クリニックを開業する際、直接医療につながる検査機器の選定に注力する一方で、意外と軽視しがちなのが家具。しかし、家具選びもクリニックの評価につながる大事なポイントです。では、スムーズな診察を実現するためには、どのような視点で家具を選べばいいのでしょうか? 医療家具を取り扱う『株式会社オカムラ』で製品開発を担当するマーケティング本部ライフサイエンス製品部の小倉裕生さんにお話しを伺いました。
家具選びは二極化している
――家具について、どのように考えている医師が多いのでしょうか?
弊社の東京と大阪のショールームでは、クリニック向けの家具を展示しています。実際に使い勝手や座り心地を確認した上で選ぶ医師の方や、開業を検討されている方のご来場は少なくありません。ご家族で一緒になってじっくり選んでいるケースもたびたび見られます。
一方で、全て業者に任せる方や、インターネットで選んで購入するという方も多くいらっしゃいます。感覚としては、「こだわる方」と「あまりこだわらない方」に二極化していると感じています。とはいえ、やはり家具の重要性を理解し、吟味して選ばれている方が多いかなと思います。
――やはり自分でしっかりと確かめて選ぶことが重要なのでしょうか?
家具の使い勝手は、医師を含む医療スタッフの働きやすさ、クリニックにいらっしゃる患者さんの快適さを左右するものです。例えば待合室のソファ一つ取っても、もし座り心地が悪ければ、「あのクリニックのソファは座りにくい」とマイナスの評価を受けてしまいます。
わずかなことかもしれませんが、同じ質の医療を提供するクリニックがあったとすれば、より快適度の高いほうに行きますよね。医師が使う家具も同様で、ちょっとした違いが、提供する医療の質につながります。
医師の方は、勤務医時代は病院で用意されている家具をそのまま使うので、あまり意識することはないと思います。しかし、開業するとなれば、より良い医療を提供して、患者さんの満足度を高めるなど、経営者視点で家具を選ぶことも大切なのではないでしょうか。
診察科目に応じた家具選びが必要
――家具選びのポイントとしてどんなことが挙げられるでしょうか?
シンプルに「使い勝手が良いもの」を選ぶだけでなく、提供している医療の内容に応じた形状や特徴のものを選ぶのも大事なポイントです。例えば、整形外科の待合の場合、足腰を痛めている患者さんや松葉づえの患者さんは座るのも立ち上がるのも負担がかかります。そのため、座りやすいよう座面が高いものを提案させていただくことが多いです。
また、弊社製品の中で「前方に傾いた座面」のロビーチェアがあります。角度が付いているので、おなかの大きな妊婦さんの場合、おなかを圧迫せずに座ることができます。座面の幅が広く手荷物を膝の上ではなく横に置けるのも特徴です。
――他にはどんなことを意識するといいでしょうか?
「メンテナンスのしやすさ」ですね。多少高価であっても、しっかりとした造りであったり、メンテナンスがしやすかったりなど、「長く使えるもの」を選ぶのが大事です。家具の入れ替えを何度も繰り返し行うのは費用もかかりますし、手間も必要です。クリニックを長く続けていく中では、値段だけでなく、使い勝手の良さ、掃除のしやすさ、メンテナンスのしやすさ、耐久性といった部分を意識していただくといいのではないでしょうか。
ハンズフリーツールを活用して効率を高める
――家具においては「ハンズフリー」で利用できるものが昨今注目されています。
昨今のコロナ対応において、患者さんの処置や、何かの機器に触れた後には都度消毒をしないといけません。そのため、診察の効率をできるだけ落とさないためにも、診察に必要なプロセス以外で、何かに手を触れる機会を減らすことが求められます。
弊社では、手を触れずに座面の高さを変えられる椅子を展開しています。足元のフットリングレバーを踏むと座面の高さ調節ができるというもので、重用いただいています。
――他にハンズフリーになることのメリットはありますか?
高さを変えるのに手を使わずに済むので、シンプルに「手が空く」というのがメリットだといえます。別の作業を行ったり、余計な時間が省けたりしますので、よりスムーズに診察が行えるようになるでしょう。また、適切な作業姿勢をとるために手を使わずに座面の高さを調節することは、特に長時間の処置を行う場面で有用です。
例えば、内視鏡の治療を例に挙げますと、処置を行っている間は両手がふさがりますし、足もペダルの操作をしないといけません。座面の高さが不適切でも、変えることができない場合、無理な姿勢が負担となるため、椅子に座った状態での処置は敬遠されています。しかし、長時間立ったままでの作業は腰に負担がかかるため、「医師の腰痛の原因」という研究結果も出ています。手を使わずに適切な高さにできる椅子であれば、負担を軽減できます。
――長く良い医療を提供するためにも、医師の健康も考慮しないといけませんね。
「腰への負担」は大きな課題になっているので、できるだけ負担を減らす姿勢をとる工夫が必要でしょう。先ほどお話しした「内視鏡の処置」では、医師が足でペダルの操作をするため、平らな座面の椅子は座りにくい場合もあります。そのため、弊社では座面の角度(傾き)が調節できる椅子も展開しています。医師自身が座る椅子も、座面のサイズや傾きなどさまざまな点を考えて選んでいただきたいですね。
参考:『株式会社オカムラ』「パーチングスツール[ピルエット]」
実際に見て選ぶことが重要
――これから開業するという医師に、アドバイスやメッセージをお願いします。
家具をインターネットで購入したり、業者にお任せしたりするのもひとつの方法ですが、せっかく開業されるのであれば、やはり家具も入念に選んでいただけたらと思います。インターネットで見るのと、実際に見て触れるのとでは全く違いますので、開業準備中は忙しいと思いますが、ぜひショールームで実物を見ていただけるとうれしいですね。
また、家具選びは、スタッフが働きやすい環境の整備にもつながります。長く働いてもらうためにも大事なポイントですので、自分だけでなく、患者さん、スタッフとさまざまな目線で選んでください。
――ありがとうございました。
病院に勤務している状況では、家具に対して使い勝手などを意識することはなかったかもしれません。しかし、小倉さんの言葉どおり、家具もクリニックの評価を左右するポイントです。患者さんの満足度を高めるためにも、しっかりと吟味して選ぶようにしましょう。
『株式会社オカムラ』医療福祉施設ページ
取材協力:『株式会社オカムラ』
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診療科目
この記事は、2022年8月時点の情報を元に作成しています。