クリニックの職場は、正職員とパート職員が同じ受付や処置室に並んで働くことが多い。
午前だけ入る医療事務、週3日のパート看護師、1年契約の看護助手などだ。
こうしたパートタイム・有期雇用の職員と正職員との間で、基本給や手当に不合理な差を設けてはならない。
これが「同一労働同一賃金」で、中小企業にも2021年4月から適用されている。
このルールが、2026年(令和8年)10月1日に一段進む。
厚生労働省は、パートタイム・有期雇用労働法の施行規則、同一労働同一賃金ガイドライン、雇用管理指針の3つを改正し、同日から施行・適用するとしている。
改正ガイドラインには、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇などの記載が新しく加わった。
「正職員だけに出している手当」がある院は、10月までに一度点検しておきたい。
この記事では、改正で何が変わるのかを整理したうえで、クリニックでよく使う手当ごとにパート職員へどう払うかの判定表、労働条件通知書への追記文例、待遇差の説明例をまとめる。
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2026年10月の改正で変わる3つのこと
厚生労働省が示している改正のポイントは、次の3つである。
| 改正されるもの | 何が変わるか | 事業主の義務の強さ |
|---|---|---|
| パートタイム・有期雇用労働法施行規則(省令) | 雇い入れ時に明示する事項に「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」が加わる | 義務(違反は10万円以下の過料) |
| 同一労働同一賃金ガイドライン(告示) | 賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞の記載が追加・充実される | 不合理な待遇差の禁止(法8条・9条)の解釈の目安 |
| 雇用管理指針(告示) | 待遇差の説明方法、正社員転換の意向確認、福利厚生施設の利用への配慮などが加わる | 「しなければならない」と「望ましい」が混在 |
ガイドラインそのものに罰則はない。
ただし、ガイドラインは不合理な待遇差を禁じた法8条・9条をどう解釈するかを示したものであり、職員との紛争や労働局の助言・指導の場面では、この内容が判断の目安になる。
同一労働同一賃金の基本の考え方
パートタイム・有期雇用労働法は、2つの規定で待遇差を規制している。
- 第8条(均衡待遇):個々の待遇ごとに、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情のうち、その待遇の性質・目的に照らして考慮すべき事情をもとに、不合理な待遇差を設けてはならない
- 第9条(均等待遇):職務の内容と、職務の内容・配置の変更の範囲が正社員と同じパートタイム・有期雇用労働者は、それを理由とした差別的取扱いをしてはならない
ポイントは「個々の待遇ごとに」判断する点だ。
「パートは時給が高いから、手当はなくてよい」とまとめて判断するのではなく、手当一つひとつについて「何のために払っているか」を確かめ、その目的がパート職員にも当てはまるかを見る。
比べる相手は、同じ事業主に雇われている正職員である。
医療法人なら法人、個人開設のクリニックなら開設者である院長個人が事業主になる。
クリニックの手当・休暇はパート職員にどう払うか(判定表)
ガイドラインの記載を、クリニックでよく使う手当と休暇に当てはめると次のようになる。
「ガイドラインの記載」欄はガイドラインの原則・具体例に基づく。
資格手当のようにガイドラインに名称で載っていない手当は、手当の目的から考え方を当てはめたもので、最終的な判断は就業規則と実態を踏まえて社会保険労務士等に確認してほしい。
| 手当・待遇 | ガイドラインの記載(要旨) | クリニックでの判定の目安 |
|---|---|---|
| 資格手当(看護師・医療事務資格など) | 名称での記載はない。役職手当は「同一の内容の役職には同一の手当」、特殊作業手当は「同一の危険度・作業環境の業務には同一の手当」とされている | 資格を使う業務に対して払う手当なら、同じ資格で同じ業務をするパート職員にも払う方向で考える。役職手当の例では、所定労働時間に比例した額の支給が「問題とならない例」とされている |
| 皆勤手当(精皆勤手当) | 業務の内容が同一なら同一の手当を支給 | 正職員と同じ受付・処置業務をしているなら払う。欠勤のマイナス査定を正職員にだけ行っている場合は、その見合いの範囲で差を設ける例が示されている |
| 通勤手当 | パートタイム・有期雇用労働者にも同一の通勤手当を支給 | 払う。週4日以上は定期券相当、週3日以下や出勤日が変動する職員は日額の交通費相当とする例は「問題とならない例」とされている |
| 住宅手当【新規追加】 | 転居を伴う配置変更の有無で払う手当なら、同一の配置変更があるパート職員には同一の手当を支給。転居と関係なく払う手当も不合理な差は不可 | 1院だけのクリニックで「転勤があるから正職員だけ」は理由になりにくい。正職員にも実態として転居を伴う異動を命じていない場合は、問題となる例に当たる |
| 家族手当【新規追加】 | 契約更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれるパート職員には同一の手当を支給 | 何度も更新している有期のパート職員に払っていないなら見直しの対象。短期間の職員には払わないことが「問題とならない例」とされている |
| 賞与【記載の充実】 | 業績への貢献に応じて払う賞与は、同一の貢献には同一、違いがあれば違いに応じて支給。労務の対価の後払い、功労報償などの目的が当てはまるのに均衡のとれた支給をしない場合は不合理になりうる | 「正職員には全員に何らかの賞与、パートには一切なし」は問題となる例として示されている。寸志でも、目的と職務の違いに応じた設計を検討する |
| 退職金(退職手当)【新規追加】 | 労務の対価の後払い、功労報償などの目的が当てはまるのに、職務の違いに応じた均衡のとれた支給をしない場合は不合理になりうる | 長く勤めるパート職員がいる院は、退職金規程の対象者を確認する。具体的な支給水準までは示されていない |
| 夏季冬季休暇(お盆・年末年始の特別休暇)【新規追加】 | パートタイム・有期雇用労働者にも同一の夏季冬季休暇を付与 | 繁忙期だけの短期職員ではないのに、正職員だけに付与している場合は問題となる例に当たる |
| 夜間・土曜診療の手当(特殊勤務手当) | 同一の勤務形態で働くなら同一の手当を支給 | 夜間診療に入るパート職員にも払う。採用が難しい時間帯に雇用形態を問わず時給へ上乗せする形は問題とならない例とされている |
| 時間外・深夜・休日の割増 | 正職員と同一の時間外等を行ったら同一の割増率等で支給 | 正職員の所定労働時間を超えた部分は同じ割増率で払う |
表の【】は、2026年10月の改正でガイドラインに加わった、または記載が充実した項目である。
家族手当の「配偶者手当」にも注記が入った
改正ガイドラインには、配偶者の収入要件がある、いわゆる「配偶者手当」についての注記が加わった。
特に女性の短時間労働者の就業調整の要因になっていると指摘されていることから、労使の話し合いで働き方に中立的な制度へ見直すことが望まれる、という内容だ。
正職員の手当を下げて差をなくすのは避ける
判定表を見て「正職員の手当を廃止すれば差はなくなる」と考えるかもしれない。
改正ガイドラインは、待遇差を解消する際には正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パートタイム・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められる、という趣旨を明確にした。
また、「正職員の人材を確保・定着させるため」という目的だけで、直ちに待遇差が不合理でないと認められるものではない、という点も明記された。
「正職員に辞めてほしくないから」だけでは、手当の差の説明として足りないと考えておきたい。
労働条件通知書・雇用契約書に追記すること
2026年10月1日以降にパートタイム・有期雇用の職員を雇い入れるときは、これまでの明示事項に1つ加わる。
| 区分 | 明示事項 |
|---|---|
| 現行の明示事項 | 昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口 |
| 新たな明示事項 | 待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨 |
書面の交付等による明示が必要で、違反した場合は10万円以下の過料の対象になる。
追記の文例
厚生労働省のリーフレットでは、労働条件通知書の記載例として次の文言が示されている。
クリニックに置き換えると、たとえば次のようになる。
次の窓口に対して正職員との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。
部署名:事務部 担当者職氏名:事務長 〇〇〇〇(連絡先:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇)
「通常の労働者」は、院内での呼び方(「正職員」「常勤職員」など)に置き換えて書いてよいとされている。
小さなクリニックで事務部がなければ、院長や事務長を窓口にしてよい。
厚生労働省は改正を反映したモデル労働条件通知書も公開しているので、自院の書式と見比べておくと書き忘れを防げる。
すでに働いている有期のパート職員
施行通達では、有期雇用労働者については労働契約の更新をもって「雇い入れ」ることになるため、雇入れ時の説明(法14条1項)がその都度必要になると整理されている。
10月以降に契約を更新する有期職員の通知書にも、同じ文言を入れておくのが確実だ。
期間の定めのないパート職員について、既存の契約書を差し替える必要があるかは今回の資料では明示されていない。
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説明を求められたときの説明例
パート職員から求めがあれば、事業主は正職員との待遇差の内容と理由などを説明しなければならない(法14条2項)。
説明を求めたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることも禁じられている。
改正後の雇用管理指針では、説明の方法が次のいずれかに定められた。
- 資料を活用し、口頭により説明する方法(使った資料は交付することが望ましい)
- 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい資料を交付する等の方法
手当の一覧を1枚にまとめておくとよい。
説明例(皆勤手当の差を聞かれた場合)
正職員の皆勤手当は、欠勤があった月に賞与の評価でマイナスがつく仕組みとの見合いで支給しています。
パート職員の皆さんには欠勤による評価のマイナスを行っていないため、その範囲で皆勤手当を支給していません。
通勤手当、夏季冬季休暇、夜間診療手当は、正職員と同じ基準で支給・付与しています。
支給基準は就業規則の〇条にありますので、資料をお渡しします。
説明の中身が「パートだから」「昔からそうだから」になってしまう手当は、差の理由を説明できていない。
その手当は、説明の準備より先に支給基準の見直しを検討すべきサインである。
雇用管理指針に加わったその他の事項
手当以外では、正社員転換推進措置を講じる際に面談やメール等で本人の意向を確認し配慮すること、職員用の駐車場や保育所などの福利厚生施設の利用に便宜を図るよう配慮することが、雇用管理指針に加わった。
説明を求められていなくても、契約更新の際などに待遇差を分かりやすく示した資料を渡すことが望ましいともされているので、更新面談で手当の一覧を渡すのが手間の少ない方法だろう。
10月1日までと、その後にやること
| 時期 | やること |
|---|---|
| 9月中 | 正職員とパート職員それぞれに払っている手当・休暇を一覧にし、手当ごとに支給の目的を書き出す |
| 9月中 | 判定表と照らし、差の理由を説明できない手当に印をつける |
| 9月中 | 労働条件通知書・雇用契約書のひな形に、説明を求められる旨と窓口を追記する |
| 10月1日以降 | 新たに雇うパート・有期職員に、追記した書面を交付する |
| 10月以降の契約更新時 | 有期職員の通知書にも同じ文言を入れ、手当の一覧を渡して説明する |
| 年度内 | 見直しが必要な手当について就業規則・賃金規程の改定を検討する(正職員の条件を下げずに、パート職員の条件を引き上げる方向で) |
就業規則の変更でパート職員に関わる事項を扱うときは、パート・有期職員の過半数を代表する者の意見を聴くよう努めることになっている。
就業規則づくりの注意点は「クリニックの就業規則を作る際の注意」も参考にしてほしい。
点検のチェックリスト
- 正職員だけに払っている手当が、一覧で洗い出せている
- 手当ごとに「何のために払っているか」を説明できる
- 家族手当・住宅手当を、更新を繰り返しているパート職員に払っていない理由を説明できる
- お盆・年末年始の特別休暇をパート職員にも付与している
- 賞与・退職金について、パート職員を一律に対象外にしていない
- 労働条件通知書に、待遇差の説明を求められる旨と窓口が書いてある
- 手当の一覧を資料として渡せる状態になっている
- 待遇差を解消するために、正職員の手当を削る方向で進めていない
年次有給休暇はガイドライン以前に労働基準法で付与が義務付けられている。
パート職員の付与日数は「クリニックの非正規労働者には有給休暇付与が必要?」で確認できる。
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よくある質問
パート職員の時給を高くしていれば、手当を払わなくてもよいか
それだけでは判断できない。
待遇差は手当ごとに、その手当の目的に照らして判断される。
ガイドラインには、手当を払わない見合いとして基本給を高くしている事情を考慮した例もあるが、それは「その手当の目的に対応する分を基本給に盛り込んでいる」と説明できる場合である。
時給が高い理由と、どの手当の代わりなのかを就業規則や説明資料で示せるようにしておきたい。
違反するとどうなるのか
雇い入れ時に明示すべき事項を明示しなかった場合は、10万円以下の過料の対象になる。
一方、不合理な待遇差の禁止(法8条)に違反しても、罰則は設けられていない。
ただし、職員から差額の支払いを求められる民事上の紛争になりうるほか、都道府県労働局による助言・指導や、無料・非公開の紛争解決手続(行政ADR)の対象になる。
1院だけの小さなクリニックも対象になるのか
対象になる。
パートタイム・有期雇用労働法は、2021年4月から中小企業にも適用されており、事業所の規模による適用除外はない。
パート職員や有期契約の職員を1人でも雇っていれば、改正後の明示事項の追加も含めて対応が必要になる。
まとめ
2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働法の施行規則、同一労働同一賃金ガイドライン、雇用管理指針が改正・適用される。
クリニックでまず押さえたいのは、次の3点である。
- 雇い入れ時の労働条件通知書に「待遇差の説明を求めることができる旨」と窓口を書く(違反は10万円以下の過料)
- 家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・賞与・退職金など、正職員だけに出している待遇を手当ごとに点検する
- 説明は資料を使って行い、差を解消するときは正職員の条件を下げずにパート職員の条件を上げる方向で考える
手当の判断に迷うときは、各都道府県の働き方改革推進支援センターで社会保険労務士等の専門家に無料で相談できる。
同一労働同一賃金についての問い合わせは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が窓口になっている。
参考
- 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
- 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」リーフレット https://www.mhlw.go.jp/content/001698010.pdf
- 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法施行規則/雇用管理指針の主な改正事項」(令和8年改正の概要) https://www.mhlw.go.jp/content/001695902.pdf
- 厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン 新旧対照表(解説付き)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001695906.pdf
- 厚生労働省「改正省令及び告示の周知に係るQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/content/001695919.pdf
- 厚生労働省「『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について』の一部改正について」(令和8年6月29日) https://www.mhlw.go.jp/content/001719959.pdf
- 厚生労働省 Webマガジン「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります」 https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/column/20260803.html
- 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法とは」 https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/reform/
特徴
対象規模
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診療科目
この記事は、時点の情報を元に作成しています。
