
オンライン資格の導入は、2023年4月から原則義務化されています。ただし、“原則義務化”出逢って罰則なども設けられていないため、実際のところ、現状の利用状況がどうなのかは気になるところです。そこで今回は、オンライン資格確認の導入状況などに関する最新の状況を確認していきます。
オンライン資格確認とは? 制度の基本をわかりやすく解説
まずは、オンライン資格確認とはどのようなものであるのかを今一度確認していきましょう。
オンライン資格確認とは、マイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等によって、オンラインで資格情報を確認できる仕組みです。
オンライン資格確認導入が医療機関や薬局に与える影響
医療機関や薬局がオンライン資格確認等システムを導入すると、窓口において、患者の直近の資格情報等を確認できるようになるため、期限切れの保険証による受信で発生する過誤請求や、手入力による手間などによる事務コストを削減できるようになります。
オンライン資格確認導入が患者に与える影響
また、マイナンバーカードを用いた本人確認をおこなった患者本人は、医療機関や薬局において、特定健診等の情報や診療・薬剤情報を閲覧できるため、自分の健康状態などを把握しやすくなると同時に、各医療機関や薬局に自分の状態を知ってもらいやすくなります。なお、患者本人は、特定健診等の情報や診療・薬剤情報をマイナポータルからも閲覧することが可能です。
オンライン資格確認はなぜ義務化されたのか? 背景と国の狙い
オンライン資格確認の導入がスタートしたのは2021年3月です。当初、オンライン確認導入は義務化されていませんでしたが、冒頭で述べた通り、2023年4月からは、すべての保健医療機関および薬局で原則義務化されることとなりました。
なぜかというと、日本は「国民皆保険制度」を導入しており、この制度は適切な資格確認のもとに成り立つものですが、偽造した保険証や他人の保険証を使うなりすましや使いまわしなどの不正行為や、保険証の紛失などによって、適切に資格確認できないという問題があったためです。
つまり、従来の資格確認では、資格情報をリアルタイムで確認することには限界があり、レセプト返戻やその対応にも膨大な時間がかかっていたということです。
一方、オンライン資格確認を導入すれば、患者の直近の資格情報等をその場で確認できるようになるため、作業コストもミスも減らすことが可能となります。
また、レセプト情報に基づいた医療情報を利活用することによって、患者によりよい医療サービスを提供することも、オンライン資格確認導入が進められた理由のひとつです。
オンライン資格確認の利用状況は?
医療機関や薬局において、オンライン資格確認等システムの導入が進められていても、利用する側である患者がマイナ保険証を利用していなければ、オンライン資格確認はできません。
また、義務化されてはいますが、実際には導入を進めていない医療機関も存在します。
では、現状、オンライン資格確認の利用状況はどの程度であるかというと、デジタル庁の公表によると、2025年3月におけるマイナ保険証利用者の割合は次の通りです。
オンライン資格確認等システムの導入が完了していない医療機関や薬局がある理由は?
オンライン資格確認等システムの導入が完了していない医療機関や薬局がある理由は主に2つあります。
1つは、電子カルテを導入していないなどの理由から、紙レセプトによる請求が認められている医療機関や薬局が、義務化の対象外であることです。たとえば、医師が高齢で、これから電子カルテを導入するのは難しいケースなどがこれに該当します。
もう1つは、やむを得ない事情があって、導入の経過措置が適用されている医療機関などが存在することです。ただし、経過措置を受けるための届出の提出期限は2023年3月31日となっているため、これから届出を提出することはできません。
参照:京都府医師会「オンライン資格確認の導入の原則義務付けに係る経過措置の申請期限等について」
オンライン資格確認等システム導入のメリット
続いては、医療機関や薬局がオンライン資格確認等システムを導入するメリットを確認していきましょう。オンライン資格確認等システムを導入する主なメリットとしては、次の5つが考えられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
受付業務の効率化・入力ミスの削減を実現できる
オンライン資格確認等システムは、受付業務を大幅に効率化して、人的ミスを減らします。具体的には、保険証情報の自動取り込みによって手入力が不要になり、入力ミスが激減します。さらに、これによってレセプト返戻が減少して、返戻対応にかかる事務作業や、診療報酬の入金遅れを防ぐことができます。また、受付スタッフの手が空く時間が増えるため、患者対応や電話応対など、他の業務に時間を割くことも可能になります。
資格過誤が原因のレセプト返戻・なりすましを防げる
従来のような手入力や目視での確認だと、資格過誤やなりすましに気づけない場合があります。しかし、オンライン資格確認等システムを導入していれば、正確な資格情報をその場で取得できますし、顔写真によって本人確認をおこなうことも可能です。
過去の診療・薬剤情報の閲覧が可能になる
マイナンバーを所有している患者の同意が得られた場合、患者の過去の特定健診情報や薬剤情報を閲覧することが可能です。なお、特定健診情報を閲覧できるのは医師もしくは歯科医で、過去5年分の情報にアクセスできます。薬剤情報に関しては、医師および歯科医のほか、薬剤師も閲覧することが可能で、レセプト情報に基づいた過去3年分の情報にアクセスできます。
患者満足度の向上
患者満足度が向上する理由はいくつかあります。
定期健診等の情報や診療・薬剤情報を患者自身も閲覧できる
まず、前半で説明した通り、患者はオンライン資格確認によって、定健診等の情報や診療・薬剤情報を閲覧できるため、自分の健康状態を把握しやすくなります。
手入力や目視確認がないぶん資格確認がスムーズ
また、従来のように保険証の資格確認に時間がかからないため、待ち時間が長くイライラすることがなくなります。
医療費の過払いを防げる
さらに、医療費が一定額以上かかっている患者には大きなメリットがあります。従来、高額療養費制度の適用区分を示す限度額適用認定証などの発行を受けるには、患者はまず、加入している保険者に申請して認定証を発行してもらい、それを医療機関や薬局に提示することが不可欠でした。しかし、オンライン資格確認が導入されれば、申請の工程を踏まなくても限度額適用認定証などを取得することが可能になります。したがって、患者は限度額を超えて医療費を払う必要がなくなります。
参照:全国健康保険協会 群馬支部【重要】オンライン資格確認システムを利用すると、限度額適用認定証の準備が不要となります
オンライン資格確認等システム導入の流れ
2024年4月以降に新規指定を受ける医療機関・薬局が、オンライン資格確認等システムを導入する流れは次の通りです。
1. 導入前の事前準備
2. 顔認証付きカードリーダー調達
3. システム事業者に発注
4. 受付番号の取得/利用申請
5. 導入・運用準備/指定申請
6. 運用開始
それぞれ詳しくみていきましょう。
導入前の事前準備
まず、次の3点を確認しましょう。
①既存機器(レセコン・電子カルテ)の対応確認: 現在使用しているレセコンや電子カルテがオンライン資格確認に対応しているか、ベンダーに確認します。古い機種の場合、改修費用やアップデート費用が必要になることがあります。
②インターネット回線(通信環境)の確認: オンライン資格確認には、インターネット回線が必須です。施設に固定回線がない場合は、新たに回線工事が必要になります。工事の期間や費用を事前に調べておきましょう。
③院内担当者の決定: 導入には補助金の申請、ベンダーとの連絡、スタッフへの周知など、多くの作業が伴います。スムーズに進めるため、院内で一貫して対応する担当者を決めておくことが重要です。
顔認証付きカードリーダー調達
顔認証付きカードリーダーを選定して、メーカーから調達します。顔認証付きカードリーダーの納期はメーカーの生産状況などによって異なりますが、目安としては、希望納期の約3か月前までには問い合わせを済ませておきたいところです。
なお、顔認証付きカードリーダーは、診療所または薬局なら1台まで、病院は3台まで無償で提供されます 。
システム事業者の選定・発注
オンライン資格確認等システム事業者に、各種機器の導入・設定、システムの回収・動作確認、ネットワークの設定・疎通確認の3つの項目に関して見積もりを依頼した後、作業を発注します。また、サポート体制や導入実績なども併せて比較検討すると安心です。
この工程で、電子カルテ/レセコンをオンライン資格確認対応版に改修して、VNPルータの設置など、ネットワークを敷設します。端末の増設が必要な場合は同時に手配することになります。
受付番号の取得/利用申請
各地方厚生(支)局で受付番号を発行してもらい、社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会に提出します。受付番号の提供依頼は、システム導入の約2か月前までにおこないます。また、ポータルサイトでアカウント登録をおこない、オンライン資格確認等の利用申請、電子証明書発行申請をおこないます。利用申請はシステム導入日の5営業日前までにおこないます。
導入・運用準備/指定申請
システム事業者が現地設定および疎通テストを実施します。システム事業者による訪問は1~4回程度で、運用テストを経て、運用開始日を入力します。また、各医療機関や薬局では、従業員のトレーニング、POP掲示、個人情報利用目的の更新をおこなったうえで、各地方厚生(支)局に対して保健医療機関等の指定申請をおこないます。指定申請は、指定する日時の1か月前までにおこないます。
運用開始
運用開始後は、高齢者や機器に不慣れな患者でも操作できるよう、サポートすることが大切です。
参照:厚生労働省「オンライン資格確認について(医療機関・施術所等、システムベンダ向け)」オンライン資格確認導入の流れ
オンライン資格確認等システム導入に活用できる補助金はある ?
前述の通り、オンライン資格の導入は2023年4月から原則義務化されているため、2025年8月時点においては、補助金の申請を締め切っているところが多いです。ただし、2025年6月30日より、顔認証付きカードリーダー等の機器故障時などの再導入にも適用される補助金の申請受付が開始となっています。
★申請期間は2026年1月15日まで★
参照:医療機関等向け総合ポータルサイト「訪問診療等・オンライン診療等・外来診療等(通常とは異なる動線・機器故障時等)におけるオンライン資格確認等の導入に係る助成金について」
オンライン資格確認等システム導入に関するFAQ
続いては、オンライン資格確認等システム導入に関するよくある質問とその答えをみていきましょう。
Q. 既存のレセコンが古くても導入できますか?
多くのレセコンベンダーは、古い機種向けにも「オンライン資格確認対応モジュール」やアップデートを用意しているため、追加費用を支払ってアップデートすれば、利用可能な場合が多いです。もしくは、資格確認端末に専用ソフトを入れて、資格確認だけ別処理する方法もあります。
なお、ベンダーがアップデートをおこなっていない場合は、レセコンを買い替えなければ連携はできないということになります。また、WindowsのOSが古く、オンライン資格確認用ソフトをインストールできない場合なども連携できません。
Q. インターネット回線がないのですが、導入は必須ですか?
結論からいうと、インターネット回線がない場合は基本的に導入できません。オンライン確認等システムは、保険者のデータベースとリアルタイムで通信して資格を確認する仕組みであるため、専用のネットワーク接続環境が必須となります。
オンライン資格確認等システムの導入に必要な通信環境は、次のいずれかによって構築されます。
1.インターネット回線(光回線など)+VPNルータ
2.専用線(閉域網回線)
3.モバイル回線(LTE/5G)を使ったVPN接続(一部ベンダーが提供)
なお、施設に固定回線がない場合でも、モバイルルータやSIM内蔵ルータを使ったVPN接続で導入可能なケースはありますが、現状、回線が一切用意できていない場合は、回線を引くための工事を実施する必要があります。
Q. 導入後の運用で、何に気をつければいいですか?
導入後の運用においては気をつけるべきことは次の通りです。
1. 患者への丁寧な説明と案内
オンライン資格確認は患者にとって新しいシステムのため、受付での声かけや説明が非常に重要です。受付での声かけ例としては、たとえば、「健康保険証とマイナンバーカード、どちらで資格確認されますか?」などと、最初に選択肢を提示します。
また、「マイナンバーカードを使えば、過去の特定健診や薬剤情報が医師に共有されて、より質の高い医療につながります」とメリットを伝えることによって、患者の理解と協力を得やすくなります。
加えて、「保険証はもう使えないの?」「情報が勝手に使われることはない?」といった患者が抱きやすい疑問をピックアップして、待合室に掲示するQ&Aを作成しておくと安心です。
2. システムトラブル時の対応フロー
(たとえば、次のような運用となります)
→健康保険証を目視で確認して、その後、資格確認をおこなう
→資格情報確認票を印刷・保管して対応する
3. 医療情報取得加算の算定管理
医療情報取得加算とは、医療機関が患者の診療情報や薬剤情報をオンラインで取得して、質の高い診療に活用するために算定される加算点数です。令和6年度の診療報酬改定によって、次のように定義されています
算定要件に関しては、今後も変わる可能性があるので、院内掲示や案内文の整備も必須です
4. 個人情報・セキュリティ管理
オンライン資格確認は「マイナンバー関連の個人情報」を扱うため、情報漏洩防止が重要となります
また、機器更新やセキュリティアップデートを忘れずに実施することも大切です。
5.システム・機器のメンテナンス
6. スタッフ教育
まとめ:義務化への対応は医療DXの第一歩
オンライン資格確認等システムの導入は、既に義務化がスタートしていますが、前述の通り、現在は、顔認証付きカードリーダー等の機器故障時などの再導入にも適用される補助金が2026年1月まで申請できるタイミングなので、この機会に運用などについて今一度見直してみるといいかもしれませんね。医療機関によっては、義務化への対応が医療DXへの第一歩にもなり得るので、スタッフ全員で知識のアップデートを図ってみてはどうでしょう?
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2025年9月時点の情報を元に作成しています。