
医療機関間で患者情報を共有することを目的として、「標準型電子カルテ」の開発が進められていることは、医療関係者にとっては周知の事実です。では、この「標準型電子カルテ」を導入することにはどんなメリットがあるのでしょうか? 導入時に考慮すべきことや、今後の展望などを含めて解説していきます。
標準型電子カルテとは
標準型電子カルテとは、医療機関間で患者情報を共有するためのクラウドベースの電子カルテシステムで、政府が主導して開発を進めています。
日本における電子カルテなどの医療情報のフレームワークは、ベンダーごとに形式が異なるため、医療機関間での情報がスムーズではないという課題がありました。そこで政府は、医療情報のフレームワークの世界的標準形式である「HL7 FHIR(エイチエルセブン ファイアー)」形式に統一するよう、各ベンダーに働きかけてきました。
また、政府は政府で独自に「HL7 FHIR」形式に準拠した電子カルテの開発を進めているため、現状、政府が推進している「標準型電子カルテ」と、各ベンダーが開発している「標準化準拠の電子カルテ」の大きく2種類が存在しています。
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なぜ医療情報のフレームワークを統一することになったのか
標準型電子カルテの開発を進めて、医療情報のフレームワークを統一することになった理由は2つあります。
全国の医療機関でのスピーディな情報共有
まず、全国の医療機関が、スムーズに患者情報を共有するためです。
日本には、レセプト・特定健診等情報、予防接種、電子処方箋情報、自治体健診情報、電子カルテなどの医療全般にわたる情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームである「全国医療情報プラットフォーム」が存在しています。2024年時点においては、オンライン資格確認や電子処方箋がこの基盤の一部として稼働していますが、今後はここに、患者の診療に関する3文書6情報も加わり、電子カルテ情報共有サービスとして、全国の医療機関で患者情報がより適切に共有されることになります。
その実現のためには、まず、医療情報のフレームワークを統一させる必要があったというわけです。
医療機関等における業務効率化の実現
また、政府は、もうひとつの目的として、「民間サービス・システムとの組み合わせが可能な電子カルテを普及すること」を挙げています。
これはつまり、レセコンなどとの連携を意味しており、標準化電子カルテ普及の目的というより、電子カルテそのものの普及を目的としているということになります 。
参照:厚生労働省「第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料」標準型電子カルテの目的
2023年時点でのクリニックにおける電子カルテシステムの普及率は55%
なお、「令和5年医療施設(静態・動態)調査」によると、2023年時点におけるクリニックでの電子カルテシステムの普及率は55%です。最新のデータが2023年のもので、2025年にはもう少し上がっていると考えられますが、仮に10%上がって65%になっていたとしても、普及率100%達成には時間がかかるかもしれません。
政府主導の標準型電子カルテの構想の進捗状況は?
前述の通り、政府は標準型電子カルテの開発を進めていますが、2025年7月末時点 においては、正式リリースに至ってはいません。ただし、2025年3月9日には、厚生労働省医政局参事官によって、標準型電子カルテα版がリリースされたことが発表されていま す。
α版は、正式版リリース前にユーザーに試用してもらうサンプルであるβ版と比べて、開発初期段階で後悔されるバージョンで、バグや不具合も少なくないことが一般的であるため 、正式リリースまでにはまだまだ改良の余地があると考えられますが、まずは、α版導入の対象としている電子カルテ未導入の医科診療所 に、α版を浸透させていくことが推進されていきます。
標準型電子カルテの正式版リリースはいつ?
標準型電子カルテの正式版がいつリリースされるかは決定していません。ただし、政府は、2030年までにすべての医療機関が電子カルテを備えている状態にもっていくと宣言しています。つまり、2030年までに、すべての医療機関が「標準型電子カルテ」または各ベンダーによる「標準化準拠の電子カルテ」を使用している状態を作るということです。
なぜ、2030年までなのかというと、政府が打ち出している「医療DX令和ビジョン2030」に、前述した全国医療情報プラットフォームの推進が組み込まれているため、情報連携のためのインフラ整備も同様に進めていく必要があるからです。
「医療DX令和ビジョン2030」とは、日本の医療のDX化・医療情報の有効利用を推進するための提言で、次の3つの取り組みを同時進行していくことに重点を置いています。
1.「全国医療情報プラットフォーム」の創設
2.電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
3.「診療報酬改定DX」
標準型電子カルテα版の機能は?
前述の通り、標準型電子カルテα版は電子カルテ未導入の医科診療所を導入対象としているため、利用開始のハードルを下げるべく、「一般的な電子カルテ画面」に加えて、診療録の記載は紙運用とする「紙カルテとの併用を想定した画面」も用意されています。
「一般的な電子カルテ画面」を選択した場合、診療録テンプレートによるSOAP診療録登録や、シェーマのリスト画面から選択したシェーマ編集、SOAP記載エディタ内への挿入なども可能です。
一方、「紙カルテとの併用を想定した画面」は、紙カルテとの併用を想定した業務運用を加味して、入力による手間をできる限り省いた機能が設計されています。
具体的には、次の機能を搭載しています。
機能 | 機能概要 | 紙カルテとの想定の有無 | |
基本機能 | ユーザーログイン | 医師や看護師、医療事務職員が電子カルテを閲覧する前に、IDやパスワードなどを入力(二要素認証として「デジタル認証アプリ」と組み合わせる) | 〇 |
受付患者一覧の表示・検索・並べ替え | ・受付が完了した患者が外来患者一覧に反映 ・患者は受付時間順、カナ氏名順、担当医師順、ステータス順などで一覧表示 ・氏名(漢字・カナ)、電子カルテID、生年月日、性別による患者検索 |
〇 | |
患者基本属性連携 | レセコンに登録されている患者基本情報(患者氏名・保険情報・生年月日・性別)が電子カルテへ自動連携 | 〇 | |
患者プロファイルの入力・表示 | バイタル(身長・体重・血圧)、血液型、アレルギー、薬剤禁忌、既往歴、感染症、予防接種歴、障害、要介護度等の入力・表示 | 〇 | |
レセコンへの算定情報 ※α版では、web ORCAクラウド版とのWeb APIによる連携 |
・検査・処方オーダが登録された際に、算定情報をレセコンへ自動連携 ・リストから検索して指導料・管理料を登録・削除。入力した内容は診療録に自動転記 |
〇 | |
診療録入力 | 診療録の入力 | ・診療録の入力(事前登録した定型文リストや履歴から引用入力が可能) ・SOAPやシェーマの入力・削除 ・記載履歴(入力者・入力時間)を全て記録 |
|
診療録参照 | 診療録の参照 | 診療科・日付・記入者・保険情報で診療録の並べ替え・検索 | |
全国医療情報プラットフォーム連携 | 電子カルテ情報共有サービス上のデータの取得・参照・登録 | ・傷病名、薬剤アレルギー、その他アレルギー、感染症、検査、処方情報の閲覧・登録 ・診療情報提供書の作成・電子共有 ・健診情報(特定健診、事業者健診、学校職員健診、任意健診)の閲覧 |
〇 |
電子処方箋 | 処方オーダ | ・併用禁忌・重複投与のチェック ・院外処方箋帳票の印刷 |
〇 |
外注検査連携 | 検体検査オーダ | ・電子カルテ上で、検査オーダを登録すると、自動的に臨床検査会社のシステムへ検査依頼を連携 ・検体容器用ラベルの印刷 |
〇 |
検体検査結果の自動連係・参照 | ・臨床検査会社のシステムより、検査結果が自動連携 ・必要に応じて検査結果は診療録に転記、電子カルテ情報共有サービスへ連携 ・各検査項目を時系列に表示 |
〇 | |
PACS連携 | 検査画像の連携 | ・PACSから連携された画像を表示 ・診療録や診療情報提供書などにキー画像を登録 |
〇 |
参照:厚生労働省「第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料」標準型電子カルテα版の機能
標準型電子カルテ導入のメリットは?
続いて、標準型電子カルテ導入のメリットを確認していきましょう。標準型電子カルテ導入のメリットとしては、次のことが考えられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
医療DXのサービス(システム)群の利用
医療DXのサービス(システム)であるオンライン資格確認等システム、電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋管理サービスにつながることで、次のようなことが可能となります ※ただし、マイナンバーカードを用いて、患者本人からの同意を取得した場合
また、診療情報提供初頭を紹介医療機関に電子的に共有することや、こうした情報を患者自身がマイナポータル等を用いて確認することも可能となります。
医療DXのサービス(システム)群の導入および維持負担の敬遠
書記の導入時にこれらの機能が電子カルテシステムに標準搭載されているため、自院での導入負担が軽減されます。また、機能追加等のシステム改修が発生した場合も、クラウド型であることから、維持負担が軽減されます。
民間サービス組み合わせによる拡張性
外注システムやレセコンとのシームレスな連携によって、機能拡張を図りつつ、データ連携をより円滑に実現することが叶います。
参照:厚生労働省「第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料」標準型電子カルテの導入のメリット
政府が推進している「標準型電子カルテ」と、各ベンダーが開発している「標準化準拠の電子カルテ」の違いは?
前述の標準型電子カルテ導入のメリットは、厚生労働省が公表している資料にも掲載されているものですが、前半で述べた通り、政府が推進している「標準型電子カルテ」のほかに、各ベンダーが開発している「標準化準拠の電子カルテ」の推進も進められていることから、この2つの違いも気になるところです。
具体的にどのような違いがあるのかという次の通りです。
標準型電子カルテ | 標準化準拠の電子カルテ | |
定義 | 政府(厚労省)が仕様や機能を統一して設計した共通フォーマットの電子カルテ | 各ベンダーが既存製品に対して政府の標準仕様(HL7 FHIR)を取り入れた電子カルテ |
目的 | 全国統一の仕組みで医療情報連携・交換を円滑に進める | ベンダー独自の機能やUIを保ちつつ、連携可能な仕様に部分的に準拠 |
柔軟性 | 低い(全国一律の仕様に従う) | 高い(ベンダーが自社製品に合わせて対応) |
互換性・連携性 | 高い(同じ仕様で設計) | 標準化部分は連携可能だが、製品差あり |
また、それぞれのメリット、デメリットは次の通りです。
標準型電子カルテ
標準化準拠の電子カルテ
自院で「標準型電子カルテ」または「標準化準拠の電子カルテ」のどちらを導入するかという課題がある場合、2種類の電子カルテの特徴やメリット、デメリットを見比べたうえで、どちらがより自院にフィットするかを考えるのがよさそうです。
なお、現状、富士通やNEC、PHCなどの電子カルテベンダーが、自社製品を標準化に準拠させる形で提供 していますが、今後、さらに多くの電子カルテベンダーが「標準化準拠の電子カルテ」を打ち出していくことが予想されます。
「標準型電子カルテ」または「標準化準拠の電子カルテ」導入に関する注意点
「標準型電子カルテ」または「標準化準拠の電子カルテ」を導入するにあたっては、前述の通り、どちらがより自院に適しているかを見極めることがとても大切ですが、それ以外にも次の点に注意する必要があります。
それぞれ詳しく解説していきます。
標準型電子カルテの完成を待っていると電子カルテ導入が遅くなる
前述の通り、標準型電子カルテは現在、α版がリリースされたばかりの段階で、本格稼働はいつとなるのか確定しておらず、目標としている2030年ギリギリになる可能性も否めません。そのため、本格稼働してからとなると、数年後の導入となる可能性があります。
標準型電子カルテの完成を待っているとDXに関係する点数を取りこぼす
標準型電子カルテの完成を待っていると、医療DXに関する診療報酬点数を取りこぼしてしまうのも大きなデメリットです。DXに関する点数は、2024年度の診療報酬改定でもさまざま設定されましたが、次回の診療報酬改定でも引き続き注目されているポイントとなります。
セキュリティリスクが高まる場合がある
「標準型電子カルテ」および「標準化準拠の電子カルテ」には、データの暗号化やアクセス性業なども実装されていますが、各医療機関のIT環境によっては、不正アクセスによる情報漏洩をはじめとするリスクに晒されます。それを防ぐためにも、各医療機関は厚生労働省が策定している「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の最新版を常に確認して、ガイドラインに則った環境を整えることが不可欠です。
参照:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(令和5年5月)」
電子カルテ導入には準備期間も必要
電子カルテをこれまで導入したことがないクリニックが電子カルテを導入するにあたっては、紙カルテから電子カルテへの切り替えになるため、操作方法の習得をはじめ、準備に時間がかかることが考えられます。
クリニックの状況に応じた選び方
「標準型電子カルテ」と「標準化準拠の電子カルテ」のどちらを選ぶかは、クリニックの規模や診療科、既存のシステム環境、求める機能やサポート体制によって最適な選択が異なります。
たとえば、新規開業の小規模クリニックや、シンプルに最低限の機能を求めている場合は、政府主導で導入ハードルが低い「標準型電子カルテ」が適している可能性があります。導入・運用コストを抑えつつ、国の医療DX推進の流れにスムーズに乗れるメリットがあります。
一方、すでに特定のレセコンや画像診断システムを運用しており、それらとの連携を重視するクリニックや、専門性の高い診療科で細かなカスタマイズが必要な場合は、各ベンダーが提供する「標準化準拠の電子カルテ」が選択肢となるでしょう。既存のワークフローを大きく変えることなく、より自院のニーズに合った機能やUIを選択できる点が強みです。ただし、ベンダーによって機能や費用、サポート体制が異なるため、複数のベンダーから情報収集して、デモンストレーションを受けるなどして比較検討することが重要です。導入後のサポート体制が充実しているか、同規模・同診療科での導入実績が豊富かなども確認しましょう。
電子カルテ未導入の医療機関は電子カルテ導入に向けて動き出そう
「標準型電子カルテ」と「標準化準拠の電子カルテ」のどちらの導入が向いているかは、各医療機関が電子カルテを使って、どんなことをどこまでやりたいかなどにもよるため一概にはいえませんが、電子カルテの導入がまだのクリニックができるだけスピーディに電子カルテを導入すべきであることだけは、間違いなくいえることです。例外として、「医療DX令和ビジョン2030」の達成目標とされている2030までにクリニックを畳む予定で動いている場合などは、今から電子カルテの使い方を覚えることにはほとんど意味がないうえ、労力もお金もかかるためデメリットが大きくなりますが、そうでない限り、導入しないことのメリットのほうが遥かに大きいので、少しでも早く導入に向けて動き出すことが望ましいといえますよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年7月時点の情報を元に作成しています。