患者と直接会わないまま、診断の最終判断を下す医師がいます。病理医です。
「がんかどうか」を確定させるのは、多くの場合この病理医の診断です。手術で切除した組織を顕微鏡で観察し、良性か悪性か、どこまで広がっているかを判定します。臨床医の診断を検証し、確定させる立場にあるため「ドクターズドクター」と呼ばれることもあります。
一方で、日本の病理医は慢性的に不足しています。この記事では、病理医の仕事と実情を整理したうえで、クリニックが病理診断を外部へ依頼するときの流れまで扱います。
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病理医とは
病理医とは、患者から採取された細胞や組織を観察し、病気の確定診断を行う医師です。医師免許を持ち、病理診断を専門とします。
臨床検査技師との違いは、診断の主体であるかどうかです。技師は標本の作製や検査の実施を担い、病理医はその標本をもとに医学的判断を下します。病理診断は医行為であり、医師でなければ行えません。
主な業務は4つ
① 組織診断(生検・手術検体)
内視鏡や手術で採取した組織を顕微鏡で観察し、良性・悪性の判定、病変の広がり、悪性度などを診断します。この結果が治療方針を決めます。
② 細胞診断
喀痰、尿、婦人科の擦過検体などに含まれる細胞を観察します。組織診より侵襲が小さく、検診で広く使われます。
③ 術中迅速診断
手術中に、その場で診断を出す業務です。切除範囲が十分か、リンパ節に転移があるかを短時間で判定し、執刀医に伝えます。結果によって手術の進め方が変わるため、時間的な緊張度が最も高い場面です。
④ 病理解剖(剖検)
亡くなった患者について、遺族の承諾のもとで死因や治療効果を検証します。臨床医の判断が妥当だったかを確認する役割を持ちます。
病理医になるには
医師免許取得後、次の道筋をたどります。
→ 病理専門研修(3年以上)→ 病理専門医試験
日本専門医機構の専門医制度における基本領域の一つが病理です。初期研修修了後、専攻医として病理を選択し、規定の症例数と研修期間を経て専門医試験を受験します。
さらに専門性を高める場合、細胞診専門医や分子病理専門医などの資格を重ねる医師もいます。
病理医の年収
病理医の年収は、勤務先の規模と役職によって幅があります。
一般に、大学病院の勤務医は市中病院より給与水準が低い傾向にあり、これは病理医に限りません。一方、病理医は当直や外来がない施設も多く、時間あたりの負担という観点では他科と異なる働き方になります。
参考として、厚生労働省の統計では医師全体の平均年収が示されていますが、診療科別の内訳は公表されていません。病理医単独の公的な年収統計は存在しないため、求人情報や学会の調査を参照することになります。
なお、病理診断は診療報酬上の点数が定められており、病理診断科を標榜し、病理診断管理加算の施設基準を満たすことで収益構造が変わります。常勤病理医の在籍が要件となる加算があるため、病理医の採用は施設の収益にも直結します。
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🔴 日本の病理医は足りていない
日本病理学会の認定する病理専門医は、全国で約2,700名前後とされています。医師全体(約34万人)の1%に満たない規模です。
不足が生む問題は3つあります。
- 地域偏在:病理医が常勤していない医療機関が多数ある
- 診断の遅れ:外部委託の場合、結果が出るまでに日数がかかる
- 迅速診断ができない:術中迅速診断には病理医の常駐が要る
このため、遠隔病理診断(テレパソロジー)の導入が進んでいます。標本をデジタル画像化し、離れた場所の病理医が診断する仕組みです。術中迅速診断を遠隔で行う施設も出てきています。
クリニックが病理診断を依頼する流れ
病理医が在籍していないクリニックでも、病理診断は日常的に発生します。皮膚の腫瘤を切除した、内視鏡で生検した、といった場面です。
一般的な流れ
→ 標本作製 → 病理医が診断 → 報告書がクリニックへ
→ 患者へ結果説明
結果が出るまでの目安は、組織診でおおむね1週間前後です。細胞診はより短い場合があります。ただし追加の染色(免疫染色など)が必要になると、さらに日数が延びます。
クリニック側で注意すること
① 検体の取り違えを防ぐ
病理検体の取り違えは、患者の治療方針を根本から誤らせます。採取した時点でのラベリング、複数検体がある場合の部位の明記、提出前の照合を手順として固定してください。
② 臨床情報を十分に書く
病理医は検体と依頼書だけで判断します。部位・肉眼所見・臨床診断・既往・治療歴が書かれているかで、診断の精度が変わります。「皮膚腫瘤」とだけ書かれた依頼書では、鑑別の幅が広がりすぎます。
③ 結果の返却漏れを防ぐ
外部委託した病理結果が患者に伝わらないまま埋もれる——これは実際に起きる医療事故です。悪性の結果が返ってきたのに連絡が漏れると、診断の遅れとして責任を問われます。
依頼した検体と返却された報告書を突き合わせ、未返却・未説明のものが残っていないかを定期的に確認する運用が要ります。電子カルテ上で検査依頼と結果を紐付けて管理できていれば、この確認は容易になります。
④ 報告書は診療録の一部として保存する
病理報告書は診療録に含まれ、5年間の保存義務の対象です。
よくある質問
Q. 病理医は患者と会いますか。
多くの場合は会いません。ただし近年は、患者が病理医から直接説明を受ける「病理外来」を設ける施設も出てきています。
Q. 病理診断と画像診断は何が違いますか。
画像診断(放射線科)はCTやMRIで形態を見ます。病理診断は細胞そのものを顕微鏡で観察して確定診断を出します。画像で疑われた病変を、病理が確定させるという関係です。
Q. 細胞診と組織診はどちらが正確ですか。
一般に組織診のほうが情報量が多く、確定診断に用いられます。細胞診はスクリーニングに適しており、目的が異なります。
Q. 遠隔病理診断は保険適用されますか。
一定の要件下で診療報酬上の評価が設けられています。施設基準や算定要件は改定で変わるため、最新の告示を確認してください。
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まとめ
- 病理医は、細胞や組織を観察して病気の確定診断を行う医師。臨床医の診断を検証する立場にある
- 業務は組織診断・細胞診断・術中迅速診断・病理解剖の4つ
- 病理専門医は全国で約2,700名前後と少なく、地域偏在と診断の遅れが課題
- 遠隔病理診断(テレパソロジー)の導入が進んでいる
- クリニックが外部委託する場合、検体の取り違え防止・臨床情報の記載・結果の返却漏れ防止の3点が要点
特に3つ目——依頼した検体の結果が患者に伝わらないまま埋もれることは、実際に起こり得ます。検査依頼と結果を紐付けて管理し、未説明のものが残っていないかを確認できる状態にしておくことが、診療の安全につながります。
参考
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
