医師の給料を調べると、転職サイトやまとめ記事の推計値が並びます。それらは母集団も算出方法もばらばらで、比べられません。
ここでは公的統計の実額だけを使います。出典は中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和7年11月公表)。全国の医療機関から実際に提出された給与データです。
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結論を先に
| 立場 | 年収(給料年額+賞与) |
|---|---|
| 無床診療所の院長(医療法人) | 約2,872万円 |
| 無床診療所の院長(全体) | 約2,898万円 |
| 有床診療所の院長(医療法人) | 約3,232万円 |
| 診療所の勤務医(医療法人・無床) | 約1,146万円 |
| 一般病院の医師(公立) | 約1,551万円 |
| 一般病院の医師(国立) | 約1,290万円 |
| 一般病院の病院長(公立) | 約2,151万円 |
| (参考)看護職員・一般病院(公立) | 約613万円 |
院長と勤務医の差はおよそ2.5倍。ここが医師のキャリアで最も大きい分岐点です。
⚠️ これは「給与として支払われた額」です。個人立の診療所では開設者の報酬が給与費に含まれない扱いがあるため、個人開業医の実収入はこの表からは読めません(後述)。
勤務医の給料 — 開設主体で1.2倍の差がある
一般病院の常勤医師1人あたりの平均給料年額+賞与(前年度)です。
| 開設主体 | 給料年額 | 賞与 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 国立 | 10,847,933円 | 2,052,292円 | 12,900,224円 |
| 公立 | 13,115,678円 | 2,391,370円 | 15,507,048円 |
同じ勤務医でも、公立と国立で約260万円の差があります。
さらに診療所の勤務医を見ると、
| 勤務先 | 合計 |
|---|---|
| 医療法人の無床診療所 | 11,447,269円 |
| 医療法人の有床診療所 | 9,351,397円 |
無床診療所の勤務医のほうが有床より高いという結果になっています。当直・オンコールの有無だけでは説明できない差で、診療科構成の違い(自由診療を含む科が無床に多い)が効いていると考えられます。
開業医(院長)の給料
一般診療所の院長の平均給料年額+賞与(前年度)です。
| 区分 | 給料年額 | 賞与 | 合計 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 医療法人・無床 | 28,497,889円 | 218,901円 | 28,716,790円 | +4.5% |
| 医療法人・有床 | 32,182,816円 | 135,310円 | 32,318,126円 | +0.5% |
| 全体・無床 | 28,766,158円 | 212,816円 | 28,978,974円 | +4.2% |
| 全体・有床 | 31,229,429円 | 164,709円 | 31,394,138円 | −0.7% |
注目すべきは賞与の少なさです。院長の賞与は年20万円前後で、給与の大半が月額に含まれています。勤務医(賞与200万円超)とは報酬の構造がまったく違います。
もう1つ、無床が+4.5%伸びている一方、有床は横ばい〜微減。入院機能を持つことが収益に直結しなくなっている、と読めます。
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🔴 この数字をそのまま自分に当てはめないほうがいい理由
正直に書きます。上の表は、次の点で「あなたの手取り」とは違います。
1. 個人立の開業医は、この数字に出てこない
医療経済実態調査では、個人立の病院・診療所について、開設者の報酬は「給与費」に含まれません。表の「院長」は主に医療法人の理事長等に支払われた給与です。
個人開業の場合、実質的な収入は「医業利益」から見る必要があります。法人化しているかどうかで、同じ経営実態でも数字の見え方が変わります。
2. 診療科・地域・規模が均されている
平均値なので、診療科ごとの差は消えています。自由診療の比率が高い科と、保険診療だけの科では前提が違います。
3. 開業医の収入は「借入返済前」
開業時の設備投資(内装・医療機器・電子カルテ)は借入で賄うのが一般的です。院長報酬から返済原資を出している間は、可処分所得は表の数字より小さくなります。
4. 退職金・年金の扱いが違う
勤務医には退職金制度がある勤務先が多く、厚生年金にも加入しています。開業医は自分で用意する必要があります。年収の比較だけでは、生涯の差は測れません。
勤務医のままか、開業か — 判断の境界線
順位はつけません。条件で分かれます。
勤務医を続けたほうがいい人
- 収入の安定と、業務外の負担が無いことを優先する — 経営・労務・資金繰りは付いてこない
- 専門性を深めたい — 症例数と設備は大規模病院のほうが確保しやすい
- 転居・異動を許容できる、あるいは動きたくない — どちらにせよ、自分で立地を決める必要がない
- 借入を負いたくない — 開業には数千万円規模の初期投資が伴うのが一般的
開業を検討していい人
- 診療の内容と時間配分を自分で決めたい
- 地域で継続的に同じ患者を診たい
- 経営の判断(採用・設備投資・広告)を自分で下すことに抵抗がない
- 数年分の生活費と、想定を下回ったときの資金を確保できる
そもそも今は動かないほうがいい人
- 「勤務先の不満」が主な動機 — 開業しても不満の種類が変わるだけのことが多い
- 借入の返済計画を数字で立てていない — 年収の比較だけで判断すると、返済期間中の可処分所得を見誤る
- 診療圏調査をしていない — 立地の判断は、開業後にやり直せない
開業後、収入を左右するもの
年収の水準そのものより、運営コストの構造が手元に残る額を決めます。
| 項目 | 効き方 |
|---|---|
| 人件費 | 診療所の費用で最大。看護職員・事務職員の配置が過剰だと固定費が重い |
| 賃料 | 立地と面積。動かせない固定費 |
| 借入返済 | 返済期間中は可処分所得を圧迫する |
| レセプト業務の効率 | 返戻・査定が多いと、実際の入金が減る |
| 予約・受付の運用 | 待ち時間が長いと再診率が落ち、患者数が伸びない |
電子カルテやレセコンの選択は、このうち人件費とレセプト業務の効率に直接効きます。初期費用の安さだけで選ぶと、日々の入力時間と査定率で回収できないことがあります。
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よくある質問
Q. 医療経済実態調査の数字は信頼できますか?
中央社会保険医療協議会が実施する公的調査で、診療報酬改定の基礎資料になっています。全国の医療機関から提出された実データを集計したもので、推計値ではありません。ただし平均値なので、個別の状況とは差があります。
Q. 個人開業医の年収はどこで分かりますか?
「院長の給与」としては出てきません。個人立では開設者の報酬が給与費に含まれない扱いのため、医業収益から医業費用を引いた「医業利益」を見る必要があります。同じ報告書の損益状況の項目で確認できます。
Q. なぜ無床診療所の勤務医のほうが有床より給料が高いのですか?
調査は理由まで示していません。診療科構成の違い(自由診療を含む科が無床に多い)が影響していると考えられますが、断定はできません。
Q. 診療科別の年収は載っていますか?
医療経済実態調査には診療科別の内訳はありません。診療科別の傾向を知りたい場合は、賃金構造基本統計調査や、各学会・団体の調査を併せて見る必要があります。
Q. 開業に必要な初期費用はどのくらいですか?
診療科・立地・規模で大きく変わるため、一律の目安は示せません。内装・医療機器・電子カルテ・運転資金の4つを分けて見積もり、開業後6か月分の運転資金を別枠で確保するのが実務的な進め方です。
まとめ
- 無床診療所の院長は約2,872万円(医療法人)、診療所の勤務医は約1,146万円。差はおよそ2.5倍(第25回医療経済実態調査)
- 勤務医でも公立(約1,551万円)と国立(約1,290万円)で約260万円の差
- 院長は賞与が年20万円前後と少なく、勤務医とは報酬の構造が違う
- 🔴 個人立の開業医の収入は、この表には出てこない(開設者報酬は給与費に含まれない)。医業利益で見る
- 開業医の年収は借入返済前の数字。退職金・年金も自分で用意する必要がある
- 判断は年収の比較ではなく、安定と専門性を取るか/裁量と継続性を取るかの条件で分かれる
参考
- 中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(令和7年11月)
- 厚生労働省「医療経済実態調査(医療機関等調査)」
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
