電子処方箋のメリット・デメリットは?

厚生労働省は、データヘルス改革の一環として「電子処方箋」の本格運用に向けて動いています。本格運用開始は2022年夏の予定ですが、運用が開始されるとこれまでとどんなことが変わるのでしょうか? 早速みていきましょう。

目次
  1. 電子処方箋とは?
  2. 電子処方箋のメリット
    1. 業務が効率化される
    2. より質の高い医療を提供できる
    3. 処方箋作成にかかるコストを削減できる
    4. 偽造防止対策になる
  3. 電子処方箋のデメリット
    1. システム構築に時間もコストもかかる
    2. システムを使い慣れるまでに時間がかかる
    3. 個人情報漏洩の可能性がある
  4. 電子処方箋のこれまでの検討経緯は?
    1. 2016年には「電子処方箋の運用ガイドライン」を策定
    2. 2019年には「電子処方箋の本格運用に向けた実証事業一式」を実施
    3. 2020年には「電子処方箋の運用ガイドライン 第2版」を策定
    4. 今後の動向は?
  5. 電子処方箋の今後の課題は?

電子処方箋とは?

「電子処方箋」とはオンライン上で登録、管理、閲覧ができる処方箋のこと。サーバー上で管理されている処方・調剤データに、医療機関だけでなく薬局や患者もアクセスすることができます。専用の管理システムに処方箋データを登録するのは医師で、薬剤師はそのなかから調剤に必要なデータを確認して、実際に調剤をおこなうといった運用が想定されています。

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続いては、電子処方箋のメリット、デメリットについてみていきます。

電子処方箋のメリット

業務が効率化される

電子処方箋には医師、薬剤師の双方がアクセスできるため、医師が登録したデータを薬剤師が確認できるだけでなく、薬剤師から医療機関へのフィードバックを、医療機関において医師が確認することもできます。このやりとりによって患者の情報が随時アップデートされていくことは、リスク回避につながるだけでなく、疑義照会や患者へのヒアリングなどにかかる業務負担削減にもつながります。

より質の高い医療を提供できる

電子処方箋に登録された患者の処方情報や調剤情報は、電子処方箋の本格運用に伴い、情報を登録したクリニックおよび薬局以外のクリニックや薬局も閲覧できるようになります。目的は、各医療機関および薬局に、患者の経過をより正確にとらえてもらうこと。たとえば、他院で処方されている薬や過去に副作用が出た薬を患者が思い出せない場合でも医療機関側で調べることができるので、医薬品の重複投薬や好ましくない相互作用が起きることを防ぐことができます。さらに、患者自身も電子処方箋にアクセスできるため、服薬管理がしやすく、より高い治療効果を実感しやすくなります。

また、緊急時や災害時でお薬手帳を携帯していない患者に対しても、正確な情報を把握して的確な治療を提供することができます。

処方箋作成にかかるコストを削減できる

調剤済の処方箋や調剤録は3年間保管しなければならないことになっていますが、電子処方箋に切り替われば、保管スペースが不要となるうえ、紙の処方箋の印刷代も削減されることになります。また、3年間以上の長期にわたる保管も楽におこなえるようになることは、患者の経過の正確な把握および質の高い医療の提供につながります。

偽造防止対策になる

紙の処方箋であれば、カラーコピーで偽造して再利用される可能性がありますが、電子処方箋であればそれができなくなるため、不正を防止できます。

電子処方箋のデメリット

システム構築に時間もコストもかかる

院内に電子処方箋のシステムを構築するためには、ソフトのインストールやPCの設定が必要です。さらに、定期的なメンテナンスも必要なため、すぐには導入に踏み切れないクリニックも多いかもしれません。また、各クリニックのシステム構築だけでなく、電子処方箋の普及そのものにも時間がかかることが想定されます。なぜかというと、患者は一人ひとり自由に薬局を選んでいるため、どの薬局でも電子処方箋でやりとりできるようにならなければ、そもそもの目的を完全に達成することにはならないからです。

システムを使い慣れるまでに時間がかかる

電子処方箋の操作を担当するスタッフが、システムを難なく使えるようになるまでにはある程度時間がかかることが想定されるでしょう。

個人情報漏洩の可能性がある

マイナンバー制度同様、個人情報漏洩の恐れがないとはいえません。情報漏洩を防ぐためにも、セキュリティ対策には力を入れておくべきです。

電子処方箋のこれまでの検討経緯は?

厚生労働省は、紙の処方箋を電子化するにあたっての検討を2008年に開始しました。しかし、10年以上の長きにわたって検討を繰り返すだけで、なかなか実現に向けて動き出すことはありませんでした。理由は、既に導入されている国において、ほとんどの医師が利用していないという現実があるからです。そのため、お金をかけて新しい制度を普及させることに本当に意義があるのかどうか、慎重に検討されてきたのです。

2016年には「電子処方箋の運用ガイドライン」を策定

実現に向けての検討スタートから8年後の2016年には、厚生労働省は「電子処方箋の運用ガイドライン」を定めています。このガイドラインでは、「電子処方箋に対応できない薬局でも患者が調剤を受けられる」という前提のもと、システムの構造などの指針が示されています。しかし、そこから実現に向けて具体的に動き始めることはありませんでした。主な理由は、電子処方箋に対応できない薬局には「電子処方箋引換証」という紙媒体を発行することにしたため、かえって業務が煩雑化してデメリットが多くなると考えられたためです。

2019年には「電子処方箋の本格運用に向けた実証事業一式」を実施

それから3年後の2019年には、厚生労働省は株式会社メドレーに課題解決に向けて実証事業を委託。実証実験においては、2016年の失敗を踏まえて、患者に対してはQRコード式のアクセスコードが交付されることとなりました。また、医療機関では電子カルテから直接アクセスコードを発行して印刷および電子的な送付をおこなえるよう工夫。薬局では、PCまたはタブレットのカメラでアクセスコードを読み取れるような仕様に設定されました。

2020年には「電子処方箋の運用ガイドライン 第2版」を策定

実証実験の結果を踏まれて策定された「電子処方箋の運用ガイドライン 第2版」では、「電子処方箋引換証」の発行を不要として、アクセスコードを基本とするフローへと改訂しています。

今後の動向は?

冒頭で述べた通り、電子処方箋は2022年夏に運用開始となる予定です。このことが厚生労働省から発表されたのは2020年のこと。それまで2023年度での開始目標を掲げていたところ、1年前倒しでスタートすることとなりました。

電子処方箋の今後の課題は?

最後に、電子処方箋の今後の課題についてみていきましょう。

電子処方箋の運用には、オンライン資格可能の基盤を活用したサーバーの設置が不可欠です。そのため、まずはオンライン資格確認を普及させることが必要です。オンライン資格確認に使われるのはマイナンバーカードですが、マイナンバーカードの交付率はまだまだ高いとはいえません。総務省が公表しているデータによると、2021年8月時点において、交付率は36%にとどまっています。

参照:総務省「マイナンバーカードの市町村別交付枚数等について」(令和3年8月1日現在)

これに対して医師やクリニックができることはありませんが、普及が進んだときのために早めに準備を進めておくことは大切ですよ。しかも、2022年1月からスタートしたマイナポイント第2弾キャンペーンで、健康保険証を利用登録した人に7,500円相当のポイント付与中とあって、ポイント目当てで利用登録する人が一気に増えることが予想されます。そうなる前にどうぞ早めにご準備くださいね。

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執筆 コラム配信 | クリニック開業ナビ

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