カルテ(診療録)は、診療内容を正確かつ遅延なく記録し、法令に基づいて保存・管理することが求められる極めて重要な公的記録です。日々の保険診療において、カルテの記載内容はレセプト(診療報酬明細書)請求の唯一の根拠となります。そのため、SOAPなどの基本に沿って必要事項が正しく記載されていないと、レセプトの返戻や査定を受けたり、厚生局の個別指導・監査で厳しい指摘を受けたりするリスクがあります。
そこで今回は、医師や医療スタッフに向けて、法的要件を満たした正しいカルテの書き方や、電子カルテを用いた効率的な記載のコツ、指導対象になりやすい不備とその対策について実践的に解説していきます。
カルテ(診療録)の法律上の位置づけと保存義務
カルテは単なる診療内容のメモではなく、法律で作成・保存が義務付けられている公的な医療記録です。
医師に作成義務がある法定記録
カルテは、患者の診療経過を証明する法的文書として扱われるため、処方内容や経過記録を正確に記載することが不可欠です。
医師が診療をおこなった際には、診療録を作成しなければならないこと、保存しなければならないことは、医師法第24条によって次のように定められています。
「医師法第24条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない
2 前項の診療録であって、病院または診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院または診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない」
ただし、診療継続や医療訴訟への備えのために、実務上は多くの医療機関で5年を超えて保存されています。電子カルテの場合は、半永久的に保管というケースも珍しくありません。
「診療継続」「医療訴訟への備え」についてもう少し詳しくみていきます。
医療の継続性を支える記録
カルテには、次のような役割があります。
- 適切な診療の実施
- 医療スタッフ間の情報共有
- 医療安全の確保
- 他医療機関への情報提供
- 診療報酬請求の根拠
つまり、カルテの記載内容を確認することによって、スタッフ間ないし他医療機関との間で正しい情報を共有して、適切な診療・治療を提供することが可能となり、医療安全も確保できるということになります。
なお、診療報酬請求の根拠は診療録にあることは、厚生労働省の資料にも明記されています。
参照:厚生労働省東北厚生局「保険診療と個別指導(医科)」より「診療録記載」について
医療訴訟で重要な証拠となる
医療事故や医療訴訟が発生した場合、カルテはもっとも重要な証拠の1つになります。
カルテに記載されていない事項は、実施されていなかったと判断される可能性もあるため、適切な記録が求められます。
保険診療分と自費診療分のカルテは区別することが必要
カルテの作成・保存に関しては、「保険診療分と自費診療分を区別しなくてはならない」ということも法律で定められています。
具体的には、保険医療機関および保険医療養担当規則第8条において、次のように定められています。
「保険医療機関および保険医療養担当規則第8条 保険医療機関は、第22条の規定による診療録に療養の給付の担当に関して必要な事項を記載して、これを他の診療録と区別して整備しなければならない」
なお、上記に記載の「第22条」の内容は次の通りです。
「保険医は、患者の診療をおこなった場合には,遅滞なく、様式第1号1またはこれに準ずる様式の診療録に、当該診療に関して必要な事項を記載しなければならない」
ただし、カルテを2部作成しなくてはならないということではなく、電子カルテであれば、保険診療フォルダと自由診療フォルダをわけるなどの方法で対応することができます。
保険診療分と自由診療分を区別させる必要がある理由は次の通りです。
混合診療の問題を避けるため
日本の公的医療保険制度では、原則として「保険診療」と「自由診療」を同じ診療行為のなかで混在させることは認められていません(評価療養・選定療養などの例外を除く)。カルテが一体化していると、どこまでが保険診療か/どこからが自由診療かがわかりにくくなり、保険請求の妥当性を確認できなくなる可能性があります。
指導・監査への対応
厚生労働省や地方厚生局による個別指導や監査では、診療内容、算定根拠、保険請求の適正性が確認されます。その際、保険診療部分/自由診療部分が明確に区別されていないと、不適切請求を疑われるリスクがあります。
診療報酬請求の根拠を明確にするため
保険診療のカルテは、レセプト(診療報酬明細書)、検査、処置、投薬などの算定根拠となります。自由診療の内容が混在すると、「この処置は保険請求したものなのか、自費診療なのか」が判別しにくくなります。
会計・税務処理が異なるため
保険診療収入と自由診療収入では、売上管理、経営分析、消費税の取扱いなどが異なります。カルテや診療記録の段階で区分しておくと、後の事務処理が容易になります。
一度記載したカルテの「訂正・追記」に関する厳格なルール
カルテは法的な公文書として扱われるため、記載ミスがあったからといって、後から痕跡を残さずに消去したり上書きしたりすることは「カルテの改ざん」とみなされる恐れがあり、絶対にやってはいけません。
医療訴訟や監査においてカルテの「真正性(作成された記録が虚偽でないこと)」を担保するためには、以下のルールを守る必要があります。
紙カルテの場合
修正液や修正テープの使用は厳禁です。訂正箇所に二重線を引き、訂正者の印鑑(訂正印)を押したうえで、正しい内容と訂正日時を余白に記載します。元の文字が読める状態で残すことが鉄則です。
電子カルテの場合
国が定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、修正や追記をおこなった「日時」「入力者」「修正前の内容」「修正後の内容」の履歴がシステム上に残る機能(真正性の確保)を使用します。自分用のメモ帳などで文章を書き直してから古い記録をまるごと削除・上書きするような運用は避け、必ず電子カルテの正規の「修正・追記」機能を使用してください。
カルテ(診療録)に記載すべき事項
カルテに記載すべき事項については、医師法施行規則第23条において次のように定められています。
「医師法施行規則第23条
診療録の記載事項は、次のとおりとする。
一 診療を受けた者の住所、氏名、性別および年齢
二 病名および主要症状(美容を目的として人の皮膚もしくは歯牙を清潔にし、もしくは美化し、身体を整え、または体重を減ずるための医学的処置、手術およびその他の治療をおこなう場合にあっては、患者の主訴および希望する治療の内容を含む)
三 治療方法(処方および処置)
四 診療の年月日」
実際の保険診療では、上記に加え、診察所見、検査結果、診断根拠、投薬内容、指導内容、治療方針、次回受診指示なども求められます。
このことは、東京都医師会のホームページなどに記されています。
参照:公益社団法人東京都医師会「診療録(カルテ)に関する規定」より
また、これらの記載事項は診療報酬請求の根拠となるため、実施した診療行為とカルテ記載事項が一致している必要があります。
記載が不十分だと審査・指導でどう問われるか
カルテの記載事項が不十分な場合や説明が足りていない場合、次のようなことが起こり得ます。
診療報酬の査定・返戻
レセプト請求した内容について、「病名の記載がない」「検査の必要性がわからない」「処置実施の記録がない」などの場合、診療報酬の査定や返戻の対象になることがあります。カルテは診療報酬請求の根拠資料であり、請求内容との整合性が求められます。
個別指導で指摘される
地方厚生局による個別指導では、カルテ記載、レセプト、検査記録、同意書などが照合されます。
特に次のポイントについては問題ないようにしておくことが大切です。
- 病名と処方の整合性
- 病名と検査の整合性
- 診察所見の記載
- 医学管理料の指導内容記載
- 手術・処置の実施記録
そのため実務上は、「実施した医療行為はすべてカルテに残す」「請求した点数はカルテを見れば第三者が根拠を理解できる状態にする」ことが保険診療カルテ作成の基本とされています。
東京都医師会の保険診療解説でも、「診療録の内容と診療報酬明細書の請求内容は一致していなければならず、個別指導等において指導の対象となる」と明記されています。
なお、厚生労働省によると、令和6年度における指導・監査等の結果、保険医療機関などから返還を求めた金額は約48億5,000万円とされています。
参照:厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(概況)」
「無診察治療」と判断されることがある
再診患者などに、処方のみ、リハビリのみ、注射のみをおこなった場合でも、診察内容や患者の状態変化が記録されていなければ、「実際に診察したことが確認できない」として無診察治療とみなされる可能性があります。
医学管理料などの算定が認められない
特定疾患療養管理料などの医学管理料を算定するためには、指導内容、治療計画、病状説明の記載が必要です。
記録がなければ、「実施したことを証明できない」として算定が否認される場合があります。
SOAP形式の実践的な使い方
続いては、電子カルテの記録の基本的な書き方である「SOAP」について詳しく解説していきます。
SOAPは、患者情報を整理して記録するための代表的な診療録記載方法で、次の4つの要素で構成されます。
S(Subjective:主観的情報)
O(Objective:客観的情報)
A(Assessment:評価)
P(Plan:計画)
S(主観的情報)の書き方
患者本人や家族から得られた訴えを記録します。
[記載例]
- 「3日前から咳が続いている」
- 「昨夜38℃の発熱あり」
- 「食欲がない」
- 「腹痛は昨日より改善」
[ポイント]
- 患者の言葉をできるだけそのまま記録する
- 医師の解釈を混ぜない
- 症状の経過や変化を記録する
なお、患者が小さな子どもや高齢者の場合、患者の言葉をそのままでは、記録として不十分になりがちです。この場合、患者の家族の言葉を引用形式で残すなどの工夫が必要です。医師の言葉で補足するのでは、主観的情報とならないため注意が必要です。
[良い例]
- 「昨日から右下腹部痛あり。歩行時に増悪」
[悪い例]
- 「虫垂炎疑い」
→これは主観的情報ではなく、A(評価)となります。
O(客観的情報)の書き方
診察や検査で確認できた事実を記録します。なお、検査などを複数回おこなっている場合、数値や観察内容を時系列で残しておくと、患者の状態変化がわかりやすくなります。
[記載例]
- 体温 38.2℃
- 血圧 138/84mmHg
- SpO₂ 97%
- 咽頭発赤あり
- WBC 12,000/μL
- CTで虫垂腫大を認める
[ポイント]
- 数値や観察事実を記録
- 推測は書かない
- 身体所見を具体的に記載
A(評価)の書き方
SとOから導いた医学的判断を記録します。記録にあたっては、患者の訴えや医療者の感情を入れることなく、論理的にまとめることが大事です。
[記載例]
- 急性上気道炎が疑われる
- 高血圧コントロール良好
- 逆流性食道炎の再燃が考えられる
- 急性虫垂炎の可能性高い
[ポイント]
- 診断名
- 鑑別診断
- 病態評価
- 治療効果判定
を記載します。
なお、病名を確定することができず、複数の候補がある場合は、優先順位をつけて記しておくと、次の計画につながりやすくなります。
P(計画)の書き方
今後の方針や指示を記録します。
[記載例]
- アモキシシリン処方
- 胸部X線施行
- 1週間後再診
- 外科へ紹介
[ポイント]
- 検査
- 処方
- 処置
- 生活指導
- 次回受診
を具体的に記載します。
なお、SOAPに記載した内容は看護師やリハビルスタッフなども確認するため、計画内容については「多職種間で共有して動くための指示」となることを頭に入れておきましょう。
SOAP記載例
高血圧患者の再診の場合
S:自宅血圧130台前半で推移。頭痛なし
O:BP 128/76mmHg、HR 68/min。浮腫なし
A:高血圧症。血圧コントロール良好
P:現処方継続。3か月後再診
SOAPでカルテを記録するメリット
SOAPでは、主観的情報と客観的情報をわけて記載するため、医師が客観的目線を保って問題点を考察することができます。
また、患者の受診から診断に至るまでのプロセスや今後の治療方針が簡潔にまとめられているため、誰が見てもわかりやすく、看護師やリハビリスタッフが治療に対して共通認識を持つことができます。そのため、患者に一貫した治療・ケアを提供できます。
さらに、医療行為の記録を明確に記載することで、なぜその医療行為が必要であるのかの根拠を示すことができるため、レセプト返戻のリスクを減らすことができます。
SOAPでカルテを記録するデメリット
特に紙カルテの場合、SOAP形式での記録には時間がかかります。そのため、緊急時には向いていません。また、詳しくはこのあと解説していきますが、SOAPでの記録を効率化する方法を考えることが大切です(ただし、後述するのは、主に電子カルテで適用となる方法です)
また、長期的な入院患者に対して、毎日SOAPで記録をつけるという方法も理にかなっているとはいえません。SOAPをつけると、これまでの流れやこれからの方針を大きな流れとして確認することができますが、そのような記録を毎日つけることは意味がないためです。
もう一つのデメリットとしては、SOAPは原則として1つの問題に対する評価や計画を導き出す方法であるため、複数の症状がある患者の診療記録には向いていません。
SOAPを記録する際のポイント
SOAP形式でカルテを記録する場合、SOAPの質を保ちつつも、入力時間を短縮することも意識することが大切です。
【電子カルテの場合】テンプレートを活用する
たとえば高血圧再診なら、次のような定型文を用意しておいて、使用時に呼び出します。
S:自宅血圧( )mmHg
O:BP( )/( )mmHg
A:高血圧症 コントロール(良好・不良)
P:処方継続
この定型文を使って入力する場合、たとえばPに関して、処方継続ではない場合は、この部分だけ上書きすることになります。
【電子カルテの場合】ショートカット機能を使う
主要電子カルテでは、
- 定型文登録
- スタンプ機能
- マクロ機能
が利用できます。
(例)
「;ht」と入力すると
高血圧症
血圧コントロール良好
現処方継続
が展開される仕組みです。
なお、htは高血圧(Hypertension)のことです。
OとAを混同しない
入力時間を短縮しようとして、
「咽頭発赤あり。急性咽頭炎」
などと、OとAを同じ欄に記載すると、後から診療内容が分かりにくくなります。
O:咽頭発赤あり
A:急性咽頭炎
とわけることで、診療録としての質が向上します。
【電子カルテの場合】音声入力を活用する
近年は、音声認識によるSOAP入力も普及しています。
特に、外来診療、訪問診療、救急外来では、診察しながらSやOを入力できるため記載時間の短縮につながります。
≪保険診療上の注意≫
SOAPは法令で義務付けられた記載様式ではありません。しかし、診療録には、患者の状態、医師の判断、実施した医療行為がわかるよう記録する必要があります。そのため、個別指導や監査では、「なぜその検査や処方をおこなったのか」がカルテから読み取れることが重要です。SOAP形式はその要件を満たしやすい記録方法として広く採用されています。
診療科別カルテ記載のポイントと記載例
カルテは、診療報酬請求や医療安全、医療訴訟時の証拠となる重要な文書です。特に保険診療では、「何を根拠に診断して、なぜその治療をおこなったのか」が第三者にもわかる記載することが求められます。
慢性疾患のSOAPのポイント
慢性疾患では、次の項目を継続的に記録します。
- 症状の変化
- 治療継続の妥当性
- 検査結果
- 服薬状況
高血圧症の記載例
S:自宅血圧130~140/80mmHg前後。頭痛、めまいなし。服薬継続できている
O:BP 136/82mmHg、HR 70/min整。浮腫なし。Cr 0.78mg/dL、K 4.3mEq/L
A:本態性高血圧症。血圧コントロール概ね良好。降圧薬による副作用なし
P:現処方継続。3か月後採血予定。塩分制限継続指導
糖尿病の記載例
S:特に自覚症状なし。内服継続
O:HbA1c 6.8%、空腹時血糖 118mg/dL
A:2型糖尿病。コントロール良好
P:現処方継続。食事・運動療法継続
急性疾患のSOAPのポイント
急性疾患に関しては、特に次の項目が重要です。
- 発症時期
- 症状経過
- 重症度評価
- 鑑別診断
感冒の記載例
S:2日前から発熱、咳嗽あり。昨夜38.5℃まで上昇
O:T 38.1℃、SpO₂ 98%、咽頭発赤あり。呼吸音清
A:急性上気道炎。肺炎を示唆する所見なし
P:対症療法。解熱鎮痛薬処方。増悪時再診指示
腹痛患者の記載例
S:本日朝から右下腹部痛あり。
O:右下腹部圧痛あり。反跳痛軽度。WBC 13,000/μL
A:急性虫垂炎疑い
P:腹部CT施行。外科紹介
処置・手術を伴うカルテの記載方法
一般診療では
S:症状
O:診察所見
A:診断
P:治療方針
が中心ですが、処置・手術ではO欄に以下を詳細に記録します。
[Oに記載すべき内容]
◎処置前
- 病変部位
- 大きさ
- 所見
- 重症度
◎処置中
- 麻酔方法
- 使用薬剤
- 手技内容
- 摘出物や排膿量
- 出血量
- 合併症の有無
◎処置後
- 患者状態
- 止血確認
- 創部状態
また、個別指導や医療訴訟対策として、次の点についてカルテから明確に読み取れるようにしておくことが大切です。
- 「なぜ処置をおこなったか(A)」
- 「実際に何をおこなったか(O)」
- 「術後どうしたか(P)」
ここまでをまとめると、処置・手術のSOAPでは O(客観的情報)がもっとも重要な記載項目であるといえます。
創傷処置(外傷)の記載例
S:本日包丁で左前腕を切った。出血が続くため受診
O:左前腕に長さ3cmの切創あり。深達度は皮下組織まで。活動性出血軽度。異物混入なし
生理食塩水にて創洗浄。創縁整復後、ナイロン糸にて3針縫合。止血確認
A:左前腕切創。神経・血管損傷を認めず。縫合適応あり
P:抗菌薬処方。創部清潔保持指導。7日後抜糸予定。発赤・疼痛増悪時は早期受診指示
切開排膿術(皮下膿瘍)の記載例
S:3日前から臀部が腫れて痛い
O:右臀部に直径4cmの発赤・腫脹あり。圧痛著明。波動触知
局所麻酔施行。約1cm切開。多量の膿汁排出。生理食塩水で洗浄。ガーゼドレナージ留置
A:右臀部皮下膿瘍。切開排膿適応
P:抗菌薬処方。翌日創部確認。ガーゼ交換予定
粉瘤摘出術(日帰り手術)の記載例
S:背部のしこりが大きくなってきた。痛みはない
O:背部に約2cmの皮下腫瘤。発赤なし
手術内容・合併症について説明し同意取得
局所麻酔下に摘出術施行。粉瘤被膜を含め完全摘出。出血少量。ナイロン糸で縫合
A:背部粉瘤。摘出術完遂
P:創部保護。1週間後再診。病理検査提出
胃カメラ(上部消化管内視鏡)の記載例
S:1か月前から心窩部痛あり
O:上部消化管内視鏡施行。食道異常なし。胃前庭部に発赤・びらんあり。十二指腸異常なし
A:急性胃炎
P:PPI処方。食事指導。外来経過観察
外来小手術(陥入爪)の記載例
S:右足親指が痛く歩きにくい
O:右母趾外側に陥入爪。発赤・肉芽形成あり
局所麻酔施行。爪甲部分切除実施。出血少量。処置後疼痛軽減
A:陥入爪。感染徴候軽度
P:創部処置継続。抗菌薬軟膏処方。1週間後再診
「重要な陰性所見」を記録して身を守る
個別指導や医療訴訟の対策として極めて有効なのが、「重要な陰性所見(Pertinent Negatives)」の記載です。陰性所見とは、「特定の症状や異常が『ない』こと」を指します。
(良い記載例)
- 「激しい頭痛あり。ただし、項部硬直なし、麻痺なし」
- 「腹痛あり。反跳痛なし、筋性防御なし」
異常がなかったからと何も書かないでおくと、後から見返した第三者には「所見がなかった」のか「そもそも医師が確認・診察をしなかった」のかが区別できません。「〇〇の症状はない」とあえて記載しておくことで、医師が重大な疾患の可能性をきちんと念頭に置き、鑑別診断をおこなったという強力な証明になります。
電子カルテの使い方でよくあるミスと対策
電子カルテは入力効率を高める一方で、正しい使い方を心がけていなければ、査定・返戻・個別指導で問題になることがあります。
コピペによる定型文多用による査定リスク
もっともよくあるミスは、定型文(テンプレート)の多用です。
よくあるミス①:毎回ほぼ同じSOAP
たとえば、高血圧患者のSOAPが半年間ほぼ次のような記載だと大きな問題となります。
S:特変なし
O:BP良好
A:高血圧症
P:処方継続
「概ねこうだから問題ないだろう」と考えて、必要最低限しか上書きしていないのかもしれませんが、少なくとも、多少なりとも血圧変化などはあるはずです。また、服薬状況などについても確認しているはずなのに、これでは実際の診療内容を読み取ることができません。そのため、個別指導では、「本当に診察しているのか」「病状評価をしているのか」を確認される場合があります。
よくあるミス②:手術・処置記録の使い回し
「術後や処置後、問題がないケースについてはすべてコピペ」もやりがちなパターンです。たとえば次のような記載です。
(例)
- 創部良好
- 出血なし
- 感染徴候なし
出血などの問題がないにしても、一律で「問題なし」では、個別指導などで問題になる可能性が大きいです。たとえば、術創の大きさについてもきちんと記載するなどしなければ、実施内容の証明として不十分です。
≪定型文の正しい使い方≫
定型文(テンプレート)を使うこと自体は問題ありませんが、ただ単にコピペするだけではなく、定型文をもとにしながらも、個別の患者の状態をきちんと記録することが大切です。
(悪い例)
- 高血圧症
- 処方継続
→定型文のコピペのみ
(良い例)
- 高血圧症
- 自宅血圧130台で推移
- 副作用なし
- BP 132/78mmHg
- 処方継続
テンプレートは使っても、数値、所見、評価は毎回更新することが重要です。
「記載なし」も問題になることがある
保険診療では、「実施した」ではなく「記録されている」ことが重要です。個別指導では、記録がなければ実施していないものとして扱われることがあります。そうするとどんな問題が起きるかというと、特定の点数がとれなくなるケースがあります。
ケース①:特定疾患療養管理料
「特定疾患療養管理料」は、慢性疾患患者に対して計画的な療養管理をおこなった場合に、月2回まで算定できる管理料です。たとえば、結核、甲状腺障害、心不全、不整脈、脳血管疾患、肺気腫、喘息、悪性新生物、アナフィキラシー、性染色体異常、ギラン・バレー症候群、慢性ウイルス肝炎などが対象疾患として挙げられています。
ケース②:生活習慣病管理料(I)・生活習慣病管理料(II)
「生活習慣病管理料(I)」「生活習慣病管理料(II)」は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを主病とする患者の重症化予防と継続的な治療管理を目的とした診療報酬です。生活習慣病管理料を算定するためには、管理計画、継続的評価、指導内容などをカルテに記録することが必須です。カルテからは、薬を処方したことしかわからないようでは、管理料の根拠不十分と判断される可能性があります。
なお、生活習慣病管理料(I)と生活習慣病管理料(II)の違いについては下記記事をご参照ください。
参照:生活習慣病管理料(I)と(II)の違いは? 療養計画書の作成は(II)にも必要?
ケース③:在宅患者訪問診療料(I)
「在宅患者訪問診療料(I)」とは、通院が困難な患者の居宅や居住施設を医師が計画的に訪問して、診察した場合に算定できる診療報酬点数です。カルテには、訪問診療計画および診療内容、診療時間、診療場所などを記載する必要があります。
ケース④:処置料
手術に至らない軽微な外科的処置やカテーテル挿入などに対して算定できる「処置料」をとるために、たとえば創傷処置をおこなったとして、請求には「創傷処置」、カルテには「処置実施」など簡潔に記載するケースがあるかもしれません。しかしこれでは、創部位、創の大きさ、処置内容などが不明です。
ケース⑤:手術料
手術料算定は、特に詳細な記録が必要です。診断名、手術適応、手術日時、麻酔、術式、所見、合併症、術後状態などの記載が欠けると、請求根拠が確認しにくくなります。
指導・監査の対象となりやすい不備や間違い
カルテの記載に関して不備や間違いがあると、指導や監査の対象となり、自主返還を求められることがあります。監査の場合、自主返還を求められるだけでなく、保険医の取消や刑罰の対象となることもあるので注意が必要です。
どういった不備や間違いに注意すべきかを解説するために、指導と監査の概要についても併せて解説していきます。
集団的個別指導・個別指導
まず、指導は大きく「集団的個別指導」と「個別指導」にわけられます。いずれも保険診療の適正化を目的としておこなわれますが、目的や厳しさが次の表のように異なります。
| 項目 | 集団的個別指導 | 個別指導 |
|---|---|---|
| 対象 | レセプト件数や診療内容などが地域平均から大きく外れている医療機関 | 不正請求の疑い、情報提供(告発)、監査の前段階など |
| 実施形式 | 複数の医療機関を集めて実施 | 医療機関ごとに実施 |
| 主な内容 | 保険診療ルールの説明、レセプト傾向の確認 | カルテ・レセプトを個別に詳細確認 |
| カルテ確認 | 原則なし(持参不要の場合が多い) | あり |
| 指摘内容 | 算定ルールの誤解や請求傾向 | 診療録不備、不適切請求、不正請求の疑い |
| 結果 | 改善指導が中心 | 返還、再指導、監査移行の可能性あり |
| 重さ | 比較的軽い | 重い |
集団的個別指導とは
厚生局が、診療報酬請求額や算定回数が地域平均と比べて高い医療機関などを対象におこなう指導です。
たとえば、次のような場合に対象となります。
- 外来管理加算の算定率が高い
- 特定の検査の実施件数が多い
- 処置や手術の算定が突出している
なお、集団的個別指導の主な目的は次の通りです。
- 保険診療ルールの周知
- 請求内容の自己点検
- 算定基準の再確認
つまり、直ちに不正を疑われているというわけではありません。
個別指導とは
厚生局や都道府県が、特定の医療機関を対象におこなう指導です。
対象となる主なケースは次の通りです。
- 集団的個別指導後も改善が見られない
- 高額請求や突出した請求が継続している
- 患者や職員からの情報提供があった
- レセプト審査で問題が見つかった
個別指導では、カルテ、レセプト、同意書、検査記録、手術記録などを実際に確認されますが、カルテに関しては次のような事項がよく指摘されます。
- 医学的必要性の記載不足
- 検査実施理由の記載なし
- 指導内容の記録不足
- 手術・処置記録の不備
- テンプレートのコピペによる実態不明な記載
つまり、診療行為そのものではなく、「カルテに根拠が記載されているか」が重視されるということです。「実施したが記録がない」場合、指導上は「実施したことを証明できない」と判断されることがあります。
監査との違い
集団的個別指導・個別指導よりさらに重い手続きが監査です。
集団的個別指導→個別指導→監査という流れになるのが一般的です。
監査は、架空請求、水増し請求、無診察投薬、名義貸しなど、不正請求が強く疑われる場合に実施されます。
監査の結果によっては、次のような行政処分が実施される場合があります。
- 保険医療機関指定取消
- 保険医登録取消
- 診療報酬の返還
カルテ記載の質を上げるための日常的な習慣
個別指導や監査では、「正しい診療をおこなったか」だけでなく、その根拠がカルテに記録されているかが重視されます。そのため、カルテ記載の質を高めることは、診療の質向上と指導対策の両方につながります。
診察直後に記載する
カルテはできるだけ診察後すぐに入力する習慣をつけます。
時間が経つと、症状の詳細、患者への説明内容、治療方針を決めた理由などが曖昧になりやすいためです。
(悪い例)
- 午前診療終了後にまとめて入力
- 数日後に思い出しながら記載
(良い例)
- 患者ごとにその場で入力
- 最低限の内容だけでも先に記録しておいて、後で補足
SOAP形式を意識する
SOAP形式は情報の整理に役立ち、第三者にも内容が伝わりやすくなります。
S.O.A.P欄を設けたテンプレートを用意しておくと、無理なくSOAP形式で記載できます。
「なぜその処置をおこなったか」を残す
個別指導で特に見られるのは、検査や処置の医学的必要性です。
(記載が不十分な例)
- 採血実施
- CT撮影
など、実施した内容のみを記すケース
(記載が理想的な例)
- 持続する発熱の原因精査のため採血
- 急性腹症鑑別のため腹部CT実施
診療行為そのものではなく、実施理由を残すことが重要です。
患者への説明内容を記録する
説明した内容は後日のトラブル防止にもなります。
(記載例)
- 病状説明実施
- 薬剤の副作用を説明
- 手術リスクについて説明して同意取得
- 再診の目安を説明
コピー&ペーストを見直す
テンプレートや前回カルテの流用は便利ですが、修正漏れが起こりやすくなります。
(よくあるミス)
- 右膝痛なのに「左膝痛」のまま
- 発熱なしなのに前回の発熱記載が残る
- 検査未実施なのに結果が残る
コピペ後は必ず見直しをおこないます。
略語を使い過ぎない
院内では通じても、第三者にはわかりにくい略語があります。
たとえば、「状態変化なし」「いつも通り」だけでは具体性に欠けます。
可能な範囲で、「バイタル安定」「呼吸状態悪化なし」「腹痛増悪なし」など客観的な表現を用いるとよいでしょう。
≪カルテ記載のセルフチェックポイント≫
診療終了後に次の項目を確認すると、記載漏れ防止に役立ちます。
□ 主訴が記載されているか
患者が何を訴えて受診したか
□ 所見が記載されているか
診察で確認した内容があるか
□ 診断・評価が記載されているか
何を考えて診療したのかがわかるか
□ 検査・処置の理由が記載されているか
なぜ実施したのか説明できるか
□ 投薬理由が記載されているか
症状や診断との関連がわかるか
□ 指導内容が記載されているか
生活指導や再診指示が残っているか
□ 同意取得が記録されているか
手術・侵襲的検査・特殊治療などで必要な同意が残っているか
□ コピペミスがないか
症状や部位、日付などに矛盾がないか
≪個別指導対策として特に重要な3項目≫
個別指導で頻繁に確認されるのは次の3点です。
- ①診療行為の医学的必要性
- ②患者への説明・指導内容
- ③算定要件を満たす根拠記載
この3つがカルテから読み取れる状態にしておくことが、指導対策として非常に重要です。
3秒チェック
診療後に、次の3点がカルテから読み取れるかどうか確認する習慣をつけると、記載の質は大きく向上します。
- ①なぜ診察したか
- ②なぜ検査・処置したか
- ③患者に何を説明したか
正しい書き方を体得すれば業務効率向上にもつながる
電子カルテの入力に対して苦手意識がある人などは、正しい書き方をマスターすることに対して、「覚えるまでに時間がかかる」「面倒」と感じてしまうかもしれません。しかし、テンプレートをうまく使うコツや、必要事項を効率よくチェックするコツなどを掴めば、入力に要する時間が大幅に削減されるため、電子カルテ入力が今よりずっと楽になります。しかも、レセプト返戻なども避けることができるようになるため、余計な手間に悩まされることもなくなりますよ。
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
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