
クリニックを開業する際には、設備投資や人件費など多額の初期費用がかかります。経営を軌道に乗せるためには、資金計画をしっかり立てることが重要ですが、自己資金だけでは負担が大きくなりがちです。そこで活用したいのが「助成金や補助金」です。
本コラムでは、クリニックの開業で活用できるものとして、助成金補助金の違いから解説し、具体的な活用方法やおすすめの制度を紹介します。ぜひ参考にしてください。
- 助成金と補助金の違いを理解する
- 医院開業に役立つ助成金補助金制度の活用方法
- 開業医におすすめの助成金補助金制度を紹介
- クリニック開業に関する助成金制度QA
- まとめ
助成金と補助金の違いを理解する
助成金とは?
助成金の基本概要
助成金とは、国や自治体が特定の条件を満たした事業者に対して支給する資金であり、基本的に返済不要です。多くの助成金は、雇用の安定や職場環境の改善を目的としているため、人材採用や教育、働きやすい環境整備に関する支援が中心です。
助成金は要件を満たしていれば受給しやすいものが多いですが、申請手続きが複雑な場合もあるため、社労士などの専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
助成金のメリットと活用のポイント
助成金を活用することで、以下のようなメリットが得られます。
ただし、助成金には以下のような注意点もあります。
これらのポイントを踏まえ、クリニックの経営計画に合った助成金を活用することが重要です。
補助金とは?(助成金との違い)
補助金の基本概要と申請の難易度
補助金は、新規事業の立ち上げや設備投資などを支援するために国や自治体が提供する資金です。助成金とは異なり、採択を受ける必要があります。
補助金の特徴として、以下の点が挙げられます。
補助金の申請には、詳細な計画の作成が必須であり、採択されるためには計画の合理性や成長性をしっかり示す必要があります。
クリニック開業で活用できる補助金の種類
クリニック開業で活用できる代表的な補助金には、以下のようなものがあります。
補助金を活用すれば、最新の医療機器やITシステムを導入し、より良い医療サービスを提供することが可能になります。
近年、オンライン資格確認システム(マイナンバーカードによる受付保険証確認)や電子処方箋の導入が段階的に義務化される流れがあります。2025年度も引き続き、電子カルテだけでなく、オンライン資格確認端末、電子処方箋の導入運用に際して補助金や支援策が設けられている可能性がありますので、厚生労働省や各自治体の最新情報をチェックし、対象となる制度を漏れなく活用しましょう。
クリニックが助成金を活用するメリット
資金負担の軽減と経営安定化
開業直後は、医療機器の購入費用やスタッフの給与支払いなど、多くの支出が発生します。助成金を活用することで、こうした初期費用の一部を補助してもらうことができ、資金負担を軽減できます。
特に人材採用関連の助成金を利用すれば、新規採用にかかるコストを抑えながら、安定した経営基盤を築くことが可能です。
人材採用や育成への活用
クリニックを成功させるためには、優秀なスタッフの確保と育成が不可欠です。助成金を活用することで、以下のような支援を受けることができます。
これらの助成金を活用することで、スタッフのスキル向上を図り、長期的にクリニックのサービス向上につなげることが可能になります。
医院開業に役立つ助成金補助金制度の活用方法
助成金を活用して医院経営を安定させる
人材採用教育費用に助成金を活用する方法
クリニックの経営を安定させるためには、優秀なスタッフを確保し、継続的な教育を行うことが重要です。助成金を活用すれば、以下のような費用を抑えることができます。
これらの助成金を活用することで、採用コストを削減しながら、クリニックの人材力を向上させることが可能です。
設備投資に活用できる補助金
クリニックでは、電子カルテの導入が必要不可欠ですが、その費用は非常に高額です。
IT導入補助金を活用することで、電子カルテやオンライン診療システムの導入のような設備投資を支援してもらうことができます。
助成金や補助金を上手に活用し、クリニックの質を向上させることが重要です。
助成金を活用するための準備とポイント
助成金の申請条件を満たしているか確認する
助成金を申請するには、一定の条件を満たす必要があり、制度ごとに異なる要件が定められています。申請前に、対象となる助成金の条件を確認し、必要な手続きを進めることが重要です。
助成金の主な申請要件の例
不適合による申請却下の例
事前に社会保険労務士(社労士)などの専門家に相談し、要件を満たしているかチェックしておくとスムーズです。
必要な書類を事前に準備する
助成金の申請には、各種書類の提出が求められます。書類の不備があると、審査に時間がかかったり、申請が却下されることもあるため、あらかじめ必要な書類を整えておくことが重要です。
助成金申請時に必要となる主な書類
書類不備による申請トラブルの例
特に「就業規則」は、法律上は常時10人以上の労働者を雇用する場合に作成義務があるとされていますが、助成金の申請時には10人未満でも作成を求められることがあります。
事前にチェックリストを作成し、不備がないか確認しながら申請を進めましょう。
助成金申請のスケジュールを把握する
助成金は、申請できる期間が限られているため、申請スケジュールを事前に確認し、期限内に手続きを進めることが重要です。
申請スケジュールの基本的な流れ
申請期限を逃してしまうミスの例
助成金は、期間が限定的なものもあるため、定期的に最新情報をチェックし、余裕をもって申請することが大切です。
社労士に相談しながら進める
助成金の申請は、労働関係の法令や制度に精通した社会保険労務士(社労士)に相談することで、スムーズに進めることができます。
社労士に相談するメリット
社労士に相談しない場合のリスク
特に、開業では雇用関係の助成金を活用する機会が多いため、専門家のサポートを受けることが成功のカギとなります。
開業医におすすめの助成金補助金制度を紹介
クリニックで活用できる助成金補助金
トライアル雇用助成金(トライアル期間の賃金補助)
トライアル雇用助成金は、就職が難しい求職者をトライアル期間付きで雇用した場合に支給される助成金です。
主な支給要件
支給額(例)
人材開発支援助成金(医療スタッフ向け研修費用補助)
医療スタッフのスキルアップを目的とした研修費用を補助する助成金です。クリニックのサービス向上や、スタッフの定着率向上に役立ちます。
主な支給要件
支給額(例)
特定求職者雇用開発助成金(高齢者や障がい者等の雇用支援)
特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障がい者、母子家庭の母など、就職困難者を雇用した場合に支給される助成金です。
主な支給要件
支給額(例)
IT導入補助金(電子カルテ予約システム導入支援)
IT導入補助金は、クリニックの業務効率化やデジタル化を推進するための補助金です。
補助対象
補助率上限額
※IT導入補助金は、IT導入補助金事務局に登録されていないITツールは対象外です。対象となるITツールやIT導入支援業者は
公式サイトの「ITツールIT導入支援事業者検索」より確認いただけます。(2025年2月4日時点では準備中となっています。)
キャリアアップ助成金(非正規雇用から正社員登用)
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員を正社員へ転換した場合に支給される助成金です。
主な支給要件
支給額(例)
働き方改革推進支援助成金(職場環境の改善支援)
長時間労働の削減や有給休暇の取得促進など、働きやすい職場環境の整備を支援する助成金です。
主な支給要件
支給額
両立支援等助成金(育休取得職場復帰支援)
育児休業を取得しやすい職場環境を整備することで、スタッフの定着率向上を図る助成金です。
主な支給要件
支給額(例)
業務改善助成金(スタッフの賃金引き上げ支援)
スタッフの賃金を引き上げたクリニックに対し、設備投資費用を助成する制度です。
主な支給要件
支給額
小規模事業者持続化補助金(広告宣伝費設備投資支援)
小規模事業者持続化補助金は、開業後の広告宣伝や設備投資を支援する補助金です。
補助対象
補助率上限額
医療施設等施設整備費補助金(へき地や研修医環境の充実支援)
医療施設等施設整備費補助金は、医療提供体制の充実を目的とし、特にへき地や医師不足地域の医療機関の整備、研修医の育成環境の強化を支援する補助金です。
この補助金は、すべてのクリニックの開業で活用できるものではなく、特定の要件を満たす場合に対象となります。
主な補助対象
※都市部や一般的な開業クリニックでは、原則として対象外となるケースもあるため、申請要件を十分に確認する必要があります。
補助率上限額
クリニック開業に関する助成金制度QA
クリニック開業には、多くの費用がかかるため、助成金や補助金を活用も視野に入れて資金負担を軽減することが重要です。
しかし、どこに相談すればいいのか、どの助成金が適しているのか、申請にはどれくらい時間がかかるのかなど、疑問を持つ開業医の先生も多いでしょう。
ここでは、開業に役立つ助成金制度に関するよくある質問(Q&A)を解説します。
助成金や補助金の相談先は?
社会保険労務士に相談するメリット
Q:助成金の申請を検討していますが、どこに相談すればよいですか?
A:助成金の申請や適用要件の確認は、社会保険労務士(社労士)に相談するのが最適です。
社労士は、雇用関連の助成金申請に精通した専門家であり、申請要件の確認から書類作成申請手続きまでをサポートしてくれます。
社労士に相談するメリット
全国社会保険労務士会連合会のHPからも、お近くの社労士を探すことができます。
自治体や支援機関の相談先
Q:国以外の助成金や補助金についても相談できますか?
A:国の助成金以外にも、各自治体や支援機関で開業支援を受けることができます。
主な相談窓口
中小企業庁の「ミラサポplus」で最新情報を確認することができます。
開業に活用できる助成金補助金は?
人材採用に活用できる助成金
Q:開業時のスタッフ採用に使える助成金はありますか?
A:以下の助成金を活用することで、採用コストを軽減できます。
おすすめの助成金
設備投資IT化に活用できる補助金
Q:クリニックの設備投資やIT化に使える補助金はありますか?
A:以下の補助金を活用できます。
おすすめの補助金
申請にはどれくらい時間がかかる?
申請から支給までの平均期間
Q:助成金の申請にはどれくらいの時間がかかりますか?
A:助成金の支給には通常3か月~6か月程度かかります。一定の期間の継続雇用などが必要なものは1年程度かかるものもあります。
審査が長引くケースの例
迅速に支給を受けるためのポイント
Q:できるだけ早く助成金を受給するにはどうすればよいですか?
A:以下のポイントを押さえると、スムーズな支給につながります。
迅速に支給を受けるためのポイント
まとめ
クリニックの開業には多額の資金が必要となるため、助成金補助金を活用することで資金負担を軽減し、スムーズな経営スタートを切ることが重要です。本記事では、開業で利用できる助成金補助金の種類や申請のポイントを解説しました。ここで、重要なポイントを再確認しましょう。
クリニックの開業運営で助成金を活用する重要性
助成金活用で得られる経営のメリット
助成金を活用することで、開業時の資金不足を補い、経営の安定化を図ることができます。
助成金活用の主なメリット
助成金補助金を適切に活用し、安定したクリニック運営につなげましょう。
受給後の適切な運用方法
助成金は適切な目的のもと支給され、事業主がその使用方法を定めることができます。ただし、受給後も申請時の計画に沿った制度運用が求められ、適正な管理を行うことが重要です。
受給後に行うべき運用管理のポイント
助成金受給後も制度を適正に運用し、クリニックの経営改善やスタッフの働きやすさ向上につなげることが大切です。
申請のポイントを再確認
事前準備の重要性とチェックリスト
助成金や補助金の申請は、事前準備を徹底することでスムーズに進められます。
申請前に確認すべきチェックリスト
事前準備をしっかり行い、申請手続きの遅れやミスを防ぎましょう。
社労士や専門家のサポートを活用する方法
助成金補助金の申請は、専門的な知識が求められるため、助成金は社会保険労務士(社労士)に、補助金は専門家に相談することをおすすめします。
社労士や専門家に依頼するメリット
開業医の先生の負担を減らすためにも、専門家の力を借りてスムーズに申請を進めましょう。
最新情報のチェックを忘れずに!
厚生労働省自治体等の公式サイトの確認
助成金や補助金の制度は年度ごとに変更されるため、最新情報のチェックが不可欠です。
最新情報の確認方法
助成金については、
厚生労働省の「雇用関係助成金検索ツール」をご活用ください。
申請期限や要件変更に対応するための情報収集方法
助成金補助金の申請期限を過ぎてしまうと、受給のチャンスを逃してしまいます。また、年度内に要件が変更になることもあるため、こまめにチェックしましょう。
情報収集のポイント
補助金については、
中小企業庁の「ミラサポplus」がおすすめです。
本コラムでは、クリニック開業で使える助成金補助金について詳しく解説しました。
助成金補助金の活用ポイント
助成金補助金は、クリニックの開業や運営の負担を軽減し、医療提供体制を充実させることのできる制度です。これらを有効活用することで、経営の安定化や職場環境の改善、医療サービスの向上につなげることができます。
また、助成金や補助金だけではカバーしきれない初期費用を補うために、融資制度(日本政策金融公庫、自治体の制度融資、信用保証協会の利用など)を活用するケースも多く見られます。助成金補助金と融資を組み合わせることで、より安定した資金計画を立てることが可能となるため、開業や運営の資金計画を検討する際には、ぜひ併せて活用を検討しましょう。
助成金補助金を賢く活用し、理想のクリニック運営を実現しましょう。
特徴
対応業務
診療科目
この記事は、2025年2月時点の情報を元に作成しています。
執筆 社会保険労務士法人アミック人事サポート代表社員/社会保険労務士/医療労務コンサルタント | 高橋友恵
2004年アミック労務管理事務所を開設。2010年に株式会社日本医業総研にて人財コンサルティング部マネージャーとして人事コンサルティング・接遇講師・院内業務改善コンサルティング等を実施後、2016年に社会保険労務士法人アミック人事サポートを設立。医療機関特有の人事労務に精通し、これまで350件の関与実績がある。
他の関連記事はこちら