診療所のBCPはいつから必要か——届出済みなら2027年5月31日まで猶予
令和8年度(2026年度)診療報酬改定は2026年6月1日に適用され、機能強化加算と在宅療養支援診療所(在支診)の施設基準にBCP(業務継続計画)の策定が加わった。診療所に一律で課された義務ではなく、この2つを届け出ている(これから届け出る)医療機関の算定要件である。
2026年3月31日の時点ですでに届け出ている医療機関は、2027年5月31日まではBCPの要件を満たしているものとみなされる。厚生労働省の経過措置一覧では、機能強化加算が3番、在支診・在支病が58番に載っている(令和8年度診療報酬改定 経過措置について)。2027年6月1日以降も算定を続けるには、それまでにBCPを作っておく必要がある。一覧には「経過措置は、今後変更になる可能性」があるとの注記もあるので、届出前に最新の告示・通知を確かめたい。
BCPが要件に入った施設基準
| 施設基準 | 参考にする手引き | 届出済み医療機関の経過措置 |
| 機能強化加算(初診時80点) | 医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き | 2027年5月31日まで要件に該当するものとみなす(経過措置一覧 3番) |
| 在宅療養支援診療所(機能強化型の単独型・連携型、それ以外の在支診のすべて) | BCP策定の手引き(在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業専門家委員会作成) | 2027年5月31日まで要件を満たしているものとする(経過措置一覧 58番) |
要件の文言は2つとも同じ骨格で、①手引き等を参考にBCPを策定する、②計画に従って必要な措置を講じる、③定期的に見直し、必要に応じて変更する、の3点だ(基本診療料の施設基準等の通知 第1の3、特掲診療料の施設基準等の通知 第9)。在支診のBCPは、在宅で診ている患者への医療をどう続けるかを対象にしている点が機能強化加算と違う。
なお、訓練を年1回(程度)以上行うことまで求めているのは、入院の電子的診療情報連携体制整備加算(入院基本料等加算、有床診療所も対象)や救急外来医学管理料などの基準で、上の2つの基準には訓練の回数の定めは無い。
2027年5月31日までにやることのチェックリスト
2026年6月以降に新しく機能強化加算や在支診を届け出る医療機関には経過措置が無く、届出の時点でBCPができている必要がある。
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BCP(業務継続計画)とは何か——クリニックに必要な理由
BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)とは、災害・感染症拡大・システム障害などの非常事態が発生したとき、医療サービスを止めずに継続するための計画書だ。
医療機関に求められる役割は、有事においても変わらない。地域の患者を診続ける体制を事前に設計しておくことが、BCPの本質である。
一般的な企業のBCPは「売上・事業の継続」が目的だが、医療機関の場合は「患者の命と健康の継続」が目的になる。この点で、クリニックのBCPはより切迫した意味を持つ。
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2026年改定で何が変わったか——どのクリニックが対象か
BCPが要件になった施設基準
2026年度(令和8年度)診療報酬改定で、以下の施設基準を届け出ているクリニックに、算定の要件としてBCPの策定が求められるようになった。
対象1:機能強化加算(80点)の届出医療機関
かかりつけ医機能を評価する加算で、地域の診療所が広く届け出ている。改定後は施設基準に「BCPの策定と定期的な見直し」が追加された(点数自体に変更なし)。
対象2:在宅療養支援診療所(在支診)
24時間対応・往診体制を持つ診療所で、全国に約1万7,000か所存在する。在宅医療の地域拠点として、災害時の継続性確保が特に求められる。
BCP策定の具体的な要件
厚生労働省が提示した要件の骨格は以下の通りだ。
「策定すればよい」のではなく、「実際に運用し、見直す」ことまで求められている点に注意が必要だ。
経過措置のスケジュール
| 区分 | 期限 |
| 2026年3月31日時点で届出済みの医療機関 | 2027年5月31日まで経過措置(猶予)あり |
| 2026年4月1日以降に新規で届け出る医療機関 | 届出時点からBCP策定が要件 |
既存の届出医療機関には約1年2か月の猶予がある。しかし、BCP策定は一朝一夕では完成しない。早期着手が現実的だ。
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BCPを策定しないとどうなるか(加算算定リスク)
BCP未策定のまま経過措置期間を超えた場合、以下のリスクが生じる。
加算の算定不可
施設基準を満たさなくなるため、機能強化加算(80点)や在宅療養支援診療所の各種加算が算定できなくなる。機能強化加算を算定している診療所であれば、初診のたびに発生していた加算収入(80点)が失われる。
届出の取り消しリスク
施設基準の不備が継続すると、保険医療機関としての施設基準届出の取り消し処分が生じる場合もある。加算の返還を求められるケースも想定される。
地域連携上の信頼低下
在支診は地域の在宅医療ネットワークの核を担う。BCP未整備は、行政・病院・ケアマネジャーからの信頼性に影響しうる。
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ペナルティ回避だけではない。BCP策定による経営上のメリット
BCP策定は「義務だからやる」という側面だけでなく、クリニックの経営基盤を強化する以下のメリットももたらします。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)の認定による優遇措置
中小企業庁が所管する「事業継続力強化計画」に策定したBCPを申請し、認定を受けると、以下のような支援措置を受けられる可能性があります。
BCPを単なる書類仕事で終わらせず、設備のアップデートやシステム移行の契機として活用することが、経営戦略として非常に有効です。
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BCPで問われるのはデータをどこに置いているか
非常時に診療を続けられるかは、カルテがどこに保管されているかで決まります。クラウド型電子カルテのセキュリティと可用性の仕組みを解説しました。
クリニック向けBCPの基本構成——最低限盛り込むべき6項目
厚生労働省が公開している「医療機関向けBCP作成の手引き」や各都道府県の指針を踏まえ、クリニック規模のBCPに必要な項目を整理する。
1. 基本方針と適用範囲
クリニックとして「どのような非常事態を想定するか」を定義する。大規模地震・水害・感染症拡大・停電・サイバー攻撃の5種を最低限カバーすることが推奨される。
クリニックの使命(例:「地域住民に継続的な外来診療と在宅医療を提供する」)を文書化し、BCPの根拠として位置づける。
クリニックのBCPで想定すべき脅威は、大きく分けて「自然災害」「新興感染症」「サイバー攻撃」の3つに分類されます。これらは業務停止の要因や対策が大きく異なるため、それぞれ分けてアプローチすることが重要です。
自然災害BCP: 建物・設備の損壊、インフラ(電気・水など)の停止といった「物理的ダメージ」からの復旧が中心となります。
感染症BCP: 設備は無事でも「スタッフの感染・濃厚接触による欠勤」という人員不足や、院内の「ゾーニング(感染区域の分離)」への対応が中心となります。
サイバーセキュリティ(IT-BCP): ランサムウェア等による電子カルテやシステムの暗号化・停止に対し、「データの保全と代替運用(紙カルテへの切り替え等)」が中心となります。
2. リスクアセスメント(被害想定)
クリニックが立地する地域のハザードマップを確認し、浸水・地盤液状化・建物倒壊のリスクを評価する。ハザードマップは各市区町村が公開している(国土交通省「ハザードマップポータルサイト」でも確認可能)。
リスクごとに「発生確率」と「業務への影響度」をマトリクスで整理すると、優先対応が明確になる。
3. 重要業務の特定と継続目標の設定
すべての業務を有事に維持するのは不可能だ。優先順位をつけて「継続すべき業務」を絞り込む。
クリニックにおける優先業務の例を以下に示す。
それぞれの業務について「目標復旧時間(RTO)」と「許容停止時間」を設定する。
4. 人員・体制の確保と『地域連携』
「院長が被災した場合、誰が診療判断を行うか」を事前に取り決めておく。
また、特に在支診の場合、自院のスタッフ確保だけでなく多職種との地域連携がBCPの実効性を左右します。災害時に地域の在宅患者を守るため、以下のような外部ネットワークとの連携手順をあらかじめ定めておく必要があります。
5. 設備・物資・インフラの確保計画
以下の項目についての対応手順を定める。
| 対象 | 対応内容の例 |
| 電力 | 自家発電機の容量確認・燃料備蓄量の設定 |
| 通信 | 固定回線障害時の携帯・衛星回線の代替手順 |
| 医薬品・医療材料 | 最低限の備蓄量と発注先の代替リスト |
| 電子カルテ | バックアップ体制と障害時の紙運用手順 |
| 水・衛生 | 断水時の手指衛生・器具洗浄の代替方法 |
6. 訓練・見直しのサイクル
BCPは「作って終わり」では機能しない。機能強化加算・在支診の要件は、計画に従って必要な措置を講じることと、定期的に見直して必要に応じて変更することだ。訓練の回数までは定められていないが、年1回程度の訓練で課題を洗い出し、見直しにつなげると実効性が上がる。
改定・人事異動・新たな設備導入のタイミングでも随時見直しが必要だ。文書のバージョン管理を徹底することで、最新版が常に参照できる状態を保つ。
クリニックのBCPひな形・テンプレートはどこで入手するか——無床診療所・在支診別
ゼロから書き起こす必要はありません。施設基準の通知が参考にするよう示している手引きに加え、厚生労働省の疑義解釈(その12、2026年9月2日)の問7で、日本医師会の「診療所用業務継続計画(BCP)のひな形」を参考にしてもよいとされました(疑義解釈資料の送付について(その12))。
公的に入手できる3つの資料
- 日本医師会「診療所用業務継続計画(BCP)のひな形」:Word形式。①白紙様式、②外来診療のみ実施する医療機関向けの記載例、③在宅医療を実施する医療機関向けの記載例の3種類です(日本医師会)。
- 「BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編」:在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業 専門家委員会の作成。手引き(PDF)とExcelの策定テンプレート、シミュレーション訓練ワークシートが掲載されています(厚生労働省)。
- 「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」:平成29年度の厚生労働科学研究で作られた9ページの手引きです。作成のステップと盛り込む項目を示したもので、記入式の様式ではありません(厚生労働省)。
自院はどの資料から始めるか
| 向いている条件 | 始める資料 |
| 無床の外来診療所で、機能強化加算も在支診も届け出ていない(施設基準上のBCP要件はかからない) | 日本医師会ひな形の②外来のみの記載例。必要な部分だけ残して短くまとめれば足ります |
| 機能強化加算を届け出ている(届け出る)外来中心の診療所 | 日本医師会ひな形の②を土台にし、項目の抜けを「災害拠点病院以外」の手引きで確かめます |
| 在支診として訪問診療・往診を行っている | 日本医師会ひな形の③在宅医療の記載例、または在宅医療の「診療所編」手引きとExcelテンプレート |
日本医師会は、記載例のとおりでなければ診療報酬上の要件を満たさないものではないとしています。疑義解釈も、どの資料を使う場合でも地域の特性や市町村の個別避難計画を踏まえて項目を追加・削除し、作った計画を職員に周知するよう求めています。自院のBCPが施設基準に該当するかの判断は、管轄の地方厚生(支)局に確認してください。
ひな形を埋めるときに自院で決める項目
- 想定する災害(ハザードマップで浸水・土砂災害の区域を確認)
- BCPの責任者と、院長が不在・被災したときの代行順位
- 職員ごとの有事の出勤可否と安否確認の方法
- 優先して続ける業務(継続処方、急変対応、在支診なら訪問を優先する患者)
- 停電・断水・通信途絶・物流停止のときの代替手段
- 電子カルテや請求システムが止まったときの紙運用(サイバー攻撃を含む)
- 見直しの時期と版の管理、職員への周知の方法
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BCPを効率よく作る3つのステップ
クリニック単独でゼロからBCPを策定するのは、業務負担が大きい。以下のステップで効率的に進めることを推奨する。
ステップ1:公的テンプレートを活用して素案を作る
まず公的なひな形を1つ選び、自院の情報(スタッフ数・設備・立地・在宅患者数など)を書き込んで骨格を作ります。どのひな形から始めるかは、上の「クリニックのBCPひな形・テンプレートはどこで入手するか」の判定表で選べます。
ステップ2:地区医師会・都道府県の研修を活用する
多くの都道府県・地区医師会が、クリニック向けのBCP策定支援研修を開催している。行政の担当者や専門家から直接フィードバックを受けられる機会であり、策定内容の妥当性を確認する場としても有効だ。
また、地区医師会の策定支援ツールや相互支援協定の枠組みを活用することで、単独策定の負担を軽減できる。
ステップ3:電子カルテ等のシステムと整合性を確認する
BCP上のデータ管理方針が、実際に運用している電子カルテシステムの仕様と合致しているかを確認する。
特に以下の点は、BCP策定前にシステムベンダーへ確認することを推奨する。
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電子カルテとBCPの関係——データバックアップ設計が核心
クリニックのBCPにおいて、電子カルテデータの保全は最優先課題の一つだ。患者の処方歴・アレルギー・既往歴が参照できなければ、安全な診療継続は難しい。
オンプレミス型のリスク
院内サーバーに電子カルテデータを保管するオンプレミス型の場合、建物倒壊・浸水・停電によってサーバーが物理的に損傷するリスクがある。データ復旧には数日〜数週間を要することもあり、その間の診療に深刻な影響が生じる。
クラウド型の優位性
クラウド型電子カルテはデータをクラウドサーバーで管理するため、院内設備が被災してもデータは保全される。インターネット接続さえ確保できれば、別の端末・別の場所からでも診療記録へアクセスが可能だ。
河川近くや浸水リスクの高い立地のクリニックでは、クラウド移行がBCP対策として実際に活用されている事例がある。
BCP策定時に電子カルテで確認すべき事項
| 確認項目 | 確認内容 |
| バックアップ頻度 | 日次か、リアルタイムか |
| バックアップ保存場所 | 遠隔地のデータセンターへの冗長化の有無 |
| 障害発生時の復旧時間 | ベンダーが保証するSLAの内容 |
| オフライン時の対応 | 紙運用への切り替え手順の整備状況 |
| サイバー攻撃への備え | ランサムウェア被害時のデータ復旧手順 |
これらをBCPの「ITシステム継続計画」として文書化し、年1回以上は確認しておきたい(機能強化加算・在支診の要件には確認の回数の定めは無い)。
サイバー攻撃対策もBCPに含める
2023年以降、国内の医療機関へのランサムウェア攻撃が複数件発生している。厚生労働省は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」(2023年5月)を改定し、サイバー攻撃を想定したBCPの策定も医療機関に求めている。
電子カルテのBCP上では、「インターネット経由の攻撃による診療停止」を災害シナリオの一つとして追加することが現実的な対応だ。
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まとめ——BCPは患者・スタッフ・地域への責任
BCPは行政対応のための「書類仕事」ではなく、患者・スタッフ・地域に対する責任の可視化である。2026年改定でBCPが施設基準の要件になったことは、その整備を制度面から後押しするものと捉えられる。
経過措置期間(2027年5月末)があるとはいえ、策定・訓練・見直しのサイクルを回すには相応の時間が必要だ。早期着手が、加算確保とクリニックの地域信頼維持の両面で合理的な選択となる。
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特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、2026年3月時点の情報を元に作成しています。
