
クリニックの院長先生の中で特に多くの方が頭を抱えているのが「人事」の問題。
中でも人員不足、スタッフの離職については「悩まないクリニックはない」と言っても過言ではないでしょう。
ただでさえ多種の業務をこなさなければならない経営者としては、人事業務にばかり時間をとられることがないように、スタッフの入れ替わりは最小限に押さえたいところだと思います。
最悪のケース(集団退職など)に発展しないように、今回は事例とともに退職の予防と気を付けるべきポイントを紹介します。
悪気なく「お気に入り」を作っていませんか?
これは医師がついついとってしまう行動ですが、集団退職にもつながりかねない要注意行動です。
たしかに、あうんの呼吸で医師の仕事の補佐ができる看護師は本当にありがたい存在だと思います。その人がいるだけで、仕事が何倍もはかどって助かることも少なくはないはずです。
でもそこで、医師がそのエースにばかり頼ったり、ほかのスタッフと差別をしてしまうと「先生のお気に入り」と妬みがはじまり、仕事へのモチベーションを下げてしまうことになりかねません。
えこひいきをする先生と噂され、エース以外で結束が固まり、集団退職してしまうなんてことがおこりえます。
私の経験ですが、エースが医師に過大に頼られてしまい、沢山の業務を一人で抱え疲労困憊。同僚とも妬みによって溝ができてしまい、居心地が悪くなり結局退職してしまった…という事例を見たことがあります。
またこれは小さいクリニックで役職を作る時にも同じ。
看護師のまとめ役として役職が存在すると、医師にとってはその人に話しておけば全体に伝わりますし、ありがたい存在ですよね。護師間で起こった問題もその人に、任せておこうとなるはずです。
でもここで「なんであの人が」と妬みがうまれないように、みんなが納得するような人事発令をするようにしましょう。勤務時間が長い、認定看護師の資格を持っているなど、客観的な評価ができるのもいいですね。
また役職をもらった看護師が、業務量や内容に見合った待遇をうけられるように、給与面などできちんと評価しましょう。
せっかく仕事をこなせる人に「やってられないわ」と退職されないように、気をつけてください。
「優秀な看護師」にも要注意ポイントが隠れている
自分の目標を持ち、業務をきちんとこなす看護師。クリニックにとっては替えのいない優秀なスタッフになることでしょう。こうしたタイプの人が1人いるだけでも周りのスタッフの成長につながりますし、経営にもいい影響を与えるはずです。
しかし、この「志の高さ」が行き過ぎると、ちょっと困ったことになることもあるのです……。
私の経験では、このような「志を持っているタイプ」は、大きな病院から来る看護師に多かったです。看護師の中でもキャリアもばっちりだし、クリニックではもちろん歓迎され、みんなから一目置かれる存在になっていました。
最初は誰よりもやる気に満ち溢れていてバリバリと仕事をこなしていたのですが、2か月3ヵ月と経つうちに前職の病院とのギャップに気づき、クリニックの業務に物足りなさを感じ始めていたようです。
やがて「スキルアップできない」といったニュアンスの言葉を口にするようになり、ひどいときには後輩に対して「ここにいたら成長できないわよ」と不安をあおり、退職に追い込んでしまうこともありました。
もちろんこれは一例であって、こうしたケースが多いわけではないと思います。
ただ、クリニックの現場は大きな病院よりも機材がそろっていないことも確かですが、そのあたりの現状が身に染みて分かってくるにつれて自分の夢や目標、「ありたい姿」との乖離が大きくなってしまったが故にやる気をなくしてしまうことは珍しくなかったように思います。
こうしたミスマッチを防ぐには、やはり面接時にしっかりとクリニックの役割と病院との違いを明確に伝えることが大切です。
そしてなぜクリニックに転職しようと思ったのか、今までのキャリアを活かし、どのように活躍していきたいかを確認するようにしましょう。
退職前の予兆を見逃さないために…
退職に至るまでには必ず、理由があります。
体調不良や家庭の都合など未然に防げないこともありますし、スタッフ間の私的なトラブルが原因だったりすると、経営者の手には負えません。
なので業務に関することが理由の場合については、その発生に十分注意して、できるだけ対策をとっておきましょう。その方法をいくつかあげてみます。
業務マニュアルを整備する
業務マニュアルの作成は必須です。
誰でもできるようにしておけば、急な欠勤などでやったことがない人が対応するときも不安なく実施できます。「不慣れなことをやらされる」と言った精神的負担を軽減できるでしょう。
また安定した変わらない医療が提供できれば患者離れも防げます。
環境を整える
清潔感はもちろんのことトイレや倉庫で着替えをする、リラックスできる空間で休憩がとれないなども要注意です。
また現在は「黙食」が推奨されていますので、スタッフ間のコミュニケーションの場が不足しがち。マスク着用で適切な距離をとって会話ができる空間を確保するなど、スタッフの居場所の環境整備を心がけて行きましょう。
個人面談やスタッフミーティングなどの場を設ける
全員が出席してのミーティング時間の確保はなかなかできないと思いますので、書面でもいいと思います。
この時に「何か困っていること、大変なことはないか」という問いはおすすめしません。ただの不平不満をいうだけになってしまう可能性があるからです。問題を提示したらそれを解決する策まで提示することを原則としましょう。
誰の意見であるかを明確にして「みんな言ってます」のような無責任な意見に振り回されないようにしたいですね。
問題点を聞くときに、ただスタッフの意見を聞くだけの場所ではなく、院長自身も必要なことをきちんと伝える場とすることも大切です。
人事労務の専門家に相談する
十分に対策をとってきたつもりでも、不意打ちを食うように退職希望を出してくる人がいます。
理由を聞いてびっくり「そんなことを思っていたのか」「何も言わないからいいと思っていた」なんてこともあります。
直接意見を言うことをためらい、ずっと抱えて最後には退職の方向に進んでしまった…非常に残念なパターンです。
また「風通しの良い職場」を作ってきたら度が過ぎて、わがまま勝手を言ってばかり。負の連鎖でスタッフ間の結束が固まり、集団退職につながってしまった…なんてこともよくあるパターンです。
医師自身がクリニックのトップとして、リーダーシップやコミュニケーション能力を磨くことも大切ですが、日々の業務をこなしながら、あれもこれも抱えるのは困難です。
「集団退職」の危機を未然に防ぐために、人事労務のプロに頼るのも一つの手です。
クリニックの集団退職リスクを回避するには
今の時代、より自分に合った職場への転職はめずらしいものではありません。
またコロナ感染症の影響で、安定していると思われていた大学病院でさえ、数百人もの医師・看護師が一斉に退職したという異常事態が起こっています。
また2022年10月から従業員の社会保険の適用が拡大されました。経営者の負担はもちろん、今までパートやアルバイトで働いてきた人が、これからどのような働き方を選択していくのか、なかなか予測が難しくなってきています。
経営者が離職を食い止めようと気を付けてもどうにもできない事情などもありますが、今すぐにできることがあるとすれば、まずはやはり「一緒に働いてくれる仲間を大切にすること」だと思います。
その「大事にしていること」をどうやって伝えていくのかは、クリニックそれぞれに合わせて考えていけるとよいですね。
特徴
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
診療科目
執筆 医療ライター | 山野 成子
2児の母。看護師として20年以上、総合病院、透析クリニック、保育園、通所介護施設などを経験する。
主任看護師として人事採用・新人教育を担当した経験を活かし、現在は医療者向けの記事を執筆するライターとして活動中。
他の関連記事はこちら