労災の請求書は様式が番号で分かれていて、どれを使うかは「何を請求するか」で決まる。
様式第8号は休業補償給付、つまり「働けなかった期間の所得補償」を請求する書類である。医療費そのものを請求する様式第5号・第7号とは目的が違う。
クリニックが関わるのは、この8号の療養担当者による証明欄。ここに何を書くかで、労働基準監督署からの照会が来るかどうかが変わる。
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まず様式の番号を取り違えない
| 様式 | 何を請求するか | どこへ出すか |
|---|---|---|
| 様式第5号 | 療養の給付(労災指定医療機関で受診したとき) | 受診した医療機関へ提出 → 医療機関が労基署へ |
| 様式第7号 | 療養の費用(労災指定以外で受診し、いったん立て替えたとき) | 本人が労基署へ |
| 様式第8号 | 休業補償給付(休業4日目以降の所得補償) | 本人が労基署へ |
| 様式第16号の3 等 | 通勤災害の場合 | 業務災害とは様式が別 |
通勤災害は番号が変わる。業務災害の8号に対し、通勤災害は様式第16号の6を使う。事故の状況を聞いてから様式を渡す。
誰がどこを書くか
様式第8号は1枚を3者で分担する。
| 記入する人 | 主な欄 |
|---|---|
| 請求人(被災した労働者) | 氏名・生年月日・住所、負傷または発病の年月日、災害の原因と発生状況、振込先口座 |
| 事業主 | 事業の名称・所在地、平均賃金、療養のため労働できなかった期間とその賃金支払状況 |
| 医療機関(療養担当者) | 傷病の部位と状態、療養の期間、労務不能と認められた期間、診療実日数 |
平均賃金の算定は事業主の仕事で、医療機関は触らない。逆に「労務不能と認められた期間」は医療機関しか証明できない。
クリニックが書く欄で押さえること
1. 傷病名と部位は、災害との関係が読み取れるように書く
労基署が見るのは業務上の災害と傷病がつながっているかである。
- 部位を左右まで書く(「右第2指」のように)
- 既往症がある場合、今回の災害による増悪であることが分かる記載にする
- 災害発生日と初診日が離れているときは、その事情が分かるようにする
「腰痛」だけでは照会が来やすい。発症の機転が分かる記載を添える。
2. 「療養の期間」と「労務不能と認められた期間」は別物
ここを同じ期間で埋めてしまう記載が多い。
- 療養の期間 —— 治療を行った期間
- 労務不能と認められた期間 —— その人が本来の業務に就けなかった期間
通院しながら就労できていた日は、療養の期間に入っても労務不能の期間には入らない。休業補償の支給日数はこちらで決まる。
3. 診療実日数は実際に受診した日数
入院していれば入院日数、外来なら受診した日数を書く。療養の期間の暦日数ではない。
4. 証明日と記名押印
医療機関の名称・所在地・診療担当者名を記載する。押印を求められる様式が残っているため、請求人が持参した用紙の版を確認する。
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待期3日の数え方
休業補償給付が出るのは休業4日目からである。最初の3日間は待期期間で、業務災害の場合は事業主が休業補償(平均賃金の60%)を支払う義務がある(労働基準法第76条)。
- 待期の3日は連続していなくてよい。通算して3日で成立する
- 所定休日も待期に算入する
- 一部でも労働した日は、原則として待期の日数に数えない
通勤災害には、この事業主による3日分の補償義務がない。業務災害か通勤災害かで、事業主の負担がここで変わる。
労災指定医療機関かどうかで流れが変わる
| 労災指定医療機関 | 指定以外 | |
|---|---|---|
| 患者の窓口負担 | なし(現物給付) | いったん全額を支払う |
| 使う様式 | 様式第5号(業務災害) | 様式第7号 |
| 費用の請求先 | 医療機関が労働基準監督署へ | 本人が労基署へ請求して払い戻し |
指定医療機関でない場合、患者は10割を窓口で支払うことになる。健康保険が使えないためで、金額が大きくなりやすい。受付の段階でこの説明ができるかどうかで、後のトラブルが変わる。
労災の患者に健康保険証を使わせない
業務災害・通勤災害による傷病に健康保険は使えない(健康保険法第55条)。誤って健康保険で処理すると、後から次の手続きが必要になる。
- 保険者へ健康保険で受けた給付の返還を行う
- 医療機関で労災扱いへ切り替える
- 改めて労災の請求を行う
患者が自己判断で健康保険証を出してくることがある。受付で「仕事中またはご出勤の途中のけがですか」と一言確認するだけで防げる。
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記入漏れで照会が来やすいところ
- 災害発生状況が抽象的(「作業中に負傷」だけ)
- 労務不能の期間が療養の期間と同一になっている
- 診療実日数が空欄
- 事業主証明欄が未記入のまま医療機関へ回ってきている
- 第三者行為災害(交通事故など)なのに届出がない
事業主証明が無い状態で持ち込まれることがある。事業主が証明を拒んだ場合でも、その旨を申し立てて請求は可能である。医療機関は自院の欄だけを埋めて返す。
よくある質問
事業主が労災と認めてくれない場合、証明欄はどうなりますか。
事業主の証明が得られない旨を記載して請求できる。労働基準監督署が事実関係を調査して判断する。医療機関は自院の証明欄のみを記入し、労災か否かの判断には踏み込まない。
様式第8号は何度も出すのですか。
休業が続く限り、原則として1か月ごとに請求する。2回目以降は事業主証明や災害の状況の記載が一部省略できる。医療機関の証明は請求のたびに必要になる。
労災の診療報酬は健康保険と同じですか。
別の算定基準(労災診療費算定基準)による。労災保険では健保の点数に一定の単価を乗じる扱いになっており、金額が異なる。請求先も審査支払機関ではなく労働局になる。
通勤災害でも様式第8号を使いますか。
使わない。通勤災害の休業給付は様式第16号の6を使う。業務災害と通勤災害で様式が対になっているので、事故の状況を先に確認する。
まとめ
- 様式第8号は休業補償の請求書。医療費の請求(5号・7号)とは目的が違う
- クリニックが書くのは療養担当者の証明欄。平均賃金の算定は事業主の仕事
- 「療養の期間」と「労務不能と認められた期間」は別物。支給日数は後者で決まる
- 待期3日は連続していなくてよく、所定休日も算入する。業務災害では事業主が3日分を補償する
- 労災指定でない医療機関では、患者が10割を窓口で支払う。受付での説明が要る
- 労災に健康保険は使えない。受付での一言確認が最も確実な予防になる
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参考
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この記事は、時点の情報を元に作成しています。
