「訪問診療」と「往診」は、どちらも医師が患者の自宅へ出向く行為です。混同されがちですが、診療報酬上はまったく別の扱いです。
違いは一言で言えば、計画的に行くか、呼ばれて行くか。この一点が、算定できる点数も、必要な体制も、患者との契約の形も変えます。
この記事では両者の違いを整理したうえで、自院が在宅医療にどこまで踏み込むべきかを、判断できる条件で示します。
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結論:計画性の有無で分かれる
| 訪問診療 | 往診 | |
|---|---|---|
| きっかけ | あらかじめ決めた計画に基づく | 患者・家族の求めに応じて臨時に |
| 頻度 | 定期的(週1回、月2回など) | 不定期・突発 |
| 診療計画 | 必要(在宅療養計画を立てる) | 不要 |
| 同意 | 必要(患者・家族の同意を得る) | その都度の求めが同意にあたる |
| 主な診療報酬 | 在宅患者訪問診療料 | 往診料 |
訪問診療は「通院できない患者を、こちらが定期的に診に行く」仕組みです。通院が困難であることが前提で、計画を立て、同意を得て、継続的に診ます。
往診は「呼ばれたから行く」行為です。通院できる患者でも、そのときに動けない事情があれば往診の対象になります。計画も同意書も要りません。
よくある誤解を3つ
誤解1:「訪問診療は看護師が行くもの」
それは訪問看護です。訪問診療は医師が行います。訪問看護は看護師が、医師の指示(訪問看護指示書)に基づいて行うもので、別の制度です。
誤解2:「往診を繰り返せば訪問診療になる」
なりません。往診を何度重ねても、それは往診の積み重ねです。訪問診療として算定するには、在宅療養計画を立て、患者・家族の同意を得たうえで、定期的な訪問を始める必要があります。
誤解3:「訪問診療の日に急変したら往診料が取れる」
定期の訪問日に診た分は訪問診療です。別の日に急変で呼ばれて臨時に行った場合が往診にあたります。同じ日に両方を算定することは、原則できません。
在宅を始めるとき、何が要るか
在宅医療は「行けば診られる」ものではありません。体制側の準備が先に立ちます。
24時間の連絡体制
在宅患者は、夜間・休日に状態が変わります。在宅療養支援診療所の施設基準では、24時間連絡を受ける体制と、往診・訪問看護の提供体制が求められます。
院長ひとりで背負うと続きません。近隣の医療機関との連携体制を組むか、複数の医師で当番を回す形が現実的です。
移動時間の見積もり
在宅の収支は、1日に何件回れるかで決まります。移動時間が読めないと、診療の質も採算も安定しません。
同じ地域に患者が集まっていれば効率よく回れますが、点在していると1日3〜4件が限界になることもあります。訪問エリアを地図上で区切ってから患者を受けるのが基本です。
記録の運び方
訪問先で書いた記録を、院に戻ってから入力し直していると、時間が二重にかかります。訪問先で入力できる仕組み——モバイル端末から使える電子カルテなど——があるかどうかで、1日の終わり方が変わります。
在宅を本格的に始める前に、この点は確認しておいたほうがよいでしょう。訪問件数が増えてから運用を変えるのは負担が大きくなります。
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自院はどこまでやるべきか
すべてのクリニックが在宅に踏み込むべき、とは限りません。3つの段階に分けて考えられます。
段階1:往診のみに対応する
こういう条件なら、ここで十分です。
- 外来が診療の中心で、患者の大半は通院できる
- 長く診ている患者から、動けないときに頼まれることがある
- 24時間体制を組む余力がない
往診料の算定に特別な施設基準は要りません。「かかりつけの患者が動けないときに行く」という範囲であれば、この段階が現実的です。
段階2:訪問診療を計画的に行う
こういう条件なら、進む価値があります。
- 通院が難しくなった患者が院内に複数いる
- 訪問できる時間帯(午後の外来がない曜日など)を確保できる
- 訪問エリアを絞れる立地にある
- 訪問先で記録を入力できる環境がある
外来の患者がそのまま在宅へ移行する形が、いちばん無理がありません。新規に在宅患者を集めるのではなく、すでに診ている患者の通院が難しくなったときに続きを診るという始め方です。
段階3:在宅療養支援診療所として届け出る
こういう条件なら、届出を検討します。
- 24時間の連絡・往診体制を、単独または連携で組める
- 訪問看護ステーションとの連携ができている
- 看取りまで対応する方針がある
- 在宅患者が一定数まとまっており、体制の維持が採算に見合う
届出には施設基準を満たすことと、実績の報告が伴います。体制を維持できる見込みが立ってから届け出るほうが、後戻りが少なくて済みます。
そして「やらない」という判断
在宅に踏み込まない選択も、正当な経営判断です。
- 院長ひとりで、夜間の呼び出しに応じられない
- 診療圏に在宅を担う医療機関がすでにあり、連携先として紹介できる
- 専門特化した外来で、通院前提の患者層が中心
中途半端に始めて途中でやめると、患者と地域の連携先に負担がかかります。続けられる体制が組めないなら、在宅を担う医療機関へ紹介する役割に徹するほうが、地域全体では機能します。
患者・家族への説明で押さえること
訪問診療を始めるときは、同意を得る場面で説明しておくべきことがあります。
- 訪問の頻度と曜日(月2回・第2第4火曜、など)
- 費用の目安(医療保険の自己負担割合、交通費の扱い)
- 夜間・休日の連絡先と、どこまで対応できるか
- 入院が必要になったときの搬送先
3つめと4つめの説明が抜けていると、後で行き違いが起きます。「24時間対応」と聞いた家族が、すべての事態に医師が駆けつけると受け取ってしまうことがあるためです。できることとできないことを、始める前に伝えてください。
よくある質問
Q. 通院できる患者に訪問診療はできますか。
A. 訪問診療は通院が困難な患者が対象です。通院できる患者が一時的に動けない場合は、往診で対応します。
Q. 同じ患者に、往診と訪問診療の両方を行えますか。
A. 行えます。定期の訪問は訪問診療、その間の急変で臨時に行くのが往診という使い分けです。ただし同日の重複算定は原則できません。
Q. 訪問診療の同意は書面が必要ですか。
A. 計画の内容を説明し、同意を得たことを診療録に残すことが基本です。書面で残しておくと、後の確認が容易になります。
Q. 施設への訪問も訪問診療ですか。
A. 高齢者施設等への訪問は、同一建物内の人数によって算定区分が変わります。個人宅への訪問とは点数の考え方が異なるため、算定要件を確認してください。
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まとめ
- 違いは計画的か、求めに応じた臨時か
- 訪問診療は在宅療養計画と患者の同意が前提。往診は不要
- 往診を重ねても、それだけでは訪問診療にならない
- 在宅を始めるなら、24時間の連絡体制・訪問エリア・訪問先での記録の3つを先に整える
- 外来患者の通院が難しくなったときに続きを診るという始め方が、いちばん無理がない
- 体制が組めないなら、在宅を担う医療機関へ紹介する役割に徹する判断も正しい
在宅医療は、始めることより続けることのほうが難しい領域です。自院の体制で何年続けられるかを起点に判断してください。
参考
- 厚生労働省「在宅医療の推進について」
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
