自院で健診を提供している医療機関ほど、
自分のところのスタッフの健康診断が後回しになることがあります。
健康診断の実施は事業者の義務で、人数によらず発生します。
しかも医療機関には、一般の事業場には無い特殊健康診断が加わる場合があります。
この記事では、クリニックが実施すべき健康診断を3種類に分け、
「誰に・いつ・何を・費用は誰が」という実務上の判断材料を整理します。
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健康診断は3種類に分けて考える
| 種類 | 対象 | 頻度 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 雇入時健康診断 | 常時使用する労働者を雇い入れるとき | 採用時に1回 | 労働安全衛生規則第43条 |
| 定期健康診断 | 常時使用する労働者 | 1年以内ごとに1回 | 労働安全衛生規則第44条 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 深夜業などの特定業務に従事する者 | 6か月以内ごとに1回 | 労働安全衛生規則第45条 |
| 特殊健康診断 | 電離放射線業務など有害業務に従事する者 | 業務ごとに定められた頻度 | 労働安全衛生法第66条第2項ほか |
「うちは10人もいないから」は理由になりません。
健康診断の実施義務に人数要件はありません。
衛生管理者の選任(50人以上)や衛生推進者の選任(10人以上)とは別の話です。
誰が対象になるか——パートは含まれるのか
対象は「常時使用する労働者」です。パート・アルバイトも、次の2つを両方満たすと対象になります。
- 期間の定めのない契約(または契約更新により1年以上使用されることが見込まれる、
有期契約で1年以上使用されている) - 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上
週40時間が常勤のクリニックなら、週30時間以上のパートは対象になります。
4分の2以上4分の3未満の人については、実施することが望ましいとされています。
深夜業を含む業務(当直・夜勤のある有床診療所など)に従事する場合は、
上の表の3行目により年2回の実施が必要です。ここは見落とされやすい部分です。
医療機関に特有の健康診断
一般企業と同じ健診だけでは足りない場合があります。代表的なのは次の2つです。
電離放射線健康診断
X線撮影などで放射線業務に従事する労働者(管理区域に立ち入る者)が対象です。
電離放射線障害防止規則に基づき、原則として6か月以内ごとに1回実施します。
放射線技師だけでなく、撮影の介助で管理区域に入る看護師や医療事務も対象になりうる点が
判断の分かれ目になります。誰が管理区域に立ち入っているかを、実態で確認してください。
有機溶剤・特定化学物質の健康診断
検査室で有機溶剤や特定化学物質を扱っている場合、
それぞれの規則に基づく健康診断が必要です。
使用している試薬・消毒薬の安全データシート(SDS)を確認し、
対象物質を扱う業務があるかを棚卸ししておくのが実務上の出発点です。
なお、B型肝炎ワクチンの接種は法定の健康診断ではありません。
ただし針刺し・血液曝露のリスクがある職種では、安全配慮義務の観点から
接種方針を決めておくのが一般的な運用です。
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費用は誰が負担するか
事業者負担が原則です。健康診断の実施が事業者に課された義務である以上、
その費用も事業者が負うものとされています。
受診に要した時間の賃金については、扱いが分かれます。
- 一般健康診断(雇入時・定期):賃金の支払いは労使協議で決めるものとされていますが、
支払うことが望ましいとされています - 特殊健康診断:業務の遂行に必要なものとして、労働時間として扱い賃金を支払う必要があります
自院で健診を実施できるクリニックの場合、費用の外部流出は抑えられますが、
実施したという記録を残すことは変わらず必要です。
実施した後にやることが3つある
健診は「受けさせて終わり」ではありません。実施後の対応まで含めて義務です。
1. 結果の記録と保存
健康診断個人票を作成し、5年間保存します(労働安全衛生規則第51条)。
特殊健康診断は種類によって保存年数が異なり、より長期のものがあります。
2. 有所見者への対応
異常の所見があった労働者について、医師の意見を聴取し(労働安全衛生法第66条の4)、
必要に応じて就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じます。
この「意見聴取」が最も抜けやすい工程です。
結果票を本人に配って終わりにしていると、後から
「所見を把握していたのに何もしなかった」という形で問題になりえます。
3. 労働基準監督署への報告
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、定期健康診断結果報告書を
所轄の労働基準監督署へ提出します。50人未満の事業場に報告義務はありません
(実施義務はあるので混同しないでください)。
実務でつまずきやすい3点
採用直前3か月以内の健診結果があれば、雇入時健診を省略できます。
その結果を提出してもらえば、同じ項目については改めて実施する必要はありません。
中途採用の多いクリニックでは、採用時の案内に一文入れておくと重複を避けられます。
定期健診は「1年以内ごとに1回」であって「年度内に1回」ではありません。
前回が5月なら、次は翌年5月までです。年度末にまとめて実施する運用にしていると、
人によっては1年を超えてしまいます。
受診しないスタッフへの対応も決めておく必要があります。
労働者にも受診義務があります(労働安全衛生法第66条第5項)。
ただし、事業者が指定した医師以外の健診を受けて結果を提出することは認められています。
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よくある質問
Q. 週20時間のパートにも健康診断は必要ですか。
常勤が週40時間なら、4分の3は週30時間です。週20時間は義務の対象外ですが、
2分の1(週20時間)以上に該当するため、実施することが望ましいとされています。
Q. 院長本人は健康診断の対象ですか。
労働者ではないため、労働安全衛生法上の対象には含まれません。
ただし、産業医の選任義務がある規模では、院長自身の健康管理も
実質的に事業継続のリスク管理として扱う必要があります。
Q. 健診結果は誰が見てよいですか。
健康情報は機微な個人情報です。取り扱う者の範囲を限定し、
必要最小限の情報だけを共有する運用が求められます。
就業上の措置を検討する際も、診断名そのものではなく、
医師の意見(就業区分・配慮事項)を用いるのが原則です。
Q. 記録はどこに保管すればよいですか。
個人票として5年間保存できれば媒体は問いませんが、
紙で保管していると保存年限の管理と検索が負担になります。
勤怠や労務の記録と同じ場所で電子的に管理し、
「いつ実施し、誰が未受診で、有所見者に何をしたか」が後から辿れる形にしておくと、
報告や監督署対応の際にそのまま使えます。
まとめ
- 健康診断の実施義務に人数要件は無い。1人でも雇っていれば発生する
- 種類は雇入時・定期(年1回)・特定業務従事者(年2回)・特殊健診の4系統
- 深夜業がある職場は年2回。当直のある診療所は要確認
- 費用は事業者負担。特殊健診の受診時間は労働時間として扱う
- 実施後に個人票5年保存・有所見者への医師意見聴取・(50人以上なら)監督署報告が続く
まず確認すべきは、前回の定期健診がいつだったかと、
管理区域に立ち入っているスタッフが誰かの2点です。
この2つがはっきりすれば、自院に必要な健診の種類と時期はほぼ確定します。
参考
特徴
対象規模
オプション機能
提供形態
診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
