「コンプライアンス」とは、一般的には、企業が社会規範や倫理全般に背くことなく、公正・公平に業務をおこなうことを意味します。しかし、医療現場においては、コンプライアンスの意味は文脈によって大きく3つにわけられます。具体的にどのような意味で、どんなときに使われるのか、また、なぜコンプライアンスを守る必要があるのかなどを詳しく解説していきます。
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医療現場における「コンプライアンス」の3つの種類とは?
医療現場における「コンプライアンス」は、大きく次の3種類にわけられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
医療施設におけるコンプライアンス
医療施設におけるコンプライアンスとは、「患者を含む他者に向けた、安全管理に関する基本方針」を意味します。多くの医療施設では、コンプライアンスへの取り組みとして、次のようなことを定めています。
医療従事者は、勤務先の施設が決めたコンプライアンスに基づき、日々の業務に取り組む必要があります。具体的な取り組み内容は施設によって異なります。また、コンプライアンスの内容に関しては定期的に評価・見直しすることが大切です。
医療従事者におけるコンプライアンス
医療従事者におけるコンプライアンスとは、「医療業務・看護業務を遂行するうえで、法律に違反したり倫理に反したりした行為をおこなわないよう徹底すること」を意味します。具体的には、次のような取り組みが求められます。
医療従事者のコンプライアンス違反が生じてトラブルに発展した場合、医療施設が責任を問われることになります。医療従事者によるコンプライアンス違反を防ぐためにも、各スタッフに医療従事者としての自覚を持ってもらうことが大切です。
患者におけるコンプライアンス
患者におけるコンプライアンスとは、「患者が医師の治療方針や看護師の指示に従うこと」を意味します。具体的には、次に挙げる点などをクリアできていれば、「コンプライアンスが守られている」ということになります。
なお、患者におけるコンプライアンスを徹底できていない患者のことを「ノンコンプライアンス患者」と呼ぶことがあります。
「患者におけるコンプライアンス」<「アドヒアランス」に変遷
医療現場における3つのコンプライアンスのうち、「患者におけるコンプライアンス」を設定することは、昨今では主流ではなくなりつつあります。それに代わって重視されるようになったのは「アドヒアランス」です。
「アドヒアランス」とは、患者が積極的に治療方針の決定に参加して、決定に従って治療を受けることを意味します。
なぜ、「患者におけるコンプライアンス」という考え方が廃れて、「アドヒアランス」を重視するようになったかというと、「患者は医療従事者が決定した治療方針に従順でなければならない」という従来の考え方だと、「ノンコンプライアンスは患者自身に問題がある」ということになってしまうためです。
この構図のどこに問題があったかというと、たとえば患者が用法用量を守って服薬できなかったとして、医療従事者は、服薬を妨げる因子が何であるのかを考え、その解決のために何が必要であるのかを患者と相談することが必要だということです。
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アドヒアランス重視に変わったことで、医療従事者と患者のコミュニケーションはどう変化した?
「患者におけるコンプライアンス」重視から「アドヒアランス」重視に変わったことによる、医療従事者と患者とのコミュニケーションの変化は次の通りです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
「一方向」から「双方向」へ
「患者におけるコンプライアンス」においては、医療従事者から患者への指示が中心でしたが、「アドヒアランス」においては、医療従事者と患者との対話が中心となります。
「説明重視」から「理解度重視」へ
「患者におけるコンプライアンス」においては、治療方針や服薬方法の説明に重点が置かれていましたが、「アドヒアランス」においては、患者の理解度や患者の考え方をしっかり確認します。
「質疑応答」から「意見交換」へ
「患者におけるコンプライアンス」においては、まず医療従事者が治療方法や服薬方法を説明した後、患者からの質問に答えるという流れでしたが、「アドヒアランス」においては、医療従事者は患者の意見や懸念点に真摯に耳を傾けることが求められます。
アドヒアランス向上のために実施すべき取り組みは?
アドヒアランスの考え方を大切にして、患者の治療参加を促進するためには、次のような取り組みが有効です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
「患者教育」の実践
「患者教育とは、患者が自身の健康状態を理解して、適切な自己管理をおこなえるようにサポートすることです。具体的には、疾患や治療に関する説明資料の提供や、勉強会や相談会の定期的な開催などがこれに該当します。
治療計画の共同作成
患者の生活スタイルなどを考慮しながら、一人ひとりに最適な治療計画を、“患者と一緒に”作成していくことも大切です。また、治療計画は定期的に見直して、必要に応じて調整します。
多職種連携
医師、看護師、薬剤師などの多職種によるチーム医療を実践します。各専門家の視点を取り込みながら、包括的なケアを提供します。
心理的サポート
患者が治療に対して不安なことや懸念していることがないかどうかを確認して、必要に応じて心理的サポートをおこないます。場合によっては、臨床心理士や公認心理士、心理カウンセラーなどの専門家と連携することも考えたいところです。
テクノロジーの活用
オンライン診療システムの導入による通院負担の軽減、スマートフォンアプリを活用した服薬リマインダーなど、患者が無理なく治療を続けられるよう、テクノロジーを活用します。
フィードバックシステムの構築・サービス改善
医療従事者とのコミュニケーションなどに関して患者からフィードバックしてもらい、集まった意見をもとにサービスを改善していきます。
医療現場におけるコンプライアンスに関係する法律とは?
医療現場におけるコンプライアンスは、次の3つの法律と関連するものです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
医師法
医師法とは、医師免許の取得や喪失、医師の業務範囲・業務上の義務などについて定めている法律です。医師の義務としては「応召義務」「診断書等・処方箋の交付義務」「異常死体の届出義務」「診療録の記載と保存義務」が定められているほか、「無診療治療等の禁止」についても定められています。
医療法
医療法は、病院や診療所の定義、開設要件、医療計画の策定、広告可能な診療科目、「インフォームド・コンセント」などについて定めている法律です。医師法が「医師個人」を対象としているのに対して、医療法は「事業所」を対象としています。
インフォームド・コンセントとは?
インフォームド・コンセントとは、患者やその家族が病状や治療について十分に理解して、医療職側は、患者やその家族の意向や状況を受け止め、医療・看護に関してどのような選択がベストであるのかを多職種および関係者と話し合い、みんなで合意するプロセスのことです。
英語にすると「Informed Consent」で、Informedは「十分な説明」、Consentは「同意」を意味します。かいつまんでいうと、医療の現場で日常的におこなわれている「説明」と「同意」ということになります。
参照:公益社団法人日本看護協会「倫理的課題の概要 インフォームドコンセントとは」
なお、医療法1条の4第2項には、次のように定められています。
「医療法1条の4第2項
医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は医療を提供するにあたり、適切な説明をおこない、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」
健康保険法
健康保険法は、日本国内で保険診療を行う上でのルールを定めた法律です。保険医療機関は、健康保険法および「保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)」に則って診療・請求を行わなければなりません。
これらに違反し、診療報酬の架空請求や付増請求(水増し請求)などの不正が疑われる場合は、厚生局による「個別指導」や「監査」の対象となります。コンプライアンス遵守の観点から、カルテとレセプト(診療報酬明細書)の整合性を保つことは極めて重要です。
刑法
刑法とは、犯罪および刑罰に関する法律です。「人々の行動を規制するため」、そして「一定の行為を禁止して、法律によってもたらされる利益を守るため」ことを目的に制定されています。医療現場におけるコンプライアンスが、なぜ刑法と関係しているかというと、医療従事者の守秘義務についても定められているためです。
具体的には、刑法134条1項に次のように定められています。
「刑法134条1項
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人またはこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処する」
医療現場におけるコンプライアンスに違反した場合のリスク
医療現場におけるコンプライアンスに違反した場合のリスクとしては、次のようなことが考えられます。
行政処分を受ける(保険医療機関の指定取消・医業停止など)
医療機関の運営にとって最大のリスクと言えるのが行政処分です。 特に、診療報酬の不正請求などが悪質と判断された場合、健康保険法に基づき「保険医療機関の指定取消」処分が下されることがあります。指定が取り消されると、原則5年間は保険診療ができなくなるため、クリニックは事実上の閉院・廃業に追い込まれることになります。
また、医師法違反や刑法違反などがあった場合、医師個人に対しても厚生労働大臣より「戒告」「3年以内の医業停止」「医師免許取消」といった行政処分が下される可能性があります。
社会的評判が失墜する恐れがある
コンプライアンスに違反したことから訴訟などに発展した場合、医療機関の評判が失墜する恐れがあります。たとえば医療事故が起きたとして、コンプライアンスに従わず適切に対応しなかった場合、社会的評判が失墜する可能性が高いといえます。その結果として、既存患者が離れていくことも考えられます。
一方、コンプライアンスを守って適切に対応していたものの起きてしまった医療事故に関しては、社会的評判の失墜にはつながりにくいといえます。その場合、事故の原因について調査して、いかにして再発を防ぐかを考えることが大切です。
刑事罰を科されることがある
刑法に違反した場合、医療従事者個人が刑事罰を科されることがあります。医療機関そのものが法令に違反した場合の罰則についても定められています。
損害賠償責任が課されることがある
医療機関においては、「委任者である患者が、受任者である医師に対して診療行為を依頼する」という契約形態をとっていることになります。この契約形態は、民法上、「準委任契約」に該当します。なお、「準委任契約」とは、成果の達成ではなく、「業務の遂行」を目的とした契約です。具体的な成果物が制作されにくい業務や、成果が可視化されにくい業務に適用されることが多い契約で、診療行為もこれに該当します。
準委任契約においては、受任者は「善管注意義務」を負うことになります。善管注意義務とは、最善の注意をもって委任された業務をおこなう義務のことです。医療現場においては、一定水準以上の診療をおこなうことが求められているということになります。なお、すべての医師に対して同じ水準が適用されるということではなく、各医師の専門分野や医療機関の性質、地域、緊急性などの事情を考慮したうえで水準が決定されます。
一定水準を満たさないことによって患者に不利益が生じた場合、「善管注意義務違反によって不利益が生じた」とみなされます。この場合、民放709条の不法行為または民法415条の債務不履行責任として、損害賠償責任が課されることがあります。
「民法709条
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
「民法415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときまたは債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」
医療現場におけるコンプライアンス違反を防ぐためにできることは?
医療現場におけるコンプライアンス違反を防ぐためには、次の6つを実施することが大切です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
コンプライアンスマニュアルを作成する・コンプライアンス教育を実施する
医療従事者にコンプライアンスを徹底してもらうためには、マニュアルの作成とコンプライアンス教育の実施は欠かせません。なお、マニュアルを作成して「目を通しておいてください」だけでは、一人ひとりのコンプライアンスに対する意識は醸成されないので、定期的な研修などを検討するといいでしょう。
コンプライアンスに関する相談窓口・通報窓口を設置する
従業員が、コンプライアンスに関して気になることがある場合、違反行為を見つけた場合、相談や通報できる窓口があれば、早期に疑問解決や問題行動阻止を実現することができます。
内部監査・外部評価を実施する
コンプライアンスが守られているかどうかを客観的目線で確認することも大切です。内部監査だけでは不十分な場合、併せて外部評価の実施も検討しましょう。
院内掲示の義務を守る
医療機関における院内掲示の義務に関しては、医療法14条2第1項で次のように定められています。
「医療法14条の2第1項
病院又は診療所の管理者は、厚生労働省令の定めるところにより、当該病院または診療所に関し次に掲げる事項を当該病院または診療所内に見やすいよう掲示しなければならない
一 管理者の氏名
二 診療に従事する医師または歯科医師の氏名
三 医師または歯科医師の診療日および診療時間
四 前三号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項」
また、医療法施行規則第9条の3において、医療法14条2第1項に掲げている事項について、「当該病院または診療所の入口、受付または待合所の付近の見やすい場所に掲示しなければならない」と定められています。
カルテはできるだけ詳細まで記す
カルテには、患者との会話の内容などについてもできるだけ細かく記しておくことが大切です。そうしておくことによって、万が一、医療事故が起こって医療機関側に問題がなかった場合など、重要な証拠書類として提出することができるためです。
医療の分野に強い法律の専門家を顧問にする
医療現場におけるコンプライアンスを遵守できているのかどうかなど、コンプライアンスに関する疑問や不安がある際、すぐに確認できるよう、医療分野に強い弁護士に顧問弁護士となってもらうことが得策であると考えられます。
コンプライアンスは患者満足度や医療機関の利益向上にも直結する
医療現場におけるコンプライアンスは、リスクヘッジに役立つだけでなく、患者の満足度向上にもつながりますし、その結果として、「患者に選ばれる医療機関」となる可能性が高く、医療機関の利益向上にも結び付いていきます。つまり、コンプライアンスを大切にすることにはさまざまなメリットが伴うということになるので、この機会に、自院のコンプライアンスについて改めて見直してみてはいかがでしょうか?
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