医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に自分や生計を一にする家族のために支払った医療費が一定額を超えたとき、その超えた分を所得から差し引ける制度です。確定申告をすると、納めすぎた所得税が戻り、翌年の住民税も下がります。
計算は「控除額を出す」「控除額に税率をかけて還付金を出す」の2段階です。医療費が10万円を超えなくても、所得によっては対象になります。この記事では、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)に沿って、自分で計算して申告するまでの手順を整理します。
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医療費控除の計算方法は「控除額」と「還付金」の2段階
医療費控除の控除額の計算式
控除額は次の式で出します。上限は200万円です。
控除額 =(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)− 10万円または総所得金額等の5%
たとえば、1年間に家族分を合わせて25万円を支払い、生命保険の入院給付金を3万円受け取った人(総所得金額等200万円以上)は、25万円 − 3万円 − 10万円 = 12万円が控除額です。
対象になるのは、その年に実際に支払った医療費です。12月に受診して翌年1月に支払った分は、支払った翌年の医療費として数えます。
「10万円」と「総所得金額等の5%」のどちらを引くか
差し引くのは、10万円と総所得金額等の5%のうち低いほうです。総所得金額等が200万円未満の人は、5%のほうが10万円より小さくなります。
| 総所得金額等 | 差し引く額 | 医療費がいくらを超えれば控除が出るか |
|---|---|---|
| 200万円以上 | 10万円 | 10万円 |
| 150万円 | 7万5,000円 | 7万5,000円 |
| 100万円 | 5万円 | 5万円 |
| 60万円 | 3万円 | 3万円 |
給与だけの人は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」がおおよその総所得金額等です。年金や事業所得がある人は、それぞれの所得を合計します。
保険金・高額療養費で戻った分は差し引く
差し引く「補てんされる金額」には、次のようなものがあります。
- 生命保険・医療保険の入院給付金、手術給付金
- 健康保険の高額療養費、家族療養費
- 出産育児一時金
補てん額は、その給付の目的になった医療費の額までしか引きません。ある入院に対する給付金が入院費を上回っても、余った分を通院費など他の医療費から差し引く必要はありません。申告までに給付額が決まっていない場合は、見込み額で差し引き、後で確定額が違えば修正申告や更正の請求で直します。
医療費控除の還付金は「控除額 × 税率」で計算する
控除額がそのまま戻るわけではありません。戻る所得税は、控除額にその人の所得税率をかけた額です。令和8年分は、所得税に2.1%の復興特別所得税が上乗せされるので、その分も戻ります。
所得税の還付額の目安 = 控除額 × 所得税率 × 1.021
所得税率は「課税される所得金額」で決まります。
| 課税される所得金額 | 所得税率 |
|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% |
| 4,000万円以上 | 45% |
住民税にも同じ医療費控除があります。住民税の所得割は一律10%なので、控除額の10%が翌年度の住民税から下がります。こちらは還付ではなく、6月以降の住民税の減額として反映されます。
医療費控除の計算シミュレーション(所得別・医療費別)
総所得金額等が200万円以上の人(差し引く額が10万円)の目安です。控除によって税率の区分をまたぐ場合や、源泉徴収された所得税が少ない場合は、この表より少なくなります。
| 1年間の医療費(補てん後) | 控除額 | 所得税の還付 税率5% | 税率10% | 税率20% | 税率23% | 住民税の減額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 15万円 | 5万円 | 約2,600円 | 約5,100円 | 約1万200円 | 約1万1,700円 | 5,000円 |
| 20万円 | 10万円 | 約5,100円 | 約1万200円 | 約2万400円 | 約2万3,500円 | 1万円 |
| 30万円 | 20万円 | 約1万200円 | 約2万400円 | 約4万800円 | 約4万7,000円 | 2万円 |
| 50万円 | 40万円 | 約2万400円 | 約4万800円 | 約8万1,700円 | 約9万3,900円 | 4万円 |
総所得金額等が200万円未満の人の例も見ておきます。総所得金額等150万円・医療費9万円なら、控除額は9万円 − 7万5,000円 = 1万5,000円です。税率5%で所得税の還付は約770円、住民税の減額は1,500円になります。
還付は、給与や年金から源泉徴収された所得税が戻る仕組みです。源泉徴収票の「源泉徴収税額」が0円の人は、申告しても所得税は戻りません。
医療費控除の対象になる費用・ならない費用の一覧
基準は「診療や治療のための費用か」「病状に応じて一般的な水準を著しく超えないか」の2つです。
| 区分 | 対象になる | 対象にならない |
|---|---|---|
| 診察・治療 | 医師・歯科医師の診療費、治療費 | 健康診断・人間ドックの費用(原則)、医師への謝礼 |
| 薬 | 処方薬、治療のために買った市販薬(風邪薬など) | ビタミン剤など予防・健康増進のための医薬品 |
| 入院 | 入院費、病院で出る食事代、療養上必要な付添人への付添料 | 本人や家族の都合で選んだ個室の差額ベッド代、寝巻き・洗面具、出前や外食 |
| 通院 | 電車・バスの運賃、公共交通機関が使えないときのタクシー代 | 自家用車のガソリン代・駐車場代、公共交通機関が使える場合のタクシー代 |
| 歯科 | 虫歯などの治療(金やポーセレンの材料を含む)、子どもの不正咬合の矯正 | 容ぼうを美しくするための矯正 |
| 施術 | あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師による治療目的の施術 | 疲れを癒す・体調を整えるための施術 |
| 介護・その他 | 介護保険の一定の施設・居宅サービスの自己負担、6か月以上寝たきりの人のおむつ代(おむつ使用証明書が必要)、治療に必要な義歯・補聴器・松葉杖 | 親族に払った付添料 |
医療費控除の対象になる「家族」は、同居しているかではなく生計を一にしているかで判断します。仕送りしている親の医療費を子が払った場合も、生計を一にしていれば子の医療費控除に含められます。
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医療費控除とセルフメディケーション税制の選び方
セルフメディケーション税制は、スイッチOTC医薬品など対象の市販薬の購入費が1万2,000円を超えた分(上限8万8,000円)を控除する、医療費控除の特例です。申告する人本人が、その年に健康診断や予防接種などの「一定の取組」を受けていることが条件です。
2つは同時に使えず、どちらか一方を選びます。申告した後に、更正の請求や修正申告で選び直すこともできません。
| 選ぶ制度 | 向いている条件 |
|---|---|
| 医療費控除 | 通院・入院・歯科治療などで、医療費(補てん後)が10万円または総所得金額等の5%を超えている |
| セルフメディケーション税制 | 通院は少なく、対象の市販薬を年1万2,000円を超えて買っている。本人が健康診断や予防接種を受けている |
| どちらも使えない | 医療費が差し引く額を超えず、対象の市販薬も1万2,000円以下。または源泉徴収された所得税がない |
両方の条件を満たすときは、控除額の大きいほうを選びます。医療費控除の控除額が「医療費 − 10万円」、セルフメディケーション税制が「対象市販薬 − 1万2,000円」なので、両方を計算して比べるのが確実です。
医療費控除の申請方法(e-Tax・明細書・医療費通知)
医療費控除は、確定申告書に「医療費控除の明細書」を添付して申請します。領収書そのものの提出は不要ですが、税務署から求められたときのために、申告期限から5年間は保存しておきます。
手順は次のとおりです。
- 1年間の医療費を、受診した人・医療機関ごとに集計する
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で、医療費控除を入力する
- 明細書が自動で作成されるので、確定申告書と一緒にe-Taxで送信する(印刷して郵送・持参も可)
領収書の枚数が多い人は、国税庁の「医療費集計フォーム」(Excel)に入力して読み込むと手間が減ります。マイナポータル連携を使えば、医療費通知情報を申告書に自動で取り込めます。
健康保険組合や市区町村から届く「医療費通知(医療費のお知らせ)」を添付すると、そこに載っている分は明細書への個別の記入を省けます。ただし、医療費通知には通知の発行時期より後の診療分が載っていないことや、保険がきかない費用が入っていないことがあります。載っていない分は、領収書から明細書に書き足します。
医療費控除だけを受けるための申告は、還付申告として翌年1月1日から5年間提出できます。令和8年分なら2027年1月1日から出せます。3月15日の申告期限を過ぎても、5年以内なら申請できます。
クリニックの領収書を医療費控除に使うときの確認点
クリニックで受け取る領収書には、保険診療の自己負担分と、保険外の自費分が分けて書かれています。明細書に記入するのは、領収書の「支払った金額(領収金額)」です。点数や総医療費ではない点に注意してください。あわせて渡される診療明細書は、何の費用かを確かめる資料として使えます。
医療費控除の領収書を紛失したとき
まず、健康保険の医療費通知やマイナポータルの医療費通知情報に、その受診が載っているかを確認します。載っていれば、その分は医療費通知で申告できます。
医療費通知に載らない自費分などは、受診したクリニックに相談します。領収書の再発行に応じるか、支払証明書など別の書類で対応するかは医療機関によって異なり、発行に手数料がかかることもあります。
自費診療(自由診療)は医療費控除の対象になるか
保険がきかない自由診療でも、治療のための費用で、病状に応じて一般的な水準を著しく超えないものは対象です。国税庁は、歯の治療で金やポーセレンを使った場合の費用を対象になる例として挙げています。
一方、容ぼうを美しくするための施術や、健康診断・予防接種のような予防のための費用は対象になりません。判断が分かれるのは「治療目的かどうか」なので、領収書の項目名と、医師から受けた説明を手元で確認しておきます。
クリニックに問い合わせる前に確認すること
- 医療費通知・マイナポータルに、その受診分が載っていないか
- 領収書の「保険分」「自費分」のどちらを控除に入れるか
- 支払った年はいつか(12月受診・翌年1月支払いは翌年分)
- 自費分の目的が治療か、美容・予防か
クリニックは医療費控除の対象かどうかを判断する立場にありません。対象かどうかの最終的な判断は、所轄の税務署や国税庁の電話相談センターに確認します。
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よくある質問
共働き夫婦は、どちらが医療費控除を申告すればよいか
医療費を実際に支払った人が申告します。生計を一にしている家族の分はまとめられるので、所得税率が高い人がまとめると還付額が大きくなります。ただし、所得が200万円未満の人は差し引く額が小さくなるため、その人がまとめたほうが控除額が大きくなる場合もあります。
ふるさと納税のワンストップ特例を使っている年に、医療費控除を申告できるか
申告できます。ただし確定申告をするとワンストップ特例は使えなくなるので、ふるさと納税の寄附金控除も確定申告書にあわせて入力します。
医療費控除を申告し忘れた過去の年は取り戻せるか
還付申告は翌年1月1日から5年間出せます。すでに確定申告を済ませた年は、更正の請求で追加できます。
まとめ
医療費控除の計算は、補てん後の医療費から10万円または総所得金額等の5%を引いて控除額を出し、そこに所得税率をかけて還付金を出す2段階です。住民税も控除額の10%が下がります。
市販薬が中心ならセルフメディケーション税制と比べ、申請は確定申告書等作成コーナーで明細書を作ります。クリニックの領収書は、保険分と自費分、支払った年を確かめてから集計すると、あとで直す手間がありません。
参考
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1126「医療費控除の対象となる入院費用の具体例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1126.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1129「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1129.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1131「セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1131.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2030「還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 総務省「個人住民税」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html
- e-Gov法令検索「所得税法」第73条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
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