※この記事はライターが執筆した原稿をもとに編集部で加筆・編集しています。
看護専門学校のなかには、卒業後、系列の医療機関で一定の年数働けば奨学金の返済が不要になる学校があります。返済不要のメリットはとても大きいため、“縛り”がある間は働き続ける看護師がほとんどですが、その年数を超えると大多数は転職するというところも多いです。
そこで今回は、離職率が高い医療機関の特徴や、離職率を下げるためにできることなどについて考えていきます。
看護師の離職率
まずは、実際のところ看護師の離職率はどのくらいであるのかを見ていきましょう。
公益社団法人 日本看護協会の資料によると、毎年行われている「病院看護・外来看護実態調査」の結果、2020年における正規雇用の看護職員の離職率は実に10.6%にも上ることがわかっています。
また、同調査における2017年から2020年にかけての推移はほぼ横ばい状態。既卒看護職員、新卒看護職員ごとの結果も比較すると、一度働いた経験のある既卒看護職員の離職率のほうが高いことがわかっています。
【看護職員の離職率推移】
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
正規雇用看護職員 | 10.9% | 10.7% | 11.5% | 10.6% |
既卒採用者 | 16.9% | 17.7% | 16.4% | 14.9% |
新卒採用者 | 7.5% | 7.8% | 8.6% | 8.2% |
続いて、10.6%という離職率が高いか低いかをみていきます。
厚生労働省が公表している「令和2年雇用動向調査結果」によると、2020(令和2)年の一般労働者の離職率は10.7%で正規雇用看護職員の離職率とほぼ変わりません。
また、2019(令和元)年の一般労働者の離職率は11.4%と、こちらも正規雇用看護職員の離職率と同程度です(厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」より一部抜粋)。
ではなぜ「看護師の離職率が高い」と言われるかというと、医療機関全体の平均を出すと一般労働者の離職率と同程度でも、形態別にみると結果が変わってくるからです。
具体的には、効率の病院や日本赤十字社に勤める看護職員の離職率は、既卒、新卒ともに低い数値をキープし続けていますが、個人経営のクリニックに勤める看護職員の離職率は極めて高いという結果が出ています。
つまり、離職率を下げる方法についてもっとも考えるべきであるのは、クリニックを運営する開業医ということになります。
形態別の離職率は以下の通りです。
【2019年度離職率(2020年調査)】
正規雇用看護職員 | 新卒採用者 | 既卒採用者 | |
国立 | 10.2% | 7.4% | 11.3% |
公立 | 8.5% | 7.4% | 8.9% |
日本赤十字社 | 9.4% | 7.1% | 9.0% |
済生会 | 14.9% | 11.3% | 16.0% |
厚生連 | 11.1% | 5.7% | 15.9% |
その他公的医療機関 | 17.7% | 4.9% | 7.7% |
社保関係団体 | 10.1% | 8.6% | 11.7% |
公益社団・財団法人 | 12.2% | 8.5% | 14.8% |
私立学校法人 | 12.1% | 10.2% | 10.4% |
医療法人 | 14.4% | 10.0% | 18.8% |
社会福祉法人 | 10.8% | 9.5% | 12.7% |
医療生協 | 13.4% | 8.3% | 13.2% |
会社 | 8.9% | 5.7% | 9.0% |
その他の法人 | 12.2% | 7.9% | 17.2% |
個人 | 20.3% | 20.8% | 31.9% |
無回答・不明 | 6.3% | 66.7% | 0.0% |
看護師の離職率が高くなる原因
離職率が高い原因としてまず挙げられるのが、仕事の過酷さでしょう。夜勤がある医療機関であれば不規則な生活を強いられるため、体力が必要です。
仮眠室は用意されているものの、急患が出ることを考えると必ず仮眠できるとは限りませんし、仮眠できたとしても自宅のようにリラックスしてぐっすり眠ることはできないでしょう。
しかし、前述した通り、看護職員の離職率がもっとも高いのは個人経営のクリニックです。個人経営のクリニックの場合、夜勤はあることのほうが少ないでしょう。
では、個人経営のクリニックにおいて、看護師が「転職したい」と思うに至る理由はなにかというと、「残業続きで休めない」「人手不足で有休をとれない」「給与が低い」などの待遇面に関することのほか、「人間関係に悩まされている」や「キャリアアップが望めない」などが考えられます。
また、先輩看護士や医師によるパワハラに悩まされている場合もあるので、自院が該当しないかどうか俯瞰してみることはとても大切です。
離職率を低くするためには
続いては、離職率を下げる方法を考えていきましょう。
人間関係の改善に努める
院内の人間関係をよくするためには、まずは現状の一人ひとりの不満に耳を傾けることが大切です。
人間関係が悪くなる背景には、業務量の偏りなどが原因で「あの人だけ贔屓されている」「自分にだけ負荷がかかっている」などの要素がある場合が多いでしょう。
もしくは、著しく仕事の能力が低い人やコミュニケーション力が低い人がいれば、周りのスタッフがサポートに回らなければならなくなることもあります。
まずはスタッフ一人ひとりとの話し合いの場を設けることで、現状の不満や、どう改善してほしいと思っているかを聞き出すことから始めましょう。
その結果、特定のスタッフが原因で全員の士気が下がっていることがわかった場合、該当スタッフに指導することが望ましいです。
再三指導しても改善されない場合、解雇を考える必要があることもありますが、その労力を惜しまないことで、他の優秀なスタッフに長く働いてもらいやすくなるでしょう。
希望の時間で働きやすいよう工夫する
医療業界に限ったことではありませんが、昨今の政府による働き方改革推進も後押しとなり、時間や曜日を限定して働きたいと考える人は増えています。そのため、雇い主側には、勤務時間帯や休暇取得に対して柔軟であることが求められます。
とはいえ、全員の希望をそのまま聞いていたらクリニックの経営が回らないのは明らかです。そこで大切になるのが、「人数を多めにとって、体調が悪いときなどに休みやすい体制を整える」「残業続きでもがんばってくれているスタッフの給与はそのぶん上乗せする」などの工夫を考えることです。
また、雇用主と働き手がお互いに歩み寄ることや、スタッフ同士が協力しあって勤務スケジュールを調整することも必要になってくる場合がありますが、その際にスムーズに事を進めるためにも、日ごろから良好な人間関係を構築しておくことが非常に大切です。
スタッフの家族のことを考える
希望の勤務時間の背景には家庭の事情が存在します。その最たるものが子育てや介護で、仕事で疲れていようが手を抜くことができないものです。
たとえば、「子どものお迎えがあるから何時までに帰らないといけない」ということもあれば、「家族の容態が思わしくなくて仕事に集中できない」などと精神的に辛い状況に立たされている人もいるでしょう。
こうした事情に配慮して、たとえば院内に託児所を設けたり、リフレッシュ休暇を設定したりすることも「できること」のひとつですが、具体的な制度を用意することまではできなくても、辛いときに話を聞いてあげるだけでも、「こんなに心配してくれる人たちのためにも仕事をがんばりたい」と思ってもらえることもあります。
キャリアアップをサポートする
モチベーションを維持できないことが原因の離職者に対してできることとしては、「やる気を持って取り組んでもらえる業務を考える」「責任ある仕事を任せる」「資格取得の費用を一部負担する」などが挙げられます。
仕事への意欲が高いスタッフなら、「ここで働くことで成長できる」と思える職場であれば、辞めたいと考えることは少ないものです。
給与水準を上げる
クリニックがあるエリア内の医療機関と比べて給与水準が低ければ、転職を検討されて当然です。とはいえ、売り上げが低ければスタッフの給与を上げることは現実的に難しいでしょう。
では、どうすればこの課題をクリアできるかというと、もっとも理想的な方法のひとつは、「スタッフと一丸となって売上アップのための策を練り、目標を達成できたらスタッフに給与UPとして還元する」というものです。
たとえば、開業仕立てで知名度が低いなら、スタッフにSNSでの発信業務も任せたり、よい口コミを増やすために院内をこまめに掃除したりと、みんなでできることは意外とたくさんあります。
こうした改善に取り組む場合は、「●週間以内に患者を▲人まで増やす」「口コミの点数を1.0pt上げる」など具体的な目標を決めておくと達成しやすいでしょう。
チームビルディングを意識する
給与水準を上げるためにできることとしても触れた通り、スタッフで一致団結して仕事することはとても大切です。
また、それによって、一人ひとりのなかで「わたしはこのクリニックにとって欠かせない存在だ」という意識や、「クリニックのために自分にできることは何だろう?」と考える習慣が身に着きます。
その結果、スタッフの定着率が上がるのは自明の理といえるでしょう。
理想の医療現場
私の考える理想の医療現場とは、看護師の離職率が低く、少しでも人手不足が解消された現場です。現状でも業務量が多すぎるので、これ以上人手が減ってしまうと、病院自体まわらなくなってしまいます。
一人ひとりが感染対策をしっかりと行い、コロナが収束すれば、患者さんの数は今よりは少し減ると思われます。しかし、高齢化は今後も進んでいくため、患者さん自体が大幅に減ることはないのが現状です。
このような中で、患者さんにとってよりよい医療が提供できるようにするためには、医療スタッフが協力し合うことが大切であると考えます。
特徴
対応業務
診療科目
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対応業務
診療科目
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対応業務
診療科目
この記事は、2021年8月時点の情報を元に作成しています。
執筆 看護師 | risa
看護師歴9年目で現在、総合病院勤務。日々、慌ただしく忙しい中でも、看護師としてやりがいを持って医療にたずさわっています。内科や外科での実際の経験を通して、皆さんに役立つ情報を提供していければと思います。
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