医療現場で働く看護師が受けることが多いハラスメントの、代表格ともいえるのがセクシャルハラスメント(=セクハラ)です。相手は患者であることもあれば、医師や同僚の看護師であることもあるので、セクハラの内容や相手に応じた適切に対処していくことが大切です。そこで今回は、看護師がセクハラされたときに講じるべき対策を考えていきます。
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セクハラとは?
まずはセクハラの定義について改めて確認しましょう。
「日本労働組合総連合会」によると、セクハラとは、「相手の意に反する性的言動」を指すとされています。たとえば、性的な話題で相手をからかったり、不用意に相手の身体に触れたりといったことが挙げられます。
セクハラというと、以前は、男性から女性への言動のなかに存在するものと考えられていましたが、近年では、女性から男性への言動や、同性間のセクハラも問題 になることが増えています。さらに、LGBTQ に対するセクハラについても、みんなで考えていくことが大切だといえるでしょう。
セクハラは大きく4種類に分けられる
職場におけるセクハラは、大きく以下の4種類にわけられます。
・対価型セクハラ
・環境型セクハラ
・制裁型セクハラ
・妄想型セクハラ
それぞれどんなセクハラなのかを詳しくみていきましょう。
対価型セクハラ
なんらかの措置を優遇する「対価」として性的な行為を求めるタイプのモラハラです。相手が要求に応じなかった場合、腹いせとして報復的な行為をおこなうことも対価型セクハラに含まれます。
(例)
・昇給と引き換えに性的行為に応じさせる
・性的要求に応えなかった相手を、本人が希望していない部署に異動させる
環境型セクハラ
職場内での性的な言動や、職場に性的なものを設置するなど、働く環境全般に関するセクハラです。環境型セクハラをおこなっている本人は、周囲が我慢していることに気づいていないケースもあります。
(例)
・部署のみんながいる前で性的な話題を出す
・卑猥な玩具などを社内に設置する
・飲み会でお酌や料理の取り分けを強制する
制裁型セクハラ
異性に対して圧力をかけるセクハラのうち、明らかに性別を理由として高圧的な態度をとるものを「制裁型セクハラ」と呼びます。
(例)
・面接時に応募者に対して「子育てしながら仕事したいのか?」などと質問する
・子育て中のスタッフに「時短勤務は楽だよな」などと発言する
・異性の上司の指示を無視して、同性の上司に指示を仰ぐ
妄想型セクハラ
相手が自分に好意を抱いていると思い込み、その思い込みに基づいた言動をとるセクハラを「妄想型セクハラ」といいます。好意を抱かれた相手側がきちんと拒否しなければ、セクハラが加速したり、逆上されたりすることもあります。
(例)
・髪型が自分の好みではないと指摘する
・相手に対して毎日のようにLINEを送る
医療現場でセクハラが起きやすい理由は?
上記の分類を見たらわかる通り、いずれのタイプのセクハラも医療現場では問題になることが多いです。もちろん、そのほかのあらゆる業種の職場で起き得ることですが、特に医療現場で起きることが多い理由としては以下が考えられます。
【患者からのセクハラが起きやすい理由】
・看護のために患者に身体的に接触する機会が多い
・看護のために患者と積極的にコミュニケーションをとる必要がある
【医師や同業者からのセクハラが起きやすい理由】
・働き方によっては患者とふたりきりになるシーンが多い
・感覚が麻痺してセクハラなのかどうかわからなくなっていることがある
・看護師の主な仕事が「医師のサポート」である、医師が看護師を雇っている場合がある・上下関係に厳しい
・夜勤がある場合や激務である場合が多い
【患者および同業者のいずれからのセクハラも起きやすい理由】
・感覚が麻痺してセクハラなのかどうかわからなくなっていることがある
詳しくみていきましょう。
患者からのセクハラが起きやすい理由
看護のために患者に身体的に接触する機会が多い
怪我や病気で身体に不自由がある患者を看護するにあたっては、身体的な接触を避けることができません。そのため、過剰なスキンシップを迫られるケースなども考えられます。
看護のために患者と積極的にコミュニケーションをとる必要がある
看護師は、医師と患者の橋渡しの役割を果たすことも多いため、患者と積極的にコミュニケーションをとることが不可欠です。その結果として、4分類のうち「妄想型セクハラ」の被害に遭うことなども考えられます。
働き方によっては患者とふたりきりになるシーンが多い
訪問看護などの仕事に従事している場合、密室で患者とふたりきりになるシーンが多いため、患者から「環境型セクハラ」の対象として「狙われやすい」といえます。また、個室の患者の看護時や、夜勤でスタッフが少ないときなども注意が必要です。
医師や同業者からのセクハラが起きやすい理由
看護師の主な仕事が「医師のサポート」である、医師が看護師を雇っている場合がある
こちらは医師からのセクハラが起きやすい理由です。自分のサポートをしてくれる看護師に対して、支配下にいるような感覚を覚えて、「対価型セクハラ」に該当する性的な要求をしてくることがあるかもしれません。
上下関係に厳しい
医療業界は基本的に上下関係に厳しい業界です。年上の看護師のことを「お局ナース」などと揶揄することはその象徴のようなものかもしれません。また、医療系ドラマでよく描かれている、出身大学による派閥や出世街道などもあながち“単なるドラマ”ともいえません。つまり、立場を利用してセクハラをおこなってくる医師や上司がいる可能性は高いということです。
夜勤がある場合や激務である場合が多い
有床の医療機関は基本的に2交替制や3交代制で夜勤はつきものですが、子育て中や介護中の看護師は、パートやアルバイトという働き方を選んで夜勤などは入らない方針の人もいます。もちろん、雇用する側がそれでOKとしたうえで採用しているので問題はないはずですが、「制裁型セクハラ」の典型である「楽に働けていいよな」などの嫌味な言葉を投げかけてくる人が出てくる場合があります。
患者および同業者のいずれからのセクハラも起きやすい理由
感覚が麻痺してセクハラなのかどうかわからなくなっていることがある
「医師にみせたほうがいい症状かわからないから、まずは看護師さんに確認してほしい」などといって、局部を見せてくる患者や他職種の同僚などもいるといいます。しかし、実際にある程度医療の知識はあり、しかも「頼りにされているということだろうか?」と思うと、それがセクハラなのかどうか判断できなくなるのです。
看護師がセクハラ被害に遭ったときの適切な対処法は?
続いては、看護師がセクハラ被害に遭ったときの適切な対処法をみていきましょう。
その場で拒絶する
まず大切なのは、その場ではっきりと拒絶することです。セクハラされても黙っていたりあいまいな態度をとったりすると、「この人は何をしても怒らない」と思われることから、言動がエスカレートする可能性が高いといえます。それを防ぐためにも、まずは毅然とした態度で対応することが大切です。
院長や上司、病院内のセクハラ相談窓口に報告する
セクハラしてきた相手が患者や同僚の場合は、院長や上司、病院内のセクハラ相談窓口に報告することが賢明です。病院がしかるべき対応をとってくれれば、加害者への大きな抑制力となり得ます。場合によっては、加害者が来院しづらくなって、二度と姿を見せなくなってくれる場合もあるでしょう。
法的手段をとる
セクハラしてきた相手が院長や上司の場合、残念ながら、病院内のセクハラ相談窓口に報告しても取り合ってもらえない可能性が無きにしも非ずです。というより、その可能性が高いです。セクハラ加害者が院長や役職者の場合、なんとしてでも相手にぎゃふんと言わせたいなら法的手段をとるのが賢明です。ただし、法的手段をとるためには証拠を提示する必要があります。
具体的には、以下のようなものは証拠として有効と考えられます。
・加害者とやりとりしたLINEやメールの履歴
・セクハラ発言をしている音声データ
・セクハラの現場を目撃した同僚の証言
・セクハラが原因で心身を壊した場合は、その診断書
・被害に遭った日時や内容を記録したメモ、ノート
LINEやメールの記録があれば一番簡単ですが、音声データはばれずに録音するのが難しい、訪問介護などの密室だと目撃者はいるはずがない、診断書を出してもらうためには信頼できる病院探しが必要など課題は山積みです。それでも、自分が間違っていないことを証明したい気持ちが大きいなら、まずは弁護士に相談するなどして慰謝料請求のために不可欠な証拠を集めましょう。
ただし、セクハラ被害への慰謝料の相場は100万円~300万円程度とされているため、弁護士代と証拠集めに要する時間を考えると、マイナス要素が大きいことは間違いありません。
参考までに、弁護士費用を支払う十分な経済力がないものの、どうしても相手を訴えたい場合、「法テラス」に相談にのってもらえば、費用を抑えて弁護士についてもらえる可能性があります。
外部の相談機関に相談する
セクハラに関する相談を受け付けている機関はいくつかあります。相談することですぐに解決につながるというわけではありませんが、自分がとることができる選択肢をいくつか提示してもらえる可能性はあります。具体的には、下記のようなところに相談するのがいいでしょう。
セクハラのほか、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法の法律に関する相談などにも応じている相談室です。
職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供をワンストップでおこなっています。セクハラのほか、パワハラ、解雇、雇止め、賃金の引き下げ、パワハラなどあらゆる労働の問題を対象とした相談コーナーです。
セクハラに関する相談に関しては、専門の相談窓口を紹介してもらうことができます。
電話で相談するのが苦手なら、チャットで相談できる機関を探してみるのも一手。厚生労働省の「SNS相談」のページにはいくつかの相談先が明示されていますが、「特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア」などはセクハラの相談にも適していると考えられます。
職場でのいじめやセクハラ、ストーカー被害に関する相談のほか、パートナーからの暴力に関する相談も受け付けています。
ハラスメントのほか、差別や虐待などさまざまな人権問題に関する相談を受け付けている電話相談窓口です。電話をかけた場所の最寄りの法務局につながります。相談を受けるのは、法務局職員または人権擁護委員です。
言葉によるセクハラではなく、身体的に被害を受けた場合などは、即警察に相談がおすすめです。
参照:男女共同参画局「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」
産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携している男女共同参画局なら、一か所に電話することで提携先と連携し合いながら被害者をサポートしてくれます。
英語や中国語、ベトナム語、インドネシア語、タガログ語、ポルトガル語などにも対応しているため 、日本で働いている外国人看護師の相談にも応じてくれます。
異動を願い出る、退職する
加害者のなかには、被害を受けている側の気持ちをきちんと伝えても、セクハラすることを辞めない人がいます。また、相手が院長や上司であれば、相手を拒絶することで自分の立場が悪くなる可能性も高いため、できることなら争いは避けたいと考える人も多いでしょう。その場合はどうすればいいかというと、異動を願い出るか、もしくは退職することです。
「相手が悪いのに何で私が異動や退職をしなければならないの?」「私は自分の正義を貫きたい!」という考えもごもっともです。間違ってはいません。しかし、自分の信じる正義と相反する相手と抗争することは時間の無駄ともいえます。もちろん、セクハラによって大切ななにかを失ったなど、戦うべき理由がある場合は戦ってもいいでしょう。しかし、多くの場合、時間とお金を無駄にするだけですし、その膨大なお金と時間をもっと有益なことに使ったほうが豊かな人生になる可能性は高いといえます。
自分がセクハラの加害者となっていないかを今一度考えることも大切
セクハラの被害者は、自分がセクハラしている自覚がないケースが多いようです。言い換えると、「自分はセクハラを受けている側だ」と思っている人も、実は別の誰かにとっては加害者である可能性があるということです。特に、「性的な話題を出す」「性的嗜好に関する質問をする」などは、本人にその気がなくても、相手からはセクハラだととらえられることがあるので要注意! また、さりげないボディタッチなども実は相手に嫌がられている可能性が高いので、できる限り控えるようにしてくださいね。
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この記事は、2024年9月時点の情報を元に作成しています。