorer 500X2 |
【価格】 | 約35万円 |
【機能・特徴】 | PCと接続するワイヤレスモデル。バッテリーはなく電池で駆動するタイプ。 |
心電計を安く買う方法について
医療機器を安く購入する方法について4つご紹介します。※商談状況によります
他社メーカー(同等機種)と競合させる
心電計の基本的な機能、操作方法はどのメーカーと比較してもほとんど変わりありません。そのため、価格面でメーカーを競合させることが一番効果的な値下げ交渉になります。他社メーカーとの価格競争となり底値まで争う場合もあります。
高価な機種の場合、状況次第では数十万円の値引きをするケースもあります。私が経験した中では、通常販売価格が約200万円の機器が、最終的に約130万円まで値引きしたケースもあります。
機器のまとめ購入
まとめて複数台購入することで1台当たりの購入価格を下げる交渉ができます。心電計の場合、関連する機器も多いので、心電計と併せてお得に機器を購入でき、診療の幅も広がるかもしれません。
(ex:ホルター心電計、ホルター解析機、エルゴメーター・トレッドミルなどの運動負荷装置、運動負荷用の血圧計)心電計単体での購入よりも1割~2割程度の値引きが見込まれると思います。
電子カルテなどのシステム製品に付属させる
心電計をシステム化する際、心電計側にLAN口などのインターフェースが必要となります。古い機種によってはシステム化できない機種もあるので、初期導入費用が高価となるシステム製品(ex:電子カルテ、PACSなど)に、心電計を”付属品”の位置づけとして付帯する提案も効果的です。
システム製品に付帯する場合、心電計の値引き交渉ではなく、システム側の値引き交渉という場合が多くなり、状況次第で安価な心電計1台分(約30万円)の値引きをする場合もあります。
9月、12月、3月の節目に購入する
医療機器メーカーのほとんどが3月決算です。医療機器メーカー側からすると、節目である9月(上期決算)、12月(年末締め)、3月(決算)に計画台数(ノルマ)を締めることが多いので、1台でも数多く売り上げるために値引きを提示しやすくなります。特に決算月は総仕上げという観点から1割~3割程度の値引きすることもあります。
ただし、昨今の注意点として、原材料不足や半導体需要などの影響により医療機器の生産が追いついていない場合があるので、「節目を狙いすぎて開業までに医療機器が間に合わない!」ということになる可能性もあります。開業時や決算期の購入時には、事前に医療機器の在庫や納入時期を確認しておく必要があります。
心電計をクリニックに導入する際のポイント
心電計を導入するにあたり、押さえておきたいポイントをご紹介します。
運用管理していくコスト
心電計を使用する上でのコストは消耗品などのランニングコストと人的コスト、保守費用の3つです。
ノイズ除去のクリームや記録紙などの消耗品については各メーカーごとに価格は違います。1検査辺り0円〜約200円ぐらいとなり、これまで私自身が担当してきた多くのクリニックではランニングコスト削減のため、平均して1検査50円ぐらいに抑えるように努力しています。
健診などでは比較的状態のいい患者(年齢が若い、肌にハリ・潤いがある)を多く検査するため、ノイズ除去などに使用する消耗品を使用することがない場合もあることから、消耗品のコストは0円で抑えられます。
クリニックの場合、ノイズが乗りやすい胸部のみ消耗品を使うことが多く、その場合1検査50円ぐらいの費用がかかっています。
人的コストは検査時間におけるスタッフの作業時間となります。12誘導心電図検査のみであれば、早ければ5分程度で終わりますが、運動負荷検査などをする場合、1検査20分ぐらい要する可能性がありますので、システム化を図るなどの効率化を検討する必要があります。
保守費用は、機器のメンテナンスにかかる費用であり、メンテナンスのプランによって8万円~15万円程度必要となります。
耐久性、トラブル時のサポート体制について
医療機器なので当然故障のリスクはあります。とはいっても、心電計は血液検査のように水分を使用したり、複雑な動きをする大がかりな機種ではありません。
そのため、早くても8年、長持ちすれば15年を超えて使用されているクリニックもあるうえ、”故障しにくい医療機器”であることから、保守に加入していないクリニックも多いです。
また、心電図検査は緊急を要しない検査であることから、メーカー側としても故障時に入替えする代替機の保有台数は他機種と比べて少なく設定しています。
保守に加入するメリットとして、優先的に代替機を割り当ててもらうことができ、検査を止めるダウンタイムが少なくなるということもあります。1日の検査数が15件を越えるクリニックは、メンテナンスを兼ねて保守の加入を検討されても良いかもしれません。
また、メーカーによってはパッケージとして現地訪問なし(セットアップ等も医師自ら行う)、故障時には点検された代替機が送られて来る場合もあります。この場合、比較的金額は抑えられます。
こうした面も考慮したうえで、どのようなものを選ぶのかを決めていくとよいでしょう。
メーカー統一の是非について
クリニックの開業で営業側からの提案として多いのが、”メーカーを統一”という内容です。
これには運用面からするとメリットとデメリットがあります。
まずメリットとして、メーカーを統一することで他機種との連動が可能となったり、不具合の際の窓口を一本化できるといった点です。デメリットとしては、今後、容易に他メーカーに切り替えることが難しくなる、もしくは一部の機器を他メーカーに切り替えることが出来ないといった点です。しかし、価格面からするとメーカーを統一することではるかに安く機器をそろえることが出来るはずです。
注意すべき点として、「メーカーを揃えることで安く購入できますよ!」とゴリゴリに押してくる営業担当からの購入は、一度冷静に検討してみるということです。その営業担当は間違ったことを言ってるわけではありませんが、先生は多額の資金を用意して満を持して開業に踏み切るわけですから、”価格面”と併せて”運用面”を真剣に考えてくれる営業担当を求めているはずです。
「安いのは分かった。じゃあどのような運用になるの?」と営業に質問することで営業の本質(ホンネ)を確認してみるようにしてください。
他院、知り合いの先生からの口コミ収集
選定した機種が本当にクリニックに合っているのか、実際に使用している他院や先生方の意見を聞いてみて答え合わせをしてみるといいでしょう。使用する際、思った以上に手間がかかる操作が必要かもしれませんし、解析結果が分かりづらい、といった生の意見が聞けるはずです。
また、開業時に雇うスタッフの多くは他院で働いていた方なので、機種選定について相談すると新たな発見があるかもしれません。もしかしたら、同じ地域の他院情報にはメーカーやディーラーの営業担当の評判も含まれているかもしれません。情報収集は必須です。
まとめ
開業時には多くの医療機器を選定する必要があり、金銭感覚もぼやけてくるようになりがちです。
心電計は医療機器の中でも比較的安価な位置づけの機種となりますが、生理検査ではスタンダードな検査の1つです。多くの患者様に利用していただくようになりますので、間違いない買い物をしてもらうよう心がけてください。
クリニックに必要なものを、少しでも安く購入する際のポイントをまとめましたが、これら中に1つでもお役に立てる情報があれば何よりです。
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
特徴
医療機器製品クラス
医療機器種別
区分
診療科目
この記事は、2023年3月時点の情報を元に作成しています。
執筆 医療ライター ken
銀行にて融資/開業支援部門にて従事したのち、医療機器メーカーに転職。基幹病院からクリニック、動物病院まで幅広い営業顧客を有する。
現在は営業の傍ら開業支援業務も行い、多数の社内表彰を受賞。『顧客に寄り添った価値提案』をモットーにしています。
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