
節税のためにマイクロ法人設立を考えたことがある医師は多いかもしれません。では、実際のところ、マイクロ法人設立で節税することは可能なのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
マイクロ法人とは
マイクロ法人とは、基本的には、経営者が1人で経営している会社のことです。ただし、経営者の家族を含むこともあることから、「プライベートカンパニー」と呼ばれることもあります。
会社の形態としては、株式会社、合同会社、合名会社のいずれかとなります。合資会社は、有限責任者と無限責任者がいずれも1人以上必要となることから、1人で設立することはできません。
一般的な法人とはどう違うのか?
マイクロ法人と一般的な法人の違いとしてまず挙げられることは、前述の通り、前者は自分1人での経営である一方、後者には自分以外にも株主や役員、従業員がいるのが一般的です。
また、前者は、経営者が株主と経営者両方の役割を兼ねている性格上、1人でできる範囲で事業をおこなうことになる一方、後者は利益の維持や向上を重視するのが一般的です。
個人事業主とはどう違うのか?
「1人で全部やるのなら個人事業主となってミニマム開業するのと同じでは?」と思う人もいるかもしれませんが、マイクロ法人と個人事業主は、起業の手続きや経費の範囲、税金の仕組みなどに違いがあります。たとえば、個人事業主として開業する場合、最低限、税務署に開業届を提出すればOKなところ、法人を設立するとなると、定款の作成や法務局での法人登記なども必要です。
ちなみに、「ミニマム開業」とは、自己資金なしか、あるいは少額でクリニックを開業すること。ドクター+事務1人程度の最低限の人数でクリニックを回すのが一般的です 。
マイクロ法人の設立が節税になる理由は?
続いては、マイクロ法人を設立することで節税になると考えられる理由を、個人開業医の場合、勤務医の場合ごとに説明していきます。
個人開業医の場合
所得を分散させることで税率を下げられる
マイクロ法人を設立すれば、個人開業医でも勤務医でも、個人と法人とで別々の口座を持つことができます。たとえば、年収が2,000万円だとして、これを2つの口座に分散していなければ、2,000万円に対する所得税が発生します。これを下の表に当てはめて計算すると、納める税金は2,000万円×40%-2,796,000円=5,204,000円となります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
これに対して、マイクロ法人を設立して、2,000万円のうち800万円をマイクロ法人の売上として計上すれば、上記表と下記表に当てはめて、以下のような計算式で納める税金を算出できます。
個人として納める所得税:1,200万円×33%-1,536,000円=2,424,000円
マイクロ法人として納める法人税:800万円×15%=1,200,000円
合計1,224,000円となり、2,000万円全額を個人の所得としたときと比べて遥かに徳であることがわかります。
開始事業年度 | ||||||
平成28.4.1以降 | 平成30.4.1以降 | 平成31.4.1以降 | 令和4.4.1以降 | |||
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | ||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
ちなみに、なぜ「所得を分散させることで税率を下げられる」が主に個人開業医にとってのメリットであるかというと、勤務医が勤務先からもらっている給料に関しては、法人の口座に入金してもらうことができないためです。
社会保険料を下げることができる
所得税の計算に使用される課税所得には、個人事業主として稼いだ「事業所得」、勤務医や会社員が勤務先からもらう「給与所得」などがありますが、給与所得者は社会保険に加入しているので、この項目は勤務医には関係ないことですが、個人事業主の開業医の場合、マイクロ法人をうまく利用することで社会保険料を下げることに役立てられます。
社会保険のうち健康保険は、個人事業主は国民健康保険または医師国保、給与所得者は協会けんぽまたは組合健保または医師国保に加入するのが一般的です。これらの保険料は、医師国保をのぞき、所得に比例して上がっていくので、個人開業医がマイクロ法人を設立した場合、医師国保に加入という選択肢も悪くはありませんが、マイクロ法人からの給与のみに基づいて保険料が計算される協会けんぽに切り替えると、保険料が大幅に安くなる場合があります。たとえば、個人開業医として月60万円、マイクロ法人の役員報酬として月9万円の所得があった場合、健康保険の算定基準は9万円となるためです。
医師国保の保険料は都道府県によって異なりますが、たとえば東京都の場合、以下の保険料となります。
種類 | 医療保険料 | 介護保険料 (40歳~64歳の方) |
後期高齢者組合員保険料 (75歳以上の方) |
||
① | ② | ① +② | |||
医療給付費保険料 | 後期高齢者支援金等保険料 | 合計 | |||
第1種組合員 (医師) |
27,500円 | 5,000円 | 32,500円 | 5,500円 | ― |
第2種組合員(従業員) | 13,500円 | 5,000円 | 18,500円 | 5,500円 | ― |
第3種組合員 (75歳以上の医師) |
― | ― | ― | ― | 1,000円 |
第4種組合員 (75歳以上の従業員) |
― | ― | ― | ― | 1,000円 |
組合員と住民表情同一世帯に属する家族 | 7,500円 | 5,000円 | 12,500円 | 5,500円 | ― |
勤務医の場合
計上できる経費が増える
勤務医にとってのメリットとしては、まず、事業に関係する範囲で、家賃や車両などの支払いを経費として計上できることが挙げられます。
これは個人事業主の開業医であれば、マイクロ法人を設立しなくてもできることなので、勤務医にとってのメリットということになります。
小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済とは、廃業や退職時の生活資金などのために積み立てられる共済制度で、掛金が全額所得控除できるという大きなメリットがあります。小規模企業共済には、個人事業主または会社役員であれば加入可能なので、個人事業主の開業医であれば、マイクロ法人を設立しているかどうか問わず加入できますが、勤務医であれば、加入の手段は「会社役員となること」の一択となります。掛金は月額1,000円~70,000円。これが全額控除となるため、掛金によっては大きく節税できることになります。
勤務医がマイクロ法人を設立したほうがいいパターンは?
ここまで、マイクロ法人を設立することが節税につながる可能性がある理由について説明してきましたが、お気づきの通り、勤務医の場合、「マイクロ法人の売上」として計上する所得がなければ、マイクロ法人を設立する意味がありません。また、マイクロ法人の売上として計上できる所得があったとしても、それが微々たる金額である場合も同様です。
そもそも、設立する会社の形態が株式会社であれ、合同会社、合名会社であれ、設立時には設立費用が発生しますし、設立した後も、住民税の均等割などで毎年7万円程度が必要です。また、マイクロ法人での確定申告の手間が発生するのはもちろん、自力での確定申告が無理なら、税理士に依頼する必要があるため、その費用も発生するので、場合によっては大赤字になってしまいます。
では、勤務医が「マイクロ法人の売上」として計上できるものとはなにかというと、たとえば、書籍の上梓、記事の監修、講演会の開催などによって得た謝礼金や、不動産収入などが考えられます。また、YouTuberとして手に入れた収入をマイクロ法人の売上として計上することも可能です。
また、これらの副収入によって得た収入がいくら以上であればマイクロ法人設立が節税につながるかというと、所得が500万円を超えるかどうかが目安とされています。その根拠は、先に説明した所得税、法人税の税率を比較したとき、およそそのあたりが分岐点と考えられるからです。
副業・複業の時代には、マイクロ法人設立はひとつの選択肢として知っておきたい!
働き方が多様化してきた昨今、ひとつの職業を極める人もいれば、さまざまな可能性を切り開いていく人もいます。どちらが正解ということはありませんが、副業・複業にチャレンジする人が増えている今の時代においては、マイクロ法人を設立すればどんなふうに可能性が広がるのかを知っておいて損はありませんよ!
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2024年3月時点の情報を元に作成しています。