
開業医として独立を考えているけど、一から新規開業となると、必要な資金を用意するのに時間がかかりそう……。そんな思いを持つ医師にとって、気になるところはやはり「どんな形で開業するのが一番いいのか?」ではないでしょうか。頭を悩ませていくなかで、継承や承継について考えたこともあるはず。
今回はさまざまな開業形式のなかから特に「承継」に絞って、そのメリットやデメリット、手続きの流れや相場、ありがちなトラブルとその対象法についてもまとめてみました。
クリニック承継とは?
クリニック承継とは、既に開業しているクリニックを引き継いで運営することです。つまり、開業するために土地や物件を探す必要がないということです。また、詳しくは後述しますが、土地、建物以外のものも引き継ぐことができます。
「承継」と「継承」の違い
「クリニック承継」と同じように使われる言葉に「クリニック継承」があります。
「承継」と「継承」にはどういう違いがあるかというと、前者が、先代の事業に対する想いや信念を含めて引き継ぐことを意味するのに対して、後者は、業務や財産といった具体的なものを受け継ぐことを意味します。
実際はそこまできっちり使い分けされていない場合もありますが、総じて「クリニック承継」の言葉が使われる場合が多いといえるでしょう。
クリニック承継の2つのパターン
承継には主に2つのパターンが存在します。どんなパターンかというと以下の2パターンです。
親族間承継
親族間での承継なら、対価や仲介手数料を支払う必要がない場合も多いでしょう。ただし、相続税や贈与税に関しては税理士などに確認する必要があります。
第三者承継
親子関係、親族関係にない第三者からもクリニックを承継できます。しかも、血縁関係にあれば「引き継がねばならない」「診療方針も変えてはならない」などの「ねばならない」が多い場合もあるでしょう。
しかし、第三者からの承継であればある程度自分の好きにできますし、万が一交渉時点で揉めた場合は契約しないという選択肢もあるので安心です。
クリニック承継の現状は?
前述の通り、クリニック承継には2つのパターンがありますが、時代を遡るほど、前者の「親族間承継」のパターンのほうが多かったと考えられます。しかし、少子高齢化が進んだことで、自身の子どもや身内に継いでくれる人が出てこなかったことで、第三者に継いでもらう選択肢をとる医療機関が増えてきました。
しかしもちろん、血縁にこだわらず後継者を探したとしても、いい人材が見つからずに廃業していく医療機関は数多く存在します。さらにここ数年は、コロナ渦に外来患者数が減少したことで、後継者が見つかるまで事業を継続していくことができなかったというケースも後を絶たない状態でした。
クリニック承継の注意点
続いては、クリニック承継の注意点を解説します。クリニック承継における主な注意点は次の通りです。
それぞれ詳しく解説していきます。
ホームページや電話番号が変わることを数か月前から告知することが望ましい
旧医院のホームページがある場合
クリニック承継に伴い、ホームページを引き継ぐ場合、次の3点を実行すると、承継によって一時的に患者が減るといった事態に陥りにくいとされています。
【ホームページ引継ぎの原則】
①URLはそのまま引き継ぐ
②同時にドメインのメールアドレスを確認して、それも引き継ぐ
③広告やGoogleビジネスプロフィールも引き継ぐ
ホームページがあるということは、そのドメインを使ったアドレス宛に問い合わせがきている場合が考えられるため、URLだけでなく、メールアドレスなども確認することが大切です。また、広告を出稿している場合やGoogleビジネスプロフィールも活用している場合、それも併せて引き継ぎます。
旧医院のホームページを引き継げない場合、医院名が変わる場合
旧医院のホームページがあるものの、なんらかの事情により引き継ぐことができない場合、もしくは医院名が変わることからドメインを変える必要があって引き継げない場合、新たにホームページを開設することになります。
ここで重要なのが、ユーザーが旧サイトを開いたとき、自動的に新サイトにジャンプするよう、転送設定を施しておくことです。
この設定を怠ると、旧サイトが新しくなったことを、患者にもGoogleにも認識してもらえません。なお、新サイト開設および転送設定は承継の約3か月前までに完了しておくことが理想です。
旧医院にホームページがない場合
旧医院にそもそもホームページがない場合、承継の数か月に、まずは旧医院のホームページを開設することがおすすめです。その際、承継のタイミングで新URLに切り替えられるよう設定しておき、新URLのほうの医院名の横には、「旧●●医院」と表示しておくと、患者が混乱しにくいといえます。
電話番号が変わる場合も数か月前から告知することが大切
また、個人事業主が承継した場合、開設者が変わるため、保険医療機関コードの変更手続きが必要になりますが、保険医療コードが変わると電話番号も変わるので、電話番号が変わることについても併せて、数か月前からホームページなどで告知しましょう。
SNSで新しいアカウントを立て直したい場合
旧医院が運用していた各種SNSをそのまま引き継ぎたい場合、SNSのアカウント引継ぎに関してはほとんど難しいことはなく、ログインアドレスとパスワードを教えてもらって引き継いだ後、メールアドレスやパスワードを変えるだけで済みます。
一方、アカウントを新たに立ち上げたい場合は、旧アカウントを引き継ぎ、アカウントが変わる旨および新しいアカウント情報を最新投稿として表示させた状態で、新しいアカウントの運用を始めます。旧アカウントについてはそのまま残しておいても構いませんが、新しいアカウントが定着してきたころに元のアカウントは削除してしまっても問題ないでしょう。
(スタッフを引き継ぐ場合)就業規則の再確認や各種保険の引継ぎ手続きも必要になる
旧医院のスタッフを引き継ぐ場合、労働条件通知書を再発行したり、各種保険の引継ぎ手続きをしたりといったプロセスも必要になります。
なお、個人事業主が承継する場合、給与体系や有給休暇、加入する保険などに関しては、旧医院と同じにしなくてはいけないということはないので、労働条件が旧医院より悪くなった場合、スタッフのほうから、引き続き働くことを断られる場合もあります。
一方、医療法人が承継する場合、承継元のすべての財産を引き継ぐ必要があるため、スタッフとの雇用契約についても引き継がなければなりません。
(賃貸物件やテナントに入居している場合)賃貸オーナーとの契約についても確認が必要である
承継先が賃貸物件やテナントの場合、賃貸オーナーとの契約についても確認することが不可欠です。確認項目としては、主に次のようなことが考えられます。
また、オーナーが高齢の場合は特に、家族や親族に相続・贈与が発生する未来が遠くない可能性が高いので、契約内容に関してはしっかりと書面に残すことで、万が一の場合に、承諾を得たことを証明できるようにしておくことが大切です。
そのほか、市街化調整区域でないか、立ち退きの規定があったりしないかなども確認することが大切です。
カルテの引継ぎに関して、譲渡する側は患者への同意取り付けをおこない、譲渡される側は初診時に丁寧な説明を心がける
承継にあたってカルテを引き継ぐにあたっては、個人情報保護の観点から慎重になるべきです。
法的には患者の同意なくカルテを引き継ぐことは可能であるとはいえ、譲渡する側は患者に対して、カルテ情報に関しても引き継ぐことを説明することが望ましいといえます。
譲渡される側が、初診時にカルテを引き継いでいる旨を患者に対して丁寧に説明することも大切です。
また、当たり前ですが、譲渡される側は、患者の個人データを目的の範囲を超えて利用することはできません。利用した場合、個人情報保護法に抵触することになります。
クリニック承継のメリット
続いては、クリニック承継のメリットをみていきます。
医療機器や内装設備などの初期費用が不要
クリニックの承継に際して、土地や建物だけでなく医療機器なども引き継げば、初期費用をぐっと抑えることができます。
スタッフを引き継げる
双方の合意があれば、看護師などのスタッフも引き継げます。もともとそのクリニックに勤めていたスタッフなら、慣れているぶん、スムーズに仕事を進めることができますし、一から募集をかける手間もお金もかかりません。ただし、承継の注意点でも説明した通り、スタッフの合意が得られない場合もあります。
スタートからある程度の収入が見込める
承継した場合、すでにその地域で認知を得ていることが多いもの。一定の患者さんを抱えているということは、スタートからある程度の収入が見込めるということでもあります。
クリニック承継のデメリット
クリニック承継にはデメリットもあります。
承継物件の数が少ない
承継できる物件自体が多く存在しないことから、限られた物件から選ばなくてはなりません。少しでもいい物件に巡り合うためにも、信頼できる仲介業者を見つけて、物件が出るたびにスピーディに連絡してもらえるようにしましょう。
レイアウトなどの変更が難しい場合がある
理想の内装に変えようと思っても、難しい場合があります。また、大きく変更しようと思ったらそれなりの資金が必要になるもの。そのため、院内のレイアウトを含めて理想に近い物件を選ぶことが望ましいといえるでしょう。
場合によっては出費がかさむことがある
老朽化に伴うリニューアル工事費などで出費がかさむ場合があります。承継への対価は、そのことを加味した金額にしてもらえるよう交渉しましょう。
また、前院長に支払う、譲渡の対価が相場より大きい場合があります。その場合も、納得いく金額で契約できるよう交渉することが望ましいです。
前院長の方針と合わない場合がある
前院長の診療方針と著しく異なる場合などは、患者からいい印象を抱いてもらえないこともあるでしょう。自分の理想の医療を追求することを優先したいなら、患者に対して自身の考えをしっかりと伝えて納得してもらうことも必要になってくるでしょう。
クリニック承継の流れ
続いては、クリニック承継の流れを説明します。
1.仲介業者を探す
2.仲介業者を決めて、契約する
3.条件に合う承継先を探してもらう
4.承継先の院長との面談や物件の内見をおこなう
5.承継先を決めて、契約を結ぶ
6.買収監査をする
7.問題なければ、最終譲渡契約を結ぶ
8.承継実行
9.承継後、保健所に診療所開設届を提出する
それぞれのステップを詳しく説明すると以下の通りです。
1.仲介業者を探す
理想に近い物件が出てきたときにすぐにその情報を得ることができるよう、信頼できる仲介業者を探しておくことが得策です。
2.仲介業者を決めて、契約する
信頼できる仲介業者を見つけたら、仲介契約書を締結します。仲介契約書には、業務手数料や報酬体系なども記します。
3.条件に合う承継先を探してもらう
契約書を交わしたら希望の条件を伝えます。その希望に合った物件が出てきたら、まずはクリニック名や所在地を伏せた「ノンネーム」の状態で紹介してもらえます。
その段階で「もっと詳しく情報を知りたい」と思った場合は、クリニック名などを明かしてもらう「ネームクリア」をお願いします。同じタイミングで複数の候補先にネームクリアをお願いすることも可能です。
4.希望承継先の院長との面談や物件の内見をおこなう
ネームクリアの結果、内見したいクリニックがあった場合、実際に内見します。併せて、院長との面談も実施して、診療方針やクリニックに対する想いなども確認します。これによって、自身の診療方針と合致するか、またはすり合わせ可能な範囲の診療方針であるかがわかります。
また、承継前のクリニックがどのくらいの利益を出しているかなどの情報を入手することも必要です。「現状はうまくいっているがこれから競合が増えてくる予定」ということもありえるので、仲介業者にも相談しながら、損をしないためにもできるだけ多くの情報を得ることをおすすめします。
具体的なチェックポイントとしては以下が考えられます。
5. 承継先を決めて、契約を結ぶ
内見および面談を経て双方の合意のもと承継することとなったら、条件を調整して基本合意書を締結します。条件の調整とは具体的にはどんなことかというと、たとえば内見を通して老朽化がかなり進んでいることを確認したら、譲渡対価を減額したり、承継時期を相談したりといったことです。
ちなみに、完全に引き継ぐまでの期間にアルバイトさせてもらったり、もしくは承継後しばらくの間、前院長にアルバイトとして残ってもらったりすれば、かかりつけ患者にも事情が伝わりやすいなど、引継ぎがスムーズになります。
6. 買収監査をする
基本合意書を締結したら、承継先にリスクがないか、財務情報の数字に間違いがないかなどを「買収監査」で確かめます。ただし、小規模クリニックの場合は買収監査を行わない場合もあります。
7. 問題なければ、最終譲渡契約を結ぶ
買収監査の結果、問題がなければ最終譲渡契約書を締結しますが、問題があった場合は、最終譲渡契約書を締結する前に、承継条件を再度調整します。
8. 承継実行
最終譲渡契約書の内容に沿って承継を実行したら、対価を支払います。
9. 承継後、保健所に診療所開設届を提出する
承継手続きが完了したら、管轄の保健所に診療所開設届を提出して、保健所の検査を受けます。また、保険診療をおこなう場合は、厚生労働省所管の地方港政局に保険診療医療機関の指定申請を行わなければなりません。
クリニック承継の費用相場
クリニック承継の費用相場は2,000万円から4,000万円とされています。
新規開業にかかる費用相場が、診療科にもよりますが概ね1億円程度であることを考えると、金銭面的なハードルは低いといえるでしょう。
ただし、承継の対価として支払う2,000万円~4,000万円のほかに、当面の運転資金や仲介業者への手数料を支払う必要があります。そのため、用意すべき金額としてはもう少し高くなります。
また、前院長が土地・建物付きで営業権を譲渡することを希望している「不動産付き承継物件」の場合は、相場よりも高額になります。
金銭面で折り合いがつかない場合は……
理想的な物件であっても資金調達が間に合わないとき、断念するしかないわけではありません。可能かどうかは場合によりますが、「一定期間は賃貸にしてもらう」という選択肢があるからです。
この条件を先方が飲んでくれた場合、営業権を購入してクリニックを承継した後は、売主に不動産の月々の賃貸料を支払うことになります。
条件提示の際は、たとえば「クリニック経営が軌道に乗るまでは月々の家賃を支払い、軌道に乗れば買い取るということでいかがでしょう?」などの交渉をおこなうといいでしょう。
これで交渉が成立している前例はあるので、資金調達が間に合わない場合には交渉してみない手はありません。
医療機関の承継における「譲渡スキーム」とは ?
医療機関の承継において、「譲渡する側」が知っておくべきことのひとつとして、「譲渡スキーム」が挙げられます。「譲渡してもらう側」も理解しておくとより納得のいく形で承継できる可能性があるため簡単に説明すると、医療機関の承継は、医療機関の事業形態によって大きく3つにわけられます。
具体的には、①個人事業主がクリニックを譲渡する場合もしくは医療法人の分院譲渡の場合、②旧型医療法人の譲渡の場合は、③新型医療法人の譲渡の場合の3パターンです。それぞれどのようなスキームであるのかを簡単に解説すると、以下の通りです。
① 個人事業主がクリニックを譲渡する場合もしくは医療法人の分院譲渡の場合
個人事業主がクリニックを譲渡する場合、もしくは医療法人の分院のみ譲渡する場合、建物や機械設備などの資産をそれぞれ個別に売買することになります。これに関してですが、取得から5年以内(※譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年以内 )の資産については、「短期譲渡所得」となるため、5年を超えている「長期譲渡所得」と比べて税率が高くなります。
それぞれの税率は以下の通りです。
【短期譲渡所得】
譲渡所得金額×41.1%(所得税30%+復興特別所得税2.1%+住民税9%)
【長期譲渡所得】
譲渡所得金額×22.1%(所得税15%+復興特別所得税2.1%+住民税5%)
② 旧型医療法人の譲渡の場合
旧型医療法人(=持分あり医療法人)の場合、持分の譲渡と役員退職金支払いなどを組み合わせて譲渡対価を支払うことができます。そのため、比較的柔軟にスキームを設計できるでしょう。
③ 新型医療法人の譲渡の場合
新型医療法人(=持分なし医療法人)の場合、役員退職金支払いがメインスキームとなります。持分がないため、純資産が潤沢な場合や営業権が高額な場合、年間の利益水準に比べて役員報酬額が低い場合、積立保険等の隠れ内部留保がある場合、もしくは法人化後の経過年数が浅い場合は、役員退職金の法人税法上の適正額を超える可能性があります。
個人事業主の医師が医療機関を承継するパターンは、多くは①に該当するため、少なくとも①については概要を理解しておくことをおすすめします 。
承継時に法人化するとメリットが大きい
また、譲渡される側にとってメリットが大きい承継法として、「承継のタイミングで法人化する」という手段も頭に入れておくと役に立つかもしれません。具体的な方法としては、「承継前に前医院を法人化する」ということになります。つまり、譲渡される側に「医療法人として引き継ぎたい」という考えがあるなら、前医院に対して、承継前に対して法人化を交渉することが必要ということになります。
なぜ、承継のタイミングで法人化するとメリットが大きいかというと、手続きの煩雑さが雲泥の差だからです。まず、個人事業主の開業医からの承継となると、承継に際して、診療所開設許可や契約の名義変更、スタッフとの再契約が必要となるうえ、相続税や贈与税が発生する可能性もあるため、やらなければならないことが多く、手続きが複雑です。一方、医療法人の承継であれば、理事長を変更するのみで、スタッフの雇用や設備・医療機器などもそのまま引き継ぐことができます。
医療法人への移行手続きは、「医療法人を新しく設立」「これまでの個人経営のクリニックを廃止」の2ステップとなります。
承継で起こるトラブルとその対処法
続いては、承継の際に起こりがちなトラブルとその回避方法を説明します。承継の際に起こりがちなトラブルとしては、次のようなことが考えられます。
診療方針の違いが原因で、患者やスタッフが離れてしまう
前院長と診療方針が大きく異なると、場合によってはかかりつけ患者や引き継いだスタッフが離れてしまうことがありえます。
「それでも自分のやり方を貫きたい」というドクターもなかにはいるかもしれませんが、長年にわたって地域医療に貢献してきた前院長の想いを大切に、地域住民の健康をサポートする役目を果たすことを忘れてはいけません。
とはいえ、もちろん前院長のやりかたをすべて踏襲する必要はないでしょう。よいところは受け継ぎながらも、新しい考え方、新しい医療を取り入れることで、さらによいクリニックを目指すことが望ましいでしょう。
物件の修繕費が想定外に高額だった
物件の老朽化が進んでいた場合、修繕に高額な費用がかかることもあります。
そうなったら、新規開業より安く開業できたとしても、結果としてトータルの費用は同じか、場合によっては高くなってしまうかもしれません。
後から泣き寝入りすることのないよう、契約前に物件の状態をよく見極めましょう。
労務や税務の手続きが難しくて手に負えない
承継にはさまざまな手続きが必要になります。
自分で調べて手続きすることももちろんできますが、スムーズに手続きを進めたいなら、専門家のサポートが受けられるM&A仲介業者を選ぶと安心でしょう。
前院長の借入金が大きい
承継においては、営業権だけでなく借入金も引き継ことになります。これに関して、前院長が個人保証で医院の経営資金を借入していた場合、前院長の個人保証や担保を譲渡される側が承継することになります。借入金の有無を把握していないまま承継すると後々大きなトラブルになる可能性があるので、承継前の交渉時によく話し合い、決定したことを必ず最終契約書に落とし込みます。
前院長が近隣で移転開業した
前院長が承継を機に引退するのではなく、近隣で移転開業するというケースもゼロではありません。そうなると、想定していた患者数を引き継ぐことができず、収入面で大きな打撃となってしまうことが考えられます。そうした事態を防ぐためにも、競業避止義務や機密保持義務の有無をしっかりと確認することが大切です。
なお、競業避止義務とは、契約終了後も一定期間、元契約相手と競合するビジネスへの関与を禁止する規定です。前院長との交渉時に、前院長が医業を引退する意向ではないことが判明した場合には、必ず確認しておきたいポイントとなります。
医療機関コードの変更手続きに不備があった
医療機関が承継されて開設者が変わると、医療機関コードも変更されます。医療機関コードが変更となる場合、オンライン資格のポータルサイトより承継申請が必要になります。承継申請が認定されるまでには数週間かかるため、早めに手続きすることが必要です。
具体的な手続きは以下の3つです。
オンライン請求に関する手続き
① 以下2点を社会保険診療報酬支払基金に提出します
② 以下を国保に提出します
③ セットアップキットを設定する
上記①を提出後、社会保険診療報酬支払基金よりセットアップキットが届くので、同梱のマニュアルを参照してオンライン請求端末に電子証明書をインストールします
オンライン資格確認に関する手続き
① 電子証明書発行依頼書を社会保険診療報酬支払基金に提出します
② 社会保険診療報酬支払基金の「医療機関等向けポータルサイト」から承継申請をおこないます
iQalteの医療機関情報を設定する
iQalte1号用紙画面menu>設定>医療機関情報に進んで、医療機関コードを設定します
遡及申請手続きをしていなかった
医療機関で保険診療をおこなうためには、保険医療機関指定申請書を提出して受理されなければなりません。承継の手続きにおいて、この申請書を提出するのは、基本的には診療所開設届出を提出した後となりますが、そこから申請が通るまでに概ね2週間から1か月程度かかります。
申請が通るまでは保険診療をおこなうことができないということになりますが、そうなると、定期的に通院している患者などが困ってしまいます。それを防ぐために、保険医療機関指定申請書の提出と同時に、「遡及申請」をおこなうことが大切です。
遡及申請とはなにかというと、開設日にさかのぼって診療報酬を請求するための手続きです。遡及申請が認められるケースはいくつかありますが、代表的なケースが、「保険医療機関等の開設者が変更となった場合で、前開設者の変更と同時に引き続いて開設され、患者が引き続き診療を受けているケース」です。
なお、自治体によっては、保険医療機関指定申請のみの提出で診療報酬を遡って請求できる場合があるので 、事前に所轄の地方厚生局の都道府県事務所などに要件を確認することをおすすめします。
休眠状態の医療法人、診療所を廃止している医療法人などは都道府県の認可が下りにくい
医療法人の承継に関して、休眠状態の医療法人または診療所を廃止している医療法人などは、都道府県の認可が下りにくいことがあるので注意が必要です。この場合、医師会や厚生局への届出が通常より煩雑になったり、施設基準の取り扱いが変わったりすることがあるため、どのような手続きが必要であるのかを事前に確認しておくことが大切です。
異なる診療科を承継する場合、前医院の診療科目にも対応するのかしないのかを考える必要がある
承継においては多くの場合、専門が同じ先生の医院を引き継ぐことになりますが、なかには、専門が異なる医院を引き継ぐケースもあります。その際、引き継ぐ前に一定期間、前院長のもとで働いて手技や知識を習得するという選択肢もありますし、場所と建物だけ引き継ぐというケースもあります。ただし、まったく異なる診療科になる場合、一から集患することになります。
知識が不十分なままの承継は危険!
「いずれ開業したいけどまだ資金が十分じゃない」というドクターにとって、新規開業より安く独立できる承継開業は魅力が大きいものではないかと思います。
半面、物件の老朽化をはじめ、見極めが必要なポイントも多いため、物件選びに自信が持てず、不安な気持ちを抱いてしまうこともあるかもしれません。
ただ、新規で開業したとしても、土地や建物に関することをはじめとするトラブルは発生しうるもの。
見極めの知識を養うためにも、オンラインもしくは実際の会場などで開催されている事業承継セミナーをチェックしてみるのもおすすめですよ。
なお、開業ナビでは過去に開催されたセミナーの動画も公開しているので、そちらもぜひチェックしてみてくださいね!
参照:【承継開業を目指す前に知っておきたい基礎知識】第三者承継のポイントと承継案件の探し方
参照:【承継開業を目指す前に知っておきたい基礎知識】第三者承継のパターンとは?
参照:【承継開業を目指す前に知っておきたい基礎知識】医師に聞いた承継開業のメリットデメリット
併せて、自らの知識のみでは安定した経営をおこなえるかどうか不安がある場合、コンサルタントや税理士、M&Aアドバイザーなどを頼るのも一手です。承継後の財務・人事・マーケティングなどを専門家に委託するケースも多いので、経営に関することは専門家に任せて診療に専念したいという人は、利用を検討してみてもいいかもしれませんね。
特徴
その他の業務
対応業務
診療科目
特徴
その他の業務
対応業務
診療科目
特徴
対応業務
その他の業務
診療科目
この記事は、2022年2月時点の情報を元に作成しています。